労働契約法14条における「出向」の意味や対応のポイント - ジンジャー(jinjer)|人事データを中心にすべてを1つに

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労働契約法14条における「出向」の意味や対応のポイント

労働契約

企業は社員に出向命令を出す状況に置かれたとき、労働契約法14条を正しく理解していないと命令自体が無効となる場合があります。 労働契約法の14条における出向についての意味や要件、出向命令をくだすときの対応ポイントを理解し、労働紛争やトラブルを防ぎましょう。

▼そもそも労働契約法とは?という方はこちらの記事をご覧ください。
労働契約法とは?その趣旨や押さえておくべき3つのポイント

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1. 労働契約法14条における「出向」とは?

出向

出向に対するイメージは人によって違うと思いますが、まず出向についてどのような意味を持つものなのかご説明します。

出向とは一般的に、企業と従業員の労働契約が維持された状態で、他の企業で働くことを指します。
企業は決められた要件を満たしている場合に限り、従業員に対して出向を命ずることが可能です。

出向する場合、対象社員の籍が置かれているところは出向元企業ですが、業務における指示を出す権利を持つのは出向先企業となります。

就業の環境が大きく変わるため、出向社員への影響も大きいと考えられることから、出向命令に関する規則が労働契約法14条で定められており、内容は以下のとおりです。

使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする

引用:【第3章 労働契約の継続及び終了】|厚生労働省

労働契約法14条は、企業が対象社員に出向命令を出すことができる状況でも、その命令が「権利の濫用」とみなされると出向の命令効力はなくなるということを意味しています。
出向命令により労使紛争が起こる可能性があるため、トラブル防止のためにも14条は重要な働きがあります。
権利の濫用は、労働契約法3条の第5項で「権利濫用の禁止の原則」として定められているものです。
実際のところ、権利を濫用しているかどうかはさまざまな事案に応じて判断されますが、一般的に命令の必要性や、社員の選定などの事情が配慮されます。

1-1. 出向は大きく2種類に分かれる

出向には「在籍型」と「移籍型」の2種類が存在します。
在籍タイプは、対象社員と企業との契約を保ちながら出向先の企業で仕事に就くことです。
対して移籍タイプは、出向元企業との雇用契約は解除されます。
移籍型は新しく雇用契約が結ばれるため、「転職」のように思われることがありますが、このタイプは転職のように個人の意思で決定されるものではなく、人事異動の一環でおこなわれている業務命令です。
労働契約法14条で指している出向とは「在籍型」です。

関連記事:労働契約法3条に定められた「労働契約の原則」を詳しく解説

2. 労働契約法14条における「出向命令」の要件

出向命令

企業が業務命令として社員に出向命令を出すためにはいくつかの要件が存在します。
ここでは3つの要件について解説しています。

2-1. 権利を濫用していないこと

「権利の濫用」は労働契約法14条の条文にも書かれている通り、出向において禁止されている重要事項です。
権利濫用の判断基準については、業務上の理由で本当に出向する必要があるのか、人選が適切であるか、出向先の労働条件に不利益がないか、対象者の生活状況などを考慮した上で判断されます。
具体的な例として、親の介護をしている社員が出向に応じて引っ越しが発生するがゆえに、介護が困難になるなどより著しい不利益を受け、出向が必ずしもその社員でなくても問題ない場合、権利の濫用に当たるため命令が無効となるケースもあります。

2-2. 法令違反がないこと

出向とは形態として「労働者供給事業」と同様です。
労働者供給事業は、職業安定法第44条で禁止されています。
そのため、出向を「業(ぎょう)」としておこなうと労働者供給事業に該当するため違法となります。
しかし、出向を人事異動の一環としておこなっていることがしっかりと定まっており、目的のある出向である場合、業(ぎょう)と扱われることはありません。

2-3. 就業規則に出向規定が設けられていること

最後に必要な要件は、就業規則や労働協約で出向に関する規定が設けられていることです。
出向に関する事項が社内の規則として定められており、出向先の労働条件によって出向社員に損が生じない場合で命令は認められています。

また出向の必要性においても社内規定によって定めておくことが必須であり、目的についても明らかにしておく必要があります。

  • 実務経験習得やキャリア形成のため(人材育成)
  • 経営戦略の指導や教育のため(人材戦略)
  • 子会社や他企業との関係性構築のため(企業同士の交流)
  • 会社の経営状況によって出向が必要になった時(雇用調整)

これ以外にも、例えば出向期間や復帰の条件なども定めておきましょう。
期間に法律的な決まりはありませんが、業務上必要ないと判断されるほどの長期間や合理性を欠く期間は、権利の乱用とみなされかねません。

必要に応じて出向期間を延長、短縮することも可能ですが、その場合は就業規則に「出向規定」が設けられていなければなりません。

関連記事:出向手当とは?重要性や相場をわかりやすく解説

3. 労働契約法14条における「出向命令」の対応ポイント

出向命令の対応

出向は左遷などのネガティブなイメージを抱く人もいるかもしれませんが、近年では大企業だけでなく中小企業でも取り入れているところが多いのが現状です。
なぜなら、出向は社員の職業能力向上に役立ったり、労働力が余っている場合解雇者を出さずに雇用を維持することができるからです。

適切な命令内容である場合、基本的に社員は出向の命令に従わなければなりません。
就業規則にに出向に関する事項があり、社員に周知されていれば本人の同意がなくても命令は効力を有します。
しかし、実際には本人の意思を事前に確認したり、出向の理由や労働条件をはっきりと示すなど順序立てをおこない、それから命令を出すケースが多いです。
本人に納得してもらうためにも手順を踏んで説明することは重要であり、出向命令をおこなう際の対応ポイントとなります。

最近では若手の出向社員を現場に送り、新しい環境で即戦力として育てることを目的とした企業も増えています。
出向元に籍を置いたまま新境地で数年経験を積み成長することができるといったポジティブな意味合いで捉えることができるよう社員に伝えることも大切です。

4. 労働契約法14条における「出向命令」には必ず従う必要があるのか

労働契約法14条の出向命令

出向命令は企業の一方的な都合や権利の濫用によっておこなうことが禁止されているため、これに該当する場合は拒否することが可能です。

しかし、反対に拒否することができない場合もあります。
先ほどご説明した出向命令の要件をクリアしている場合、企業は原則社員に同意を取る必要なく出向を命ずることができます。
対象社員はある日突然、出向辞令が出された場合、辞令の内容が妥当であれば拒否することができないのです。
妥当な命令において社員が拒否した場合、企業は懲戒処分をおこなうことも可能です。
労働契約の締結の際に出向について周知し同意している場合かつ、社員が著しい不利益を被らないとき、その命令内容は適切であるとみなされます。
この場合、出向を拒否した社員は業務命令違反として扱われるため、就業規則に規定されている懲戒処分の対象となります。

ただし、例えば育児や介護など家庭の事情がある場合は、労働者の生活に大きな影響を与え、不利益が生じる可能性があります。
労働契約法3条で定められている労働契約の原則では「仕事と生活の調和」が基本理念と規定されていますので、社員の事情は考慮されなければなりません。

5. 労働契約法14条における出向にはさまざまな目的がある

労働契約法14条で定められている「出向」は在籍型出向を指し、契約先は元企業として他の企業で働くことを意味しています。
出向は社員の心身に大きな影響を及ぼすため、妥当な出向命令でない限り無効とされる旨が、労働契約法14条の条文で示されています。
企業は権利を濫用せず、就業規則に出向規定について記載していることを前提とした上で、社員に出向辞令を出すことが可能ですが、出向先の諸条件や社員の生活を考慮して決定しましょう。
出向命令を下す前に今一度、規定や手続きについて正しく理解しておくことが大切です。

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