「年収の壁」撤廃はいつから?103万円・106万円それぞれの廃止時期を解説
更新日: 2025.9.29 公開日: 2025.3.25 jinjer Blog 編集部

「年収の壁」とは、一定の年収を超えることで税金や社会保険料の負担が増え、手取り額が減少する現象を指します。このため、多くの人が負担増を避けるために意図的に収入を調整する現状があります。
昨今の制度改正によって、2025年から所得税に関係する103万円の壁が撤廃されます。また、短時間労働者の社会保険加入に関する106万円の壁および企業規模要件が撤廃されることも決まりました。
これにより、手取り収入や働き方への影響はもちろん、企業側にも社会保険料の負担増などの変化が予想されます。本記事では、これらの年収の壁に関する制度改正の時期と内容、そして個人や企業に与える影響について詳しく解説します。
目次
2025年から本格化する「年収の壁」の見直し。従業員への説明や社会保険手続きの増加など、労務担当者の業務負担は増すばかりです。
さらに働き控えの原因となっていた「年収の壁」の見直しは、パート・アルバイト従業員の労働時間増加を後押しし、人手不足の緩和につながる可能性があります。この機会を活かすための準備はできていますか?
▼この資料でわかること
- 結局どう変わる? 複雑な制度改正の要点と企業への影響
- 今後急増する社会保険手続きへの、具体的な備え
- 法改正対応で想定される、システム更新のコストと工数
- パート・アルバイト従業員への適切なアナウンス方法
複雑化する「年収の壁」問題について、2025年からの最新動向から企業がとるべき実務対応まで解説していますので、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、お役立てください。
1. そもそも年収の壁とは?


年収の壁は大きく分けて6つの種類があります。まずは年収の壁の概要について正しく理解するために説明していきます。
1-1. 年収の壁の種類
年収の壁とは、税金や社会保険料の負担が増加し実質的な手取りや生活水準に影響を及ぼすため、多くの人が意図的に年収を調整するボーダーラインのことを指します。
年収の壁には、税制上での年収の壁と社会保険に関係するもの大きく分けて6つの種類があります。
| 年収の壁 | 発生する負担 | 影響 |
| 100万円の壁 | 住民税 | この年収を超えると、住民税が発生し、収入からの負担が増える |
| 103万円の壁 | 所得税 | この年収を超えると、税制上の扶養から外れ所得税がかかるため、受け取る手取り額が減少する |
| 106万円の壁 | 社会保険料
※勤務先が従業員51人以上など条件を満たすとき |
この金額(月収8.8万円)以上になると、社会保険料がかかり、手取り額が減少する |
| 130万円の壁 | 社会保険料 | この年収以上になると、扶養から外れるため、社会保険料の負担が増加する |
| 150万円の壁 | 配偶者特別控除額が減る | この年収を超えると、配偶者特別控除が減少し手取り額が減少する |
| 201万円の壁 | 配偶者特別控除がなくなる | この年収を超えると、配偶者特別控除が全く適用されなくなり配偶者が働く場合の収入計画に影響する |
このように、それぞれの年収の壁は、勤務形態や家庭状況によって異なった影響を及ぼすため、年収の壁を理解することは、個々のライフプランを考えるうえで重要です。
1-2. 撤廃される年収の壁は103万円・106万円の壁
これまで「年収103万円の壁」により、年収が103万円を超えると所得税が発生するため、とくにパートやアルバイトで働く方々にとって大きな負担となっていました。しかし、2025年分から年収103万円の壁が撤廃されることになりました。
具体的には、基礎控除および給与所得控除の引き上げがおこなわれ、年収がある程度増えても課税されにくくなります。これにより、短時間労働者が収入を増やしても税負担を過度に気にすることなく働ける環境が整い、多くの方にとって大きなメリットとなります。
また「年収106万円の壁」も年金制度改正法に基づき、法律の公布から3年以内に撤廃される見込みです。これにより、社会保険の適用を受けるため収入を調整していた方々も、自分のライフスタイルに合わせて、希望する時間や量で働きやすくなります。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
参考:年金制度改正法が成立しました|厚生労働省
1-3. 年収の壁が撤廃される背景
年収の壁が撤廃される背景には、経済環境の変化と働き方に対する社会的ニーズの高まりが密接に関係しています。まず「103万円の壁」について見てみましょう。この基準は1995年に導入されて以来、実に29年間も変更されてきませんでした。
しかし、その間に日本の経済状況は大きく変化しています。物価上昇や最低賃金の引き上げ、円安の進行などにより、当時の103万円という年収基準は、現在の生活実態に対して実質的に低すぎるものとなっています。このような背景から、年収103万円の壁を撤廃し、時代に即した課税基準を設ける必要性が高まっていたのです。
次に「106万円の壁」についてです。これは社会保険の適用ラインを指し、年収106万円(月収8.8万円)以上になると、一定の条件を満たしたパートタイム労働者にも社会保険の加入が義務付けられます。その結果、手取り収入が減少することを避けるために、労働時間や収入を意図的に抑える人が多く見られました。このような構造は「もっと働きたいのに働けない」という労働意欲の抑制につながっていたのです。
これらの年収の壁を撤廃することで、労働者が自身のライフスタイルや収入目標に応じて、より自由に働き方を選べるようになります。結果として、労働参加の促進や人手不足の緩和といった経済効果も期待されています。このように、年収の壁撤廃は、長年の経済変化に対応し、現代の多様な働き方に寄り添うための重要な政策的転換といえるでしょう。
関連記事:年収の壁とは?税金や社会保険の負担が生じる103万、106万、130万、150万の壁を解説
2. 103万円の壁の撤廃はいつから?


まずは、103万円の年収の壁がいつから撤廃されるのか説明します。
2-1. 2025年分から103万円の壁が撤廃
令和7年度税制改正(所得税の「基礎控除」や「給与所得控除」の見直し)は、令和7年12月1日に施行され、令和7年分(2025年分)以後の所得税について適⽤されます。基礎控除額は、以下の表の通り変更されます。
| 合計所得金額 | 改正後 | 改正前 |
| 132万円以下 | 95万円 | 48万円 |
| 132万円超え336万円以下 | 88万円(※令和9年分~:58万円) | 48万円 |
| 336万円超え489万円以下 | 68万円(※令和9年分~:58万円) | 48万円 |
| 489万円超え655万円以下 | 63万円(※令和9年分~:58万円) | 48万円 |
| 655万円超え2,350万円以下 | 58万円 | 48万円 |
また、給与所得控除の最低保障額は、55万円から65万円へ引き上げられます(※令和8年度から住民税も65万円へ引き上げ)。さらに、特定親族特別控除の創設や扶養親族等の所得要件の改正もおこなわれ、多くの人々の税負担の緩和が期待されています。
2-2. 103万円の壁撤廃による影響・問題点
年収103万円の壁の撤廃により、基礎控除額および給与所得控除額が引き上げられることで、会社員はもちろん、個人事業主やフリーランスを含むすべての所得を得る人々の税負担が軽減される見込みです。
とくに給与所得者の場合、基礎控除(95万円)と給与所得控除(65万円)を合計した年収160万円までは、所得税が非課税となります。この改正により、パートやアルバイトなど短時間勤務をしている方々にとっては、より多くの収入を得やすくなり、家計にゆとりが生まれやすくなるでしょう。
人事・労務担当者の立場から見ると、この税制改正は2025年分の年末調整から影響を及ぼすことになります。また、2025年12月以降に支払われる給与に対する源泉徴収税額の計算方法も変更されるため、早期の制度理解と社内対応が求められます。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
3. 106万円の壁の撤廃はいつから?


続いて、106万円の年収の壁撤廃の時期について説明します。段階的に変更されることが予定されているので、正しく押さえておきましょう。
3-1. 法律の公布から3年以内に106万円の壁が撤廃
新たな年金制度改正法は、2026年4月1日に施行される予定です。しかし、施行期日に例外が設定されているものもあります。年収106万円の壁(賃金要件)は、法律の交付から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断します。そのため、今後の最新情報をきちんと収集することが重要です。
3-2. 2027年10月から企業規模要件も段階的に撤廃
年収106万円の壁(賃金要件)だけではなく、企業規模要件も段階的に撤廃することが決まっています。具体的には、以下のようなスケジュールで進められることが予定されています。
| 適用時期 | 企業規模要件 |
| ~2027年9月 | 従業員51人以上 |
| 2027年10月~2029月9月 | 従業員36人以上 |
| 2029年10月~2032月9月 | 従業員21人以上 |
| 2032年10月~2035月9月 | 従業員11人以上 |
| 2035年10月~ | 企業規模要件を廃止(完全撤廃) |
また、常時5人以上を雇用する個人事業所も適用対象となるなど、多岐にわたる法改正が予定されています。社会保険制度は今後数年間で大きく変動する見込みです。企業の人事・労務担当者は、法改正の動向を正確に把握し、早期に体制の整備や社内説明を進めることが求められます。
3-3. 106万円の壁撤廃による影響・問題点
年収106万円の壁が廃止されることで、年収106万円(月額8.8万円)以上に該当し、そのほかの加入条件を満たす短時間労働者も社会保険に加入しなければならなくなります。これにより、自身で国民健康保険・国民年金に加入していた人は会社の社会保険に加入でき、保険料が労使折半となるため経済的負担が軽減される可能性があります。
また、厚生年金保険に加入できることで将来の年金受給額が増えるメリットもあります。一方で、配偶者の扶養に入っていた人は新たに保険料を負担しなければならないので、手取りが減る可能性がある点には注意が必要です。
ほかにも、企業の担当者への影響が考えられます。2025年2月にjinjerが実施したアンケート調査では、「106万円の壁」の見直しに伴い、今後業務負担が増加すると考えている担当者は約54%でした。とくに負担が増える業務として、「従業員からの問い合わせ対応(39.4%)」が最も多く、次いで「給与計算ミスがないかの確認(36.4%)」、「パッケージソフトや自社システムの法改正対応(30%)」との結果です。


出典:【「106万円の壁」見直しに伴う業務負荷に関する実態調査】|jinjer株式会社のプレスリリース
給与計算や社会保険の手続きに関しては、クラウドサービスなどを用いて効率化を推し進めている企業が多くあります。しかし、今後は、法改正に伴う従業員の疑問や不安に正確かつスピーディに対応できる体制も求められるでしょう。
4. 「年収の壁」撤廃のメリット・デメリット


続いて、年収の壁をより正確に理解するために、今回の制度改正で年収の壁が撤廃されることによってどのようなメリットとデメリットがあるのか、それぞれ解説します。
4-1. 103万円の壁撤廃によるメリット・デメリット
メリット
年収103万円の壁が撤廃されることで、働きたいと考える人が増える可能性があります。そのため、人手不足が深刻な企業にとっては、労働力を確保しやすくなるでしょう。また、パートやアルバイトで働く人にとっても、所得税の課税基準が引き上げられることで、これまでより多くの時間働くという選択肢が広がります。
デメリット
年収103万円の壁の撤廃による従業員側のデメリットはほとんどないでしょう。一方、企業側は毎月の給与から差し引く源泉徴収税額の計算や、従業員の年間の所得税を確定させる年末調整の方法が大きく変わることになります。
そのため、給与計算のフローを見直したり、年末調整のスケジュールを再検討したりと、早めの対応が不可欠です。対応が遅れると「従業員に支給する手取り額の計算ミスが発生した」「年末調整が期限に間に合わなかった」といったリスクが生じる可能性もあるので気を付けましょう。
4-2. 106万円の壁撤廃によるメリット・デメリット
メリット
年収106万円の壁が撤廃されることで、これまで賃金要件により社会保険に加入できなかった短時間労働者も、社会保険に加入できるようになります。従業員は健康保険や厚生年金保険に加入することで、より手厚い保障を受けられ、安心して長く働ける環境が整います。これにより、従業員の仕事へのモチベーションが高まり、早期離職の防止にもつながるため、生産性の向上や人材確保といった企業側のメリットも期待できるでしょう。
デメリット
社会保険料は労使折半とはいえ、これまで配偶者の扶養内で働いていたパートタイマーなどは、新たに社会保険料の負担が発生するため、働き方を見直す可能性があり、人材の流出リスクも否定できません。
また、社会保険に加入する従業員が増えることで、企業側は加入・喪失の手続きなどの管理業務が増加します。加えて、社会保険料の企業負担分も増えるので、人件費が膨らみ、経営に影響を及ぼす恐れもあります。
4-3. 103万円・106万円の壁撤廃への対策
「103万円の壁」「106万円の壁」の撤廃は、従業員だけでなく企業にも大きな影響を与えることが予想されます。まずは、自社にどのような影響が及ぶのかを明確にし、想定される課題や対応すべきポイントを洗い出しましょう。
多くの企業では、給与計算や労務管理の体制を見直す必要があります。とくに年末調整や社会保険の加入手続きなど、期限が定められている業務については、法令違反とならないよう、早めの業務フローの見直しやシステムの改修が求められます。
あわせて、社会保険の加入が必要となる従業員を事前に把握しておくことで、106万円の壁撤廃後もスムーズに対応が可能です。ただし、その分人件費が増加する可能性もあるため、予算の見直しも重要な検討事項です。なお、企業が労使折半を超えて負担した社会保険料に対しては、補助金や助成金などの支援策が検討されています。このような制度も積極的に活用しながら、年収の壁撤廃に向けた備えを進めていきましょう。
5. 103万円・106万円それぞれ年収の壁が撤廃される期間を押さえておこう


103万円と106万円の年収の壁は、それぞれの撤廃時期によって多くの人々の生活に大きな影響を及ぼす重要な課題です。まず103万円の壁は2025年に撤廃され、これまで年収が103万円以内に抑えられてきたパートやアルバイトの方々も、より多くの収入を得られるようになります。また、106万円の壁も撤廃される見込みで、これまで加入対象外だった短時間労働者も社会保険に加入しやすくなることが想定されるでしょう。
これらの年収の壁の撤廃は、単に収入の増加にとどまらず、労働市場における働き方の多様化と自由な選択の促進をもたらす可能性があります。とくに従来の働き方に縛られていた多くの人にとって、新たな就労機会の広がりが注目されます。
関連記事:178万円の壁とは?引き上げはいつから?社会保険加入のメリット・デメリットまで解説
関連記事:年収201万の壁をわかりやすく!配偶者特別控除とは?配偶者控除との違いも解説



2025年から本格化する「年収の壁」の見直し。従業員への説明や社会保険手続きの増加など、労務担当者の業務負担は増すばかりです。
さらに働き控えの原因となっていた「年収の壁」の見直しは、パート・アルバイト従業員の労働時間増加を後押しし、人手不足の緩和につながる可能性があります。この機会を活かすための準備はできていますか?
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