フレックスタイムにおける労使協定を解説!届け出が不要な場合も紹介
フレックスタイム制に関する労使協定で定めるべき内容には、必須事項と任意事項の2つがあります。フレックスタイム制を円滑に進めるためにも、運用上、想定される事態の取り扱い方法を事前に定めておくとよいでしょう。この記事では、フレックスタイム制に関する労使協定のポイントを解説します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
1. フレックスタイム制に関して労使協定で定める事項
フレックスタイム制を企業で導入する際は、以下2点を満たす必要があります。
- 就業規則などへの規定
- 労使協定で必要事項を定める
また、労使協定は、下記事項を定めた上で締結します。
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における所定労働時間(総労働時間)
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(任意)
- フレキシブルタイム(任意)
コアタイムは任意のため、コアタイムなしでも問題ありません。以下、フレックスタイム制の導入時、労使協定で定めるべき事項について詳しく解説します。
関連記事:フレックスタイム制に関わる就業規則のポイント・記載例を紹介!
1-1. 対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制を適用する労働者の範囲を明確に記載します。なお、適用範囲は下記のように、課・グループだけでなく、個人としても問題ありません。
- 全従業員
- 〇課、〇チーム
- Aさん、Bさん
ただし、満18歳未満の年少者は、基本的に変形労働時間制は適用できませんので注意しましょう。
この点を踏まえ、企業はフレックスタイム制を導入する際に、対象となる従業員の選定や周知を徹底する必要があります。
さらに、定期的な評価やフィードバックを行い、フレックスタイム制が円滑に運用されるように努めることが、従業員の労働意欲を高め、生産性向上に寄与します。労使協定を結ぶ際には、各対象者の意見を尊重し、柔軟な制度設計を行うと良いでしょう。
1-2. 清算期間
労働者が労働するべき時間を定める期間です。1~3ヵ月の範囲で決定できますが、いずれの場合も、清算期間の起算日を定める必要があります。
誤:清算期間は1ヵ月とする。
正:清算期間は1ヵ月間とし、毎月1日から当月末までとする。
複数月にまたがる場合も、「1日から翌月15日までの1.5ヵ月間とする」など、具体的に記載しましょう。
関連記事:フレックスタイム制の清算期間の仕組みや総労働時間の計算方法を解説
1-3. 清算期間における所定労働時間(総労働時間)
清算期間中に労働者が労働すべき時間を定めます。下記の式を参考に、法定労働時間の枠組みを超えないことが条件となります。
「40時間(1週間の法定労働時間)」×「清算期間の暦日数÷7」
たとえば、清算期間が1ヵ月なら、下記が枠組みとなります。なお、所定労働時間は月ごとに定めることも可能です。
清算期間の暦日数 | 法定外労働の総枠 |
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
さらに、フレックスタイム制を導入する際には、清算期間を1カ月に設定することで労使協定の届出が不要になるため、企業はこの点も踏まえてスムーズな導入を目指すべきです。
特に、労働者が自らの労働時間を柔軟に設定できることから、ワークライフバランスの向上にも寄与することが期待されます。清算期間を適切に管理し、従業員と企業の双方にとってメリットのある制度運用を心がけることが重要です。
1-4. 標準となる1日の労働時間
次有給休暇を取得した際、賃金計算の基礎となる労働時間です。「1日の労働時間は、6.5時間とする」のように時間を定められます。また、所定労働日数を定めている場合は、下記の値を定めることも可能です。
総労働時間÷所定労働日数
清算期間や総労働時間により、柔軟に変更して対応しましょう。
1-5. フレックスタイム制における36協定の締結に関して
フレックスタイム制においても労働時間が1日8時間以上、一週間で40時間を超えるような時間外労働をおこなう場合は36協定の締結と届け出をしなければいけません。賃金においてももちろん割増賃金を支払う必要があります。
労使協定で定めた内容に従い、時にはモニタリングを行うことで、法定時間を超えないよう配慮し、適切な労働環境を維持することが求められます。このように、制度を適切に運用することが、従業員の満足度向上にもつながり、結果として企業の生産性にも寄与します。
1-6. コアタイム(任意)
労働者が労働すべき時間を定めたコアタイムの規定は、任意となっています。定める場合は、下記のようにコアタイムの開始・終了時刻の明記が必要です。
「従業員が労働しなければならない時間帯は、午前10時から午後3時までとする。」
コアタイムは、曜日や日にちを限定して定めたり、曜日や日にちにより時間帯を変更したりすることも可能です。ただし、コアタイムが1日の労働時間とほぼ同程度となる場合(午前9時30分から午後5時30分まで、など)は、フレックスタイム制として認められなくなります。
1-7. フレキシブルタイム(任意)
フレキシブルタイムは、労働者が始業・終業の時刻を自由に決定できる時間帯で、任意規定となります。フレキシブルタイムも、設定する場合は下記のとおり、開始・終了時刻を定めなければいけません。
「フレックスタイム制を適用する従業員が、自由に始業及び終業の時刻を決定できる時間帯は以下の通りとする。
始業時間帯=午前6時から午前10時の間、終業時間帯=午後3時から午後6時の間」
ただし30分など、極端に短いフレキシブルタイムを設定すると、フレックスタイム制とは認められないため、注意しましょう。当サイトでは、フレックスタイム制の概要から導入方法までをまとめた資料を無料で配布しております。概要から確認したい方や導入までの具体的なイメージを描きたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧くださ
2. 届出は不要なのか?必要なのか?
フレックスタイム制の労使協定に関して届出が必要かどうかは清算期間によってことなります。1ヵ月を超える場合は所轄労働基準監督署に届出をおこなう必要があります。労使協定の届出をおこなわないと違反となり、罰則として30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
対して、届出が不要となるケースの清算期間について見ていきましょう。
2-1. 届出が不要なケース
清算期間が1ヵ月以内の場合には、届出は基本的に不要です。このように、フレックスタイム制の運用においては、法的な要件をきちんと把握し、それに基づいた運営を行うことが重要です。
適切な手続きを行い、従業員が安心して働ける環境を整えることで、制度の円滑な運用が実現します。 清算期間の設定や労使協定の締結に際してはてな、企業と従業員がしっかりとコミュニケーションを取り、共に理解を深めることが求められます。
3. フレックスタイム制に関する労使協定で定めておきたいポイント
フレックスタイム制を労使で締結する際は、必ず定めなければいけない事項の他に、事前に定めておくと制度が運用しやすい事項もあります。フレックスタイム制をスムーズに運用するために、労使協定で定めておきたいポイントを紹介します。
3-1. 休憩時間
正午から午後1時までなど、休憩時間をコアタイム中に固定し定めたい場合は記載するとよいでしょう。
また、フレックスタイム制を導入する際には、休憩時間の取り方についてもあらかじめ決めておくことが重要です。これにより、従業員が効率的に業務を行うとともに、適切な休息を確保することができます。
さらに、休憩時間の設定を明確にすることで、業務の進行が円滑になり、チーム内のコミュニケーションや協力も向上するでしょう。
例えば、全員がコアタイムの休憩を同じ時間に取ることで、リフレッシュ後に業務が再開しやすくなるという利点もあります。このように、適切な休憩時間の設定は、従業員の生産性や職場の雰囲気を良好に保つ一助となります。
3-2. フレックスタイム制の適用外時間帯
夏季休暇中や年末年始など、フレックスタイム制の適用を除外したい時間帯があれば明記しましょう。
また、コアタイムを設けていない場合、深夜労働防止のため、午後22時から翌午前4時の時間帯を始業・就業時間から除外するのも有効です。
3-3. 超過時間の取扱
残業の発生を見越し、実労働時間が総労働時間を超過した場合の取扱方法を明記すると、実務上分かりやすいでしょう。
また、フレックスタイム制においては、残業が発生する可能性もあるため、各従業員の労働時間をしっかりと記録し、透明性のある勤怠管理を行うことが重要です。
具体的に、実労働時間の集計方法や、残業が発生した場合の給与計算のルールを明確にしておくことで、トラブルを未然に防ぎ、従業員が安心して制度を利用できる環境を整えることができます。
このように、明確な取り決めを通じて、フレックスタイム制の運用がスムーズになり、企業全体の業務効率が向上することが期待されます。
3-4. 不足時間の取扱
実労働時間が総労働時間に足りなかった場合の取り扱いは、以下のとおりです。
- 不足分を次月の総労働時間に繰越す
- 不足時間分を賃金から控除する
ただし、不足時間分の次月繰越は、法定労働時間内に限られるため、1. 2. どちらのケースも明記しておくと、賃金トラブルの回避につながるでしょう。
3-5. 休日の取り扱い
土・日・祝日など、所定の曜日を休みにしたい場合は、休日の取り扱いを明記します。合わせて、休日出勤が発生した場合の賃金も明記すると分かりやすいでしょう。
また、休日出勤が発生した場合の対応として、振替休日の取得や、出勤日当日の賃金計算についても具体的に取り決めておくと良いでしょう。
例えば、休日出勤をした場合の賃金は通常の1.25倍とする、または振替休日を消化することを不要とする、といった内容を含めることで、従業員が適切に労働条件を理解し、公平な処遇を受けられる環境を整えることが可能です。
しっかりとした規定を設けることで、トラブルを未然に防ぎ、従業員の信頼感を高めることができます。
3-6. 遅刻・早退・欠勤の取り扱い
フレックスタイム制では、本来、総労働時間を満たしていれば問題はありませんので、遅刻や早退などは発生しません。
しかし、コアタイムの遅刻・早退・欠勤を防止したい場合は、下記のように制裁やインセンティブを設け、労使協定を結ぶことで対策が可能です。
- 正当な理由なくコアタイムに欠勤した場合は減給の処分とする。
- コアタイムの遅刻・早退・欠勤を賞与に反映させる。
- コアタイムに遅刻・早退・欠席がなかった場合、皆勤手当てを支給する。
フレックスタイム制導入により、秩序の乱れが懸念される場合は、事前に対策を取るとよいでしょう。
3-7. フレックスタイム制の解除
フレックスタイム制を導入する以上、安易な解除はできません。
定時制に切り替えたいときは、下記のとおり、事前に労使協定で定めておく必要がありますので注意しましょう。
- 不足時間の累計が〇時間に及んだ者
- コアタイムの自己都合による欠勤が〇回に至った者
従業員自身での時間管理が難しい場合を想定し、事前に規則を制定しておくと安心して制度を運用できるでしょう。
3-8. 有効期間
労使協定の最後には、有効期間を明記しましょう。また、労働基準監督署への届出が不要な場合は、下記のように、自動更新にもできます。
「本協定の有効期限は〇年〇月〇日から1年とする。ただし、有効期間満了の30日までに、会社、労働組合どちらからも改定または解除の意思表示がないときは、更に1年間有効期間を延長するものとし、以降も同様とする。」
ただし、労働基準監督署に届出が必要な労使協定(36協定など)は、上記文言は使用できないため、注意しましょう。
4. 想定される問題の対処法を事前に労使協定で定めよう
フレックスタイム制度の導入により、労働時間の過不足や、コアタイム中の遅刻など、定時制では起こり得なかった問題の発生が懸念されます。
労使協定には、想定される問題の対処方法を必須事項と合わせて規定しておくと、フレックスタイム制のスムーズな運用につながるでしょう。
関連記事:フレックスタイム制とは?清算期間の仕組みやメリット・デメリットを解説
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
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