労働契約法12条による就業規則違反の労働契約を分かりやすく解説
更新日: 2024.1.19
公開日: 2021.10.3
OHSUGI
企業には就業規則とは別に使用者と労働者との間で締結する雇用契約書(労働契約書)が存在する場合があります。 就業規則と雇用契約の内容が異なると、労働争議の元にもなるため企業側は労働契約法の12条を理解しておく必要があります。 本記事では、労働契約法12条による就業規則違反の労働契約や違反した場合の対応などについて詳しく解説しています。
▼そもそも労働契約法とは?という方はこちらの記事をご覧ください。
労働契約法とは?その趣旨や押さえておくべき3つのポイント
目次
【有期雇用契約の説明書】
1. 労働契約法12条の内容とは?
労働契約法12条の内容について解説する前に、労働契約法とはどのような法律なのかご説明します。
近年、就業形態の多様化にともない、平成20年に施行された労働契約のルールを明確化した法律が「労働契約法」です。なお、平成24年8月に労働契約法は改正されています。
労働契約法では、労働者と使用者が対等の立場で合意することを原則としています。
労働契約法には労働契約の締結に関わる内容や、労働者と事業主との関係の安定を目的とした規約が定められています。その中の12条で示されている内容は下記の通りです。
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。
この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
引用:労働契約法[pdf]|厚生労働省
労働契約に記載されている内容が労働者側から見て不利な場合、その箇所は無効になり、就業規則の定めるところまで引き上げられるというのが12条で定められている意味となります。
企業において10人以上従業員がいる場合、使用者は労働基準法に基づいて就業規則を作成しなければなりません。
就業規則には「絶対的必要記載事項」と呼ばれる必ず記載しなければならない項目があり、例えば「始業と就業の時刻」や「休憩時間」、「休暇」、「賃金」、「退職関連事項」などがあります。
作成された就業規則は所轄の労働基準監督署長に提出する義務があります。
就業規則とは、最低限の労働条件が定められているものであり、労働契約は就業規則より下回ることはできないのです。逆に、労働契約の方が就業規則よりも有利な場合は、労働契約書に記されている内容が優先されます。
労働契約法12条は、労働者と使用者との紛争を防ぐことも目的としています。
関連記事:就業規則の届出方法と具体的な手順を分かりやすく解説
2. 労働契約法12条による就業規則違反の規定
実際どのような場合で労働契約法12条による就業規則違反が起こるのでしょうか。
よくあるケースとして挙げられるのが個別の合意をおこなった場合です。個別の合意とは、使用者と労働者との合意を個別におこない、雇用契約を結ぶことです。
この場合、お互いの合意があったとしてもその条件が就業規則を下回っていれば効力は発揮されません。
例えば、入社手続きの際に締結した労働契約に、有給休暇取得や残業代に関する記載がなかったとします。
しかし、使用者が労働者に有給休暇を与えなかったり、残業代を支払わなくて良いことにはなりません。なぜなら、このような内容の労働契約は就業規則で定めている内容を下回っており、労働契約法12条による就業規則違反に当てはまるからです。
就業規則は、労働基準法に準じて作成されるものです。労働基準法では有給休暇の取得義務や、労働時間に応じた休憩の取得、法定労働時間を超えた場合の割増料金の支払い義務などが定められています。
就業規則で規定されるのは、法律で定められた最低限の労働条件です。つまり、仮に労働契約を労働者と企業が合意のうえで交わしたとしても、明らかに労働者にとって不利な内容であれば、労働者は異議を申し立てることができます。
しかし、もし労働契約が就業規則で定める内容よりも有利だった場合は、労働者にとってメリットの大きい労働契約書の内容が適用されます。例えば、入社時の労働契約では入社後すぐに有給休暇が付与されると記載されていれば、その内容が有効となります。
近年では、働きやすい環境作りのため、労働者にとって有利な条件で雇用契約をおこなう会社も存在します。
3. 労働契約法12条による就業規則違反した場合の対応
労働契約法12条による就業規則違反をした場合どのような事態になるのでしょうか。
就業規則は大前提として労働基準法によって定められていますが、就業規則の一部が違法だったというケースも存在します。
労働契約が不利な内容であった場合、労働契約法12条に則して労働者は異議を申し立てることができますが、就業規則の内容が違反していたり、または就業規則が労働者に周知されていない場合でも、労働者によって労働基準監督署に申告される可能性があります。
その場合、企業は労働基準監督署から就業規則を変更するよう指導勧告を受けたり、法令違反が認められてしまうと是正勧告がおこなわれます。
基本的には、行政指導であるため法的拘束力はなく、指示に従えば問題ありません。
しかし、勧告を無視したり違反をしているのに放置し続けた場合は、労働基準法で定められた罰則が適用されてしまう可能性もあります。
ですので、是正勧告を受けてしまったら、その時点で要請に従って違反している事項を解消する必要があります。
4. 労働契約法12条による就業規則違反を防ぐためにできること
就業規則違反などのトラブルは企業としても避けたいところです。
使用者と労働者がより良い関係を築くためにも、労働契約法12条による就業規則違反を防ぐための方法を2つご紹介します。
4-1. 就業規則は専門家と相談して作成する
就業規則は企業の規律を明確にするものです。
使用者と労働者とのトラブルを防ぐためにも労働契約と就業規則は整合性が取れていなければならず、その企業の実態に則したものでなければ意味がありません。
就業規則を作成するマニュアル本や雛形はたくさん存在しますが、法令違反のない就業規則を作るためには労働法規に精通した専門家に依頼するのが良いでしょう。
4-2. 就業規則を社員に必ず周知し定期的な見直しをおこなう
まず就業規則は社員に周知する義務があるのでそれは必ず守らなければなりません。
そして、一度作成した就業規則はそれで終わりではなく、定期的な見直しをおこないましょう。
労働に関する法律は、現代における働き方の多様化によって改正されることもありますので、就業規則も法律に合わせて修正する必要があります。
5. 就業規則が見られない場合の対処法
労働契約や労働条件に関する重要な項目が記載されている就業規則はどこで確認することができるのでしょうか。
就業規則は、社内の見やすい場所に備え付けたり、書面で交付するなどの周知の義務が労働基準法第106条で定められています。
就業規則は、下記のように社員が誰でも見られる場所に保管するのが一般的です。
- パソコンの共有フォルダ
- 社内の共有スペースなどに提示
- 入社したときに配られている
しかし、実際には就業規則が公開されていない会社や、上司が保管しているといったケースもあるでしょう。
就業規則は従業員が「確認したい」と申し出たときにすぐに取り出せるようになっていなければなりません。従業員の申し出を拒否したり、そもそも会社に就業規則が存在しなかったりする場合、後に大きなトラブルを招く恐れもあるため、注意しましょう。
関連記事:就業規則の閲覧を求められたらどうする?正しい対応方法を紹介
6. 労働契約法12条を把握してより良い会社作りを
労働契約法12条とは、就業規則と労働契約を比べて違いがあった場合、労働者にとってメリットがのある方が有効となる規則です。
トラブルを未然に防ぐためにも、企業は専門家に依頼するなどして違反のない就業規則を作成し、社員全員に知らせる必要があります。
働き方改革法をはじめとして、数ある労働法規は時代とともに変化していくものです。企業には今後、時代に合った柔軟な就業規則の改定が求められるでしょう。
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