労使協定の確認方法や周知義務を紹介!違反した場合のリスクも解説
更新日: 2025.9.24 公開日: 2022.2.7 jinjer Blog 編集部

多くの企業で締結されている労使協定ですが、その種類によっては、締結しただけでは法的効力が生じないものもあります。例えば、36協定や変形労働時間制などについては、所轄の労働基準監督署への届出と、すべての労働者に対して法令に沿った方法で周知をおこなうことが必要です。
本ページでは、経営者や人事担当者の皆様向けに、労使協定の確認方法や周知義務について詳しく解説します。さらに、届出が必要な協定の種類も紹介しているので、適切な労務管理の参考にぜひお役立てください
関連記事:労使協定とは?労働協約・36協定との違い、締結方法などを解説
目次
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1. 労使協定の確認方法


労使協定とは、使用者(企業)と労働者の過半数を代表する者との間で取り決める、労働条件(労働時間や休日など)に関する合意書です。
労使協定を締結することで、法律の範囲内で柔軟な労務管理が可能となり、労働トラブルの防止にもつながります。
労使協定を結んだ場合、使用者には労働基準法に基づき、その内容を労働者に周知する義務があります。具体的には、協定書を掲示したり、書面で交付したり、電子的に通知したりするなどの方法で、全従業員に知らせなければなりません。
そのため、通常であれば労使協定の内容を確認することは難しくないはずです。
もし労使協定が締結されているにもかかわらず、その内容が確認できない場合は、周知義務が適切に履行されておらず、法令違反となっている可能性があります。ここでは、労使協定の周知に関するルールについてより詳しく解説します。
1-1. 労使協定には周知義務がある
労働基準法第106条では、使用者に対して労働者への「周知義務」が課されています。これにより、労使協定についても、労働者が確認できるよう適切に周知しなければなりません。この周知義務は、労使協定単体ではなく、次のような項目と並べておこなわれるのが一般的です。
- 労働基準法およびその命令の要旨
- 就業規則
- 労使協定(締結した種類すべて)
- 労使委員会の決議
上記4項目が労働基準法で周知義務が定められている項目です。とくに労使協定については、時間外・休日労働に関する協定(36協定)や、貯蓄金の管理に関する協定など、締結されたすべての種類を周知対象とする必要があります。
1-2. 法令で周知方法も定められている
労使協定の周知方法は、労働基準法施行規則第52条の2に以下の通り定められています。
- 常時、各作業場の見やすい場所に掲示するか、備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 磁気テープ、磁気ディスクなどの電子媒体に記録し、かつ、各作業場に労働者が内容を常時確認できる機器を設置すること
事業所の労働者がいつでも自由に確認できる場所への掲示、あるいは交付をすることが重要です。例えば、以下のような対応が適切でしょう。
- 休憩室や事務所など、労働者が自由に出入りできる場所に掲示する
- 協定内容を記載した書類を労働者全員に配布する
- 社内サーバー(イントラネットや共有フォルダなど)にアップロードし、労働者が自由に閲覧できるようにする
なお、書類の配布や電子データによる提供をおこなう場合、内容が社外に持ち出される可能性があります。情報管理の観点から、必要に応じて持ち出しを制限したり、データのコピーやダウンロードに制限を設けたりするなど、社内のセキュリティポリシーに沿った対応が求められます。
1-3. 労使協定を周知するタイミング
労使協定は締結または内容を変更した際に、労働者への周知が法律で義務付けられています。しかし、周知するタイミングに関しては明確に定められていません。
多くの企業では、労使協定を締結した直後に速やかに周知をおこなうのが一般的です。なぜなら、労働者に内容が周知されていない場合、その協定が実際に効力を発揮しない可能性があるためです。
例えば、繁忙期に備えて時間外・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える残業を可能にした場合でも、周知がおこなわれていなければ、労働者はその内容を把握できていないでしょう。その状態で残業を命じた場合、使用者の指示が違法とみなされる恐れもあります。
このように、労使協定は「周知されてはじめて実効性を持つ」といえます。法令上、周知の期限が定められていないとはいえ、協定の効力を発揮させたい日までに、確実に周知を済ませておくことが重要です。
とくに労使協定の内容を変更した場合には、労働者の混乱を防ぐためにも、できるだけ余裕をもって丁寧に周知するよう心がけましょう。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
1-4. 周知したと認定されない例
労使協定の周知は、使用者が「周知したつもり」で済ませてはいけません。
労働者が内容を確認できるよう、形として残る方法で実施する必要があります。例えば、次のような対応では、労働基準法の周知義務を果たしたとは認められない恐れがあります。
- 全従業員が集まる朝礼中に口頭のみで説明した
- ホワイトボードに書いてその後記録せずに消した
- 社長室など一般従業員が立ち入れない場所に掲示した
- 役員専用のフォルダなど限られた人しかアクセスできない場所にデータをアップロードした
すべての従業員が労使協定の内容を自由に閲覧でき、任意のタイミングで確認できる環境を整えましょう。
関連記事:労使協定とは?種類や労働協約・就業規則との違い、届出義務に違反した場合を解説
2. 派遣会社にも労使協定の周知義務がある


一般企業だけでなく、派遣会社にも労使協定の周知義務が定められています。ここでは、派遣会社における労使協定の周知義務と確認方法について詳しく紹介します。
2-1. 労使協定を周知する範囲
派遣会社で労使協定を周知する範囲は「派遣元事業主」が雇用する「すべての労働者」です。派遣社員として別の企業で働く人はもちろん、内勤のスタッフに対しても労使協定の周知義務が発生します。
労使協定の内容を変更した場合は、改定後の協定内容をすべての労働者に対して改めて周知する義務があります。法令に沿った適切な方法で周知をおこなうことが重要です。
2-2. 派遣会社の労使協定の周知方法
派遣会社の労使協定周知は、以下のいずれかの方法をとる必要があります。
- 書面による交付(書面・電子メールなど)
- 電子計算機(パソコン)に備えられたファイルや磁気ディスク(イントラネット内や特設ページなど)
- 派遣元事業主の各事業場への常時掲示
1と2は一般企業での周知方法と同じです。3も似ていますが、事業場が複数ある場合はすべての事業場への掲示が必要になります。
本社のみに掲示していても、他の支店や営業所で働く労働者が閲覧できなければ、周知義務を果たしたとは認められない可能性があるので注意が必要です。
3. 労使協定の確認を要求されたらどうする?


従業員から労使協定の内容を確認したいと申し出があることも想定されます。ここでは、従業員から労使協定の確認を求められたときの適切な対応方法について詳しく解説します。
3-1. 在籍中の従業員には閲覧させる義務がある
自社の従業員から労使協定の内容確認を求められた場合、労働基準法上の周知義務に基づき、適切に対応する必要があります。
閲覧を不当に拒否すれば、周知義務違反として労働基準法に違反する可能性があり、罰則の対象となることもあるため注意が必要です。
3-2. 退職者に閲覧させる義務はない
退職した元従業員は、すでに自社の労働者ではないため、労働基準法上の周知義務の対象には含まれません。
したがって、退職者から労使協定の確認を求められたとしても、法的に応じる義務はありません。
4. 労使協定の周知義務に違反した場合のリスク


労使協定の周知が不十分な場合、企業はさまざまなリスクを負うことになります。ここでは、労使協定の周知義務に違反した場合に生じる主なリスクについて詳しく解説します。
4-1. 労使協定の効力が認められない可能性がある
労使協定は、正しく周知されていなければ効力が認められない可能性があります。
たとえ36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届出をしていても、周知が不十分であれば、その協定に基づいて従業員に時間外労働や休日労働を命じた場合、違法と判断される恐れがあります。
4-2. 労働基準監督署から是正勧告を受ける
労使協定の周知は労働基準法で定められた義務です。
仮に労働者からの通報などをきっかけに労働基準監督署の調査が実施され、周知義務違反が確認された場合には、是正勧告を受ける可能性があります。
関連記事:労働基準監督署による是正勧告とは?主な違反内容と対処法を紹介
4-3. 労働基準法に基づき罰則が課せられる
労使協定の周知義務に違反した場合、労働基準法第106条違反となります。
この場合、労働基準法第120条に則り、30万円以下の罰金の罰則が課せられる恐れもあるため注意が必要です。
4-4. 会社の社会的信用が低下する
労働基準法をはじめとする労働関係法令に違反した場合、その企業名や違反内容が厚生労働省のウェブサイトなどで公表されることがあります。その結果、企業のコンプライアンス体制に対する疑念が生じ、社会的信用の低下を招く恐れがあります。
これにより、採用活動の支障や取引先との関係悪化といった影響が及ぶ可能性も否定できません。このようなリスクを回避するためにも、労使協定を適切に周知することは非常に重要です。
5. 労使協定(36協定や変形労働時間制など)の届出にも要注意


届出が必要な労使協定は他にもあり、内容を変更する際にも届出が必要になるケースがあります。一方、すべての労使協定が届出対象ではないので、協定の種類に応じた対応が必要です。
また、内容によっては就業規則との整合性が求められる場合もあるため、就業規則の見直しと併せた対応が望ましいでしょう。正しく公平な労務管理を実現するためにも、労使協定の締結・届出・周知は一体的におこなうことが重要です。
| 関連する労働基準法 | 労使協定の種類 |
| 第18条 | 貯蓄の管理に関する協定 |
| 第32条の2 | 1カ月単位の変形労働時間制に関する協定 |
| 第32条の4 | 1年単位の変形労働時間制に関する協定 |
| 第32条の5 | 1週間単位の非定型変形労働時間制に関する協定 |
| 第36条 | 時間外・休日労働に関する協定(36協定) |
| 第38条の2 | 事業場外労働に関する協定 |
| 第38条の3 | 専門業務型裁量労働制に関する協定 |
| 第38条の4 | 企画業務型裁量労働制に関する協定 |
また補足として、事業場外労働については事業場外のみなし労働時間が法定労働時間を超えた場合にも届出が必要になります。さらに、フレックスタイム制については清算期間が1ヵ月を超える場合には労使協定の届出が必要です。
関連記事:労使協定の届出義務とは?届出が必要な種類一覧と36協定の新様式を紹介
6. 労使協定は届出と周知をセットで正しくおこなおう


一方、届出が不要な労使協定もありますが、周知はすべての労使協定で必要です。正しい方法で労働者に内容を伝えることで、誤解やトラブルを防ぎ、安心して働ける環境を整えましょう。



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