労働契約申込みみなし制度とは?禁止事項や企業への影響について
更新日: 2024.1.15
公開日: 2022.3.23
OHSUGI
2015年10月に派遣法が改正され、「労働契約申込みみなし制度」が施行されました。
労働契約申込みみなし制度は、近年社会問題化しつつある「違法派遣」を抑止するための制度です。
もし、派遣先企業が労働契約申込みみなし制度の対象となった場合、派遣労働者に直接雇用の申込みをおこなう義務が生じます。
労働契約申し込みみなし制度の仕組みを知り、人材確保のあり方を見直しましょう。
この記事では、労働契約申込みみなし制度の内容や、企業への影響、対策について解説します。
目次
【有期雇用契約の説明書】
1. 労働契約申込みみなし制度とは?違法派遣を受け入れた企業にペナルティを科す制度
労働契約申込みみなし制度とは、派遣労働者の不利益となる「違法派遣」を抑止するため、違法派遣であると知りながら派遣労働者を受け入れた派遣先企業にペナルティーを科す制度です。具体的なペナルティーは、労働派遣法40条の6で定義されています。
「当該労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先企業)から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。」
つまり、派遣先企業が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れた場合、派遣元企業における労働条件と同等の労働契約を申し込んだとみなされるのが、労働契約申込みみなし制度の概要です。
このとき派遣労働者が1年以内に承諾の意思を示した場合、派遣元企業の意思にかかわらず労働契約が成立します。
ただし労働派遣法40条の6にある通り、派遣元企業が違法派遣であることを知らされず、派遣元企業に過失が認められない場合は労働契約申込みみなし制度が適用されません。
派遣労働者を受け入れる企業は、労働契約申込みみなし制度の対象となる「違法派遣」について詳しく知っておきましょう。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索
2. 労働契約申込みみなし制度の対象となる「違法派遣」5つ
厚生労働省のリーフレットによると、労働契約申込みみなし制度の対象となる「違法派遣」は次の5種類です。このようなみなし雇用は違法として扱われるため注意しましょう。
2-1. 派遣労働者を禁止義務に従事させること
派遣元企業が派遣労働者を以下の禁止業務に従事させた場合、派遣労働者への労働契約を申し込んだものとみなされます。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 病院等における医療関連業務(紹介予定派遣や、育休・産休・介護休業の代替として派遣契約を結ぶ場合をのぞく)
2-2. 無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
無許可事業主から派遣労働者を受け入れた場合、派遣労働者への労働契約を申し込んだものとみなされます。
許可事業主かどうかは厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で確認可能です。
2-3. 事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
事業所単位の期間制限を超えて派遣労働者を受け入れた場合、派遣労働者への労働契約を申し込んだものとみなされます。
2-4. 個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
派遣労働者を同一の労働に3年以上従事させた場合、派遣労働者への労働契約を申し込んだものとみなされます。
2-5. いわゆる偽装請負等
労働派遣法や労働基準法の適用を免れるため、実際は労働者派遣であるにもかかわらず偽装請負をおこなった場合、派遣労働者への労働契約を申し込んだものとみなされます。
このように、労働契約申込みみなし制度の対象になった場合、企業はさまざまなリスクにさらされます。
派遣契約が違法派遣に当たっていないかどうか、厚生労働省のリーフレットなどを参考に必ず確認しましょう。
3. 労働契約申込みみなし制度がもたらす企業への影響2つ
労働契約申込みみなし制度がもたらす企業への影響は2つあります。
もし労働契約申込みみなし制度の対象となり、直接雇用の申込みをおこなう義務が発生した場合、当初の人員計画によらず従業員を採用しなければなりません。
そのため、自社には適さない人材を受け入れなければならない可能性があります。
また、大量の派遣労働者を直接雇用しなければならない場合、人件費の急増につながるリスクも生じます。
3-1. 人員計画によらず、直接雇用の申込みをおこなう義務が発生する
労働契約申込みみなし制度の対象となった場合、企業の意思にかかわらず、派遣労働者に対し労働契約の申込みをおこなう義務が発生します。
「スキルが不足している」「生産性が低い」など、自社のニーズに合致しない人材であっても、派遣労働者が承諾した場合は直接雇用しなければなりません。
そのため、人員計画に悪影響をおよぼす恐れがあります。
3-2. 派遣労働者の直接雇用により、人件費が増加する
派遣労働者が直接雇用の申込みを承諾をした場合、企業は労働契約を撤回できません。
もし多数の派遣社員を一斉に直接雇用しなければならなくなった場合、急激に人件費が増加し、資金繰りが悪化する可能性があります。
4. 労働契約申し込みみなし制度への2つの対策
それでは、労働契約申し込みみなし制度のリスクを避けるため、企業はどのような対策をおこなえばよいのでしょうか。
まず、労働者派遣にのみ頼るのではなく、外部調達より内部育成の比重を増やすなど、人材確保の方法を見直す必要があります。
また、派遣契約を結び、派遣元企業から派遣労働者を受け入れるのではなく、定型業務などをパートナー企業に委託する「アウトソーシング」の活用も検討しましょう。
4-1. 労働者派遣のみに頼らず、将来を見据えた人材確保を
労働者派遣には、必要な労働力を即時調達できたり、即戦力を安価で確保できたりと、さまざまなメリットがあります。しかし、労働契約申し込みみなし制度の影響を考えると、労働者派遣のみに頼った人員計画はリスクがあります。
近年は同一労働同一賃金の原則が導入され、派遣労働者に対して正社員と同等の待遇を用意しなければならないケースも増加しました。労働契約申し込みみなし制度をきっかけとして、「外部調達より内部育成の比重を増やす」「無期雇用を前提とした人材採用を増やす」など、これまでの人材確保の方法を見直しましょう。
4-2. アウトソーシングの活用を検討する
労働者派遣ではなく、業務の一部をパートナー企業に委託する「アウトソーシング」の比重を増やす方法もあります。バックオフィス業務などのルーティンワークや、必ずしも社内でおこなう必要のない業務の場合、労働者派遣よりもアウトソーシングが適しています。
ただし、アウトソーシング(業務委託や業務請負)と見せかけ、事業所内に労働者の派遣を受けている場合は「偽装請負」に当たる可能性があります。
偽装請負と認められた場合、労働契約申し込みみなし制度の対象となるため、派遣労働者に労働契約の申し込みをおこなわなければなりません。
5. 労働契約申込みみなし制度の仕組みを理解し、人材確保の見直しを
労働契約申込みみなし制度は、派遣労働者の不利益となる「違法派遣」を抑止し、派遣労働者の雇用を安定化させるための制度です。派遣労働者を禁止業務に従事させたり、期間制限を超えて派遣労働者を受け入れつづけたりした場合、労働契約申込みみなし制度の禁止事項に該当します。
その場合、派遣先企業の意思にかかわらず、派遣労働者に対し派遣元企業における労働条件と同等の労働契約を申し込んだとみなされるため注意が必要です。
労働契約申込みみなし制度の仕組みを理解し、人材確保の見直しや、アウトソーシングの活用といった対策を実施しましょう。
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