フレックスタイム制とは?導入手順や企業が知っておくべきメリット・デメリット
フレックスタイム制では、始業時間や勤務時間を自由に決めることで多様な働き方が実現できるようになるため、従業員から好評を得やすい勤務体系です。さらに、フレックスタイム制の導入は採用にも有利で、企業は優秀な人材の採用を進めやすくなるでしょう。しかしながら、業種によっては導入が難しかったり、労働時間の管理が煩雑化したりする点に注意が必要です。本記事では、フレックスタイム制のルールやメリット・デメリット、その他の柔軟な働き方との違いなどについて解説します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)であらかじめ定めた総労働時間の範囲内において、従業員本人が始業・終業の時刻と労働時間を自由に決められる制度です。
厚生労働省の推進する働き方改革でも、多様で柔軟な働き方ができる制度として注目されており、フレックスタイム制を導入することで、従業員のワークライフバランスの安定を図ることが期待できます。その結果、企業全体の生産性向上にもつながるため、労使ともにメリットの大きい制度といえるでしょう。
1-1. フレックスタイム制の目的
フレックスタイム制の目的は柔軟な働き方の実現です。日本は少子高齢化にともない生産年齢人口(15~64歳)が減少傾向にあります。
内閣府『令和4年版高齢社会白書』によれば、1995年には最大8,716万人いた生産年齢人口は、2065年に4,529万人まで低下すると予想されています。このようなに少ない労働力のなかで高い生産性を維持するには、従業員一人ひとりの状況に合わせた働き方が求められます。従業員が始業・終業の時刻と労働時間を自由に決められるフレックスタイム制は少ない労働力であっても高い生産性を発揮するのに効果が期待できるでしょう。
1-2. フレックスタイム制の導入数が多い企業の職種
一般的に、フレックスタイム制を導入する企業が多い業界には、IT、通信、インターネット、マスコミが挙げられます。特に、職種としてはエンジニア、プログラマー、デザイナー、企画職、事務職などが多く、これらの業務は細分化されており、外部との接触が少ないため、自分のペースで働きやすい環境が整っています。
一方で、接客業や営業職など顧客と直接対面する仕事ではフレックスタイム制の導入が難しいこともあります。フレックスタイム制を導入している企業でも、適用範囲が異なるため、自分の職場でも制度が利用できるかどうかは確認が必要です。
2. フレックスタイム制の導入手順
フレックスタイム制は通常導入されることの多い定時制とは違い、コアタイムとフレキシブルタイム、清算期間などを設けて運用をおこないます。ここでは、フレックスタイム制の運用ルールを詳しく解説します。
2-1. コアタイムとフレキシブルタイムを決める
いつでも自由に働けるといっても、フレックスタイム制度を利用すれば、24時間、好きな時間に出勤・退勤してよい訳ではありません。一般的には、“コアタイム”と“フレキシブルタイム”を就業規則で設定して運用をおこないます。それぞれの定義については以下の通りです。
コアタイム:労働者が必ず出勤しなければいけない時間帯
フレキシブルタイム:労働者が出勤・退社時刻を自由に設定できる時間帯
コアタイムを設けることで、労働者同士のコミュニケーションを円滑にする目的があります。
また、フレキシブルタイムについては、「始業は午前6時から午前10時の間、終業は午後3時から午後7時の間」のように、就業規則などで定められている時間の範囲内で労働者が自由に出勤・退勤時刻を決定することができます。
2-2. フレックスタイム制の清算期間と起算日を決める
フレックスタイム制を導入する場合には、清算期間と起算日を決めます。清算期間とは労働者が働くべき総労働時間を定める期間のことで、起算日とは清算期間を数え始める日付のことです。
例えば、「清算期間を1ヵ月間とし、毎月1日を起算日とする」のように具体的に就業規則に定め、労使協定を結ぶ必要があります。
なお、これまで清算期間は1ヵ月以内でしか設定できませんでしたが、2019年4月の働き方改革関連法改正により、最長3ヵ月にまで設定できるようになりました。
従来以上に自由に労働時間を設定できるようになりますが、下記のように、法定労働時間の枠組みを超えて、総労働時間を定めることはできませんので注意しましょう。
- 清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと
- 1ヵ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
清算期間内の実労働時間(実際に働いた時間数)と総労働時間(働かなければいけない時間数)に過不足が発生したときは、残業代の支払いや控除などで清算しなければなりません。
また、以下のページでは、フレックスタイム制を導入している企業における勤怠管理システムの活用方法を解説しています。
勤怠管理システムを導入しようか検討されている方や現状の勤怠管理に課題を感じる方はぜひご覧ください。
関連サイト:勤怠管理システムを用いたフレックスタイム制の運用|ジンジャー勤怠
関連記事:フレックスタイム制の清算期間の仕組みや総労働時間の計算方法を解説
2-3. フレックスタイム制における残業の取り扱いに注意
前項でも紹介した通り、フレックスタイム制を導入した場合でも、時間外労働に対して残業代を支給する必要があります。ただし、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合、即時残業扱いにはなりません。
フレックスタイム制では、清算期間内で、総労働時間を超えた分の実労働時間が時間外労働(残業)として扱われるためです。
例えば、清算期間が1ヵ月、総労働時間が160時間、実労働時間が170時間の場合、10時間が時間外労働(残業)となります。なお、残業時間に関しては、清算期間の暦日数や、特例処置対象事業場か否かによっても変動するため、注意しましょう。
3. フレックスタイム制を導入するメリット
フレックスタイム制の導入により、労働者のワークライフバランスを保つ以外にも、企業は魅力的な労働環境として求職者にアピールできます。フレックスタイム制を導入するメリットを解説します。
3-1. 通勤ラッシュを回避できる
始業や終業時間を自由に設定できるフレックスタイム制では、通勤・帰宅ラッシュの時間を避けて出退勤することができます。
通勤による疲労やストレスを軽減できるうえ、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からも、時差出勤を選択できる点は大きなメリットといえるでしょう。
3-2. ワークライフバランスが取りやすい
労働時間を自由に設定できるため、ワークライフバランスが取りやすい点もメリットの一つとして挙げられます。
例えば、子どもを保育園に送った後に会社に出勤する、体調不良の時は早めに退勤し病院に寄るなど、各々の状況に合わせて、勤務時間を調整することができます。
3-3. 魅力的な職場環境としてアピールできる
フレックスタイム制を導入した場合、求職者に多様な働き方が可能な、魅力的な職場としてアピールできる点もメリットの一つです。人材の流動性が高まっている昨今において、フレックスタイム制度は優秀な人材をしっかり確保し、定着してもらう手段の一つとして活用できるでしょう。
3-4. 働く時間を調整し残業代の削減につながる
フレックスタイム制度では、従業員それぞれが集中できる時間に業務をおこない、終わり次第早く退勤するなど、メリハリをつけた労働を促進することができます。その結果、生産性が向上し、残業時間の削減につながる可能性もあります。
また、清算期間内で実労働時間をコントロールできるため、午前9時から午後6時のような定時制を導入している場合よりも、残業が発生しづらい傾向にあります。
当サイトでは、フレックスタイム制の内容をより理解していただくために、概要から導入手順までを図を用いて解説した資料を無料で配布しております。フレックスタイム制でよく起きる課題の解決策も紹介しているため、フレックスタイム制について理解を深めたい人事担当の方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
4. フレックスタイム制を導入するデメリット
フレックスタイム制を導入することで、クライアントとの調整が必要だったり、労働時間の管理が今まで以上に煩雑になったりする可能性があります。フレックスタイム制のデメリットを解説します。
4-1. クライアントとの調整が必要
フレックスタイム制の導入により、クライアントから問い合わせがあっても、担当者がまだ出勤していないというケースも発生するでしょう。フレキシブルタイム中はどのように対応するか、事前にルールを設定しましょう。
また、打合せはコアタイムにおこなうなどの対策も有効です。
4-2. 業種によっては導入が難しい
教育・福祉・医療など、業種によっては、フレックスタイム制の導入は難しいでしょう。また、対人業務がメインの場合、無理に導入すると現場が回らない事態にもなりかねません。
厚生労働省の「平成29年就労条件総合調査結果の概要」によると、フレックスタイム制の多い業種は、情報通信業、総合サービス事業、電気・ガス・熱供給・水道業となっています。企業にフレックスタイム制を導入する際は、業種との相性も考慮しましょう。
関連記事:フレックスタイム制の企業が多い職種と難しい職種について
4-3. 遅刻・早退など労働時間の管理が煩雑化する
時間にルーズな従業員が多い場合、労務や人事担当者は、定時制以上に、時間管理が煩雑化するでしょう。特に、実労働時間が労働時間の総枠に満たない場合、賃金の控除や、足りない労働時間を次月に繰越すなどの作業が発生します。
加えて、遅刻や早退に関する管理も重要な課題となります。これらの不規則な出退勤は、全体の業務運営に影響を及ぼし、チームの結束を妨げる要因にもなり得ます。煩雑な勤怠管理を避けるためには、自動計算できる勤怠管理システムやタイムカードなども合わせて導入するとよいでしょう。
5. スーパーフレックスタイム制・裁量労働制・変形時間労働制との違い
フレックスタイム制のほかにも柔軟な働き方として、スーパーフレックスタイム制、裁量労働制や変形労働時間制が挙げられます。それぞれの制度とフレックスタイム制の違いを正しく理解しておきましょう。
5-1. コアタイムの無いスーパーフレックスタイム制との違い
フレックスタイム制の原則的なルールは先ほどお伝えした通りですが、フレックスタイム制では必ずしもコアタイムを設ける必要はありません。
コアタイムが定められていないフレックスタイム制は「スーパーフレックスタイム制」や「フルフレックス」とよばれ、出社しなければならない時間帯が定められていないため、従業員が最大限自分の都合に合わせて働くことができます。
生産性の向上や多様な働き方の実現が期待できますが、社内のコミュニケーションが減少してしまったり、人によっては自由度が高すぎることで生産性が落ちてしまうことも懸念されます。
スーパーフレックスタイム制を導入するかどうかは、自社の従業員や業務形態に合うかどうかを見定めたうえで決めたほうが良いでしょう。
関連記事:コアタイムなしのフレックスタイム制とは?導入メリット・デメリットも紹介
関連記事:スーパーフレックス制度とは?導入の方法や注意点を解説
5-2. 裁量労働制との違い
まず裁量労働制とは、労働時間や時間配分などについて会社から指示を受けるのではなく、労働者自身の裁量によって決めることができる制度です。雇用契約をおこなう際に決めたみなし労働時間に対して、実労働時間が少なくても多くても、みなし労働時間分だけ働いたとされます。
フレックスタイム制とは違い、裁量労働制は導入できる職種が限定されていることと、残業代の計算方法が異なることに注意しましょう。
5-3. 変形時間労働制との違い
次に、変形労働時間制とは、業務量に合わせて労働時間を週・月・年単位で柔軟に調整できる制度です。
繁忙期に労働時間が多くなってしまっても、閑散期に労働時間の調整をおこなえば、一時的に法定労働時間を超えてしまった分に関しては時間外労働としてみなす必要がなくなります。結果として、企業は残業代の節約がおこなえるというメリットがあります。変形労働時間制はフレックスタイム制とは違い、会社側が労働時間を決める制度であることを認識しておきましょう。
6. フレックスタイム制を利用して働き方改革を推進しよう!
従業員が柔軟に働ける制度として注目を集めるフレックスタイム制ですが、企業にとっても、優秀な人材を確保できる、残業代を削減できるなど、メリットの多い制度です。
フレックスタイム制を導入する場合には、フレックスタイム制が合っている業種か、勤務時間の正確な管理方法は確立できているかを事前に確認しておくことで、柔軟な勤務体系の利点を最大限に活かすことができるでしょう。
関連記事:フレックスタイム制に関する労使協定のポイントを解説
関連記事:フレックスタイム制に関わる就業規則のポイント・記載例を紹介!
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
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