労働時間とは?労働基準法の定義や休憩時間との関係を判例を交えて解説
更新日: 2026.4.27 公開日: 2020.3.20 (特定社会保険労務士)

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にある時間を指します。しかし実務では、始業前の準備作業や終業後の後片付け、研修、待機時間などが労働時間に含まれるのか、判断に迷うケースも少なくありません。
解釈を誤ると、未払い残業代の発生や是正勧告などのリスクにつながる可能性があります。さらに昨今では、テレワークやフレックスタイム制など働き方が多様化しており、労働時間管理の重要性は高まっていく一方です。
本記事では、人事・労務担当者向けに、労働基準法における労働時間の定義や休憩時間との関係、判例を踏まえた判断基準をわかりやすく解説します。
関連記事:労働時間と労働基準法の基礎知識をわかりやすく解説!休憩や残業の計算方法とは
目次
「勤務間インターバルの義務化はいつから?」「導入するためには何が必要?」など、今後の対応に迷われている方も多いのではないでしょうか。
勤務間インターバル制度の法規制強化が検討されている今、企業にはこれまで以上の対応が求められています。
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1. 労働時間とは?労働基準法における定義と基本ルール


まずは労働時間の定義や類似語と違いなど、労働時間を正しく理解するために基本知識を解説します。
1-1. 労働時間の定義
労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。これは就業規則で定められた時間かどうかではなく、客観的に見て使用者の指揮命令下にあったかどうかによって判断されます。
また、使用者の明示的な指示だけでなく、職場の慣行や業務上の必要性などによる黙示の指示のもとでおこなわれた作業も、労働時間に含まれる点に注意が必要です。つまり、会社から明確な指示がなくても、実際に業務をおこなわざるを得ない状況であれば、その時間は労働時間とみなされ、賃金支払いの対象となります。
労働時間の判断を誤ると、思わぬ未払い残業が発生するおそれもあるので、労働時間の定義を正しく理解し、適切に管理することが重要です。
労働時間に該当するか否かの判断軸となる判例を3章「労働時間に含まれる?含まれない?判例を交えて解説」にて解説しています。あわせてご覧ください。
1-2. 法定労働時間と所定労働時間の違い
労働時間は、「法定労働時間」と「所定労働時間」の2種類に分けられます。
法定労働時間とは、労働基準法第32条で定められている労働時間のことで、「1日8時間・週40時間」までとされています。法定労働時間を超えた労働は、原則として認められていません。会社が従業員に残業をさせる場合には、36協定の締結など、法律上の手続きが必要となります。
一方、所定労働時間とは、いわゆる「定時」のことで、会社が就業規則や雇用契約で定める労働時間を意味します。所定労働時間は、法定労働時間の範囲内であれば、会社が自由に設定できるため、必ずしも8時間とは限りません。
例えば、定時が次のような会社のケースを考えてみましょう。
始業:9時
終業:17時
休憩:12時~13時
この場合の所定労働時間は「7時間」です。
なお、所定労働時間を超えて働いた場合でも、法定労働時間を超えない限り、法律上の時間外労働には該当せず、割増賃金の支払い義務も発生しません。
1-3. 労働時間と似た用語(勤務時間や拘束時間など)との違い
「就労時間」「就業時間」「勤務時間」「拘束時間」など、労働時間と似た言葉を見かけるかもしれません。これらの用語は、法律上の明確な定義があるわけではなく、会社や文脈によって使われ方が異なります。
一般的には、次のように整理すると理解しやすいでしょう。
- 労働時間
使用者の指揮命令下に置かれている時間を指し、休憩時間を除いた実際の労働時間です。残業時間も含まれます。 - 就労時間・就業時間・勤務時間
法律上の定義はありませんが、実務上は「労働時間」とほぼ同じ意味で使われることが多い用語です。会社によっては、所定労働時間や始業・終業時刻を指して使われる場合もあります。 - 拘束時間
始業から終業までの時間を指し、休憩時間を含めた「会社に拘束されている時間」を意味します。
このように、似た用語でも会社ごとに意味が異なる場合があります。就業規則や社内資料でこれらの言葉が使われている場合は、自社でどのような意味で定義されているかを確認しましょう。
2. 法律で定められている労働時間の上限規制


労働時間には、労働基準法で定められた上限があります。会社が上限を超えて従業員を働かせた場合、法律違反となるおそれがあるので、人事担当者は正確に時間管理をしなくてはなりません。
ここでは、労働基準法に基づく労働時間の上限規定について、原則ルールと36協定の仕組みを整理して解説します。
2-1. 労働基準法第32条で定める労働時間上限は1日8時間・週40時間
労働基準法第32条では、法定労働時間は「1日8時間・週40時間」までと定められています。原則として、会社はこの時間を超えて従業員を働かせることはできません。
ただし、業務の都合などにより、やむを得ず法定労働時間を超えて労働させる必要がある場合には、36協定を締結し、労働基準監督署への届け出によって時間外労働が可能になります。
関連記事:労働時間の上限は週40時間!法律違反にならないための基礎知識
なお、残業には次の2種類があります。
- 法定内残業:所定労働時間を超えているものの、法定労働時間の範囲内に収まっている時間
- 法定外残業:法定労働時間を超えて働いた時間
このうち、労働基準法上の「時間外労働」にあたり、36協定が必要となるのは法定外残業の時間です。また、法定外残業については、割増賃金の支払いも義務付けられています。割増率は次のとおりです。
- 月60時間以内の法定外残業:25%以上
- 月60時間超の法定外残業:50%以上
関連記事:残業による割増率の考え方と残業代の計算方法をわかりやすく解説
2-2. 残業をさせるためには36協定が必要
法定労働時間を超えて従業員に残業をさせる場合、会社は36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を締結し、労働基準監督署へ届け出なくてはなりません。
そして、36協定を締結していても、時間外労働には上限があります。原則として、時間外労働は、次の範囲内に収めなければなりません。
- 月45時間以内
- 年360時間以内
限度を超えた長時間の残業は法律違反による処罰の対象になります。「気が付いたら上限を超えていた」ということがないような管理が必要です。人事・労務担当者は、勤怠管理システムなどを活用して残業時間を適切に管理しましょう。
当サイトでは、労働時間でよくいただく質問についてまとめた資料を無料で配布しています。労働時間について詳細まで確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
関連記事:36協定なしの残業は違法!残業時間の上限や超えたときの罰則などを解説
2-3. 特別条項付き36協定の上限
臨時的な業務など、特別な事情がある場合には、特別条項付き36協定の締結によって、原則の上限(月45時間・年360時間)を超えた残業をさせることが可能です。
ただし、無制限に残業をさせられるわけではありません。次の条件を満たす必要があります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働+休日労働の2~6ヵ月平均が月80時間以内
- 月45時間を超える時間外労働は年6ヵ月まで
これらは、長時間労働による健康障害を防ぐために設けられた上限規制です。特別条項付き36協定を締結している場合でも、上限を守った運用が求められます。
3. 労働時間に含まれる?含まれない?判例を交えて解説


先に述べたとおり、労働時間は労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。
しかし実際にはどこまでが「使用者の指揮命令下」にあたるのか、判断が難しいケースも少なくありません。ここでは、具体的な事例を挙げながら、労働時間の範囲について判例や行政解釈も踏まえて整理します。
3-1. 労働時間に含まれるもの
労働時間には、必ずしも実際に業務をおこなっている時間だけが含まれるわけではありません。会社の指示や業務上の必要性によって拘束されている場合には、労働時間と判断される可能性があります。代表的な例は、次のとおりです。
参考:労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い|厚生労働省
- 始業前の準備作業(朝礼・着替えなど)
業務開始に向けて必要な準備作業は、労働時間に含まれます。
三菱重工長崎造船所事件(最高裁判決)では、会社から着用を義務付けられた作業服や保護具の着脱に要する時間について、「就業を命じられた業務の準備行為」にあたるとして、労働基準法上の労働時間に含まれると判断しています。
-
- 参加が義務付けられた研修・勉強会
研修や勉強会、セミナーの時間は、原則労働時間となります。厚生労働省のリーフレットでも、業務命令による研修は労働時間として扱う必要があるとされています。ただし、次の基準のいずれにも該当する場合のみ、労働時間となりません。
-
-
- 拒否権があること
- 参加しなかった場合に不利益な取り扱いを受けないこと
- 業務に直結せず、参加の有無が給与等の労働条件に直結しないこと
-
- 手待ち時間(待機時間)
作業をしていなくても、業務が発生するまで待機している時間も、労働時間と判断される場合があります。荷物の到着当番や、休憩時間中の電話番などが該当します。
大星ビル管理事件(最高裁判決)では、仮眠時間中でも緊急対応のために待機している状態であれば、「労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される」として、労働時間に該当すると判断されました。
- 業務指示による移動時間
行政通達(昭和33年2月13日基発90号)では、基本的には移動時間は労働時間に該当しないとされています。ただし、業務命令に基づく移動の場合は、労働時間と判断される可能性があります。
総設事件(東京地裁判決)では、従業員が会社に集合して会社の車両で現場まで移動する時間について、「始業時間前に事務所へ来ることを実質的に指導されていた」として、労働時間に該当すると判断されました。
3-2. 労働時間に含まれないもの
一方で、労働者が会社の指揮命令から離れ、自由に利用できる時間は、原則として労働時間には該当しません。代表的な例は、次の通りです。
- 通勤時間
自宅から会社までの通勤時間は、通常は使用者の指揮命令下にあるとはいえないので、労働時間には含まれません。 - 自主参加の研修
会社が参加を義務付けていない研修や勉強会、サークル活動は、原則として労働時間には該当しません。ただし、「3-1. 労働時間に含まれるもの」で記載のとおり、実質的に参加が強制されているとみなされる場合などは、労働時間と判断される可能性があります。 - 労働者の判断による早出
従業員が自発的に早く出勤している場合、その時間は原則として労働時間には含まれません。ただし、会社が黙認して業務がおこなわれている場合には、労働時間と判断される可能性があります。 - 労働から完全に解放された仮眠時間
労働から完全に解放されて自由に利用できる仮眠時間は、労働時間には該当しません。一方で、仮眠時間であっても、緊急対応などの待機義務がある場合は労働時間となる場合があります。
3-3. 労働時間に含まれるかどうかの整理
実務で問題になりやすい労働時間のケースを整理すると次のとおりです。
|
ケース |
労働時間 |
判断ポイント |
|
作業服の着替え(義務あり) |
含まれる |
業務の準備行為 |
|
始業前の朝礼 |
含まれる |
業務命令 |
|
参加義務のある研修 |
含まれる |
指揮命令下 |
|
手待ち時間(待機時間) |
含まれる |
業務待機 |
|
業務指示による移動 |
含まれる場合あり |
業務命令 |
|
通勤時間 |
含まれない |
指揮命令下ではない |
|
自主参加の勉強会 |
含まれない |
任意参加 |
|
任意の早出 |
含まれない |
使用者の指示なし |
|
完全に自由な仮眠時間 |
含まれない |
労働から解放 |
4. 労働時間と休憩時間の関係


休憩時間とは、「労働者が使用者の指揮命令から離れ、自由に利用できる時間」と定義されています。労働時間と休憩時間は密接に関係しており、継続労働による疲労を防ぎ、従業員の健康を守ることが目的です。
労働基準法第34条では、一定時間以上働く場合、労働時間の途中に休憩時間の付与が義務付けられています。
ここでは、労働基準法に基づく休憩時間の基本ルールを確認していきます。
4-1. 労働基準法で定められた休憩時間のルール
休憩時間は、1日の労働時間数に応じて付与すべき時間が決まっています。
労働基準法第34条では、休憩時間について次のように定められています。
-
- 労働時間が6時間を超える場合:休憩時間45分以上
- 労働時間が8時間を超える場合:休憩時間1時間以上
会社は、従業員が適切に休憩を取れるよう配慮しなければなりません。休憩時間中に業務をおこなわせた場合、その時間は労働時間として扱われるので、改めて別の時間帯に休憩を与えるなどの対応が必要になります。
4-2. 休憩時間は労働時間に含まれない
休憩時間は、労働者が業務から解放されて自由に利用できる時間であるため、原則として労働時間には含まれません。
例えば、勤務時間が9時~18時で休憩が1時間の場合、会社にいる時間は9時間ですが、労働時間は休憩を除いた8時間となります。給与計算でもこの8時間を基準に計算します。
ただし、休憩時間中であっても、「電話番をする」「来客対応を求められる」「上司の指示にいつでも対応する必要がある」といった場合は、労働から完全に解放されているとはいえません。使用者の指揮命令下にあると判断されると、労働時間と扱われ、賃金の支払いが必要となる可能性があります。
関連記事:労働時間に休憩は含まれる?労働基準法での休憩時間の定義と計算ルールを解説
4-3. 雇用形態に関わらず与える必要がある
休憩時間のルールは、雇用形態に関わらずすべての労働者に適用されます。正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員なども対象です。
また、休憩時間は労働時間の途中に与えることが義務付けられている点にも注意しましょう。
ただし、労働基準法上の管理監督者には、労働時間・休憩・休日の規定が適用されないため、休憩を与えなくても法律違反にはなりません。しかし、労働安全衛生法上、管理監督者も「労働時間の適正な把握」は義務となっています。健康管理や業務効率の観点から、管理監督者に対しても適切に休憩を取れる環境の整備が望ましいといえます。
関連記事:労働時間の上限規制は管理職にもある?管理監督者との違いを理解しよう
4-4. 一斉に取得させる必要がある
労働基準法では、休憩は原則として一斉に与えることとされています。これは、従業員が確実に休息を取れるようにするためです。
ただし、業務の性質上、一斉に休憩を与えることが難しい場合もあるでしょう。その際には、労使協定の締結によって、一斉付与の例外が認められます。
また、次のような特定の業種では、一斉付与の原則が適用されません。
- 運輸交通業
- 商業
- 金融、保険業
- 映画、演劇業
- 通信業
- 保健衛生業
- 接客娯楽業
- 官公庁の事業
このように、労働基準法には、従業員の健康確保と業務の効率を両立させるための仕組みが設けられています。
参考:10 労働時間及び休憩の特例 (法第40条)|厚生労働省
5. 労働時間の正しい計算方法と具体例


労働時間の計算は、勤怠管理や給与計算の基礎となる重要な業務です。計算方法を誤ると、未払い残業代の発生や労働基準法違反につながるおそれがあります。
ここでは、労働時間の正しい計算方法と注意点を解説します。
5-1. 労働時間の計算手順
労働時間は次の手順で計算します。
- 1日ごとに労働時間(始業~終業の記録)を確認する
- 休憩時間を差し引いて実際の労働時間を求める
- 遅刻・早退がある場合は、その時間を差し引く
- 1日8時間を超えた時間を「法定外残業」として計算する
- 4.を除いて、週40時間を超えた時間を「法定外残業」として計算する
1日の労働時間が法定の8時間以内であっても、1週間の労働時間の合計が週40時間を超えた場合は時間外労働となる点に注意が必要です。例えば、1日7時間勤務を週6日おこなうと、合計42時間となり、週40時間を超えた「2時間」は法定外残業として計算しなければなりません。
5-2. 労働時間の計算は1分単位と端数処理に注意
労働時間は、原則として1分単位で計算する必要があります。そのため、15分単位や30分単位で労働時間を切り捨てる運用は違法となり、未払い賃金の請求につながる可能性があります。
ただし、1ヵ月単位で時間外労働・休日労働・深夜労働の合計時間を計算する際には、次のような端数処理が可能です。
- 合計30分未満:切り捨て
- 合計30分以上:1時間に切り上げ
これは、必ずしも従業員に不利になるものではなく、事務処理の簡便化を目的とした方法として認められています。
参考:労働時間を適正把握し正しく賃金を支払いましょう|厚生労働省
関連記事:労働時間を1分単位で計算する原則はいつから?労働時間の把握の義務化を解説
5-3. 労働時間の計算の具体例
ここでは、労働時間の計算を具体例で確認します。
■所定労働時間が1日8時間の場合
始業9時、終業18時(休憩1時間)の従業員が20時まで勤務した場合
(20時 - 9時) - 休憩1時間 = 労働時間10時間
この場合、法定労働時間を超える2時間が法定外残業となり、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
■所定労働時間が1日6時間の場合
始業9時、終業15時(休憩0時間)の従業員が20時まで勤務した場合
(20時 - 9時) - 休憩1時間 = 10時間
※定時通り6時間勤務であれば休憩は不要ですが、実際の労働時間が8時間を超えているため、1時間の休憩を付与しています。
この場合の内訳は次のとおりです。
- 6時間:所定労働時間
- 2時間:法定内残業(割増不要)
- 2時間:法定外残業(割増対象)
労働時間の計算方法について、こちらの記事でより詳しく解説しています。
関連記事:労働時間の計算の仕方や注意点を正社員・パート別に例を交えて解説
6. 労働時間の適切な管理方法


労働時間の適切な管理は、労働基準法を遵守するだけでなく、従業員の健康を守るうえでも重要です。ここでは、労働時間を正確に把握し、適切に管理する方法と注意点を解説します。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
6-1. 客観的な方法で把握する
労働時間は、原則として客観的な方法による把握が求められます。厚生労働省のガイドラインでは、次のような方法が例示されています。
- 使用者が自ら現認して確認する方法
- タイムカード・ICカード・PC使用時間など、客観的な記録に基づく確認する方法
しかし実務では、すべての従業員の労働時間を「使用者が自ら現認して確認する方法」は現実的ではありません。そのため、勤怠管理システムを導入し、客観的な記録を活用する方法がおすすめです。
勤怠管理システムを活用すれば、
- PC・スマートフォン・ICカード・生体認証などによる打刻
- 労働時間のリアルタイム把握
- 法定内・法定外残業時間の自動集計
- 36協定の上限を超えそうな従業員のアラート通知
などが可能になり、労働時間の適正管理や長時間労働の抑制に役立ちます。
6-2. 自己申告制を導入するうえでの注意点
自己申告制は、前述した「客観的な方法での労働時間の把握」が難しく、やむを得ない場合に限り、例外的に認められている方法です。ただし、厚生労働省のガイドラインでは、自己申告制は不適切な運用が生じやすい点に注意が必要とされています。
自己申告制を導入する場合は、従業員に対して労働時間の記録方法や申告ルールを十分に説明するとともに、入退館記録やPCログなどの客観的データと照合し、実際の労働時間との乖離がないかの確認が重要です。
また、残業時間の申告上限を設けたり、残業申請がない時間を労働時間として認めないといった運用は、労働時間の過少申告を招くおそれがあります。自己申告制を採用する場合でも、会社には労働時間を適切に把握する責任があるので注意が必要です。
参考:リーフレット『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』|厚生労働省
6-3. 労働時間管理を怠った場合のリスク
労働時間の管理が不十分な場合、会社にはさまざまなリスクが生じます。代表的なのが未払い残業代の発生です。労働時間を正しく把握していないと、割増賃金の支払い不足が生じ、従業員から過去にさかのぼって請求される可能性があります。
また、時間外労働の上限を超えた場合には、36協定違反として労働基準監督署から是正勧告や指導を受けることもあるでしょう。
さらに、長時間労働が常態化すると、従業員の健康障害や労災認定につながるおそれもあります。悪質な場合には会社名の公表がされ、企業イメージの低下や採用への悪影響など、経営面のリスクにも発展しかねません。
このようなトラブルを防ぐためにも、労働時間を正確に把握し、日常的に管理する体制を整えましょう。
6-4. 長時間労働に対する安全配慮義務
会社には、従業員が健康で安全に働ける環境を整える安全配慮義務が課されています。特に長時間労働が続く場合には、従業員の健康状態に配慮し、必要な対応を取ることが求められます。
労働安全衛生法に基づき、時間外労働・休日労働が1ヵ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる従業員が申し出た場合、会社は医師による面接指導を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条の8)。面接指導では、従業員の健康状態や過労のリスクを評価し、必要に応じて勤務時間の短縮や業務内容の見直しなど、具体的な措置を検討します。
また、従業員の健康を守るためには、単に法律上の義務を果たすだけでなく、日常的な労働時間の管理や長時間労働の抑制策が不可欠です。例えば、フレックスタイム制や在宅勤務の活用、業務の効率化による残業削減、定期的な健康相談の実施などが考えられます。従業員の健康維持だけでなく、会社のリスク管理の観点からも欠かさないようにしましょう。
参考:医師による長時間労働面接指導実施マニュアル|厚生労働省
関連記事:労働時間の短縮による課題とその対策をわかりやすく解説
労働時間管理で多いトラブルは、「実際の労働時間と会社が把握している時間が一致していない」ケースです。例えば、残業申請がないため残業として扱っていない、自己申告の時間をそのまま鵜呑みにしている、といった運用は未払い残業代の原因となりやすい傾向があります。
そのため、タイムカードや勤怠管理システムなどの客観的な記録を基礎にすることがおすすめです。さらに、PCログや入退館記録などのデータと突合できる仕組みを整え、勤怠記録との乖離がある場合には、その理由を本人に申告させると、さらに強固な体制となります。この運用は、労基署調査への対応やIPO準備の労務監査においても、有効な労働時間管理の証跡となります。
7. 多様な働き方と労働時間の考え方


近年、働き方の多様化に伴い、従来の「1日8時間・週40時間」という枠組みだけでは対応しにくい働き方が増加傾向です。さまざまな働き方に対応するために、労働基準法では一定の条件のもとで、労働時間の管理を柔軟にできる制度が設けられています。
ここでは、代表的な制度である変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制・みなし労働時間制について、労働時間の考え方を簡単に整理します。それぞれの制度の詳細は、関連記事も参考にしてください。
7-1. 変形労働時間制における労働時間
変形労働時間制とは、一定期間を平均して週40時間以内に収まる範囲であれば、1日ごとの労働時間を柔軟に設定できる制度です。
変形労働時間制を活用すると、繁忙期には1日10時間働き、閑散期には6時間勤務にするなど、業務量に応じて労働時間を調整できます。変形労働時間制の種類は次のとおりです。
- 1ヵ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
関連記事:変形労働時間制とは?1ヵ月・1年単位の違いや導入方法をわかりやすく解説
7-2. フレックスタイム制における労働時間
フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)においてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、従業員が日々の始業・終業時刻を自由に決められる制度です。
例えば、「月の総労働時間を160時間」というように設定し、その範囲内で働く時間を調整します。コアタイム(必ず勤務する時間帯)を設ける場合と、完全に自由なスーパーフレックス型の運用もあります。
フレックスタイム制では、1日単位ではなく清算期間全体で労働時間を管理することが特徴です。
関連記事:フレックスタイム制とは?導入手順や企業が知っておくべきメリット・デメリット
7-3. 裁量労働制・事業場外みなし労働時間制における労働時間
裁量労働制や事業場外みなし労働時間制は、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社と従業員の間で取り決めた時間を働いたものとみなす制度です。
裁量労働制は、次の2つのタイプがあります。
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
いずれのタイプも、業務の進め方や時間配分の具体的な指示が難しく、従業員の裁量に委ねる必要がある職種に適用されます。実際の労働時間に関係なく、労使協定などで定めた時間を働いたものとみなして賃金を計算します。
一方、事業場外みなし労働時間制は、営業職などのように会社の外で働く時間の把握が難しい場合に適用される制度です。これらの制度では、通常の労働時間管理とは異なる考え方が必要となるため、制度の内容や適用条件の正しい理解と運用が求められます。
関連記事:裁量労働制とは?2024年法改正のポイントと適用できる職種、メリットやデメリットを解説
8. 労働時間の基本を理解して適切な管理をしよう


労働時間とは、従業員が使用者の指揮命令下で働いている時間を指します。始業前の準備作業や研修、待機時間なども状況によっては労働時間に含まれるため、正しい判断が重要です。労働時間の把握や計算を誤ると、法令違反による未払い賃金の発生や従業員とのトラブル、場合によっては裁判に発展するおそれがあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、労働時間の正確な定義を理解したうえで、日常的に適切に管理する体制構築が欠かせません。
客観的な記録に基づく適正把握には、勤怠管理システムの活用が有効です。勤怠管理システムと給与計算ソフトと連携させれば、労働時間の集計から給与計算・支払いまでを一元化し、業務の効率化が可能になります。労働時間の基本を正しく理解し、自社に合った方法で適切な労働時間管理をおこなっていきましょう。
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