同一労働同一賃金の退職金の扱いとは?契約社員やパート・アルバイトに支給しないのは違法?
更新日: 2025.8.25 公開日: 2022.1.23 jinjer Blog 編集部

同一労働同一賃金を導入する際に注意が必要なのが、退職金の扱いです。
厚生労働省が作成した「同一労働同一賃金ガイドライン」では、基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練の取り扱いについては明記されていますが、退職金制度に直接言及した部分はありません。
しかし、正社員と非正規雇用労働者の退職金の待遇差は、メトロコマース事件をはじめとした裁判によって争点となったポイントでもあります。退職金の不合理な取り扱いを是正し、労働者からの訴訟リスクを軽減するため、同一労働同一賃金における正しい退職金制度の考え方を学びましょう。
この記事では、同一労働同一賃金の退職金の扱いや注意点、確認すべきポイントについて詳しく解説していきます。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?派遣・非正規の待遇における規定や法改正の背景をわかりやすく解説
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金における退職金の扱いは?


同一労働同一賃金における退職金の扱いには注意が必要です。
同一労働同一労働の目的を正しく把握したうえで、違法になる行為や退職金制度の注意点を確認していきましょう。
1-1. 同一労働同一賃金の目的
同一労働同一賃金の導入目的は、同じ企業や団体において正規雇用の従業員と非正規雇用の従業員との間にある待遇差を解消するためです。
同じ企業や団体内で同じ業務をしているにも関わらず、賃金の差を中心とした不合理な待遇の差はあってはならないと考えられ、導入されました。
有期雇用やパートタイマーなど、さまざまな雇用形態を対象にしており、給与だけでなく福利厚生や教育訓練そして退職金制度なども含めて同一労働同一賃金の対象とされています。
1-2. 非正規雇用者(契約社員やパート・アルバイトなど)に退職金を支給しないのは違法?
退職金制度は、法的に設ける義務があるものではありません。したがって、制度を導入していない企業が、正社員・非正規社員を問わず退職金を支給しない場合でも、法令上の問題はありません。
しかし、既に退職金制度を導入しており、正社員には支給している一方で、契約社員やパート・アルバイトには支給していない場合は注意が必要です。このような扱いは、同一労働同一賃金の観点から、不合理な待遇差と判断される可能性があり、トラブルの原因になり得ます。
実際、厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、退職金について個別の記述はありません。しかし、ガイドラインの冒頭には「このガイドラインに記載がない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理な待遇差の解消等が求められる」と明記されています。
そのため、退職金制度を設けている企業は、正社員と非正規雇用労働者の間で合理的な理由のない差が生じていないかを確認し、必要に応じて制度の見直しをおこなうことが重要です。さらに、労使間で丁寧なコミュニケーションを重ね、個別の事情に応じた対応を検討することも不可欠です。実際に、退職金をめぐる待遇差に関する訴訟もこれまでに発生しており、過去の判例を参考にしながら、制度を適切に整備していく必要があります。
2. 最高裁判例をふまえた退職金制度の注意点


退職金の待遇差が争点となった最高裁判例として、「メトロコマース事件」があります。メトロコマース事件とは、売店業務に従事する有期契約社員と正社員の間の退職金の待遇差をめぐる裁判です。
第1審東京地裁では、有期契約社員と正社員の勤務実態の相違を考慮し、有期契約社員には退職金が一切支給されなくても違法でないとしました。しかし、第2審東京高裁ではこの判決が覆り、退職金の待遇差は不合理であるとして、正社員の4分の1にあたる退職金の支払いを命じました。
結果として、最高裁では「退職金の待遇差は不合理ではない」と認められましたが、メトロコマース事件をきっかけとして、退職金制度のあり方をめぐる議論が巻き起こりました。
メトロコマース事件の最高裁判例から、同一労働同一賃金の原則に違反しない退職金制度のポイントが3つ見えてきます。
2-1. 退職金の違いが合理的な判断基準に基づくものか確認する
まず注意が必要なのは、メトロコマース事件の最高裁判例は、有期契約社員と正社員の退職金の待遇差を無条件に認めるものではないという点です。
最高裁判例では、売店業務に従事する有期契約社員と正社員の職務内容は同一であると認められましたが、「正社員は必要に応じて配置転換を命じられる可能性がある」ことから、両者の責任の範囲が異なると判断されました。それにともない、退職金の待遇差は不合理であるとまではいえないという判決が下りました。
このようにメトロコマース事件の最高裁判例は、職務内容や配置転換の有無といった合理的な理由がある限り、退職金の違いがあっても不合理ではないという事例判決にすぎません。
退職金の待遇差を設ける場合は、個々の具体的事例を考慮し、現状の退職金制度が合理的な判断基準に基づくものかどうか必ず確認しましょう。
2-2. 非正規雇用労働者の正社員登用制度を設ける
また、メトロコマース事件の最高裁判例では、有期契約社員の正社員登用制度が設けられていたことも考慮されました。
訴訟リスクを減らすには、正社員と非正規雇用労働者の待遇差を固定化せず、一定の条件に基づいて正社員登用が可能な制度を設けておくことも重要です。
2-3. 非正規雇用労働者の待遇改善について労使間で話し合いを持つ
退職金の待遇差についての最高裁判例では、非正規雇用労働者の待遇改善について労使間で話し合いを持ったかどうかも重視されます。
もし退職金の金額に待遇差があっても、労使間の合意に基づいて決められたものであれば、裁判所が不合理な待遇差だと判断しない可能性があります。正社員だけでなく、非正規雇用労働者も交えて労使間の話し合いを持ち、双方の合意に基づいて制度設計をおこなうことが大切です。
実際にメトロコマース事件を担当した裁判官林景一の補足意見でも、「退職金は、その支給の有無や支給方法等につき、労使交渉等を踏まえて、賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例である」としています。
参考:損害賠償等請求事件(メトロコマース事件)|全国労働基準関係団体連合会
3. 同一労働同一賃金ガイドラインに基づく退職金以外で確認すべきポイント


同一労働同一賃金の導入にあたって、留意すべきなのは退職金制度だけではありません。
例えば「基本給」「賞与」「各種手当」「福利厚生・教育訓練」についても、同一労働同一賃金の理念に基づき、不合理な待遇差を解消する必要があります。
ここでは、厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」に基づき、退職金以外で確認すべき同一労働同一賃金のポイントについて詳しく紹介します。
3-1. 基本給は雇用形態にかかわらず、仕事内容の違いに応じて支給する
同一労働同一賃金における基本給とは、「労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業績又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うもの」などを指します。
いずれの賃金体系においても、基本給は労働の実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給をおこなわなければなりません。
また、昇給制度についても同様です。雇用形態にかかわらず、同一の能力の向上が見られれば同一の、違いが見られれば違いに応じた昇給をおこなう必要があります。
関連記事:同一労働同一賃金で業務における責任の程度はどう変化する?
3-2. 賞与・ボーナスなども含め同一の貢献に対しては同一の支給をする
基本給だけでなく、賞与(ボーナス)も同一労働同一賃金の対象です。ここでいう賞与とは、会社の業績や労働者の貢献度合いに応じて支給される賃金を指します。雇用形態に関係なく、同一の貢献には同一の、違いがあればその違いに応じて、適切に賞与を支給することが求められます。
関連記事:同一労働同一賃金で賞与はどうなる?契約社員やパートを賞与なしにするリスク
3-3. 各種手当についても正社員とそれ以外で差別的取扱いをしない
各種手当についても、正社員とそれ以外で差別的取扱いをおこなうことは認められていません。
同一労働同一賃金ガイドラインでは、役職に内容に応じて支給する「役職手当」のほか、「特殊作業手当」「特殊勤務手当」「精皆勤手当」「時間外労働手当」「深夜・休日労働手当」「通勤手当・出張旅費」「食事手当」「単身赴任手当」「地域手当」などの手当について、条件が同じ場合は同一の支給をおこなうよう定めています。
関連記事:同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
関連記事:同一労働同一賃金で交通費はどうなる?判例や課税について解説
3-4. 福利厚生(休暇など)や教育訓練も同一労働同一賃金の対象
年次有給休暇、産前産後休暇、育児休業などの法定休暇も、正社員と同一の条件を満たす場合は、同一の付与をおこなう必要があります。
また、忘れてはならないのが、慶弔休暇などの法定外の休暇です。企業が独自に設ける休暇についても、同一労働同一賃金の原則に基づき、雇用形態にかかわらず平等に取り扱う必要があります。
さらに、教育訓練についても、現在の職務に必要な知識や技術を習得する目的でおこなわれるものであれば、職務内容が同じなら同じ内容で、異なる場合はその違いに応じた訓練を実施しなければなりません。
このように、同一労働同一賃金を考えるうえでは、不合理な待遇差がないかを常に考えて行動する必要があります。 そこで当サイトでは、本章で解説してきた企業の対応すべき方法に関して、具体的な待遇差を設けている理由についても解説した資料を無料で配布しております。
自社の対応や、同一労働同一賃金の認識に関して不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
4. 派遣社員の退職金制度における同一労働同一賃金の考え方


派遣社員に対する退職金についても同一労働同一賃金は適用されます。派遣会社は「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかを選択し、同一労働同一賃金ルールに対応することが可能です。
ここでは、派遣社員の退職金制度における同一労働同一賃金の考え方について詳しく紹介します。
4-1. 派遣先均等・均衡方式
派遣先均等・均衡方式とは、派遣社員の待遇について、派遣先の通常の労働者(比較対象労働者)と同一もしくは類似の職務内容などに基づき、同等または不合理な差がないように取り扱う方式です。派遣先均等・均衡方式を採用する場合、派遣先は派遣元に対して、比較の対象となる労働者に関する待遇情報を提供しなければなりません。
派遣元はその情報をもとに、派遣社員の職務内容や能力、成果などを考慮しながら、比較対象労働者との間に不合理な待遇差が生じないように処遇を決定します。そのため、派遣先の比較対象労働者に退職金制度がある場合は、派遣社員にも職務内容などが類似していれば、同様の退職金相当の待遇を設ける必要があります。
参考:派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正)|厚生労働省
4-2. 労使協定方式
労使協定方式とは、派遣元の使用者と、派遣元の過半数労働組合(過半数代表者)が労使協定を結び、派遣社員の待遇を決めていく方式です。労使協定方式を採用する場合、退職金相当の待遇をどのように確保するか、以下の3つの方法から選択できます。
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1. 退職金制度を構築する方法 |
厚生労働省が公表する各統計調査に基づき、一般労働者の退職金水準と自社制度を比較し、派遣社員に退職金を支給する方法 |
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2. 退職前払い方式 |
退職金の支給に代えて、一般労働者の退職金相当分をあらかじめ給与や賞与に上乗せして支給する方法 |
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3. 中小企業退職金共済制度等への加入する方法 |
中小企業退職金共済制度などの外部制度に加入し、会社が一般労働者の退職金相当分の掛金を拠出する方法 |
参考:同一労働・同一賃金セミナー第3回 労使協定の締結について(一般賃金の設定)|厚生労働省
関連記事:労使協定方式や同一労働同一賃金における派遣会社の責任について
5. 同一労働同一賃金の最高裁判例を踏まえて退職金制度の見直しをしよう


同一労働同一賃金の原則をめぐって、さまざまな訴えが提起されてきました。
とくに正社員と非正規雇用労働者の退職金の待遇差については、メトロコマース事件の最高裁判例のように著名な判例も存在します。
最高裁判例をふまえて、「退職金の違いが合理的な判断基準に基づくものか確認する」「非正規雇用労働者の正社員登用制度を設ける」など、既存の退職金制度を見直すことが大切です。
退職金制度のほかにも、基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練に不合理な待遇差がないか、今一度社内ルールの整備に取り組みましょう。



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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