有給休暇の買い取りは違法?認められる例外と実務対応、トラブル事例を解説
更新日: 2026.3.30 公開日: 2021.9.1 jinjer Blog 編集部

有給休暇は、心身のリフレッシュを図る目的で、雇用形態にかかわらず一定の条件を満たした従業員に付与しなければなりません。
しかし、従業員が有給休暇を取得する機会が無いまま退職時期を迎え、「有給休暇を買い取ってほしい」と申し出ることがあります。この場合、どのように対応すべきか悩む方も少なくないのではないでしょうか。
本記事では有給休暇の買い取りの違法性や買い取りをする場合の対応方法・注意点について解説します。
関連記事:年次有給休暇の基本をわかりやすく解説!付与日数や取得時期も紹介
目次
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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1. 有給休暇の買い取りは原則として違法


はじめに、労働基準法では原則として有給休暇の買い取りは違法である点をおさえましょう。
有給休暇は本来、従業員の心身のリフレッシュを図る目的で設けられている制度です。そのため、休暇を取得させずに金銭で買い取ることは、一部の例外を除き禁止されています。
実際、昭和30年11月30日の行政通達(基収4718号)では、労働基準法第39条(法第39条)を挙げ、次のように言及されています。
年休の趣旨・目的に照らせば,年休の買上げ制度は、原則として認められません。金銭を給付するのと引き換えに、年休を与えたものとすることは、結果として法定日数を付与していないこととなるからです。
行政解釈でも、「年次有給休暇の買上げの予約をし, これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは,法第39条の違反である」 (昭和30年11月30日 基収第4718号)としています。
関連記事:有給休暇の労働基準法における定義|付与日数や取得義務化など法律を解説
2. 有給休暇の買い取りが例外的に認められるケース


有給休暇の買い取りは原則違法とはいえ、場合によっては買い取りが可能なケースもあります。ここでは、有給休暇の買い取りが違法にならない3つのケースについて説明します。
2-1. 退職時に未消化の有給休暇が残る場合
従業員が退職する際に残っている有給休暇は、その未消化分を買い取ることが例外的に認められています。有給休暇の権利は退職後には行使できず、退職時点で消化しきれなかった有休は結果的に労働者が権利を失うためです。
ただし注意すべきは、退職時の有給休暇買い取りは会社の義務ではない点です。労働者から「退職時に残った有給休暇を買い取ってほしい」と要求された場合でも、必ず応じる必要はなく、拒否することも可能です。
2-2. 法定の基準を超える独自の有給休暇がある場合
法定の日数を超えて付与している有給休暇は、その超過分に限り、買い取りができます。労働基準法が定める最低付与日数(勤続年数に応じ年間10~20日)を上回る会社独自の有給休暇がある場合、その部分は労基法39条の規制対象外と解釈されるためです。
例えば、法定の有給休暇が10日あり、さらに福利厚生として5日追加で付与している場合、追加の5日については買い取りが可能です。
2-3. 有給休暇が時効により消滅する場合
付与された有給休暇は翌年度への繰越が可能ですが、2年で時効により消滅することが労働基準法で定められています。したがって、有給休暇を取得しないまま2年が経過し権利が消滅した分は、法律上の権利ではなくなるため、時効到来後に任意で買い取ることも違法ではありません。
なお、ほかのケースと同様に法的義務はなく、買い取りを拒否することも可能です。
有給休暇の繰越の仕組みや保有できる最大日数について確認したい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:【図解】有給休暇の繰越とは?上限やルール、計算方法をわかりやすく解説
3. 有給休暇の買い取り金額はいくらが妥当?主な計算方法


有給休暇を買い取る場合、金額設定に明確な法律上のルールはありません。買い取り金額は労働者との合意や就業規則の定めにより自由に決めることができ、極端に言えば1日あたり1円でも1万円でも設定可能とも言えます。
しかし、あまりにも通常の賃金とかけ離れた額では、従業員の不満やトラブルにつながるため注意が必要です。妥当な金額の目安として、一般的な算定方法を紹介します。
3-1. 通常賃金での計算方法
4つの計算方法のうち、多くの会社で取り入れられているのが通常賃金での計算方法です。月給制や日給制、時給制によってそれぞれ計算方法が異なります。
- 月給制の場合:(月給額 ÷ 所定労働日数) × 有給休暇買い取り日数
- 日給制の場合:日給額 × 有給休暇買い取り日数
- 時給制の場合:(時給額 × 1日の所定労働時間) × 有給休暇買い取り日数
計算方法が簡単なだけでなく、従業員側から見ても、いつも通りの賃金で支払われるため、最もトラブルが起こりにくい計算方法といえるでしょう。
3-2. 平均賃金での計算方法
平均賃金での計算方法は、まず、直近3ヵ月の賃金を休日分も含めて合計してから、その合計額を3ヵ月の暦日数で割ります。
ただし、休業などによって直近3ヵ月の賃金が少ない場合、この方法だと単価が非常に低くなるおそれがあります。そのため、労働基準法では最低保障額が決められています。
【最低保障額】
直近3ヵ月の賃金の総額 ÷ 労働日数で割った額 × 0.6
最低保障額を求める際は、暦日数ではなく、実際に働いた労働日数で割るのがポイントです。平均賃金を買い取り金額にするときは、この最低保障額を下回らないよう設定するとよいでしょう。
3-3. 標準報酬月額での計算方法
社会保険の算定基準である「標準報酬月額」を用いる方法も考えられます。標準報酬月額を月の所定労働日数で割ることで、1日当たりの買い取り金額とする方法です。
健康保険に加入している従業員であれば計算が簡素化されて便利ですが、未加入である場合は標準報酬月額を一から算出する必要があり、逆に計算が面倒になることもあります。
関連記事:有給休暇取得日の賃金計算方法と正しく計算するための注意点を解説
3-4. 定額での計算方法
一律の定額で買い取る設計も可能です。法律上、有給休暇買い取りの金額に特段の定めはないため、任意で「1日◯◯円で買い取り」というルールを決めることもできます。例えば「未消化1日につき一律5,000円支給」のように社内規程で設定するケースです。
この方法は計算が要らず、管理がシンプルで手間が省ける反面、場合によっては実際の賃金との差が大きくなる可能性があります。その場合は、従業員の等級や基本給の高低に応じて、買い取り金額を段階的に設定することも考えられるでしょう。
4. 有給休暇を買い取るメリット


有給休暇の買い取りは任意ですが、あえて制度を導入・活用することで一定のメリットが得られる場合があります。ここでは主に会社側の有給休暇買取のメリットを整理します。
4-1. 社会保険料の負担を軽減できる可能性がある
従業員が退職する際には、残っている有給休暇をすべて消化してから退職するケースが多く見られます。この場合、有給休暇の取得期間中も在籍していると扱われるため、その期間に対応する社会保険料の負担が発生します。
一方で、未消化の有給休暇を買い取ったうえで退職日を前倒しすれば、在籍期間を短縮できるため、結果的に社会保険料の負担を軽減できる可能性があります。ただし、有給休暇の取得は従業員の権利であり、会社が一方的に買い取りを強制することは認められていない点に注意が必要です。
4-2. 労使間トラブルを回避できる
有給休暇の買い取りは労使トラブルの回避策として機能する場合があります。例えば、退職時点で消化しきれない有給休暇が大量に残っている場合があります。本来、有給休暇を取得する際に会社の許可は不要ですが、業務環境などが要因で在籍中の取得が難しく残日数が多くなるケースもあります。
このような場合、未消化分の有給休暇を買い取ることで、従業員とのトラブルを防ぎ、円満に退職手続きを進められる可能性が高まります。
関連記事:時季変更権は退職時まで行使できる?認められないケースとは
4-3. 退職勧奨の条件として提示できる
有給休暇の買い取りは、退職勧奨(従業員に合意による退職を促すこと)の条件提示にも利用されるケースがあります。退職勧奨に応じてくれた社員に対し、「未消化の有休をすべて買い取るので円満に退職してほしい」といった提案をおこなうことで、労使合意の退職成立をスムーズに図れる場合があります。
- 会社から従業員に退職勧奨を働きかける際、従業員から「未消化の有給休暇も買い取ってくれるなら退職に応じる」と条件提示されることもあります。早期に退職に合意できるならば、会社にとってメリットになる場合も多いです。このように退職条件の一つとして、有給休暇買取は労使交渉の材料にもなりえます。
ただし、後々「有給休暇取得を強制的に拒まれた」と主張されないよう、従業員の同意を書面で残すなど慎重な手続きが必要です。
5. 有給休暇の買い取りの注意点


有給休暇の買い取り制度を導入・運用する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。違法な運用や思わぬトラブルを避けるため、6つの点を押さえましょう。
5-1. 有給休暇の買い取り予約は違法となる
従業員との間で「有給休暇は買い取ることにする」と予約し、有給休暇を取得させないことはできません。例えば、「有給休暇は取得させず退職時にまとめて買い上げる」ことを約束させるようなケースです。
有給休暇には労働者の心身をリフレッシュさせる目的があるため、本来の趣旨に従って取得させることが原則です。例外的に認められる特別な理由がない限りは、計画的に有給休暇を取得させましょう。
5-2. 有給休暇の買い取りは義務ではない
会社は法律上、有給休暇を買い取る義務を負っていません。買い取りは労使の任意の取り決めであり、労働者に買い取り請求権が認められているわけではありません。
そのため、従業員から「有給休暇を買い取ってほしい」と申し出があった場合でも、拒否することが可能です。
5-3. すべての残日数を買い取る必要はない
有給休暇の買い取りは、「残っている日数すべてを買い取る」必要はありません。
例えば、有給休暇付与直後に退職する場合は、買い取り対象日数を少なくし、付与から一定期間が経過している場合は買い取り対象日数を多くするなど、在籍期間に応じて段階的に設計することも可能です。
5-4. 有給休暇の買い取りは「賞与」か「退職金」として計上する
有給休暇を買い取る場合の賃金上・税法上の扱いにも注意が必要です。在職中に支払う場合は「賞与(給与所得)」として計上するのが一般的です。ただし、退職に起因して支払う場合は「退職手当(退職所得)」として計上します。
なお、賞与で処理する場合は、「被保険者賞与支払届」を買い取り額の支払日から5日以内に提出が求められ、社会保険料の処理に関しても賞与と同様の扱いが必要です。標準賞与額を用いて計算する点や賞与明細の発行が必要となる点に注意しましょう。
一方、退職手当で処理する場合、社会保険料はかかりません。ただし、退職手当に対しても源泉徴収義務があります。正しく手続きをしたうえで、退職後には「退職所得の源泉徴収票」を1ヵ月以内に退職者本人へ交付しましょう。
参考:従業員に賞与を支給したときの手続き|日本年金機構
参考:No.2732 退職手当等に対する源泉徴収|国税庁
5-5. 年5日の有給休暇取得義務は守る
2019年の法改正により、有給休暇が10日以上付与される従業員については毎年5日以上を取得させることが義務となりました。年5日取得義務は、実際に休暇を取得させなければならない制度のため、買い取りで代替することは認められません。
有給休暇の買い取り制度を設計する際は、「10日以上付与された場合、最低5日は取得したうえで、それを超える分については買い取り可能」とすることを検討するとよいでしょう。
6. 有給休暇の買い取りでよくあるトラブルと対策


最後に、有給休暇の買い取りにまつわる典型的なトラブル例とその対策について解説します。「買い取り可否」「買い取り金額」「税法上の扱い」に関するトラブルは特によく起こりがちなポイントですので、事前に対策を講じておきましょう。
6-1. 買い取り可否についてのトラブル
有給休暇の買い取りが可能かどうかについての認識ズレはトラブルのもとです。従業員の中には「有給休暇は買い取ってもらえるもの」と誤解している人や、反対に例外があることを知らない人もいます。対策として、買い取りの可否や条件をあらかじめ明文化し、社内に周知しておきましょう。
個別の退職交渉においても、買い取りに応じるかどうかを文書(退職合意書等)で取り交わし、証拠を残すことが望ましいです。
- 買い取りの対象となる有給休暇
- 有給休暇の買い取り金額
- 支払日
- 支払方法
6-2. 買い取り金額に関するトラブル
有給休暇の買い取り金額に法定の決まりはなく、会社の裁量で決められます。だからこそ「いくらで買い取るか」を設定する際に、公平性が問題になり、不満や揉め事が生じる可能性があります。
例えば、通常の正社員の有給休暇は1日あたり一律1万円で買い取ったところ、契約社員・パートタイマーの従業員は一律5千円だった、といったケースです。
不合理な格差を設けるとパートタイム・有期雇用労働法に抵触するおそれもあり、慎重な対応が必要です。差をつける場合は合理性や均衡を説明できる設計にしましょう。
関連記事:パートタイム・有期雇用労働法の内容を分かりやすく解説
6-3. 税法上のトラブル
有給休暇を買い取るときは、税務処理を間違えるトラブルが起きやすいため注意しましょう。退職にともなう有給休暇の買い取りは、原則として「退職することに起因して支払われる賃金」と考えられるため、「退職所得」扱いになります。
また、在職中に繰り越されず消滅する有給休暇を買い取る場合などには、「給与所得」扱いとされるケースもあります。税務上の判断が難しい場合は、専門家に相談するとよいでしょう。
なお、従業員の税金(所得税・住民税)の計算方法は、「給与所得」と「退職所得」のどちらで処理するかで大きく異なります。一般に、退職所得として計算する場合は退職所得控除が適用されるため、給与所得として扱う場合よりも税負担が軽くなる傾向があります。従業員にもあらかじめこのことを周知しておくと、混乱が生じにくくなります。
関連記事:退職金にかかる税金は?計算方法や退職金控除についても解説
7. 有給休暇の買い取りは例外!ルール整備でトラブルを防ごう


労働者が休暇を取る権利である有給休暇は、原則として買い取ることができません。しかし、「退職時に有給休暇が余った」「有給休暇よりも多い日数を付与している」「時効で消滅してしまう」のいずれかに該当する場合は、有給の買い取りが可能です。
有給休暇の買い取りは本来イレギュラーな対応ですが、適切にルール化し運用すれば会社にとっても有益となる場合があります。法律の趣旨を踏まえつつ、自社の就業実態に合った制度設計を検討することがおすすめです。
導入するときは、本記事を参考に労使双方にメリットのある有給休暇買い取り制度を目指しましょう。



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