労働契約法10条の規定による就業規則の変更の条件や方法
更新日: 2024.1.19
公開日: 2021.10.4
OHSUGI
労働契約法9条では、使用者は労働者の合意なく、就業規則の内容を労働者の不利益につながるものに変更することを禁じています。
そのため労働契約法8条では労働条件の変更は使用者、労働者それぞれの合意が必要としています。
しかし、労働契約法10条に挙げるケースに該当する場合は、例外として労働者の合意なくして就業規則の不利益変更を認めています。
労働契約法10条を適用するにはいくつかの要件を満たさなければなりませんので、就業規則の不利益変更を検討する場合は、労働契約法10条の内容をよく理解しておきましょう。
今回は、労働契約法10条の規定による就業規則の変更条件や方法についてわかりやすく解説します。
▼そもそも労働契約法とは?という方はこちらの記事をご覧ください。
労働契約法とは?その趣旨や押さえておくべき3つのポイント
目次
【有期雇用契約の説明書】
1. 労働契約法10条の規定による就業規則の変更の条件
労働契約法10条では、本来であれば労使間の合意が必要な労働条件(就業規則)の変更について、以下2つの要件を満たせば、その変更を認めると定めています。
①就業規則の変更が合理的なものであること
②変更後の就業規則を労働者に周知させること
ここでは、それぞれの条件についてくわしく見ていきましょう。
1-1. ①就業規則の変更が合理的なものであること
労働契約法では、労働条件の変更は労使間の合意に基づくものであることを原則としていますが、変更内容が労働者の不利益につながるものの場合、合意を得るのは困難です。
しかし、企業側にもやむを得ない事情があり、労働条件の変更が妥当であると認められる場合は、労使間の合意がなくても労働条件および就業規則を変更することが可能となります。
就業規則の変更が合理的か否かは、主に以下の事情などに照らして判断されます。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更にかかる事情
就業規則の不利益変更は、労働者の生活に大きな影響をもたらす可能性があるため、それぞれの事情も厳格に判断されます。
特に「労働者の受ける不利益の程度」は、大きければ大きいほど厳しく判定され、容易には妥当性が認められません。
例えば、福利厚生や休職制度などの不利益変更よりも、労働時間や休日、休暇、昇給などにかかる不利益変更の方が労働者の受ける不利益の程度が大きくなるため、判定もより厳しくなります。
さらに賃金や退職金の減額については、よほどの事情がない限り、労働契約法10条でいうところの「合理的なもの」とは認められない可能性があります。
1-2. ②変更後の就業規則を労働者に周知させること
労働基準法106条では、就業規則に規定する決議を労働者に周知させることを義務づけています。
これは就業規則の作成時だけでなく、変更時も同様で、社内の見やすい場所に掲示したり、書面を交付したり、あるいは電子データとして保存して備え付けのパソコンでいつでも閲覧できるようにしたりと、さまざまな方法で周知させる必要があります。
関連記事:労働契約法9条が定める就業規則の変更の原則を詳しく紹介
2. 労働契約法10条の規定による就業規則の変更方法
就業規則の不利益変更には、不利益を被る従業員と個別に面談して同意を得たり、労働組合と労働協約を締結したりする方法もあります。
本来は労使間の合意を得て就業規則を変更するのが理想ですが、ここでは不利益変更の合意を得られず、労働契約法10条の規定に基づいて就業規則を変更する場合の方法をご紹介します。
2-1. 就業規則の変更方針を決める
自社の経営状況などを分析した上で、どの部分をどのように変更するか、その方針を決定します。
労働契約法10条に規定に基づき、変更内容に合理性が認められるか、変更によって従業員にどの程度の不利益が生じるか、などを念入りに確認します。
問題がなければ経営陣の合意を得て次のステップに移ります。
2-2. 労働者の代表の意見を聴く
労働基準法90条では、就業規則を変更するにあたって、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴くことを義務づけています。
たとえ就業規則の不利益変更について、労働者の合意を得られなかった場合でも、企業は変更後の就業規則を労働者の代表に提示し、必ず意見を聴取しなければなりません。
当然、労働者代表からは反対意見が出されますが、同法90条で規定しているのは、あくまで「意見を聴くこと」だけです。
労働契約法10条で規定された「合理的なもの」のみなされるだけの理由があれば、労働者の合意がなくても就業規則を変更することができますので、反対意見も含めて意見書を作成し、労働者代表に署名・捺印してもらいましょう。
2-3. 就業規則変更届を作成する
労働基準監督署のHPなどでダウンロードできる様式または会社で用意した様式を使用して、就業規則変更届を作成します。
就業規則変更届には、提出先の労働基準監督署の名前や、届け出る日付、変更前の内容と変更後の内容、事業所の名前や労働保険番号などを記載します。
2-4. 所轄の労働基準監督署に届け出る
以前の就業規則、新しい就業規則、就業規則変更届、意見書の4点を持参し、所轄の労働基準監督署に提出して届出をおこないます。
なお、それぞれの書類は写しも含めて2部ずつ提出しましょう。届出が受理されると、労働基準監督署の受付印を押印された上で、それぞれ1部ずつ返却されるので、控えとして会社で保管しておきます。
郵送で手続きする場合は、必要書類のほか、必要分の切手を貼った返送用封筒も同封して労働基準監督署に送付します。
2-5. 社内で就業規則の変更内容について周知させる
就業規則の変更部分について、全従業員に周知させます。
持ち帰った新しい就業規則の控えをコピーして配布しても良いですし、社内の目に見えるところに掲示したり、電子データ化して社内の備え付けパソコンに保管したりしてもOKです。
関連記事:就業規則の届出方法と具体的な手順を分かりやすく解説
3. 労働契約法10条の規定による就業規則の変更の注意点
労働契約法10条の規定に基づいて就業規則を変更する際に知っておきたい注意点を3つご紹介します。
3-1. 労働者に対して十分な説明をおこなう
労働契約法10条では、労働組合等との交渉の状況も正当性を考慮する際の大きな判断材料になります。
たとえ大きな反感を買うことがわかっていても、従業員に対して「なぜ就業規則の変更が必要なのか」「就業規則の変更によってどのような不利益が生じるのか」を丁寧に説明しなければなりません。
こうした手続きを省いて強引に就業規則の変更を進めると、訴訟になった際に「労働者と十分な協議をおこなわなかった」とみなされ、就業規則の変更が無効となるおそれがあります。
労働者の合意を得られなくても、事前にきちんと状況や事情を説明しておけば、従業員のモチベーション低下や訴訟のリスクを低減することができます。
3-2. いきなりの変更はNG
就業規則の不利益変更は容易におこなわれるべきものではなく、いわば最終手段のひとつといえます。
他に何の手立ても講じず、いきなり不利益変更をおこなうと、従業員の反感を買い、離職率や訴訟リスクの上昇につながります。
不利益変更をおこなう場合は、実行までに一定の経過措置を設けるか、あるいは不利益の程度を軽減するための何らかの代償措置を設けることを検討しましょう。
3-3. 労働契約の内容に注意
労働契約法10条が適用されれば、就業規則の不利益変更をおこなうことが可能ですが、一部例外として「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」については変更不可となります。
ただし、当該部分が就業規則で定める基準に達しない場合は、就業規則の変更と同時に、その部分も変更することが可能です。
4. 就業規則の不利益変更をおこなう場合は労働契約法10条をよく確認しよう
労使間の合意がない就業規則の不利益変更は、本来であれば認められませんが、労働契約法10条に規定された要件を満たしていれば変更をおこなうことが可能です。
ただ、合意のない不利益変更が認められるには「合理的なもの」と認められるだけの理由が必要不可欠です。
従業員が被る不利益の程度が大きくなるほど、合理的な理由の判定基準も厳しくなりますので、労働契約法10条に基づいて就業規則の不利益変更をおこなう場合は、変更の必要性や内容の妥当性などについてしっかり検討しましょう。
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