つながらない権利とは?2026年以降の労働基準法改正との関係と企業の対策を解説
公開日: 2026.3.2 jinjer Blog 編集部

近年、リモートワークの普及などによって、時間や場所を問わず働ける環境が整う一方で、勤務時間外にも従業員が業務に縛られてしまうリスクが問題視されるようになりました。今後継続して検討が予定されている労働基準法の大改正でも、この「つながらない権利」が焦点の一つとして注目されています。
本記事では、つながらない権利とその背景、労働基準法大改正との関係、企業が取るべき対策について詳しく解説します。
目次
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
- 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?
これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。
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1. つながらない権利とは


「つながらない権利」は、従業員が勤務時間外に仕事のメール・電話・チャットなどへの対応を強いられないための権利です。
労働契約上、就業時間外は労働義務のない時間であり、本来は仕事と離れて休息できます。しかし、リモートワークの普及やチャットツールの浸透によって、どこにいても仕事の連絡を受けられるようになった現代では、プライベートと仕事の境界が曖昧になるケースが増えています。
こうした状況に対処するため期待されるのが「つながらない権利」です。この権利が適切に守られれば、従業員が心身をしっかり休められ、ワークライフバランスを保てるようになります。
1-1. 2026年以降の労働基準法改正との関係
つながらない権利は、今後継続して検討が予定されている労働基準法改正に向けた議論で重要なテーマとなっています。厚生労働省の有識者検討会(労働基準関係法制研究会)が2025年1月8日に公表した報告書では、勤務時間外の連絡について労使で社内ルールを検討し、ガイドライン策定を進めるべきだと提言されました。
勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。
このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。
なお、労働基準法大改正全般について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:2026年の労働基準法の改正は見送り?施行時期や議論中のテーマを解説
1-2. 諸外国における「つながらない権利」の有無
つながらない権利は欧州を中心に法制化が進んでいます。
先駆けとなったのはフランスで、2016年の労働法改正において、世界で初めてつながらない権利を法令に盛り込みました。フランスの法律では従業員50人以上の企業に対し、勤務時間外の連絡に関する労使協議を義務づけ、従業員が時間外のメールなどを遮断できる旨を社内規程に明記することが定められました。
また、EU(欧州連合)全体でも2021年に立法機関にあたる欧州議会が「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採択していて、EU加盟国に対して法制化を促す動きがあります。
アメリカには現時点で全国的な法律はありませんが、カリフォルニア州など一部で企業ポリシーの策定を義務化するなど、世界的に見ても「勤務時間外は従業員を業務から切り離すべきだ」という認識が高まりつつあります。
2. つながらない権利に関する日本の現状


日本では現在、つながらない権利を保障する法律は存在せず、そのような社内規則を設けている企業も多くはありません。調査からは企業の対応が追いついていない実態が浮かび上がっています。
ここでは、日本における勤務時間外の社内連絡の実態と、つながらない権利を先行して社内ルールとしている企業の事例を見ていきます。
2-1. 勤務時間外や休日の社内連絡に関する調査
勤務時間外や休日の社内連絡に関するルールについて、令和5年に労働時間制度等に関するアンケート調査を3,441社に対しておこなっています。その結果は、次のとおりです。
勤務時間外や休日の社内連絡(メール・チャット・電話等)について、企業がどの程度ルールを整備しているかをみると、「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」が36.8%で最も多い状況です。
一方で、「勤務時間外や休日には、災害時等の緊急連絡を除いて連絡しない」が29.4%、「翌営業日に対応が必要など、急を要する業務に関する連絡のみ認めている」が27.1%となっており、一定割合の企業では勤務時間外・休日の連絡に関する方針を定めていることがわかります。
また、「急を要する業務に関しないものでも連絡が取れるようにしている」は16.0%であり、勤務時間外の連絡を幅広く許容する運用も一定数みられました。
これらの数字から、日本の少なくない職場でオフの時間にも連絡に対応せざるを得ない雰囲気に置かれていることがうかがえます。
参考:労働時間制度等に関するアンケート調査結果について(速報値)|厚生労働省
2-2. つながらない権利を導入した国内企業の事例
日本でも、一部の先進的な企業はつながらない権利に配慮したルール整備や仕組みづくりを始めています。ここでは、具体的な企業例を3つご紹介します。
M社
2014年から、長期休暇中に従業員が受信したメールを自動的に受信拒否・削除するシステムを導入しました。送信者には「いただいたメールは削除されます」という自動応答が返送される仕組みです。休暇中は完全に仕事メールから切り離す大胆な試みとして、導入されています。
J社
2016年から、従業員のワークライフバランス推進を目的に、平日の夜22時以降と休日は社内メールを送受信しないルールを呼びかけています(緊急時連絡は対象外)。
I社
「勤務時間外の連絡を前提としない」社内文化を構築しています。具体的な工夫としては、長期休暇前に「休暇中はSlackやメールを確認できません」と全従業員に周知し、外部からメールが来た場合は自動返信で不在期間と緊急連絡先を案内します。
3. つながらない権利を守らない場合のリスク


つながらない権利を尊重せず従業員を常時「つながった」状態に置くことは、企業にとってさまざまなリスクがあります。ここでは主なリスクを3点紹介します。
3-1. 従業員の心身の負担が増大する
勤務時間外にも仕事のことを気にし続ける生活が常態化すると、従業員のストレスや疲労が蓄積し、心身の健康に深刻な悪影響を及ぼします。「連絡が来るかもしれない」と常に気を張っている状態では、休息の質が低下して十分なリフレッシュができなくなるためです。
このような状態が続けば、疲労感が慢性化してモチベーションが喪失し生産性が落ちるおそれがあります。また、うつ病や燃え尽き症候群(バーンアウト)といったメンタルヘルス不調、さらには離職といった問題にも波及しかねません。
3-2. ハラスメントに問われる可能性がある
勤務時間外の連絡を強いることは、ハラスメント行為と見なされ、企業が法的・社会的責任を問われるリスクもあります。具体的には、休日や夜間に業務連絡を執拗に送ることや、プライベートの予定にまで口を出すといったケースです。いずれも従業員が断りづらい状況で私的時間を侵害する行為であり、積み重なれば深刻なハラスメント問題へ発展するかもしれません。
特に、返信しないことが人事評価に影響するかのような印象を与えたり、時間外の連絡を無視した従業員に不利益を与えたりすれば、ハラスメント行為となる可能性も高まるため注意しましょう。
3-3. 未払い賃金・労務管理上のリスクがある
勤務時間外の連絡によって、従業員が明示・黙示を問わず使用者の指揮命令下に置かれていれば、労働時間に該当します。サービス残業のように扱うと、後になって未払い賃金をまとめて請求されるリスクがあります。
特に、管理監督者に該当しない一般の従業員が、勤務時間外に使用者の指示でメール対応していたと認められれば、時間外労働として賃金支払い義務が生じます。
また、企業が把握している時間外労働が36協定の上限以内であったとしても、勤務時間外のメール対応などの時間を加算すると36協定の上限を超えてしまう可能性もあります。この場合、賃金未払いの問題に加えて36協定違反のリスクも生じ、労働基準法違反による罰則が適用されるおそれがあるので、より一層の注意が必要です。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
4. つながらない権利を見据えて企業ができること


将来的に労働法制で「つながらない権利」に関する規制が整備される可能性が高まるなかで、企業は先回りして職場環境を整備しておくことが重要です。ここでは、つながらない権利の法制化を見据えて今から取り組める実務的なポイントを解説します。
4-1. 自社の状況を把握する
まず着手すべき点としては、自社における勤務時間外の連絡実態の把握です。現状を知らなければ適切な対策も講じられません。具体的には、次の4点を確認・分析してみましょう。
- 勤務時間外の連絡頻度
従業員にアンケートを実施し、終業後や休日に上司・同僚から業務連絡が来ることがどの程度あるか、頻度や時間帯を調べます。 - 連絡手段と内容
社内で使われているコミュニケーション手段(電話、メール、チャットなど)と、時間外連絡の主な内容(急ぎのトラブル対応なのか、翌日でよい連絡なのか)を洗い出します。例えば緊急性の低い報告が深夜にチャットで送られているようなケースがあれば、改善の余地があります。 - 従業員の感じ方
時間外の連絡について従業員がどう感じているかも重要です。ストレスを感じていないか、断りづらい雰囲気はないか、匿名アンケートなどで本音を収集するとよいでしょう。 - 既存の取り決めや慣行
既存の業務連絡ルールや慣行がある場合は、その実効性を見直します。形骸化しているルールがないか、周知不足で守られていないルールがないかチェックしましょう。
4-2. つながらなくてもいい環境や制度を構築する
自社の実態が把握できたら、次に従業員が安心して「つながらない」状態になれる環境や制度を整備することが求められます。具体的な施策として、3つのアプローチが考えられます。
- 社内ポリシーの明文化
基本は、勤務時間外の業務連絡を原則禁止または自粛する社内ルールを定め、全社に周知することです。例えば「勤務時間外は連絡禁止、災害等の緊急時には例外的に許可」など、方針をはっきり示しましょう。併せて、「勤務時間外の連絡に対応できなかったことを理由に不利益な評価をしない」旨も明記しておくと、従業員は安心できます。ルールを作っただけでなく、社内報や研修を通じて経営層・管理職を含む全従業員に徹底することが大切です。 - ITツール・システムでの工夫
技術的な対策も有効です。例えば、メール送信は送信予約機能を活用し、深夜に作成したメールは翌朝に自動送信されるよう設定する運用を推奨できます。また、社用スマートフォンやチャットアプリに就業時間外の通知オフ設定をすることや、強制的にプッシュ通知を停止する仕組みづくりなども考えられるでしょう。自社でも可能な範囲でIT活用により物理的・技術的に従業員を仕事から切り離す工夫があるとより良いです。 - 職場文化の醸成
制度やシステム以上に重要なのが、勤務時間外を相互に尊重する職場の文化づくりです。経営者や管理職自身が率先して規範を示し、定時以降はメールを送らない、部下に深夜まで対応を求めない、といった運用を徹底することで、従業員も遠慮なくつながらない権利を行使できます。
- この記事を執筆した社労士からのコメント
- 上司が従業員に連絡を取った事実のみをもって、直ちにパワーハラスメントに該当するとは限りません。しかし、頻繁な連絡や緊急性の低い連絡が重なり、それが私生活の侵害に当たるようなものと評価されれば、パワーハラスメントの6つの類型のうち「個の侵害」にあたる可能性があります。
労働基準法改正の有無にかかわらず、企業実務ではここで説明した3つのアプローチがおすすめです。今のうちから先進的に取り組むことは、「従業員思いの企業」として社内外の評価を高める効果も期待できます。
4-3. 業務連絡の例外を検討する
業務上どうしても外せない緊急連絡は、勤務時間外でも最小限の連絡を認める旨を社内ポリシーなどルールに追記します。
ポイントは、例外となるケースを具体的に限定列挙することです。例えば、「人命や会社存続に関わる緊急事態」「災害・事故への対応」といった基準を示します。そうすることで現場での判断がぶれず、「何が本当に緊急か」の共通認識が醸成されるでしょう。
5. つながらない権利を活用して働きやすい環境をつくろう


つながらない権利は、従業員にとって、健全で持続可能な働き方のために必要な権利です。勤務時間外にしっかり休息し英気を養ってもらうことで、勤務時間内に最大限のパフォーマンスを発揮してもらえます。企業にとっても、従業員の健康管理義務を果たし、ハラスメントの可能性を減らすことは、生産性向上や人材定着につながる重要な経営課題です。
もし労働基準法改正で本格的に議論が進めば、近いうちに「勤務時間外の連絡をしない・させない」ことがスタンダードになっていくでしょう。本記事で解説した内容を参考に、自社でできることから着手していきましょう。
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
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