雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?兼用はできる?作成方法も解説
新たな従業員を採用する際に、雇用主が従業員に作成・交付する書類として「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2種類があります。2つの書類は一見すると同じ内容のものに思えますが、実は発行義務や様式などに違いがあります。
今回は、労働条件通知書と雇用契約書の概要と違い、兼用はできるのか、それぞれの役割と作成方法について、雇用主側がぜひ知っておきたい情報をまとめました。
関連記事:雇用契約書とは?法的要件や雇用形態別に作成時の注意点を解説!
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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目次
1. 「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違い
まず、「労働条件通知書」と「雇用契約書」の概要について説明します。両者の詳細を正しく理解することで、違いを把握しましょう。また、従業員として雇用する前に発行する書類について、しっかり理解しておきましょう。
1-1. 労働条件通知書とは「労働条件を提示する」ために必要な書類
労働条件通知書とは、労働契約の期間や賃金といった労働条件に係る事項を記載した書類のことです。労働基準法第15条では、使用者が労働者を雇用する際、労働者に対して労働条件を明示することを義務づけています。企業によっては「雇用条件通知書」「雇用通知書」などと呼称することもありますが、書類の役割としては同じです。
特に「絶対的明示事項(後述)」と呼ばれる事項は書面(2019年4月1日からは電磁的方法も含む/後述)で通知することと定められているため、雇用主が労働者を雇い入れる際は、必ず労働条件通知書を作成・交付する必要があります。
労働条件の明示は「パートタイム労働法」や「労働者派遣法」にも定められており、たとえアルバイト・パート・派遣社員といった場合でも、必ず労働条件通知書を作成するようにしなければなりません。
1-2. 雇用契約書とは「労働条件への合意を確認する」ための書類
対して、雇用契約書とは、雇用主と労働者が労働条件について互いに合意したことを証明するための書類です。内容は労働条件通知書とほぼ同じで、労働契約の期間や就業場所、賃金などに関する事項が記載されています。
ただ、労働条件通知書が雇用主から労働者へ「一方的に交付されるもの」であるのに対し、雇用契約書は「双方が合意していることを証明するもの」です。
そのため、雇用契約書は事前に2部作成しておき、従業員に署名・捺印してもらった後、それぞれが保管しておくことになります。
1-3. 法律上発行の義務があるのはどちらか
以上のように、労働条件通知書と雇用契約書は「双方の合意が必要であるか」という点で異なっています。
また、労働条件通知書は法律で作成・交付が義務づけられていますが、雇用契約書は法律上義務づけられているものではありません。端的に言うと、労働条件通知書さえ作成・交付すれば、雇用契約書は必ずしも発行しなくて良いものとされています。
1-4. 「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違いまとめ
「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違いまとめとして、以下に表にしました。
適用される法律、書面締結の必要性、合意の必要性で比較していますので参考にしましょう。
【表】労働条件通知書と雇用契約書
労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
適用される法律 | 労働基準法 パートタイム労働法 労働者派遣法 |
民法 |
書面締結の必要性 | 義務 (2019年4月1日からは電磁的方法も含む) |
任意 (推奨・罰則無し) |
合意の必要性 | 雇用者側からの一方的な交付 | 雇用者と労働者での合意が必要 |
2. 雇用契約書と労働条件通知書は兼用できる?
ここまで読んで、「雇用契約書を取り交わすことは義務ではないから、発行しなくても良いのではないか」とお考えの方もいるのではないでしょうか。
確かに「雇用契約書の発行は義務付けられていない」と前述しましたが、雇用主から一方的に交付される労働条件通知書だけでは、労働者の合意を物理的に確認することはできないため、注意が必要です。
2-1. 雇用契約書もあった方がいい理由
たとえば、雇用主と労働者の間で何らかのトラブルが発生した場合を想定します。
もし雇用契約書が無いと「労働条件通知書を交付された覚えがない」「当初の契約と労働条件通知書の間に食い違いがある」などと訴えられ、雇用主側が不利になってしまうおそれがあります。
このようなトラブルやリスクは、企業経営をする上で少なからず存在することでしょう。たとえ法的な義務はなくても、雇用主と労働者の双方が労働条件に合意したことを示す雇用契約書も作成・交付するのがベストです。
2-2. 労働条件通知書と雇用契約書は兼用も可能
労働条件通知書の書式は特に定められていませんので、企業によっては労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」を発行している企業もあります。
ただし、内容を1つの資料にまとめることで文書量が膨大になってしまう可能性がありますので、記載事項が多い場合は、労働条件通知書と雇用契約書を分けて作成・交付した方がよいでしょう。
本章で解説したように、雇用契約書は労使間トラブルの予防効果も期待できるため、作成義務はありませんが作成したほうがいいことは理解いただけたと思います。労働条件の変更がないと作成する機会が減ってしまいますが、労働契約の見直しの際には、契約内容が問題ないか必ず確認するようにしましょう。
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関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の兼用はできる?そのメリットや作成方法
3. 労働条件通知書の作成方法・記載内容
それでは、ここで法律で発行が義務付けられている労働条件通知書の作成方法や記載内容についてご紹介します。
3-1. 労働条件通知書に記載すべき内容
労働条件通知書の書式・様式は決まっていませんので、各企業によってさまざまです。しかし、法律で明示することが義務づけられている労働条件の「絶対的明示事項」の記載は必須となります。
なお、書面による交付は義務づけられていませんが、「相対的明示事項」も労働者に対して明示する必要があります。相対的明示事項は口頭での通知のみでも問題ないとされていますが、労使間でトラブルが起こるリスクを考えると、なるべく書面で通知することを推奨します。
労働条件の絶対的明示事項、および相対的明示事項は以下のとおりです。
絶対的明示事項 | 相対的明示事項 |
①労働契約の期間
②労働契約を更新する場合の基準(労働契約を更新する場合があるものの締結に限る) ③就業場所 ④従事すべき業務の内容 ⑤始業及び終業の時刻 ⑥所定労働時間を超える労働の有無 ⑦休憩時間 ⑧休日・休暇 ⑨労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 ⑩賃金の決定、計算方法、締め切り、支払い時期 ⑪昇給に関する事項 ⑫退職に関する事項(解雇の事由含む) |
①退職手当の定めが適用される労働者の範囲②退職手当の決定・計算・支払い方法、支払時期
③臨時に支払われる賃金、賞与、各種手当てならびに最低賃金額に関する事項 ④安全及び衛生に関する事項 ⑤職業訓練に関する事項 ⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 ⑦表彰及び制裁に関する事項 ⑧休職に関する事項 |
また、パートやアルバイトなどの短時間労働者に対しては、以上の項目に加えて、以下4つの事項の記載がパートタイム労働法施行規則によって義務づけられています。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
雇用形態によって「絶対的明示事項」に多少の違いがありますので、労働条件通知書を作成する際は、雇用形態別に書面を用意しておきましょう。
また、今後は外国人労働者の受け入れも増加することが考えられるため、受け入れ予定のある企業は外国人労働者向けの労働条件通知書(日本語と英語が併記されたもの)も発行できる体制を整えておくと良いでしょう。
2024年4月以降は追加で明示すべき項目が増える
労働条件通知書に明示すべき項目なども定めている、労働基準法が2024年4月に改正されます。これにより、労働条件通知書への記載や契約締結・更新時に明示すべき項目が増えるため、注意しましょう。
具体的な変更点は以下のとおりです。
対象者 | 明示のタイミング | 追加される明示事項 |
全ての労働者 | 契約締結・更新時 | 就業場所や業務内容が変更される可能性のある範囲 |
有期雇用契約者 | 契約締結・更新時 | 契約期間や更新回数の上限有無とその理由 |
無期転換申込権が発生する有期雇用契約者 | 契約更新時 | 無期転換申込権の説明と無期転換後の労働条件 |
無期転換ルールの施行とともに、一部の企業では無期転換権が発生する直前での雇止めがありました。今回の法改正では、そうした労働者に非のない雇止めやトラブルを防ぐ狙いがあると思われます。3月4月は学生アルバイトなどの雇用も多くなる時期ですが、誤って明示しないまま契約締結しないように注意しましょう。
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3-2. 実際はテンプレート・ひな形を活用するのがおすすめ!
前述したように、以上の明示すべき事項が網羅されて記載されていれば、書式や様式に法的な決まりはありませんので、自社で独自の労働条件通知書を作成して問題ありません。
しかし、絶対的明示事項の漏れ・抜けが不安な場合は、厚生労働省の公式サイトで公開されている労働条件通知書のテンプレートを利用するのがおすすめです。
厚生労働省の公式サイトには、一般労働者用の労働条件通知書のテンプレートのほか、短時間労働者用や派遣労働者用、建設労働者用、林業労働者用など、労働者の種類ごとに適した様式を無料でダウンロードし、活用することができます。
それぞれ「常用、有期雇用型」「日雇い型」の2パターンに分かれていますので、雇用形態に応じて使い分けることができる点も非常に便利です。
ただ、内容はあくまでモデル様式ですので、各企業における労働条件の定め方によってはアレンジが必要な場合もあります。
Word形式でダウンロードすれば、適宜手を加えることも可能ですので、テンプレートやひな形をたたき台にして自社オリジナルの労働条件通知書を作成してもよいでしょう。
(厚生労働省公式サイト「主要様式ダウンロードコーナー」はこちら)
4. 雇用契約書の作成方法・記載内容
雇用契約書も労働条件通知書と同様に書式・様式は決まっていませんので、自社で独自の雇用契約書のフォーマットを作成しても問題ありません。
また、労働条件通知書のように法律で定められた必ず記載しなければならない項目もなく、契約を取り交わすための最低限の情報(氏名、住所、署名・捺印欄)があれば成立します。
しかし、どのような契約内容に対して同意したのか明記しておかなければ、後に何か問題が起きて契約書を見返した際に記録が残っていないと水掛け論となってしまう可能性があります。
そのようなことを避けるためにも、以下の7項目を雇用契約書に記載しておくことを推奨します。
- 契約期間
- 就業場所
- 業務内容
- 始業・終業時間
- 休憩時間、休日、休暇
- 賃金
- 退職
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、雇用契約書と労働条件通知書の記載項目は重複するものが多く存在します。書類作成や取り交わす手間を省略すべく、両者を兼ねた労働条件通知書兼雇用契約書という書類を作成することも可能です。その場合、労働条件通知書で明示が必須となっている項目の取りこぼしが発生しないように注意しましょう。正しく作成すれば法的にも有効な書類です。
労働条件通知書兼雇用契約書について詳しく知りたい方は以下の記事で解説しています。
関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の兼用が可能?メリットや作成方法を解説
雇用契約書の記載内容について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:雇用契約書に記載すべき内容をイチから分かりやすく解説
5. 労働条件の通知が電磁的方法でも可能に(2019年4月1日~)
労働条件通知書の「絶対的明示事項」は、これまで紙媒体での交付に限られていました。しかし、労働基準法施行規則の改正にともない、2019年4月1日よりFAXやメール、SNS等を使った労働条件の明示も可能になりました。
ただし、紙以外の媒体で労働条件を明示するには、以下2つの条件を満たしている必要があります。
①労働者がFAXやメール、SNS等での労働条件明示を希望した場合
②出力して書面を作成できるもの
今やパソコンやスマホ、タブレットなどを使いこなすのは当たり前の時代ですが、中には自宅にFAXがない人、インターネットを利用していない人もいらっしゃいます。
このような方々には、紙以外の手段で労働条件を明示することができませんので、事前に労働条件通知書の発行方法について確認を取っておくと良いでしょう。
なお、メールやSNS等で労働条件を明示する場合は、印刷やファイルの保存ができるような、添付ファイルでデータ送信するのが基本です。
携帯キャリア各社が提供しているSMS(ショートメールサービス)を使った明示は禁止されているわけではありませんが、ファイルの添付機能がなく、かつ文字数の制限もありますので、労働条件の明示に利用するのは避けた方が無難です。
労働者が希望していないのに紙以外の手段で労働条件を明示すると、労働基準関係法令の違反となり、最高で30万円以下の罰金となることもありますので注意しましょう。
労働条件通知書はメールで交付することができるため、電子化すると工数削減へとつながります。電子化についてさらに詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
6. トラブルの無い雇用契約を結ぶためには
以上のように、従業員を雇用する際は、労働契約期間や就業場所、賃金といった労働条件を明示し記載した「労働条件通知書」を交付することが義務化されています。
特に「絶対的明示事項」は書面で交付することが法律によって決められていますので、労働条件通知書を作成する際は、事項に抜け漏れがないよう入念にチェックしましょう。
また、労働条件通知書があれば、必ずしも雇用契約書を作成する必要はありませんが、労使関係のトラブルを予防したいのなら、両方の書類を作成・交付することがおすすめします。
それぞれの書類の違いを適切に理解して、トラブルの無い雇用契約を結ぶことができるように準備しておきましょう。
関連記事:雇用契約を締結する際の必要書類や手続きの流れを詳しく紹介
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