賃金規定とは?作成するルールや知っておきたい注意点
更新日: 2023.3.8
公開日: 2022.2.10
小野穣
企業と労働者の間で定める労働に関する規定を就業規則といいます。就業規則の中には必ず定めなければならない必須項目と、ルールを定める場合には記載が必要な項目、企業ごとに記載の有無が委ねられる項目があります。賃金規定は必須項目のうちの一つ。
今回は、賃金規定の内容や作成する際のルール、知っておきたい注意点、賃金規定の今後の流れを詳しく解説します。賃金は労働の対価となるため、賃金規定に誤りがあったり、周知が足りなかったり、規定が曖昧だったりする場合はトラブルに発展する可能性もあります。賃金規定への理解を深めるためにも、ぜひご一読ください。
目次
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1. 賃金規定とは
賃金規定とは、賃金の計算方法や支払い方法、支払い期日などを記載した書類を指します。賃金規定の細かい内容は企業に委ねられるため、賃金支払いの形態が他の企業と異なっていても、労働基準法に即していれば問題ありません。
冒頭でも少し触れましたが、賃金規定は就業規則のうちの一つです。就業規則では具体的に、労働時間や労働環境に関するルールを定めていますが、賃金に関する項目も就業規則で定めます。ちなみに、就業規則は常に10人以上の労働者がいる企業は作成が義務付けられています。
就業規則には必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項と、ルールを定める場合に必要な相対的必要記載事項があり、賃金規定の基本的な部分は絶対的必要記載事項に、一部は相対的必要記載事項に表記されているのがポイントです。
▽賃金に関する絶対的必要記載事項
- 賃金の決定
- 賃金の計算方法
- 賃金の支払い方法
- 賃金の締め切り日
- 賃金の支払い時期
- 昇給に関する事項
▽賃金に関する相対的必要記載事項
- 退職手当が適用される労働者の条件と犯意
- 退職手当の決定方法
- 退職手当の支払い方法
- 退職手当の計算方法
- 退職手当の支払い時期
- 臨時の賃金(退職手当除く)
- 最低賃金額
以上の通り、賃金に関する基本の枠組みは必ず記載する必要があります。
関連記事:労働基準法第89条で定められた就業規則の作成と届出の義務
2. 賃金規定の作成におけるルールを解説
賃金規定を作成する際は、以下のルールに留意するのが大切です。
- 賃金支払いの5原則を満たしていること
- 休業手当を定める
- 出来高払い制の保障給を定める
- 最低賃金を下回らない
2-1. 賃金支払いの5原則を満たしていること
就業規則で定める賃金規則では、会社ごと独自の給料形態を設けられますが、労働基準法に反する規定は定められません。労働基準法よりも効力が低いのがポイントです。従って賃金規定は賃金支払いの5原則を満たすように制定しましょう。
賃金支払いの5原則とは
- 通貨払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額払いの原則
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
のことを指します。
給料は原則として、日本通貨で労働者に直接現金で支払わなければならないというルールがあります。また、毎月必ず1回の支払いに加え、支払いの間隔は一定の期日を設けるのが、労働基準法で定められている賃金のルールです。
賃金規定を定める場合は、以上の5原則をもとに内容を作成しましょう。
関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介
2-2. 休業手当を定める
加えて、労働基準法第26条では、労働者に対する休業手当の支払いが命じられています。休業手当が支給されるのは、経営悪化や機械・施設の故障など、企業側の理由による場合です。支給額は平均賃金の6割以上です。
関連記事:労働基準法第26条による休業手当について分かりやすく解説
2-3. 出来高払い制の保障給を定める
また、労働基準法第27条では、出来高払い制や請負制の労働者に対する、賃金支払いの規定があります。労働者の成果がなくても、一定の賃金を保証するための法律ですが、支払う額は明示されていません。休業手当と同じく平均賃金の6割以上とする場合が多いようです。
2-4. 最低賃金を下回らない
賃金規定を定める際に特に大切なのが、最低賃金を下回らないように設定することです。最低賃金に関しては労働基準法第28条に記載があり、職業別・勤続年数別に算出されています。最低賃金は物価の上昇なども見込んで再計算されるため、更新された際は必ずチェックしましょう。
関連記事:労働基準法に基づく最低賃金とは?その基準や違反への罰則を解説
3. 賃金規程の作成前に知っておきたい注意点
賃金規定を作成する前に、知っておきたい注意点は次のとおりです。
- 法律で定める賃金の構成を理解しておく
- 最低賃金が適用されるのは基本給と諸手当のみ
- 同一労働同一賃金を遵守する
- 労使協定により賃金から天引きできるものを定めておく
- 社員の適用範囲と条件を明示する
賃金規定は労働者もしっかりチェックする項目なので、曖昧な部分や誤りがあれば大きなトラブルに発展する恐れもあります。賃金規定はできる限り詳細まで正確に記載する心がけが大切です。
3-1. 法律で定める賃金の構成を理解しておく
賃金の構成は、法律で定められています。
● 基本給
● 手当
-
-
- 家族手当
- 通勤手当
- 役付手当
- 技能・資格手当
- 精勤手当
-
● 割増賃金
賃金規定を定める際には、法律で定められている賃金の構成を参考にすると、決めやすくなります。
3-2. 最低賃金が適用されるのは基本給と諸手当のみ
先ほど最低賃金について解説しましたが、最低賃金が適用されるのは基本給と諸手当のみです。賃金の構成のうち、精勤手当・通勤手当・家族手当は最低賃金が適用されません。
給料形態は企業ごとにさまざまですが、最低賃金をしたまわないように注意が必要です。
3-3. 労働同一賃金を遵守する
最近になって正規雇用者と非正規雇用者の格差を是正する動きが顕著になっています。同一労働同一賃金もその一つ。同一労働同一賃金では、短時間・有期雇用労働者に対して不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
従って、雇用形態ごとに賃金規定を定める場合でも、正社員と正社員以外の労働者に対して、合理的でない待遇差を設けることはできません。
3-4. 社員の適用範囲と条件を明示する
賃金形態は正社員・契約社員・アルバイト・パートタイム用と雇用形態ごとに定めるのがおすすめです。仮に賃金形態が一つしかない場合、正社員に適用するはずの賃金がアルバイトにも適用されると解釈される恐れがあります。
また、賃金形態で線引きする社員の範囲と条件をしっかり明示するのも大切です。主に、労働時間や出勤日数、仕事に対する責任や業務の種類を提示して、詳細まで記載しましょう。
3-5. 労使協定により賃金から天引きできるものを定めておく
給料から天引きできるものには、法律で定められた社会保険料や税金以外にも、旅行の積立金や社宅や寮の家賃などは労使協定を締結していれば天引きできます。
労使協定を締結した上で、就業規則にも盛り込みましょう。
4. 賃金規定は今後どうなる?
先ほども少し触れましたが、労働力不足の解消や格差を是正するために、賃金に関する法律は刻々と変化しています。
最近では同一労働同一賃金を適用し、短時間・有期雇用労働者が正しい待遇を受けられるようにするパートタイム・有期雇用労働法が改正されました。
また、賃金規定を定める上で重要な最低賃金も更新されています。従って、賃金規定の基準はさらに引き上げられていくと予想されるため、常に最新情報をチェックしておきましょう。
5. 賃金規定は就業規則の一つ!作成する際は賃金支払いの5原則に則って作成しよう
就業規則は、会社と労働者の間で定める労働規則です。賃金規定は就業規則に必ず記載しなければならない要素の一つで、具体的には賃金の計算方法や支払い方法などを決めています。実際に賃金規定を作成する際は、賃金支払いの5原則に留意して作成しましょう。
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