労働基準法5条による「強制労働の禁止」の意味や違反の罰則
更新日: 2025.11.21 公開日: 2021.10.4 jinjer Blog 編集部

労働基準法5条で定められている「強制労働の禁止」では、労働者の意思に反して働かせる行為を禁止しています。違反すると「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科されますが、労働基準法で定められた罰則のなかでも最も重いものです。ここからは労働基準法5条の意味を詳しく理解しながら、違反しないようにするための取り組みも紹介していきます。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
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1. 労働基準法5条による「強制労働の禁止」とは?


第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
引用:労働基準法|e-Gov法令検索
労働基準法5条には、「強制労働の禁止」に関して定められています。簡潔にいうと、労働者を身体的または精神的に拘束し、意思のない労働をさせてはならないという法律です。
ここでは労働基準法第5条の「強制労働の禁止」の意味を詳しく解説していきます。
1-1. 使用者は労働者を無理に働かせてはならない
労働基準法5条で定められている「強制労働の禁止」により、使用者は労働者を無理に働かせてはなりません。
無理にというのは、脅迫したり、暴行を加えたり、監禁したりなど危害を加え、労働者の働く意思がないまま働かせることを指します。
要点は以下の2つです。
- 不当な身体的または精神的拘束
- 労働者の意思に反する労働
例えば退職する意思がある社員に対し、退職時の賠償金を要求する旨を伝え、退職させない企業は労働基準法5条(場合によっては労働基準法16条「労働契約不履行に関する賠償予定」)に違反する可能性があります。
また借金制度や強制貯蓄、長期労働契約なども、労働基準法5条を違反している可能性があります。不当な拘束は必ずしも法律違反の行動とは限らず、経済を理由にした合法的な行為も当てはまります。いずれにせよ、働く意思のない労働者を無理に働かせてはなりません。
関連記事:労働基準法第16条の賠償予定の禁止とは?違反の罰則や例外
1-2. 強制労働の禁止は憲法18条を法律化したもの
憲法18条には「奴隷的拘束および苦役からの自由」が明記されています。奴隷的拘束とは、「タコ部屋労働」と呼ばれていた監禁および強制的な肉体労働や、人身売買などが当てはまります。
労働基準法5条「強制労働の禁止」はこの憲法18条を法律として明記したもので、労働者と使用者の関係を表し、労働者の権利を守るために制定されました。
2. 労働基準法5条に違反するとどうなるか


労働基準法5条に違反すると、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科されます。
労働基準法の中では特に重い罰則であり、思わぬところで労働基準法5条を違反していないか注意しなければなりません。
本章では労働基準法5条の罰則と、実際にあった事件を一部ご紹介します。
2-1. 労働基準法違反とはどういうことか
労働基準法では労働条件について、以下のとおり定めています。
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
引用:労働基準法|e-Gov法令検索
労働基準法5条に違反するとどうなるかを考える前に、まずは労働基準法を違反するとはどういうことなのか理解しましょう。ここで定義を理解してしまえば別の条文でも理解が深まりやすくなります。
労働基準法第1条(労働条件の原則)において、労働条件の基準は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものと規定されています。たとえ会社が就業規則等で独自のルールを定めたとしても、その規定は労働基準法で定めている基準を下回らせてはいけません。
労働基準法を守らない場合、隠していた場合は、会社に対して労働基準法違反に対する罰則が与えられます。これが、労働基準法に違反するという意味です。
2-2. 労働基準法5条「強制労働の禁止」による罰則
労働基準法5条に違反すると、企業(使用者)側に以下いずれかの罰則が科せられるおそれがあります。
- 1年以上10年以下の懲役
- 20万円以上300万円以下の罰金
上記の他にも、労働基準法には以下の罰則がありますが、労働基準法5条違反の罰則が一番重い罰則です。
- 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 30万円以下の罰金
ちなみに1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金が科されるのは、労働基準法5条のみであり、強制労働の罪の重さがよく分かります。
2-3. 労働基準法5条に違反し労働者が通報した場合
労働基準法を違反した場合の多くは、労働者が行動を起こして違反行為が明らかになります。
例えば、以下が挙げられます。
- 労働基準監督署への通報
- 総合労働相談コーナーへの相談
- 弁護士への相談
2つ目の総合労働相談コーナーは厚生労働省が運営している機関で、助言だけでなく場合によっては労働基準監督署へ取り次がれます。
また労働基準監督署は立ち入り調査だけでなく犯罪捜査・逮捕・送検の権限も持っている機関です。立ち入り調査も事前通告なしでおこなわれるので、日頃から労働基準法に違反していないか細心の注意が必要です。
3. 思わぬところで労働基準法5条を違反していた事例


日本では暴力行為や監禁行為による強制労働は少なくなりましたが、経済的な理由による拘束や、世界各国での強制労働はまだ数多く存在します。
また複数企業を通して商品を仕入れている場合、その下請けとなっている企業が労働基準法5条に違反していた例もあり、過去にも子供服を手がける衣料品メーカーが人権団体から糾弾されたことがあります。
糾弾されたのは2017年の1月です。取引先の専門商社が管理しているミャンマーの下請け企業や製造工場で、劣悪な労働環境での就労や賃金の一部未払いが発生しており、衣料品メーカー側でこの状況を把握していなかった例です。
弁護士による声明を受け、8月にはCSR調達方針・サプライヤー行動規範を改定し、取引先企業に対して徹底的な周知をおこないました。
最近では、ウイグル族強制労働問題が話題になっていますが、強制労働が明らかになると企業イメージのダウンや不買運動による利益の減少など、売上そのものの低下が否めません。
労働者の権利を尊重するとともに、精神的拘束を意図せずおこなわないよう注意が必要です。
4. 強制労働にあたらないケース


強制労働にあたらないケースは、本人の自由な意思に基づき労働契約が結ばれている場合に限られます。具体的には、労働者がいつでも退職の自由を持つことが最も重要な要素です。
例えば、企業が従業員に対し「辞めるなら損害賠償を請求する」と脅すことは、退職の自由を侵害するため強制労働とみなされます。しかし、労働契約の期間を定めている場合でも、やむを得ない事由があればいつでも退職できるため、通常は強制労働にはあたりません。
また、従業員が自由に退職できる環境を整備し、退職の意思表示を妨げないことも重要です。労働者の自由な意思が尊重され、本人の選択によって働き続けられる状況であることが、強制労働ではないと判断される基準となります。
5. 強制労働につながりやすい業種


強制労働につながりやすい業種は、労働者の立場が弱く、使用者側が圧倒的に強い力を持つ傾向にある分野です。特に、外国人労働者や技能実習生が多数を占める業種ではリスクが高まります。具体的には、建設業、農業、漁業、製造業などが挙げられます。これらの業種では、長時間労働や過酷な労働環境が常態化しやすく、労働者が契約内容を十分に理解しないまま働かされたり、パスポートを預けさせられたりするケースもあるでしょう。
また、労働者が借金を抱えていて、返済のために辞められない状況に陥る債務労働も問題視されています。これらの背景から、労働者が外部に助けを求めることが困難になり、強制労働につながるリスクが高くなるのです。
6. 労働基準法5条を守るためやるべきこと


労働基準法5条「強制労働の禁止」を守るために、企業側では労働者の意思を尊重するのが大切です。
具体的には、以下の3つの行動が挙げられます。
- 労働者を身体的または精神的に拘束しない
- 相談できる場を設ける
- 退職の意思は尊重する
本章では労働基準法5条を守るためにすべきことに関して、詳しく解説していきます。
6-1. 労働基準法5条を守るために、労働者を身体的または精神的に拘束しない
労働基準法5条で明言されている、暴力・脅迫・監禁行為が発生しないように心がけましょう。
企業の責任者に強制労働に関する行為がなくても、上司や同僚などから暴行を受けている場合があります。社内で労働基準法が遵守されるよう、従業員に周知する取り組みも大切です。
6-2. 社内で問題が発生した場合にすぐ対応できるように、相談できる場を設ける
前項に少し繋がりますが、被害に遭った従業員がすぐ相談できるよう、またその実態を即座に把握できるよう、相談窓口や相談専用の課を設けるのも有効な手段となります。
強制労働に関する相談以外にも、残業の強制や、ハラスメント行為など柔軟に対応できるようにするのがおすすめです。
6-3. 労働者の退職意思を尊重する
日本でよく見かけるのが、労働者の退職意思を無視して働かせ続ける例です。多くは経済的な理由による拘束が発生し、それにより労働者は働く意思のないまま働かなければなりません。
この際、次の2項目に該当し、労働基準法5条違反となる場合があります。
- 企業側による拘束が発生している
- 労働者が意思に反して働かせられている
退職の意思は必ず尊重し、違反行為を未然に防ぎましょう。
7. 思わぬところで労働基準法5条「強制労働の禁止」に違反しないように注意しよう


ここまで労働基準法5条を解説してきました。日本では戦前などに比べれば明らかな強制労働の禁止に違反する行為が減りましたが、最近では精神的な拘束を伴う事例が多いそうです。
特に経済的拘束をおこなうと5条だけでなく、16条「賠償予定の禁止」、17条「前借金相殺の禁止」、18条「強制貯金の禁止」に違反する可能性もあります。
また取引先の企業や、社内の従業員が労働基準法を犯さないように法律の周知も大切な取り組みです。
日本における強制労働は、戦前と比較して減少しましたが、近年では精神的な拘束を伴う事例が増加しています。労働基準法第5条は、このような強制労働を明確に禁じています。
特に注意すべきは、経済的拘束です。これは第5条だけでなく、第16条「賠償予定の禁止」、第17条「前借金相殺の禁止」、第18条「強制貯金の禁止」にも抵触する可能性があります。
企業は、取引先や従業員が意図せず法律を犯すことのないよう、これらの規定を社内で周知徹底することが重要です。コンプライアンス意識を高めることは、健全な企業活動を維持し、法的リスクを回避するための不可欠な取り組みと言えます。



人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
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- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
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