労働基準法第37条における割増賃金規定の正しい計算方法
時間外労働や休日出勤による賃金の割増は、全て労働基準法で定められた法令であり経営者の義務です。割増賃金の算出が正確でないと、残業代未払いといった労使トラブルの原因となります。労働者の就業実態を正確に把握し、適切に賃金を支給することを心掛けましょう。
この記事では労働基準法第37条で規定される割増賃金の内容や、その計算方法について詳しく解説します。
そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1. 労働基準法第37条とは
まずは労働基準法第37条がどのような内容なのか、条文や違反した場合の罰則などを確認していきましょう。
1-1. 割増賃金について定めた条文
労働基準法第37条は、労働者の法定時間外労働における割増賃金について定めた条文です。以下その一部を引用します。
使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
1-2. そもそも割増賃金とは
労働基準法第37条は、労働者が「法定労働時間を超えて労働した場合」「法定休日に労働した場合」「深夜時間帯に労働した場合」それぞれで、経営者に対して通常よりも多い賃金の支払いを義務付けるものです。これを「割増賃金」と言い、いわゆる「残業手当」や「休日手当」が該当します。
本来、経営者は法令で定められた規定を遵守し、労働者に過度な負担を与えぬようその労働を管理しなければなりません。止むを得ず法定外残業や休日出勤など負担の大きい労働を課した場合は、割増賃金によって補償するという考え方です。
1-3. 労働基準法第37条に違反した場合の罰則
労働基準法第37条に違反した場合は、労働基準法第119条の規定による罰則が適用される可能性があります。
労働基準法第119条では「6ヵ月の懲役または30万円以下の罰金」が罰則として定められているため、違反した場合は経営者にはこの罰則が科されるかもしれません。
知らなかったや間違えたは通用しないため、労働基準法を厳守て適切な賃金を支払うようにしましょう。
2. 割増賃金が適用されるのは法定時間外の労働
割増賃金が適用されるのは、「法定労働時間」を超えて労働した場合や「法定休日」に労働した場合です。会社の規則である「所定労働時間」や「所定休日」は割増の判断基準とはなりません。まずは労働時間における「法定」と「所定」の違いを理解しておきましょう。
2-1. 労働時間における2つの定義
労働者の労働時間には、労働基準法で定められた「法定労働時間」と会社ごとの就業規則で定められる「所定労働時間」という2つの定義があります。法定労働時間は、原則として「1日8時間、週40時間以内」です。
一方、「所定労働時間」とは、契約や就業規則で定められた会社ごとの労働時間を指します。法定労働時間の範囲内であれば、経営者の裁量で自由に設定可能です。
割増賃金の1つである残業手当は法定労働時間を超えた労働に対して支給されます。その日の労働が所定労働時間を超えていたとしても、法定労働時間内に収まっていれば割増賃金は発生しません。
例えば、1日の所定労働時間を6時間と定めている会社において、その日の労働が8時間だった想定します。この場合、所定労働時間からすると2時間の残業ですが、法定労働時間は超えていないため割増賃金は発生しません。1日の労働時間が9時間だった場合は法定労働時間を1時間超えるため、1時間分の割増賃金が発生します。
関連記事:労働時間とは?法律上の定義や上限、必要な休憩時間数についても解説
2-2. 「法定休日」と「所定休日」
休日についても同様です。労働基準法では「1週間に1日」の「法定休日」を設けることが義務付けられています。しかし、フルタイムの所定労働時間を設定している会社の場合、週1日の休日では法定労働時間との整合性が取れません。
そのため、法定休日とは別に会社が定める「所定休日」を設定し、週休2日とする方法が定着しました。法定休日を指定する規定はありませんが、週休2日制の企業であれば日曜日を法定休日、土曜日を所定休日とすることが一般的です。
ここでも休日手当の割増が発生するのは法定休日に労働した場合に限られます。所定休日の労働では賃金の割増はありません。しかし、フルタイムで働く労働者の場合、法定・所定問わず大抵の休日出勤で法定時間外労働による残業割増が発生します。
関連記事:労働基準法に定められた休日とは?そのルールを分かりやすく解説
3. 労働基準法第37条で規定される割増賃金の種類と割増率
労働基準法第37条に規定される割増賃金が発生するのは以下に該当する場合です。
- 法定労働時間を超える労働(残業割増)
- 法定休日の労働(休日割増)
- 深夜労働(深夜割増)
それぞれの割増率は労働基準法により定められており、一律ではありません。なお、複数の割増に該当するケースでは、それぞれの割増率を足し算した率で賃金を算出します。
3-1. 法定労働時間を超える労働(残業割増)
法定労働時間を超えて労働した分の賃金には残業割増が適用されます。割増率は25%以上です。
また、その月の法定時間外労働が60時間を超えた場合、それ以降の法定時間外労働には50%の割増が適用されます。この場合、深夜割増と重なったら割増率は75%以上となります。
休日には法定労働時間がないため、休日労働の際に残業割増がつくことはありません。
残業は労働者側の負担も大きく、企業側も通常よりも多い賃金を支払わなくてはならないため、労働者の残業時間、就業時間を適切に管理することを心掛けましょう。
3-2. 法定休日の労働(休日割増)
法定休日に労働した労働者に対しては休日割増が適用されます。割増率は35%以上です。前述のように、所定休日の出勤では休日割増は発生しません。
どの休日を法定休日として扱うかは会社の自由です。仮に法定休日を特定の曜日に設定しなくても違法ではありません。しかし、特定の曜日を法定休日と定めておく方が賃金計算も明確になり、業務上も管理しやすくなるでしょう。
また、1日8時間、週40時間のフルタイムで働く労働者の場合、休日出勤は必然的に法定時間外労働に該当します(病欠等の理由でその週の労働時間が40時間に満たない場合を除く)。その場合は所定休日の労働であっても残業手当の支給が必要です。
関連記事:休日出勤は残業に含まれる?残業時間の数え方と賃金計算方法
3-3. 深夜労働(深夜割増)
深夜の時間帯(22時~翌5時)に就業している労働者には深夜割増が適用されます。割増率は25%です。
深夜割増は深夜労働をおこなった全ての労働者に適用されます。一部の管理職のような法定労働時間や法定休日の適用除外に該当する労働者も対象です。
4. 労働基準法第37条に基づく割増賃金の計算方法
割増賃金の金額は以下の式で算出します。
割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×割増率×時間外労働(休日労働、深夜労働)時間
計算式そのものは決して難しいものではありません。しかし、計算の間違いは労働者の賃金に直接影響するため、正確性が求められます。
4-1. 1時間あたりの基礎賃金の算出方法
まずは該当する労働者の「1時間あたりの基礎賃金」を算出します。算出方法は以下の通りです。
1時間当たりの基礎賃金=その月の所定賃金額÷その月の所定労働時間
なお、基礎賃金を算出する際は、以下の7項目に限り所定賃金から控除できます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時で支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
これらは労働とは直接の関係がない手当であるという理由で控除が認められるものです。これらに該当しない手当についての控除は認められていません。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など基本を解説
参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」
4-2. 複数の割増賃金が該当する際は割増率を合計する
割増率は、その時間帯で該当する割増がすべて適用されます。金額を算出する際はそれぞれの割増率を合算した数値で計算しなければなりません。
例えば、所定労働時間が9時~18時の会社で、始業時間から23時まで働いたとします。この場合、18時以降の労働が時間外労働となるため、割増率は25%です。さらに22時以降の勤務には深夜割増の25%も適用されるため、22時~23時の1時間の割増率は25%+25%=50%として算出します。
4-3. 法定外労働の実態を把握する
割増賃金を正しく算出するためには、労働者の法定外労働の実態を正しく把握しなければなりません。何時まで残業をしていたのか、いつ休日出勤したのか、深夜労働に該当する勤務はあったのかなど、記録を参照し確認していきましょう。
タイムカードなどの電子情報が残っていれば確認は簡単です。記録が残っていない場合でも、オフィスの警備開始時間や、交通系ICカードの利用時間などからおおよその勤務時間が確認できる場合があります。
5. 労働基準法第37条を遵守するためによくある質問
5-1. アルバイトも割増賃金の対象になる?
アルバイトやパートの労働者も、時間外労働、休日労働、深夜労働に対して割増賃金が支払われる義務があります。
特に、法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えた場合、事業者は割増賃金を支払わなければなりません。ただし、アルバイトは通常、勤務時間や日数が少ないため、法定労働時間を超えないことが多く、結果として割増の対象にならないケースが多いことに注意が必要です。
5-2. ダブルワーク・副業をしている場合の割増賃金の計算はどうする?
ダブルワークや副業を行っている場合の割増賃金の計算は、両方の労働時間を合算して行います。
具体的には、従業員の本業と副業の所定労働時間を通算し、その結果が自社の法定労働時間を超えるかどうかを確認します。もし超える場合は、後から契約を結んだ事業者が、その超過部分について時間外労働の割増賃金を支払う義務を負います。
さらに、兼業を開始した後は、各事業者における所定外労働時間も考慮し、自社の法定労働時間を超える部分を把握することが重要です。このように、各勤務先の労働時間を正確に把握し、適切な割増賃金の支払いを行う必要があります。
なお、副業が個人事業主やフリーランスの場合は、労働基準法の対象外ですので通算の対象にはなりません。
6. 割増賃金の計算を正確におこない、間違いのない支給をしよう
労働基準法第37条は、時間外労働や休日労働の割増賃金について規定された条文です。割増賃金の計算が正しくおこなわれなかった場合、残業手当の未払いを始めとした労使トラブルの原因になります。
法律によって罰則も規定されているため、労働環境を守るだけでなく、会社や経営者を守る意味でも厳守しなければいけない法律です。
労働者一人ひとりの勤務記録を確認し、適切な割増賃金の支給を実施しましょう。
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