雇用契約書とは?法的要件や雇用形態別に作成時の注意点を解説!
更新日: 2023.9.15
公開日: 2023.6.1
OHSUGI
企業が従業員を雇うときには雇用契約書を取り交わすのが一般的です。雇用契約書には、労働者が従業員として会社に労務を提供する旨や、労働に対してどのような報酬が払われるかなど、双方にとって重要な事柄が多く盛り込まれます。
一方で雇用契約は書面で残さなければならない、という法的な決まりはなく、極端な話、口約束でも取り交わすことができます。
では、なぜ書面で用意する場合がほとんどなのでしょうか?
あらかじめ契約を取り交わし書面に残すことによって、万が一なにか問題が発生した時に契約書をもとに問題を解決していきます。逆に、何も書面に残さないまま口約束してしまうと、トラブルが起きた際に言った、言ってないと水掛け論が起きてしまい解決までに時間を要してしまいます。
このように雇用したあとのトラブルを防ぐためにも、雇用契約書は適切な方法で作成し、取り交わしておきましょう。この記事では雇用契約書とはどのようなものか、その内容や作成方法について解説します。
目次
1. 雇用契約書とは企業と従業員の間で交わす契約書面のこと
雇用契約書とは、雇用する側である企業や経営者と、雇用される側である労働者の間で交わされる契約書です。雇用契約書を交わすことで、雇用に関する約束ごとに双方が合意したとみなされます。
雇用契約書の作成は法的に義務づけられているわけではありません。
雇用契約自体は民法で取り扱われる契約で、「諾成契約(だくせいけいやく)」というものに該当します。諾成契約は、当事者双方の合意があれば、口頭でも契約が成立するものなのです。そのため雇用契約書の作成は義務付けられているものではないと言えるのです。
しかし、雇用契約書を交わさないまま雇用すると、契約内容が形として残らないため自分の有利になるような契約をしたと嘘をつくこともできてしまいます。契約後にあとあとトラブルに発展することも考えられます。
安心して従業員を雇用するためにも、書面に残す方法で雇用契約書を交わしておくことが大切です。
しかし、場合によっては短い期間で多くの労働者を雇う必要が出てくることもあるかもしれません。雇い入れ時の負担を軽減するために雇用契約書の取り交わしを省略する場合もあります。雇用契約を口頭で結ぶ場合の注意点をまとめた記事もありますので、あわせてご一読ください。
関連記事:雇用契約とは?法的な位置付けと雇用契約書を作成すべき理由を解説
関連記事:雇用契約は口頭でも成立する?口約束を破った場合も解説
1-1. 雇用契約書の内容は契約締結後に変更できる?
結論から述べると、労使の双方の合意があれば変更は可能です。
変更の際に重要なポイントとしては、変更内容が労働者にとって不利になってしまうものなのか、有利になるものなのか、という点です。
変更内容が労働者にとって有利になる内容である場合、労働者の合意を得て変更手続きを行います。
逆に不利になる内容である場合、合理性があると判断された場合は変更が認められますが、原則不利益な変更は難しいと認識しておきましょう。
詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
関連記事:雇用契約の条件は途中変更できる?契約期間内に変更する方法をご紹介
1-2. 雇用契約書がないのは違法?
先に述べたように、雇用契約書は諾成契約に該当するため、口頭でも契約が成立してしまいます。
そのため、雇用契約書がないという状態もあり得ます。また、違法ではありません。
一方で、労働条件通知書は交付が義務付けられているため、未交付の場合は違法となります。
企業によっては、雇用契約書と労働条件通知書を1通のにまとめた雇用契約書兼労働条件通知書を交付している場合があります。
この場合、労働条件通知書の内容も含んでいるため、未交付の場合は違法となってしまいます。気を付けましょう。
さらに詳細を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:雇用契約書がないのは違法?考えられる4つのトラブルとその対処法
2. 労働条件通知書と雇用契約書の違い
雇用契約書とよく似た書類として、労働条件通知書というものがあります。この2種類の書類は似ているようで厳密には役割が異なります。混同することがないよう、適切に書類を作成することが重要です。
先ほど雇用契約は口頭でも成立するとお伝えしましたが、労働契約は口頭では成立しません。企業は労働者へ労働条件を通知しなければならないと、労働基準法によって定められています。
一方で雇用契約書は、先ほどもお伝えした通り民法にて取り扱われている書類で、発行の義務はありません。
両者の役割の違いを説明すると、労働条件通知書は「企業から労働者へ労働条件を提示する」役割をもった書類であること対して、雇用契約書は「企業と労働者の双方が労働条件への合意を確認する」ための書類である点です。
労働条件通知書はあくまで、企業が労働条件を労働者に告知するためのものです。いわば一方的に交付する書類なので、労働者の署名や押印を求める必要はありません。
雇用契約書は労働条件通知書とは異なり、双方が合意したうえで署名や押印をして取り交わします。
また、労働条件通知書には必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と、当てはまる項目があれば通知書への記載もしくは口頭での説明をする必要がある「相対的明示事項」の2種類の項目があります。
企業によっては、2つの書類の内容を合わせて「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で書類を交付することもあります。書面の内容をあわせて交付すれば手間がかかりませんし、雇用にあたっての必要な情報を無駄なく伝えることも可能となります。
もし「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成する場合は、労働条件通知書に定められた「絶対的明示事項」の記載漏れがないように気を付けましょう。
関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?兼用はできる?作成方法も解説
3. 労働条件通知書兼雇用契約書に記載すべき絶対的記載事項
雇用契約書または労働条件通知書兼雇用契約書を発行するときには、絶対的記載事項と呼ばれる項目を盛り込む必要があります。
雇用契約書の絶対的記載事項とは、労働条件を通知するときに必ず伝えなければならない項目のことです。以下の情報は口頭ではなく書面に記載する形で告知しましょう。
関連記事:雇用契約書に記載すべき内容や変更方法をわかりやすく解説
3-1. 労働契約の期間
労働契約期間として、雇用契約書には雇用開始日を必ず記載します。雇用契約の期間が決まっているときには、契約終了年月日や契約更新の有無についても記載しておきましょう。
3-2. 勤務地・仕事内容
従業員が働く事業所や部署などの配属場所は雇用契約書に必ず記しておきます。さらに、担当する職種や従事する仕事内容についても書いておきましょう。
3-3. 始業・終業時刻
従業員の勤務時間や勤務交替の時間、休憩時間などについても雇用契約書に盛り込んでおきましょう。残業の有無や時間の定めがある場合にも、雇用契約書で告知しておくのが安心です。
3-4. 休日・休暇
従業員の週休日数や休日の曜日、有給休暇日数や条件、夏季休暇や年末年始休暇などの情報も雇用契約書に盛り込みます。
3-5. 賃金
賃金の項目には、企業が定めている給与や報酬の仕組み、具体的な給与の額、給与の締め日や支払い日、支払い方法などを記載しておきます。
3-6. 退職や解雇
退職の申し出方法や退職希望日を申し出るときの期限、解雇に至る条件なども前もって書面で告知しておきます。企業は就業規則に必ず退職や解雇についての定めを記載しているため、雇用契約書には「就業規則の定めによる」と簡略な記載をしても問題ありません。
3-7. パートタイム労働法に定められた項目
パートやアルバイトなど有期雇用形態で従業員を雇用するときには、パートタイム労働法に定められた項目の記載が必須です。
具体的には、昇給や給与、退職金の有無といった項目を明示しなければなりません。また、雇用管理に関する相談窓口の担当部署名や担当者についても記載しましょう。
▼有期雇用労働者向けに記載しなければならない4項目
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職金の有無
- 相談窓口の記載
4. 労働条件通知書兼雇用契約書に記載しておきたい相対的記載事項
雇用契約書には、絶対的記載事項に加え、必要に応じて相対的記載事項についても記載しておきましょう。
相対的記載事項には以下のような項目があります。すべての項目を盛り込む必要はありませんが、自社のルールがあるときにはあらかじめ告知しておいたほうがよいでしょう。
- 臨時に支払われる賞与や各種手当の定め
- 昇給に関するルール
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲や条件
- 作業用品や食事など労働者の費用負担が発生するケース
- 安全衛生に関する定め
- 職業訓練に関する定め
- 災害補償、業務外の傷病扶助
- 表彰や制裁に関する制度
- 休職に関する事項
- リモートワークなどに関する定め
5. 雇用契約書の作成方法
雇用契約書を作成する方法として以下の3パターンがあげられます。
- ウェブなどで配布されているフォーマットを使う
- システムを導入して作成する
- 自作する
手間や費用をかけずに用意したい場合は既存のフォーマットを用いる方法をおすすめします。毎月多くの雇用契約書を作成していて簡略化したい場合はシステム導入して作るのがおすすめです。それぞれ注意点を解説します。
5-1. ウェブなどで配布されているフォーマットを使う場合
雇用契約書のフォーマットやテンプレートはウェブ検索などで入手できます。あらかじめ設定されている項目を、自社に合った形にカスタマイズしていきましょう。
フォーマットを活用するときには、絶対的記載事項を削ってしまうことがないよう注意が必要です。また、労働基準法や自社の就業規則と照らし合わせながら雇用契約書を作成することも重要なポイントです。法の定めや社内規則と異なる労働契約を提示した場合、雇用契約が無効と判断されることもあります。
5-2. システムを導入して作成する場合
よりスムーズに雇用契約書を作成したいのなら、労務に特化したソフトやシステムを活用してみましょう。システムを使えば、書類の作成だけでなく送付や契約、データ保管などを一元化でき便利です。
最近では、雇用契約書をオンライン上で取り交わすケースも増えています。電子契約であれば、雇用契約書を紙に印刷して送付し、サインや押印を入れて返送してもらう手間が省けます。時間をかけずすぐ契約を済ませられるのが、電子契約のメリットです。
雇用契約書をオンライン化するときには、運用ルールを詳しく定めておきましょう。誰が管理するのか、いつ取り交わすのか、どう保管するのかといった細かいルールを定めておけば、契約に関するトラブルが起きにくくなります。
6. 雇用形態別:雇用契約書作成の注意点
雇用契約書を作成する際、雇用形態別に気を付けるべきポイントがあります。
「正社員」「正社員の試用期間」「派遣社員」「アルバイト」「パートタイマー」の5パターンについて解説します。
6-1. 正社員の場合
雇用契約や労働条件をめぐるトラブルは決して少なくなく、令和元年度に寄せられた約118万件の総合労働相談件数のうち、「労働条件の引き下げ」や「出向・配置転換」といった雇用・労働条件にまつわる相談は全体の1割以上を占めています。
正社員は契約期間を設けず、長期間働いてもらうことを前提に雇用する人材です。双方が納得し、より良い関係を築いていけるよう、雇用契約書は万全を期して作成しましょう。
関連記事:正社員の雇用で必須の雇用契約書の作成方法を分かりやすく解説
6-2. 試用期間の記載について
雇用契約書に試用期間について記載をしなくてはいけないという義務はありません。
しかし、雇用契約書に試用期間に関する記載をしなかったことで、従業員が試用期間は存在しないと勘違いしてしまい、契約内容が異なるなどと問題に発展してしまう可能性があります。
事前に就業規則を配布しており就業規則内に試用期間について記載してある場合は、雇用契約書へ試用期間が記載されていなくても問題ありませんが、どこにも記載していない場合はトラブルの元となりかねないため、雇用契約書に試用期間についてかならず記載しましょう。
関連記事:試用期間は雇用契約書に記載すべき?書き方のポイントを紹介
6-3. 派遣社員の場合
人材派遣の仕組みには、「雇用されている会社と実際に働く会社が異なる」という特徴があります。
まず、派遣スタッフと直接雇用契約を結んでいる「派遣会社」が存在します。そして、この派遣会社と派遣契約を結んでいる「派遣先企業」に対して、そのスタッフが派遣されます。
そのため、人材派遣業を営むうえでスタッフを企業に派遣するときは、以下の3つの契約書を作成する必要があります。
・労働者派遣基本契約書
・労働者派遣個別契約書
・雇用契約書
詳しくは以下の記事をご確認ください。
関連記事:人材派遣の契約書の記載事項とは?印紙の必要性や保管期間も解説
6-4. アルバイト/パートタイマーの場合
アルバイトやパートタイマーのような有期雇用の場合でも、できるだけ雇用契約書を取り交わす方がよいでしょう。
労働条件通知書兼雇用契約書として作成する場合、労働基準法によって定められている必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」の他に、パートタイム労働法により記載が義務付けられている項目が4つあります。その4つとは以下の通りです。
・昇給の有無
・退職手当支給の有無
・賞与制度の有無
・相談窓口について
抜け漏れている項目が無いように気を付けましょう。詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:アルバイト採用でも雇用契約書や労働条件通知書は必要?4つの注意点を解説
関連記事:パートタイマーの雇用契約書を発行する際に確認すべき4つのポイント
7. 専用システムを導入すれば雇用契約書の作成がスムーズになる!
これまで雇用契約書は電子化が可能だったものの、労働条件通知書は必ず書面での通知しなければならず結果として紙による契約が定着していました。
しかし、2019年4月1日より規制が緩和され、労働条件通知書の電子化が解禁になったことで雇用契約のオンライン化が一気に進みました。
PDFなどの電子データにした雇用契約書に、双方の電子署名を付与することでインターネット上で雇用契約を完結させることができます。
「電子署名」と「タイムスタンプ」という技術を用いているため改ざんの心配もありません。
電子契約サービスを導入することで、「電子データでの契約書の作成」「電子署名機能」「タイムスタンプ機能」の電子契約に必要な3つの機能が揃います。
場所に捉われず契約が結べる点や印刷にかかる費用の節約などのメリットの他、契約書自体のバージョンの一元管理も行えます。
注意事項として、労働条件通知書は従業員が希望した場合、書面で発行しなければなりません。もし、労働条件通知書兼雇用契約書として運用している場合は、注意しましょう。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
8. 雇用者と労働者、双方の安心のためにも雇用契約書は発行しよう
雇用契約書は法律的に交付が義務化されている書類ではありませんが、雇用する側と労働者側の双方で雇用のルールを確認し合うためにも、できれば雇用契約書を作成しておきましょう。
雇用契約書と類似した書類に労働条件通知書というものがあります。労働条件通知書は企業が従業員へ労働条件を明示するための書類で、労働基準法上で交付が義務付けられています。一方で雇用契約書は民法で定められた書類で口頭でも契約が成立します。
両者を一枚の書類にした労働条件通知書兼雇用契約書という書類とすることも可能です。
また、雇用契約書は契約形態毎に記載事項が異なるため、雇用契約書を自社で作成する場合や既存のフォーマットを流用する場合は注意して項目を用意しましょう。
電子契約サービスを導入することで雇用契約が電子上で完結します。リモートによる採用選考が普及してきている昨今、内定後のフローも電子化することでスピーディーかつスムーズに入社手続きを進められるようになりました。
毎月多くの雇用契約書を作成している担当者の方は、ぜひ電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
雇用者と労働者が、双方に安心して労働できるように雇用契約書を正確かつスムーズに発行できる仕組みを構築したいですね。
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