労働基準法が定める副業・兼業の労働時間や注意点を解説
更新日: 2025.7.11 公開日: 2022.2.19 jinjer Blog 編集部

政府は平成30年1月、働き方改革の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定すると共に、モデル就業規則にあった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業の普及促進を図る方針を固めました。
こうした政府の動きにならい、国内でも副業・兼業を容認する企業が増えてきましたが、副業については労働基準法による規定があり、これに違反した使用者(企業)は罰則を受ける対象となります。
副業の促進は企業・労働者双方にメリットがあるものの、一方でトラブルを招く要因にもなり得るので、副業・兼業を容認する場合は何らかの対策を講じる必要があります。
今回は、労働基準法での副業の規程や、副業促進によるメリット、企業側がおこなうべき副業のトラブル対策をご紹介します。
参考:副業・兼業|厚生労働省
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1. 労働基準法における副業の取り扱い規定


人事担当者にとって、本業と副業の労働時間の考え方は非常に重要です。
労働時間というのは、労働基準法によって規定があるため、担当者が勝手に「良い・悪い」を判断することはできません。間違った判断をしてしまうと、故意でなくても違法となることがあるので注意しましょう。
ここでは、労働基準法では副業がどのように規定され、取り扱われているのかを解説します。
1-1. 副業は個人の自由でおこなえる
副業とは、本業以外に従事している仕事を指します。
業種や労働時間は関係なく、収入を得ている場合はすべて副業です。
副業というのは法律で禁止されていないため、本業の労働時間外であれば、労働者は原則として自由に副業がでることになっています。企業が規則で副業を禁止していることもありますが、それはあくまでも就業規則上の取り決めであり、法律とは関係のない部分です。
ただし、「副業は個人の自由でおこなえる」としても、就業規則で禁止をしているのに副業をした場合は、従業員に対して懲戒処分をはじめとした重い処分を取ることができます。
1-2. 本業と副業・兼業の労働時間は通算される
従業員の副業を容認している企業の場合、注意しておきたいのが本業・副業を通算した労働時間です。
労働者の労働時間は労働基準法第32条において、以下のように定められています。
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない
労働基準法第32条で定められた労働時間は「法定労働時間」と呼ばれ、使用者は原則として、これを超えて従業員を仕事に従事させることを禁じています。
一方で、労働基準法第38条1項では、労働時間について「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。つまり、法定労働時間は事業場ごとに定められるものではなく、あくまで労働者個人が1日あるいは1週間に何時間働いたかを基準にするということです。
例えば、本業で休憩時間を除き1日8時間、週40時間働いている状態で、新たに別の事業場で副業をおこなった場合、法定労働時間を超えてしまい、労働基準法第32条に違反することになります。
注意したいのは、労働基準法第32条違反で罰せられるのは労働者ではなく、法定労働時間を超えて仕事に従事させた使用者側だという点です。
労働基準法第32条に違反すると、同法119条の規定により、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されるほか、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。
関連記事:副業を労働時間と通算しないケースやガイドラインが改訂された背景
1-3. 1日8時間・週40時間を超える際は36協定を締結する
本業の所定労働時間が休憩時間を除いて1日8時間、週40時間の場合、すでに法定労働時間の上限に達しているため、副業をする余地がなくなってしまいます。
しかし、あらかじめ労使間で労働基準法第36条に基づく協定(36協定)を締結しておけば、法定労働時間とは別に、1ヵ月45時間、1年360時間を上限とする時間外労働に従事させることが可能です。
36協定を締結するには、労働者の過半数で組織する労働組合か、あるいは労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定をし、行政官庁に届け出をしなければなりません。
そのため、ダブルワークをしている従業員を雇用する場合や、従業員を法定労働時間を超えて残業・休日出勤させる可能性がある場合は、必ず労働組合または労働者の代表と36協定を締結しておきましょう。
2. 副業が促進されることでのメリット


副業・兼業を促進すると、本業の業務が疎かになるのではないかと心配になるかもしれません。しかし、副業や兼業の促進は、労働者だけでなく、企業側にも多くのメリットがあります。
副業・兼業は、企業が労働者に強制できるものではありませんが、企業もメリットを得られるのであれば、促進をするのはとても有意義といえるでしょう。
ここでは、副業の促進によって得られるメリットを労働者・企業それぞれに分けてご紹介します。
2-1. 労働者のメリット
労働者側の主なメリットは、所得が増加することです。
本業が固定給の場合、昇給や役職に就くなどのチャンスがないと所得はなかなか上がりません。しかし、副業をおこなえばプラスアルファの収入を得られるようになり、日々の生活費やマイホームの購入資金、子どもの教育費、老後の生活費などに充てることができます。
また、本業とは別にやりたいこと、チャレンジしたいことがある人にとっては、本業からの収入を活用しつつ、副業として自分の希望する職種に就くことも可能になります。
いずれは起業や、希望する職種への転職を考えたいという場合も、副業という形で準備をすれば、生活を維持したまま夢や理想の実現に取り組めるというのもメリットです。
2-2. 企業側のメリット
企業側が従業員の副業・兼業を促進するメリットは、優秀な従業員を育成・維持できる点です。
従業員が、自社とは異なる業種・職種に従事すれば、新たな知識やスキルの習得につながり、従業員自身の能力向上につながります。
また、社外から持ち込まれた情報や知識、経験、人脈などは、自社にビジネスチャンスをもたらすきっかけになる可能性もあります。
さらに、副業の容認によって働き方の多様化を推進すると、「副業でもっと稼ぎたい」「社外で新しい知識やスキルを獲得したい」といった従業員のニーズを満たすことができ、従業員満足度(ES)が向上します。
ESの高い職場は労働生産性や従業員のモチベーションが高い傾向にあるほか、離職率の低下にもつながります。企業の課題になりやすい、優秀な人材の確保・維持がしやすくなるというメリットも得られるでしょう。
3. 企業側が知っておくべき副業の注意点とトラブル対策


副業・兼業の促進は企業側にも多くのメリットがあります。しかし、その一方で、必要な就業時間の把握・管理や、従業員の健康管理、機密漏えいの防止など、さまざまな問題・課題が生じます。
場合によっては副業をめぐるトラブルに発展することもあるため、従業員の副業を容認する場合は、あらかじめトラブル対策を講じておく必要があります。
ここでは一例として、企業側がとるべき副業のトラブル対策を5つご紹介します。
3-1. 労働時間の管理体制の確立
労働者の法定労働時間および時間外労働時間は、労働基準法によって定められています。この規定に違反すると、罰則の対象となります。特に時間外労働については、労働基準法第37条によって規定された割増賃金の対象にもなるので、注意が必要です。
そのため、従業員の副業を容認する場合は、法定労働時間および時間外労働時間を超えることのないよう、1人ひとりの労働時間を的確に把握・管理できる体制を整えなければなりません。
しかし、通常業務に加え、従業員の副業の労働時間を計算するとなると、労務担当者の負担が大きくなってしまうので、法定労働時間と区別して把握・管理できるシステムやツールの導入を検討しましょう。
関連記事:本業と副業で可能な労働時間とは?割増賃金や注意点についても解説
3-2. 時間外労働に対する割増賃金の支払い
従業員が副業をして、本業の労働時間と通算した労働時間が1日で9時間になったと仮定します。法定労働時間は8時間であるため、1時間分が残業になり時間外労働の割増賃金が発生します。
割増賃金は25%ですが、この25%分を負担するのは原則として副業に該当する側の事業主です。労働契約で考えると、後から締結した事業主に対する割増賃金の支払い義務が生じます。
ただし、本業の会社が副業を容認している状態で、残業や休日出勤を命じた場合は、本業の会社も割増賃金を支払う義務が発生します。このとき、割増をしないで賃金計算をしてしまうと、支払い義務違反となってしまうので注意してください。
3-3. 評価制度の見直し
副業は新たな知識や情報、スキルの獲得につながる一方、副業に集中するあまり、本業がおろそかになるといった問題も生じやすくなります。
副業の容認は、本業に支障を来さないことを前提としたものですので、本業で一定の水準に達しない労働者の副業・兼業は認めないなど、一定のルールを設けるのもひとつの方法です。
一方で、副業を容認している以上、兼業している労働者がそうでない労働者に比べて不当な評価を受けるのは阻止しなければなりません。
そのためには、既存の評価制度を見直し、副業を推進する企業に見合った新たな制度を導入する必要があります。
3-4. 従業員への安全配慮義務
労働契約法第5条では、使用者が労働者の生命や身体等の安全を確保しつつ労働できる環境を整えることを義務づけています。
副業をすると、本業のみに従事している労働者に比べて心身にかかる負担は必然的に大きくなります。その結果、労働者が健康に問題を抱えるケースも少なくありません。
使用者は労働安全衛生法第66条の規定により、労働者に対して医師による健康診断をおこなうことが義務づけられています。しかし、健康診断の結果を過信せず、定期的に労働者の様子に気を配り、健康状態に問題があると認められた場合には適切なケアやアドバイスを提供する体制を整えておきましょう。
参考;労働契約法|e-Gov法令検索
参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索
3-5. 秘密保持・競業避止の義務の遵守
従業員が副業先で自社の機密情報などを漏えいした場合、企業に多大な損害をもたらす恐れがあります。
また、自社で培ったノウハウや情報をもとに従業員自身が起業すると、競合他社を増やす原因にもなります。
このようなリスクを回避するために、従業員の副業を容認する場合は、秘密保持や競業避止の義務を遵守することを書面で誓約させることが重要です。併せて、就業規則に「義務に違反した場合の懲戒処分」も定めておきましょう。
懲戒処分に関する規則を追加した場合は、全従業員に周知する必要があるので、掲示や公布もしくは各部署の管理者~通達してもらうことを徹底してください。
4. 副業を容認する場合は労働基準法の規程に注意!


副業を容認・促進することは、労働者だけでなく、企業側にもさまざまなメリットがあります。
近年は政府の後押しもあり、副業を容認する企業も増えてきました。しかし、兼業によって法定労働時間を超えてしまうと、労働基準法に抵触する可能性があります。
36協定を締結すれば、法定労働時間を超えて時間外労働させることも可能ですが、上限があります。本業・副業を通算した労働時間を正確に把握・管理できる体制を整えて、労働基準法を守りましょう。
また、「本業に支障をきたさない」「機密情報を漏えいしない」などの基本的なルールを遵守させるために、就業規則の見直しをおすすめします。
関連記事:就業規則で副業禁止だと副業できない?トラブルの対処法も解説



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