つながらない権利とは?2026年以降の労働基準法改正との関係と企業の対策を解説
更新日: 2026.7.31 公開日: 2026.3.2 jinjer Blog 編集部

近年、リモートワークの普及などによって、時間や場所を問わず働ける環境が整う一方で、勤務時間外にも従業員が業務に縛られてしまうリスクが問題視されるようになりました。今後継続して検討が予定されている労働基準法の大改正でも、この「つながらない権利」が焦点のひとつとして注目されています。
本記事では、つながらない権利とその背景、労働基準法大改正との関係、企業が取るべき対策について詳しく解説します。
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
- 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?
これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。
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1. つながらない権利とは


「つながらない権利」は、従業員が勤務時間外に仕事のメール・電話・チャットなどへの対応を強いられないための権利です。
労働契約上、就業時間外は労働義務のない時間であり、本来は仕事と離れて休息できます。しかし、リモートワークの普及やチャットツールの浸透によって、どこにいても仕事の連絡を受けられるようになった現代では、プライベートと仕事の境界が曖昧になるケースが増えています。
こうした状況に対処するため期待されるのが「つながらない権利」です。この権利が適切に守られれば、従業員が心身をしっかり休めることができ、ワークライフバランスの向上も期待できます。
1-1. 2026年以降の労働基準法改正との関係
つながらない権利は、今後継続して検討が予定されている労働基準法改正に向けた議論で重要なテーマとなっています。厚生労働省の有識者検討会(労働基準関係法制研究会)が2025年1月8日に公表した報告書では、勤務時間外の連絡について労使で社内ルールを検討し、ガイドライン策定を進めるべきだと提言されました。
勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。
このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。
厚生労働省の労働政策審議会・労働条件分科会(第204回、令和7年10月27日)においても「つながらない権利」が議論の論点として取り上げられました。同分科会においても、法制化の具体的な時期や内容は示されていませんが、勤務時間外の連絡が労働者に与える心理的負荷の実態や、先行するフランスなどの諸外国の事例をもとに詳細な議論が続いています。
具体的には、連絡を一律に禁止するのではなく、業種の実態に合わせた「緊急時の例外」の範囲や、労使間で社内ルールを定めるための具体的なガイドライン策定に向けて、国による制度設計が着実に進められています。
なお、労働基準法大改正全般について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:2026年の労働基準法の改正は見送り?施行時期や議論中のテーマを解説
1-2. 諸外国における「つながらない権利」の有無
つながらない権利は欧州を中心に法制化が進んでいます。
先駆けとなったのはフランスで、2016年の労働法改正において、世界で初めてつながらない権利を法令に盛り込みました。フランスの法律では従業員50人以上の企業に対し、勤務時間外の連絡に関する労使協議を義務づけ、従業員が時間外のメールなどを遮断できる旨を社内規程に明記することが定められました。
また、EU(欧州連合)全体でも2021年に立法機関にあたる欧州議会が「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採択していて、EU加盟国に対して法制化を促す動きがあります。
アメリカには現時点で全国的な法律はありませんが、カリフォルニア州で「つながらない権利」に関する企業ポリシー策定を求める法案が議論されるなど、、世界的に見ても「勤務時間外は従業員を業務から切り離すべきだ」という認識が高まりつつあります。
2. つながらない権利に関する日本の現状


日本では現在、つながらない権利を保障する法律は存在せず、そのような社内規則を設けている企業も多くはありません。調査からは企業の対応が追いついていない実態が浮かび上がっています。
ここでは、日本における勤務時間外の社内連絡の実態と、つながらない権利を先行して社内ルールとしている企業の事例を見ていきます。
2-1. 勤務時間外や休日の社内連絡に関する調査
勤務時間外や休日の社内連絡に関するルールについて、令和5年に労働時間制度等に関するアンケート調査を3,441社に対しておこなっています。その結果は、次のとおりです。
勤務時間外や休日の社内連絡(メール・チャット・電話等)について、企業がどの程度ルールを整備しているかをみると、「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」が36.8%で最も多い状況です。
一方で、「勤務時間外や休日には、災害時等の緊急連絡を除いて連絡しないこととしている」が29.4%、「翌営業日に対応が必要など、急を要する業務に関する連絡のみ認めている」が27.1%となっており、一定割合の企業では勤務時間外・休日の連絡に関する方針を定めていることがわかります。
また、「急を要する業務に関しないものでも連絡が取れるようにしている」は16.0%であり、勤務時間外の連絡を幅広く許容する運用も一定数みられました。
2-2. 従業員に対する“つながらない権利”の調査
こうした企業側の実態に加え、働く側の状況も深刻です。日本労働組合総連合会(連合)が2023年に実施した調査では、勤務時間外に業務連絡が来ると回答した雇用者は全体で72.4%、また、62.2%がストレスを感じていると回答しています。
2-1章で紹介した通り、「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」企業が36.8%いる一方で、労働者の6割以上が勤務時間外の業務連絡にストレスを抱えているという現実が浮かび上がります。多くの職場で、プライベートの時間にも連絡に対応せざるを得ない状況が常態化していることが伺えます。
2-3. つながらない権利を導入した国内企業の事例
日本でも、一部の先進的な企業はつながらない権利に配慮したルール整備や仕組みづくりを始めています。ここでは、具体的な企業例を3つご紹介します。
M社
2014年から、長期休暇中に従業員が受信したメールを自動的に受信拒否・削除するシステムを導入しました。送信者には「いただいたメールは削除されます」という自動応答が返送される仕組みです。休暇中は完全に仕事メールから切り離す大胆な試みとして、導入されています。
J社
2016年から、従業員のワークライフバランス推進を目的に、平日の夜22時以降と休日は社内メールを送受信しないルールを呼びかけています(緊急時連絡は対象外)。
I社
「勤務時間外の連絡を前提としない」社内文化を構築しています。具体的な工夫としては、長期休暇前に「休暇中はSlackやメールを確認できません」と全従業員に周知し、外部からメールが来た場合は自動返信で不在期間と緊急連絡先を案内します。
3. つながらない権利を守らない場合のリスク


つながらない権利を尊重せず従業員を常時「つながった」状態に置くことは、企業にとってさまざまなリスクがあります。ここでは主なリスクを3点紹介します。
3-1. 従業員の心身の負担が増大する
勤務時間外にも仕事のことを気にし続ける生活が常態化すると、従業員のストレスや疲労が蓄積し、心身の健康に深刻な悪影響を及ぼします。「連絡が来るかもしれない」と常に気を張っている状態では、休息の質が低下して十分なリフレッシュができなくなるためです。
このような状態が続けば、疲労感が慢性化してモチベーションが喪失し生産性が落ちるおそれがあります。また、うつ病や燃え尽き症候群(バーンアウト)といったメンタルヘルス不調、さらには離職といった問題にも波及しかねません。
3-2. ハラスメントに問われる可能性がある
勤務時間外の連絡を強いることは、ハラスメント行為と見なされ、企業が法的・社会的責任を問われるリスクもあります。具体的には、休日や夜間に業務連絡を執拗に送ることや、プライベートの予定にまで口を出すといったケースです。いずれも従業員が断りづらい状況で私的時間を侵害する行為であり、積み重なれば深刻なハラスメント問題へ発展するかもしれません。
特に、返信しないことが人事評価に影響するかのような印象を与えたり、時間外の連絡を無視した従業員に不利益を与えたりすれば、ハラスメント行為となる可能性も高まるため注意しましょう。
3-3. 未払い賃金・労務管理上のリスクがある
勤務時間外の連絡によって、従業員が明示・黙示を問わず使用者の指揮命令下に置かれていれば、労働時間に該当します。サービス残業のように扱うと、後になって未払い賃金をまとめて請求されるリスクがあります。
特に、管理監督者に該当しない一般の従業員が、勤務時間外に使用者の指示でメール対応していたと認められれば、時間外労働として賃金支払い義務が生じます。
また、企業が把握している時間外労働が36協定の上限以内であったとしても、勤務時間外のメール対応などの時間を加算すると36協定の上限を超えてしまう可能性もあります。この場合、賃金未払いの問題に加えて36協定違反のリスクも生じ、労働基準法違反による罰則が適用されるおそれがあるので、より一層の注意が必要です。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
4. つながらない権利の運用で企業が直面する課題


つながらない権利は、従業員の健康や働きやすさの向上、長時間労働の是正に向けた重要な考え方です。
一方で、実際の職場への導入にあたっては、企業側にも多くの運用上の課題が生じます。制度の意義を理解しつつも、現場の実態に即したルール設計が求められます。
4-1. 緊急連絡との線引きが難しい
つながらない権利の導入において、多くの企業が最初につまずくのが「緊急時の対応をどう扱うか」という問題です。
システム障害や顧客からの重大なクレーム、災害対応、店舗・工場でのトラブルなど、勤務時間外であっても迅速な対応が不可欠な場面は実際に存在します。こうした状況を想定せずに「時間外の連絡は禁止」とだけ定めてしまうと、いざというときに初動が遅れ、企業や顧客に深刻な損害を与えかねません。
重要なのは、「つながらない権利」が勤務時間外のあらゆる連絡を一律に遮断するものではないと正しく理解したうえで、「緊急」の定義と判断基準を事前に明文化することです。「だれが、どのような状況で、どの手段で連絡するか」を具体的に定め、従業員と管理職の双方が共通の認識を持てるようルールを整備することが不可欠です。
4-2. 権利の誤解による職場トラブルが起きる可能性がある
「つながらない権利」は勤務時間外のあらゆる連絡を拒否できるものではありませんが、趣旨が正しく伝わらなければ、「休日は一切電話に出なくていい」「緊急事態でも対応不要」といった極端な解釈が独り歩きし、業務が回らなくなるおそれがあります。
また、これまで休日や夜間に一定の連絡を取り合っていた職場では、従業員ごとに制度への認識が異なり、現場で混乱が生じることも考えられます。例えば、ある従業員は「緊急時だから連絡して当然」と考え、別の従業員は「制度があるから出なくてよい」と判断するといった認識のずれが、チーム内の信頼関係を損ねたり、責任のなすり合いにつながったりするリスクがあります。
こうしたトラブルを防ぐには、制度導入時の丁寧な説明と研修はもちろん、管理職自身が制度を正しく理解し、部下に適切に伝えることが重要です。
4-3. 業種や職種によって運用が難しい
つながらない権利の運用は、業種・職種によって難易度が大きく異なります。事務仕事が中心の職場と比べ、以下のような職場・状況では、一律のルール適用が難しい場合があります。制度の趣旨を踏まえながらも、それぞれの実情に応じた個別の設計が必要です。
- 店舗・サービス業:クレーム対応や当日の急な欠勤など、現場スタッフだけでは判断が難しい突発的な事態が頻発します。店長や管理者に対する「SOSの連絡」を完全に遮断してしまうと、顧客対応や店舗運営そのものが破綻する可能性があるため現実的ではありません。
- 医療・介護業:患者・利用者の急変や緊急搬送など、人命に関わる対応が求められるため、夜間や休日の呼び出し体制と権利の両立を慎重に設計する必要があります。
- インフラ・システム運用:24時間365日の稼働が前提となっており、障害発生時には深夜・休日を問わず担当者への連絡が避けられません。当番制や待機手当などとセットで考えなければ、制度が形だけのものになるおそれがあります。
- 海外との時差対応が必要な業務:取引相手国の営業時間が日本の夜間・休日と重なる場合は、海外と取引のある企業ほど「完全な時間外の遮断」が難しい現実があります。
- 従業員数の少ない中小企業:代わりの業務を担える余剰人員が少なく、「特定の担当者しか経緯を把握していない」といった業務の属人化が起きやすい環境です。そのため、退勤後や休日に一切連絡しないことは困難です。
このように、つながらない権利は万能の解決策ではなく、業種・職種・企業規模の実態を踏まえた、きめ細かいルール設計が求められます。一律の導入ではなく、職種別・部門別の指針づくりや、段階的な適用範囲の拡大といった柔軟な取り組みが現実的です。
5. つながらない権利の法制化を見据えて企業ができること


将来的に労働法制で「つながらない権利」に関する規制が整備される可能性が高まるなかで、企業は先回りして職場環境を整備しておくことが重要です。ここでは、つながらない権利の法制化を見据えて今から取り組める実務的なポイントを解説します。
5-1. 自社の状況を把握する
まず着手すべき点としては、自社における勤務時間外の連絡実態の把握です。現状を知らなければ適切な対策も講じられません。具体的には、次の4点を確認・分析してみましょう。
- 勤務時間外の連絡頻度
従業員にアンケートを実施し、終業後や休日に上司・同僚から業務連絡が来ることがどの程度あるか、頻度や時間帯を調べます。 - 連絡手段と内容
社内で使われているコミュニケーション手段(電話、メール、チャットなど)と、時間外連絡の主な内容(急ぎのトラブル対応なのか、翌日でよい連絡なのか)を洗い出します。例えば緊急性の低い報告が深夜にチャットで送られているようなケースがあれば、改善の余地があります。 - 従業員の感じ方
時間外の連絡について従業員がどう感じているかも重要です。ストレスを感じていないか、断りづらい雰囲気はないか、匿名アンケートなどで本音を収集するとよいでしょう。 - 既存の取り決めや慣行
既存の業務連絡ルールや慣行がある場合は、その実効性を見直します。形骸化しているルールがないか、周知不足で守られていないルールがないかチェックしましょう。
5-2. つながらなくてもいい環境や制度を構築する
自社の実態が把握できたら、次に従業員が安心して「つながらない」状態になれる環境や制度を整備することが求められます。具体的な施策として、3つのアプローチが考えられます。
- 社内ポリシーの明文化
基本は、勤務時間外の業務連絡を原則禁止または自粛する社内ルールを定め、全社に周知することです。例えば「勤務時間外は連絡禁止、災害などの緊急時には例外的に許可」など、方針をはっきり示しましょう。併せて、「勤務時間外の連絡に対応できなかったことを理由に不利益な評価をしない」旨も明記しておくと、従業員は安心できます。ルールを作っただけでなく、社内報や研修を通じて経営層・管理職を含む全従業員に徹底することが大切です。
- ITツール・システムでの工夫
技術的な対策も有効です。例えば、メール送信は送信予約機能を活用し、深夜に作成したメールは翌朝に自動送信されるよう設定する運用を推奨できます。また、社用スマートフォンやチャットアプリに就業時間外の通知オフ設定をすることや、強制的にプッシュ通知を停止する仕組みづくりなども考えられるでしょう。自社でも可能な範囲でIT活用により物理的・技術的に従業員を仕事から切り離す工夫があるとより良いです。
- 職場文化の醸成
制度やシステム以上に重要なのが、勤務時間外を相互に尊重する職場の文化づくりです。経営者や管理職自身が率先して規範を示し、定時以降はメールを送らない、部下に深夜まで対応を求めない、といった運用を徹底することで、従業員も遠慮なくつながらない権利を行使できます。
- 社外への働きかけ
社内のルール整備だけでは解決しきれない場面もあります。特に顧客や取引先からの連絡が休日・夜間に集中しやすい業種では、社外への対応も欠かせません。経営者名で取引先に「一定時間以降や休日は対応できない」旨を説明して理解を求めたり、業務を複数担当制に変えて休暇中の社員への連絡を部署単位で受けられる体制を整えたりするといった取り組みが重要です。
つながらない権利は現時点では法制化されていませんが、法改正に向けた審議は継続しており、ガイドライン策定も検討項目に残っています。法律が整ってから動き出すのでは遅く、今が準備を進める好機でしょう。
特に取り組んでいただきたいのが、社内ルールの整備と並行した社外への働きかけです。建設業や医療・介護、サービス業など、顧客や取引先からの連絡が休日・夜間に集中しやすい業種では、外部パートナーや取引先企業に対して「一定時間以降は対応できない」旨を経営者名で丁寧に説明し、理解を求めることが重要です。社内だけで完結しようとせず、外部も含めた体制を今のうちに整えておくことが、従業員と会社の双方を守ることに直結します。
5-3. 業務連絡の例外を検討する
業務上どうしても外せない緊急連絡は、勤務時間外でも最小限の連絡を認める旨を社内ポリシーなどルールに追記します。
ポイントは、例外となるケースを具体的に限定列挙することです。例えば、「人命や会社存続に関わる緊急事態」「災害・事故への対応」といった基準を示します。そうすることで現場での判断がぶれず、「何が本当に緊急か」の共通認識が醸成されるでしょう。
また、緊急時の連絡が特定の担当者に集中しないよう、当番制や複数担当制を整備しておくことも重要です。「あの人にしか対応できない」という属人化した体制のままでは、つながらない権利は形だけのものになりかねません。緊急時の例外を設けるならば、誰が・どのような手段で・どこまで対応するかをあらかじめ決めておくことが重要です。
6. つながらない権利を活用して働きやすい環境をつくろう


つながらない権利は、従業員にとって、健全で持続可能な働き方のために必要な権利です。勤務時間外にしっかり休息して英気を養うことが、勤務時間内の最大限のパフォーマンス発揮につながります。企業にとっても、従業員の健康管理義務を果たし、ハラスメントの可能性を減らすことは、生産性向上や人材定着につながる重要な経営課題です。
もし労働基準法改正で本格的に議論が進めば、近いうちに「勤務時間外の連絡をしない・させない」ことがスタンダードになっていくと考えられます。本記事で解説した内容を参考に、自社でできることから着手していきましょう。



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