有給休暇は消滅する?時効や未消化分の取り扱いの注意点
労働基準法では、6ヵ月以上勤務しており、出勤率が8割を超える労働者に対して、有給休暇を付与することを義務付けています。有給休暇は労働者の権利ですが、忙しかったり休みにくい雰囲気だったりと、消化できずに保有し続けている人も珍しくはありません。
保有したままの未消化分の有給休暇は、放っておくと期限切れになって消滅してしまうため注意が必要です。この記事では、有給休暇の消滅について解説します。
関連記事:【図解付き】有給休暇付与日数の正しい計算方法をわかりやすく解説
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1. 有給休暇は消滅する?期限切れの仕組みを解説
有給休暇とは労働者が心身の健康を維持するために、給与を受け取りながら休暇を取れるという制度です。具体的には、原則6ヵ月以上勤務していて労働日の8割以上出勤している労働者に対し、正社員やパートを問わず有給休暇が与えらるという仕組みです。
そもそも、有給休暇の消滅とはどのようなことなのでしょうか。まずは、詳しい仕組みについて見ていきましょう。
1-1. 有給休暇の時効はいつ?
有給休暇の時効は結論、2年です(つまり有給休暇は2年で消滅してしまいます)。
有給休暇の付与については労働基準法の39条に記述があります。さらに、同法の第115条には、この法律の規定による請求権は時効が2年と規定されています。そのため、有給休暇を消化しないときは、2年で期限切れになって消えてしまうということなのです。
なお、有給休暇は原則として最大20日繰越が可能で40日まで保有できます(法定通りの日数を付与した場合)。就業規則に特別な規定がない限りは、通常繰り越された古い有給休暇から消化されます。
例えば、前年から有給休暇を10日繰越して、今年新しく20日付与された場合を見てみましょう。
今年15日有給休暇を消化した場合 |
繰越した有給休暇を10日使用。 残りの5日を新規付与された有給休暇から使い、15日を来年に繰越する。 |
今年5日有給休暇を消化した場合 |
繰越した有給休暇を5日使い、そのほかの繰越した5日分の有給休暇は消滅。 新規付与された有給休暇20日を来年に繰越する。 |
つまり有給休暇の消滅とは、一定期間継続的に働いている従業員が会社から付与された有給休暇を2年以内に利用せず、利用する権利を失ってしまうことです。
しっかりと前年繰越した有給休暇を消化できればよいのですが、余ってしまうと付与された翌々年には消滅してしまいます。また繰り越せる上限は20日のため、それ以上の有給日数がある場合は付与される前に計画的に消化する工夫が大切です。
1-2. 有給休暇の消滅時効は労働基準法改正の対象外
2020年4月より、労働基準法の賃金に関する消滅時効が見直され、消滅時効が原則5年(当面の間3年)となりました。
対象となるのは、未払いの休業手当や残業代、給与や年次有給休暇中の賃金などです。これにより労働者の権利が拡大し、過去の未払い賃金についても請求しやすくなっています。
ただし、この消滅時効の拡大に「有給休暇の時効」は含まれていません。
なぜなら、労働基準法は労働者を守る法律であり、有給休暇の時効を伸ばすことは有給休暇の消化を妨げることになってしまうためです。付与された年にしっかりと消化してリフレッシュすることが制度の目的なので、消滅時効を伸ばすことはその目的に反することになってしまいます。
法改正されても有給休暇は今までどおり2年で消滅してしまうので、しっかりと期間内に消化しましょう。有給休暇の残数は計算式やエクセル(Excel)の管理表などを活用しましょう。
2. 有給休暇の未消化分の扱いの注意点
厚生労働省がおこなった調査によると、2020年における労働者1人あたりの平均有給消化率は56.3%でした。
つまり、その年に取得した有給休暇の半分しか消化されていないのです。
それでは、有給休暇の未消化分があるときはどのようなポイントに気をつければよいのでしょうか。ここからは、未消化分の有給休暇を取り扱うときの注意点を見ていきましょう。
2-1. 有給休暇の時効を企業が短縮することはできない
有給休暇の時効は、労働基準法によって定められています。そのため、企業が勝手に短縮して消滅を早めることはできません。
労働基準法で定められている内容は、労働者を守るための最低限の水準であるため、これを下回る就業規則や雇用契約は無効となります。
ただし、有給休暇の有効期限を2年以上に設定することは、労働者にとって有益な変更であるため認められます。
2-2. 企業が勝手に消化することは違法
未消化分が多いからと、企業が勝手に有給休暇を消化することは当たり前ですが違法行為として認められます。
- 今日は来客数が少ないから有給で休んでください
- 機械が故障したので明日は有給で休んでください
上記のように、会社都合で勝手に有給を消化すると、労働者の権利を侵害することになってしまいます。
会社に言われて有給休暇を消化したことがある人は、意外に多いかもしれません。しかし、労働者が自由に選択できない有給休暇の消化は違法行為であるため、企業側も労働者側も注意が必要です。
ちなみに、企業の判断で法定の日数よりも多く有給休暇を付与することは適法です。「労働基準法で定められた年次有給休暇を与え、さらにリフレッシュ休暇を3日与える」といった行為は全く問題なく、消滅時効も企業が自由に設定できます。
2-3. 有給休暇の買い取りは原則認められない
「余ってしまった有給休暇がもったいないから」と、有給休暇を会社に買い取ってもらいたいと考える労働者もいるかもしれません。
有給休暇の買い取りは、労働者が休息を取る権利を奪うことになるため、原則違法だとされています。そのため、企業は有給休暇を買い取るのではなく、消化させられるように取り組むことが大切です。
ただし、以下のケースでは、例外的に有給休暇の買い取りが認められています。
- 退職時に有給休暇が余ってしまったとき
- 労働基準法で定められた日数以上の有給休暇を与えているとき
- 有給休暇が消滅時効を迎えてしまったとき
上記のようなケースで有給休暇を買い取るときは、あらかじめ条件を書面に記載し、双方の同意を得てから手続きをすることが大切です。とくに金額面でのトラブルが生じやすいため、買い取るときの金額については合意書や契約書などに記載しておきましょう。
ここまで解説してきたとおり、未消化分の有給休暇の取り扱いは企業によって様々であるため、自社の有給の運用ルールに法的な問題がないか不安になる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方に向けて、労働基準法に基づいた有給付与の方法や有給の繰り越し・消滅のルールを解説した資料を無料で配布しております。自社の有給付与ルールが法律的に問題ないのか不安な人事担当者様は、こちらより資料をダウンロードし、ぜひご覧になってみてください。
関連記事:有給休暇の買い取りは可能?その是非やトラブル事例を解説
3. 有給休暇の消化義務化について
有給休暇が期限切れになってしまったことがある人は、かなり多いかもしれません。日本では従業員が有給休暇の消化に罪悪感を抱く傾向にあり、休みたくても休めない労働環境の企業も多いのです。
日本の有給消化率は、世界的に見ても最低水準です。こういった状況を危惧し、日本では大企業・中小企業問わず「有給休暇の消化を義務化」する改正労働基準法が、2019年4月より施行されました。
これにより、年間10日以上の有給休暇が付与される労働者は、正社員やパートといった雇用形態を問わず、年間5日の有給休暇を消化することが義務付けられました。企業は労働者の意見をふまえ、時季を指定して計画的に有給休暇を消化させなくてはいけません。
適切な有給休暇運用のためにも、消化義務化についてもしっかりと知識を深めておきましょう。
4. 有給休暇には消滅時効があるため計画的な消化が大切
労働者の権利である有給休暇は、取得から2年で時効を迎えて消滅してしまうため注意しましょう。未消化分の有給休暇を企業が勝手に消化したり買い取りしたりすることは違法であるため、労働者が計画的に消化できる環境を整える必要があります
なお、2019年より年5日の時季指定有給休暇の消化が義務付けられました。未消化分の権利が消滅してしまうのは非常にもったいないので、企業と労働者が協力して有給休暇を消滅させない取り組みをしていきましょう。
関連記事:有給休暇の繰越とは?その仕組みや最大保有日数を解説
関連記事:年次有給休暇とは?付与日数や取得義務化など法律をまとめて解説
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