有給休暇義務化のペナルティを徹底解説!労働者とのトラブルを回避する4つの対策
更新日: 2025.6.10
公開日: 2020.4.27
jinjer Blog 編集部
有給休暇の取得義務を守れない企業には罰則や懲役といったペナルティが科されるおそれがあります。
本記事では、罰則の具体例と発生要件を整理し従業員とのトラブルを未然に防ぐための4つの実践的対策をわかりやすく解説します。
関連記事:【図解付き】有給休暇付与日数の正しい計算方法をわかりやすく解説
2019年4月より有給休暇の年5日取得が義務化されました。
しかし、以下のような人事担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
・有給の取得が義務化されたのは知っているが、特に細かい社内ルールを設けて管理はしていなかった…
・どうやって有給を管理していけば違法にならないのかよくわかっていない…
・そもそも義務化の内容について細かいルールを知らない…
そのような人事担当者様に向け、当サイトでは年次有給休暇の義務化についてまとめた資料「3分でわかる!有休休暇」を無料で配布しております。
資料では、有給休暇関する改正労働基準法の内容と、それに対して行うべき管理、取得義務化に関してよくある疑問とその回答などを紹介しておりますので、社内の有休管理に問題がないか確認する際にぜひこちらからダウンロードの上、ご利用ください。
目次
1. 有給休暇のペナルティ(罰則)の内容とは
年5日の有給休暇取得義務は、2019年の施行から数年が経った現在も厳格に運用されています。もし企業が従業員に5日分の取得機会を確保せず、必要な管理を怠れば、罰金や懲役などのペナルティが科される可能性があります。たとえば繁忙期を理由に取得を先延ばしさせたり、就業規則に時季指定の手順を定めていなかったりすると、結果的に義務違反となりかねません。まずは罰則の種類と発生条件を正しく理解し、計画的な有休管理に備えましょう。
1-1. 年5日取得の義務違反|30万円以下の罰金
労働基準法第39条第7項は、年間有給休暇付与日数が10日以上の従業員について、基準日(付与日)から1年以内に少なくとも5日取得させるよう使用者に義務付けています。これに違反すると、同法第120条1項に基づき、違反者1人につき30万円以下の罰金が科されます。
【労働基準法第120条】
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略)第三十九条第七項(省略)の規定に違反した者
仮に未取得者が100人の場合、理論上の罰金総額は最大3,000万円に達します。実務ではまず労基署から是正指導が入るのが一般的ですが、改善されなければ高額の罰金が科される可能性があります。こうしたリスクを避けるためにも、すべての従業員に対して、年5日以上の有給休暇を確実に取得させる仕組みづくりが不可欠です。
1-2. 時季指定が就業規則に記載されていない|30万円以下の罰金
労働基準法第39条第7項は、年5日取得義務の対象となる有給休暇について「労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない」として、あらかじめ取得日(時季)を指定するよう使用者に求めています。
さらに、従業員が常時10人を超える事業場では、労働基準法89条により時季指定の方法を就業規則に記載し、所轄労基署へ届け出ることが必須です。規定を定めないまま時季指定をおこなった場合、同条違反となり1件につき30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
年5日取得の義務を履行する際は、就業規則の整備と届け出を確実におこない、社内ルールと実務を一致させることが重要です。
【労働基準法第89条】
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項・・・引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
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1-3. 労働者が請求する時季に有給付与をしない|6ヵ月以上の懲役または30面円以下の罰金
労働基準法39条5項は、「労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えなければならない」と定めており、使用者に確実な付与を求めています。「事業の正常な運営を妨げる場合のみ」時季変更権が行使できますが、正当な理由なく拒否・放置すると同法119条1号違反となり、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。
繁忙期を理由に一律で申請を却下したり、代替日を示さず先延ばしにしたりする対応はハイリスクです。申請を受けたら業務への影響を精査し、必要に応じて速やかに代替日を提案するなど、労使協議の仕組みを整えましょう。
2. 再確認しよう!有給休暇取得義務の原則ルール
年10日以上の有給休暇が付与される労働者は、雇用形態を問わず年5日以上の取得が義務づけられています。正社員だけではなく、パートやアルバイトも条件を満たせば対象に含まれる点に注意しましょう。
年10日以上付与される主なタイミング
- 正社員
入社後6ヵ月継続勤務し、その期間の出勤率が8割以上に達したとき
- 週30時間以上勤務のパート・アルバイト
正社員と同様に、入社後6ヵ月・出勤率8割以上を満たしたとき - 週4日勤務(週30時間未満)のパート・アルバイト
入社後3年6ヵ月継続勤務し、所定要件を満たしたとき - 週3日勤務(週30時間未満)のパート・アルバイト
入社後5年6ヵ月継続勤務し、所定要件を満たしたとき
いずれのケースでも、上記基準日以降は雇用条件が変わらない限り、毎年10日以上の有給休暇が付与され続けます。対象者には必ず年間5日以上の有給休暇を取得させる仕組みを整え、違反リスクを防止しましょう。
参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
2-1. 時季変更権による有給休暇取得日の調整
繁忙期やほかの従業員の有給休暇と希望日が重なるなど、企業側が取得日の変更を求めたい場合もあります。
原則としては、従業員からの申請は拒否できませんが、企業には、一定の条件下で「時季変更権」が認められています。
時季変更権とは、従業員が指定した有給休暇の日程をほかの日にずらすよう求める権利です。
ただし、どのような場合でも変更できるわけではなく、「業務の正常な運営を妨げる場合」に限られます。具体的には、特定の従業員しか担当できない業務があり、その従業員が休むことで業務が止まり、経営や業務運営に支障が出るようなケースが該当します。
【労働基準法第39条第5項】
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
時季変更権を行使できるケースは限られており、安易に使えば従業員とのトラブルに発展することもあります。トラブルを避け、従業員から理解を得るためにも、有給休暇の取得ルールや時季変更権をどのような場合に使用できるのかを、あらかじめ就業規則に明記し、周知しておくことが重要です。
関連記事:年次有給休暇義務化にともなう管理簿とは?作成方法と保存期間を解説
3. 有給休暇管理のケーススタディ
有給休暇管理においては、従業員の状況や雇用形態によって注意すべきポイントが異なります。
ここでは、実務でよくあるケースを例に挙げ、有給休暇取得義務を正しく管理する方法について確認しましょう。
3-1. すでに従業員の意思で有給休暇を5日以上取得している場合
従業員自身の申請ですでに年5日以上の有給休暇を取得している場合、会社による追加の時季指定は不要です。
ただし、そのような判断をするには、従業員が5日以上の有給休暇を取得しているかどうかをふだんから正確に把握・管理しておく必要があります。従業員ごとの取得状況を管理簿や勤怠システムで可視化し、取得不足を未然に防ぎましょう。
管理不足で取得漏れが生じれば、罰則や労働トラブルにつながるおそれがあります。
3-2. パート・アルバイトの場合
アルバイトやパートでも、勤務日数や勤続年数によっては年5日の取得義務が発生します。具体的には、週30時間以上勤務している場合は正社員と同様に半年後から対象となり、週3〜4日の短時間勤務でも、勤続年数が長くなると義務化の対象となります。
短時間・少ない日数で働くアルバイトやパート社員の勤務実態を正確に把握し、有休取得を促しましょう。
4. ペナルティや労働者とのトラブルを回避するためのポイント
企業が有給休暇のペナルティや従業員とのトラブルを避けるためには、まず取得状況を正しく把握することが重要です。あわせて、従業員と良好な関係を築き、年5日の有給休暇を計画的に取得できる仕組みを作りましょう。ここでは、具体的な対策のポイントを詳しく紹介します。
4-1. 計画年休を導入する
「計画年休」とは、労働基準法第39条第6項に基づき、従業員に付与された年次有給休暇のうち5日を超える部分について、使用者があらかじめ取得日を指定できる仕組みです。これにより、従業員が自主的に消化しづらい年休のうち、一定日数を確実に取得させることができます。
たとえば、夏季休暇や年末年始の休暇にプラスで一斉に付与する計画年休です。休みを固めることで、未消化となるリスクを回避しつつ、事業への影響を最小限に抑えることができます。ただし、計画年休は企業の一方的な指定ではトラブルの原因となるため、従業員との事前協議を必ずおこない、労使協定や就業規則への明記をもって進めましょう。
4-2. 年次有給休暇取得計画表を作成する
有給休暇の取得を確実に推進するためには、「年次有給休暇取得計画表」を作成し、社内で共有することが効果的です。年次有給休暇取得計画表は、部署やグループごとに各従業員の取得実績・取得予定を一覧化したもので、誰がいつ休むかをひと目で把握できます。社内で共有することで、取得状況が可視化され、相互にスケジュールを調整しやすい体制が整います。さらに、四半期ごとに実績との乖離を確認し、必要に応じて取得日を見直せば未消化によるリスクを未然に防げます。このように計画表を上手く活用すれば、労使の調整負担が軽減され、トラブルリスクも低減されます。
4-3. 個別指定方式を取り入れる
「個別指定方式」とは、使用者が部署や個人ごとに有給休暇の取得日を指定する方法で、有給休暇の計画的付与制度の1つです。例えば、夏季休暇後の2日間を未消化リスクの高い従業員に対し割り当て、確実に消化させます。
個別指定方式は、対象者の消化促進を図るとともに、業務状況に応じた柔軟な日程調整が可能になるというメリットがあります。ただし、事前協議や合意なく指定するとトラブルを招くおそれがあるため、必ず通知・同意を取得し、就業規則にも明記してください。
4-4. 従業員と良好な関係性を築く
時季変更権は、「業務の正常な運営を妨げる場合」にのみ行使を認めています。多くの事業場では、この要件を満たしにくいと考えられるため、有給休暇取得日の変更は原則として労働者の判断にゆだねられます。
そのため、有給休暇の調整を円滑に進めるには、日常的なコミュニケーションと信頼関係の構築が不可欠です。労使間の意思疎通を深めることで、トラブルの未然防止と健全な休暇取得環境の維持につなげましょう。
関連記事:労働基準法で義務化された有給休暇消化を従業員に促す3つの方法
5. 有給休暇のペナルティを受けた企業事例
- 愛知県津島市の小売チェーン店(令和5年)
愛知県津島労働基準監督署は、従業員6名に対し年次有給休暇の時季指定を一切おこなわず、本来取得させるべき有給を未消化のまま放置していたとして、同社および各事業場の責任者3名を労働基準法第39条第7項違反で書類送検しました。経営陣は店長の業務負担を理由に申請を拒否していたものの、労働基準監督署の調査で違反が明らかとなり、書類送検という厳しい処分を受けています。
- 長崎労働局による時季指定義務違反の公表(令和3年)
2022年10月厚生労働省・長崎労働局が公表した調査結果によると、監督指導を実施した1,539事業場のうち238事業場(15.5%)で年次有給休暇の時季指定義務違反が認められました。この公表制度は、各労働局が違反状況を公表することで、未指定や管理簿未作成といった違反を抑止することを目的としています。
- 滋賀労働局による学生アルバイト違反事例(平成29年)
滋賀労働局がまとめた事例集では、学生アルバイトを雇用する事業場において、労働条件を明示した書面を交付せず、年次有給休暇の付与自体をおこなっていなかったケースが報告されています。労働基準法第24条(労働条件の明示)違反とあわせて39条違反と認定され、是正指導が実施されました。
これらの事例から、計画的付与や時季指定の適切な運用がいかに重要かが浮き彫りになります。法令違反は罰金や送検だけでなく、企業イメージの低下や従業員の信頼喪失も招くため、早急な体制整備が求められます。
6. 有給休暇を正しく管理してペナルティを防ごう
有給休暇取得義務の違反は、30万円以下の罰金や最長6ヵ月の懲役といった重いペナルティの対象となります。ペナルティを科されないためにも、有給にまつわる罰則の種類と適用条件を理解し、確実な有給取得ができる体制構築をめざしましょう。
有給取得の取得を促進するためには、計画年休の導入や年次有給休暇取得計画表の活用といった方法があります。自社にあった手法で取り組みを続けて、従業員の満足度の向上とトラブル防止を実現しましょう。
関連記事:【有給がない!?】有給休暇なしの会社は違法?有給がもらえない時の対処法|
2019年4月より有給休暇の年5日取得が義務化されました。
しかし、以下のような人事担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
・有給の取得が義務化されたのは知っているが、特に細かい社内ルールを設けて管理はしていなかった…
・どうやって有給を管理していけば違法にならないのかよくわかっていない…
・そもそも義務化の内容について細かいルールを知らない…
そのような人事担当者様に向け、当サイトでは年次有給休暇の義務化についてまとめた資料「3分でわかる!有休休暇」を無料で配布しております。
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