労働基準法第26条による休業手当について分かりやすく解説
更新日: 2023.3.15
公開日: 2021.10.3
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会社の都合で労働義務のある従業員を休ませる場合、経営者には従業員に対する休業手当の支給義務が生じます。これは労働基準法第26条で定められる法令です。要件に該当する事由が発生した際は必ず休業手当を支給しなければなりません。
この記事では労働基準法第26条に基づく休業手当の支給条件や、支給金額の算出方法について分かりやすく解説します。休業手当について正しく理解し、従業員へ適切な補償を行いましょう。
そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1.労働基準法第26条は休業手当について定めた条文
労働基準法第26条とは、会社都合の休業に伴い従業員へ支給する「休業手当」について定めた条文です。以下その内容を引用します。
”使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。”
「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、従業員本人が働ける状態であるにも関わらず会社の都合で休ませることです。労働基準法第26条では、会社都合で従業員を休ませる際に賃金の60%以上を休業手当として支給しなければならないことが定められています。[注1]
休業手当は休業中の従業員の生活を保障するための制度です。本来、企業には労働力が提供されない期間に賃金を支払う義務はありません。しかし、労働基準法第26条により、会社都合の休業に限って賃金の一部を休業手当として支給する義務が生じるのです。
2.労働基準法第26条で定める休業手当の支給条件
労働基準法第26条で定める休業手当の支給には以下の条件を満たす必要があります。
- 会社都合の休業状態にある
- 従業員本人に労働意欲と労働能力がある
- 休業日が休日ではない
休業手当の支給は法令で定められた義務です。これらの条件に該当する期間は必ず休業手当を支給しなければなりません。
2-1.会社都合の休業状態にある
休業手当の支給では「会社都合の休業状態にあること」が前提です。会社都合の休業とは、諸々の理由により操業できずに労働義務がある従業員を就業させられない、もしくは仕事を与えることができない状態を言います。
具体例として挙げられるのは以下のケースです。
- 機械のメンテナンスによる操業中止
- 資材の不足による作業の中断
- 行政の勧告による操業停止
- 経営悪化など会社都合による仕事量の減少
なお、休業期間は時間単位でカウントされるため、1日の業務の一部が休業扱いとなることもあります。その場合は賃金を時給換算し、該当時間分の休業手当を算出して対応しなければなりません。
2-2.従業員本人に労働意欲と労働能力がある
2つ目の条件が「従業員本人に労働意欲と労働能力がある」ことです。つまり、仕事があればいつでも就業できる状態にあることが求められます。怪我や病気により一時的に労働能力を喪失している従業員は支給の対象になりません。
また、労働の意思そのものがない従業員も支給の対象外です。これはストライキを実行している従業員が該当します。また、休業期間と休暇が重なっている従業員も支給対象にはなりません。
2-3.休業日が休日ではない
3つ目の条件が「休業日が休日ではない」ことです。休業手当が発生するのは労働義務がある時間帯に限られます。土日祝日など、もともと従業員の就業義務がない日程では休業手当は発生しません。
3.労働基準法第26条による休業手当の計算方法
労働基準法第26条では会社都合の休業期間中に「平均賃金の60%以上」の休業手当を支払うことが義務付けられています。[注1]
従業員の平均賃金についても労働基準法で定められたルールに従って算出しなければなりません。ここでは休業期間中に支払われる休業手当の算出方法を解説します。
3-1.直前3カ月間の平均賃金を算出する
労働基準法における平均賃金とは、事由が発生した日の直前3ヶ月間の総賃金をその期間の総日数(暦日数)で割った平均値のことです(労働基準法第12条)。賃金計算の締め日がある場合は、事由が発生した日の直前の締め日から起算します。
ただし、フルタイムではなく日給や時給で雇用している従業員の平均賃金は、該当期間の総労働日数で平均値を算出します。
【直前3ヶ月間の平均賃金算出方法】
原則
直前3ヶ月間の総賃金÷該当期間の総日数(暦日数)
日給・時給の場合
直前3ヶ月間の総賃金÷該当期間の総労働日数
なお、以下に該当する期間は直前3ヶ月間の総日数や労働日数から除外します。
- 業務上の怪我や病気による療養のための休業期間
- 産前産後の休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
- 育児および介護のための休業期間
- 試用期間
3-2.会社都合の休業における休業手当の計算方法
1日当たりの休業手当の支給額は「平均賃金の60%以上」の金額で設定しなければなりません。休業手当の補助率は60%を下回らなければ企業の裁量で決めることが可能です。
これを踏まえると、労働基準法第26条の休業手当の支給金額は以下の式で算出されます。
【労働基準法第26条の休業手当算出方法】
休業手当=直前3ヶ月間の平均賃金×60%以上×休業日数
仮に直前3ヶ月間の平均賃金が1万円、休業期間が10日間、手当の補助率が60%だったとすると以下の通りです。
1万円(平均賃金)×60%(補助率)×10日間(休業日数)=6万円(休業手当)
関連記事:労働基準法による休業手当の意味と計算方法を詳しく紹介
3-3.休業手当は保険料控除・課税の対象
労働基準法第26条による休業手当は保険料控除や課税の対象です。休業手当は毎月の給与と同じく賃金として扱われます。雇用保険料や社会保険料、源泉所得税の控除対象となる点に注意しましょう。
4.労働基準法第26条に該当しない休業
労働基準法第26条による休業手当の支給義務が生じるのは、休業の理由が会社都合である場合です。
ただし、従業員都合の休業であっても、その内容によっては別の保証制度が適用されることがあります。ここでは労働基準法第26条に該当しない休業と、その保証制度について解説します。
4-1.業務上の怪我・病気による休業
従業員の病気や怪我による休業は、労働基準法第26条における休業手当支給の要件には当てはまりません。業務上の不可抗力による怪我や疾病であっても対象外です。
ただし、労働災害と認定される怪我や疾病で休業した従業員に対しては、労働基準法第76条に規定される「休業補償」の適用が義務付けられます。休業手当と混同されがちですが、休業補償には以下のような違いがあります。
- 補償金額は平均賃金の60%(補助率固定)
- 会社の休日に関わらず支給される
- 課税対象にならない(保険料・源泉所得税は控除されない)
関連記事:労働基準法76条に規定された休業補償の金額や支払期間を紹介
4-2.産前産後の休業
労働基準法第65条の法令により、妊娠した女性は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から休業を申請することができます。また申請の有無にかかわらず、出産後8週間は必ず休業させなければなりません。
ただし、女性本人が働きたいと請求し、医師が支障ないと認めた場合においては、休業期間は6週間となります。
産前産後の休業の場合、法令で定められた手当・補償の支払い義務はありません。一部の企業では福利厚生の一環として産前産後の賃金を補償するもあります。また、従業員本人が手続き行うことで、健康保険組合から「出産手当金」を受け取ることも可能です。
関連記事:労働基準法に定められた産前産後の休業期間と賃金支払いの基本
関連記事:労働基準法で定められている妊婦を保護する制度を分かりやすく解説
4-3.育児休業・介護休業
育児や介護に伴う休業は「育児・介護休業法」によって認められています。これらの休業についても法令による賃金の補償は義務付けられていません。各企業の就業規則や福利厚生で定められている場合に限り補償を行います。
なお、これらの休業では雇用保険からの給付金を申請することが可能です。従業員本人が申請した場合に限り、育児休業であれば「育児休業給付金」、介護休業であれば「介護休業給付金」の給付を受けることができます。
4-4.自然災害による休業
大規模な自然災害による会社の操業能力喪失に伴う休業の場合も、労働基準法第26条の休業手当の要件には当てはまりません。自然災害は不可抗力であり、会社に責はないとされるからです。
自然災害による休業手当・休業補償に関しても法的な義務はありません。ただし、企業には従業員が不利益を被らないように最大限の努力をする責任があります。自社の従業員の生活の保証を第一に考え、臨機応変に対応するしかありません。
5.会社都合の休業では必ず休業手当を支給しよう
会社都合によって従業員を休業させる場合は必ず休業手当を支給しましょう。休業手当の支給は労働基準法第26条で定められており、不払いが発覚した際は法令違反による罰則もあります。
なにより、従業員の生活を保障することは経営者の責務です。各種の手当て・補償は正しく手続きを行い、従業員が安心して働ける職場環境を整えましょう。
[注1]e-Gov法令検索「労働基準法」
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