副業の労働時間通算ルールはいつから見直される?改正の最新動向
更新日: 2025.12.17 公開日: 2025.12.17 jinjer Blog 編集部
「副業の労働時間の通算はどうやっておこなうの?」「労働時間の通算ルールはいつ法改正される?」といった疑問を持つ人事担当者は多いのではないでしょうか。
現行ルールでは、従業員が本業と副業で働いた時間を企業が通算し、時間外労働の判断や割増賃金の支払いをおこなう必要があります。しかし実務では、通算漏れや企業が負う責任の曖昧さなど、多くの課題が生じています。そこで厚生労働省は、労働基準法改正により副業の労働時間管理のあり方を大きく見直す方針を示しています。
本記事では、見直し時期の最新情報と、新ルールの内容、企業の準備すべきポイントを整理します。
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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1. 現行の「副業・兼業における労働時間通算」とは
副業をおこなう従業員の労働時間を正しく管理するためには、まず現行制度の基本ルールを理解しましょう。
従業員が副業をしている場合、本業と副業の両方の労働時間を適切に管理することが義務づけられています。具体的には、本業と副業の労働時間を通算して管理し、合計が1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えた場合には時間外労働(残業)とする決まりとなっています。
この労働時間通算ルールは労働基準法第38条に基づくもので、事業主が異なる場合でも労働時間は通算すると規定されています。このため、副業で働いた時間は自己申告などで報告させ、労働時間を通算し時間外労働の上限規制を超えないよう管理し、時間外労働が生じた場合には割増賃金を支払う運用が原則的な取り扱いです。
関連記事:本業と副業で可能な労働時間とは?通算ルールや割増賃金の注意点を解説
関連記事:労働基準法が定める副業・兼業の労働時間や注意点を解説
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
2. いつから見直される?労働基準法改正の審議と施行時期


現在、労働基準法の大改正として約40年ぶりに労働基準関係法制の大規模な改正が予定されており、その中で副業に関する労働時間管理ルールも大きく変更される見通しです。
具体的には、健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を不要とする方針です。
2025年11月現在、労働政策審議会で詳細を審議中であり、厚生労働省はこの審議結果を踏まえて2026年にも労基法改正案を国会に提出する予定です。可決成立すれば2027年前後に施行というスケジュールが見込まれています。
改正の背景としては、政府が副業・兼業を推進する方針を打ち出していることがあります。働き方の多様化を後押しするため、現在の煩雑な通算管理を見直し、企業の負担を減らす狙いがあります。
副業を解禁・奨励する企業も増える中、制度面の整備によって安心して副業を導入できる環境を整えることが目的です。
関連記事:2026年、労働基準法が40年ぶりに大改正へ!重要ポイントと企業が備えるべき対応
3. 現行の労働時間通算ルールにおける問題点


本業と副業の労働時間を1日単位で細かく管理しなければならない現行の労働時間通算ルールは、実務上のさまざまな問題点が指摘されています。
企業・従業員双方にとって負担が大きく、政府の副業推進の妨げになっている側面もあるのは事実です。ここでは、現行の労働時間通算ルールにおける代表的な問題点を3つ解説します。
3-1. 他社勤務分の労働時間通算漏れで未払い残業代が発生している
現行制度では本来、従業員が複数の企業で働く際、労働時間を合算して残業代を支払う必要があります。しかし実際には通算管理が徹底されず、残業代の未払いが発生しているケースが散見されます。
従業員の副業を把握していなかったり、把握していても煩雑な管理を嫌い怠っていたりすると、両方の勤務先で時間外労働が「法定内労働時間」と見なされてしまい、通算すれば発生していたはずの割増賃金が支払われていない状況が生じます。
副業を企業が許可している場合は特に注意が必要です。副業を認めながら通算管理を怠ると、「労働時間通算の義務を認識していながら放置した」とみなされる可能性が高まります。
その結果、未払い残業代のリスクだけでなく、万が一従業員が過重労働で倒れた場合には労災認定につながるおそれもあります。
3-2. 法的責任の所在があいまいで、長時間労働リスクがある
現行の通算ルールでは「誰が労働時間の管理責任を負うか」が曖昧になりやすい点も問題です。労働基準法上は本業先・副業先双方に安全配慮義務があるものの、状況次第ですが裁判では本業の責任が問われやすい傾向があります。
また、副業を申告されていなかった場合は責任を問われないなど、労働者からの申告に依存する部分もあります。
副業は従業員の自主的な選択でおこなわれるものでもあり、「企業の命令ではなく従業員本人の意思による副業時間まで、どこまで企業が責任を負うべきか」という点で、法の解釈が状況次第となる曖昧さがあります。この曖昧さを放置すれば、結果的に従業員の健康障害を引き起こすリスクもあるでしょう。
3-3. 通算により残業扱いにするコスト負担が増える
労働時間通算ルールはコスト負担増という問題もはらんでいます。本業と副業の労働時間を通算すると、それぞれの企業で見れば法定内だった労働時間が時間外労働として扱われる場合が多く、割増賃金の支払いコストが発生または増大します。
例えば、本業ではフルタイムで働いている人材を受け入れる副業先の企業のケースを考えてみましょう。通常なら所定労働時間内の短時間アルバイトであったはずの勤務が、本業での労働と通算されることで全て時間外労働となり、25%以上の割増賃金を支払う必要が生じる可能性もあります。
このように通算ルールによって割増賃金の支払い義務が生じることは、企業の人件費負担を増やす要因となり、副業やダブルワーク人材の雇用を阻んでいるとも考えられます。
4. 具体的に何が変わる?見直し後の新ルール


法改正によって、副業の労働時間通算ルールはどのように変わるのでしょうか。
今回の見直しのポイントは、「割増賃金の計算」と「健康確保のための労働時間管理」を切り分けることにあります。新ルールでは、通算による割増賃金の負担をなくしつつ長時間労働リスクにも配慮した仕組みへと改められる予定です。
ここでは、法改正による見直し内容を3つの観点から解説します。
4-1. 割増賃金
最大の変更点となるのが、割増賃金の算定方法です。結論として、異なる事業主間での労働時間の通算が割増賃金の支払いに影響しなくなります。
簡単に言えば、本業と副業それぞれの企業で法定労働時間を超えた分に対してのみ、それぞれの企業が割増賃金を支払えばよく、他社で働いた時間を含めて計算する必要がなくなるということです。
この見直しが進めば、自社で管理可能な範囲内でのみ割増賃金を計算すればよくなり、賃金計算上の煩雑性やリスクが大幅に軽減されるでしょう。
ただし、今回の見直しはあくまで「事業主が異なる場合」の取り扱いを変えるもので、同一の事業主のもとで異なる事業場に勤務する場合や、出向先と出向元で兼務するような場合は、従来通り労働時間を通算して割増賃金を支払うこととなる見込みです。
4-2. 健康確保のための労働時間通算管理
法改正が成立後も、従業員の健康確保のために、企業は引き続き本業・副業全体の労働時間を把握する義務を負うことになります。
厚生労働省の有識者による「労働基準関係法制研究会」の報告書でも、「割増賃金の支払いに係る通算対応を必要としなくする分、副業・兼業をおこなう労働者の健康確保については、これまで以上に万全を尽くす必要がある」という立場を示しています。
当報告書では、今後他社での労働時間の把握方法や、通算して長時間労働となっている場合の責任の所在に関する考え方、とるべき健康確保措置の在り方を整理すると述べられています。
4-3. 社会保険
複数の企業に雇用される従業員の社会保険の適用ルールについては、現時点で法改正の予定はありません。法改正を機に副業の解禁を検討するような場合は、社会保険加入要件の理解を深めておくとよいでしょう。
社会保険(厚生年金・健康保険)の加入条件は企業ごとに判定されます。副業であっても雇用契約に基づき働く以上、各勤務先で週の所定労働時間や月収が加入基準を満たせば、その企業で社会保険に加入する義務が生じます。
その際、従業員本人が日本年金機構へ「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」という書類を提出し、どちらかの企業を主たる勤務先として届出をおこなう必要があります。
関連記事:副業で2社以上に雇用されている労働者の社会保険への加入条件は?【人事労務FAQ】
5. 企業が準備すべき実務対応


労働時間通算ルールの改正に備えて、企業は早めに実務面の対応準備を進める必要があります。新たなルールは企業にとって負担軽減になる側面がある一方で、従業員の健康管理や社内ルールのアップデートなど新たに取り組むべき課題も生じます。
ここでは、企業が今から準備すべき内容について解説します。
5-1. 就業規則の見直し
法改正に備えて、就業規則の副業に関する条文をアップデートしましょう。例えば、副業許可の条件や申告義務、労働時間報告の方法、禁止事項(競業避止や機密保持、信用・名誉毀損の禁止、本業への支障禁止)などを明示し、従業員へ周知徹底することが重要です。改正後の法律に違反しないよう、自社の副業ポリシー全般を点検・整備しておくとよいでしょう。
なお、就業規則で副業を一律禁止とする規定は法的に無効となるおそれがあります。裁判例でも「勤務時間外の行動は本来労働者の自由」であり、特別な事情がない限り全面的な副業禁止は合理性を欠くとされています。
また、就業規則に副業に関する記載が何もない場合、原則として従業員は副業を自由におこなえると解釈されます。これは企業として副業に対する統制が及ばず、過重労働や情報漏洩・競業などのリスクに対処できなくなるおそれがあるため、危険な状態です。従業員の自由と企業利益のバランスを取り、制約条件付きで副業を認める方針が合理的でしょう。
5-2. 副業開始の申告フロー
副業を希望する従業員から人事担当者への申請フローを構築しましょう。具体的には、従業員に競業避止や秘密保持に関する禁止事項を守る誓約書を書かせたり、コンプライアンス担当部署に副業先の反社チェックをさせたりといった手順があります。
また、健康管理の観点から、フローは従業員の上長に確認させるようにし、部下が健康状態を害していないか観察させるようにしましょう。
5-3. 健康管理体制
健康管理体制を見直し、副業による長時間労働のリスクを洗い出すことで、対策を講じておきましょう。
現在、厚生労働省は「長時間労働となっている場合の健康確保措置の在り方を整理すべき」という方向性を示しています。
現行法では、長時間労働者の申し出に基づき医師による面接指導を実施することが義務づけられていますが、この義務は各事業場ごとに適用されており、他社の労働時間との通算は考慮されません。法改正後はこのような取り扱いが変更されることも考えられます。
5-4. 労働時間の申告
副業をしている従業員から他社での労働時間を自己申告してもらう仕組みを構築することが重要です。日々の細かな時間数まで管理が必要となるのか、月単位の総労働時間で把握すればよいのかなど、法改正の動向を注視しましょう。
5-5. 従業員への情報提供と意識啓発
副業に関するルール変更について、従業員や現場の管理職にわかりやすく周知しましょう。企業としてもサポートする姿勢を示しながら、労働時間の自己管理や健康管理に努めるよう促します。安心して副業に取り組める職場環境を整えることが大切です。
6. 自社の副業ルールを確認し労働時間通算ルールの改正に備えよう


労働時間通算ルールの見直しは、企業にとっても労働者にとっても大きな転換点となります。今回の改正によって管理負担が軽減され、副業がより促進されることが期待されています。
しかし、その一方で労働者の健康管理責任は引き続き問われるため、万全の準備を進めることが肝要です。長時間労働を防ぐためのルール(申告制や許可基準、禁止事項の明確化など)を整備し、社内に周知してください。法改正後に社内ルールが法律と矛盾することのないよう、先手を打って修正をおこなっておくことが望まれます。
また、労務管理システムや勤怠管理方法のアップデートも検討が必要です。副業の勤怠情報を管理できるクラウドシステムの導入や、従業員から他社での勤務時間を報告してもらう仕組みづくりなど、ITツールの活用も視野に入れましょう。
副業を適切に管理・活用できる企業は、従業員の成長や新たな知見の社内還元といったメリットも享受できるはずです。労働時間通算ルール改正の最新動向を注視しつつ、先手の対応で安全・健全な副業運用を実現していきましょう。



人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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