労使協定の確認方法や周知する義務について解説
多くの企業で締結する労使協定ですが、労使協定の種類によっては、締結しただけでは効力がしないものもあります。
それらの労使協定の効力を発揮させるには、労働基準監督署への届け出と、労働者全員へ、定められた形での周知が必要です。
本ページでは、経営者様や人事担当者様にむけて、労使協定の確認方法と周知義務について、掘り下げて解説します。届け出が必要な労使協定の種類についてもお話しますので、ぜひお役立てください。
関連記事:労使協定の基礎知識や届出が必要なケース・違反になるケースを解説
目次
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1. 労使協定の確認方法
労働基準法には、労使協定や就業規則に対して「周知義務」というものがあります。就業規則や労使協定の内容を、事業場の労働者が確認できるように、定められた方法で明示する義務です。
そのため、労使協定の内容を確認することは難しくありません。以下のいずれかの形で社内や事業場内で交付・掲示されているでしょう。
- 事業場にいる労働者全員に書面で交付されている
- 事業場の分かりやすい場所に掲示されている
- 事業場の労働者全員がいつでもアクセスできるデジタルデータになっている(イントラネット、ハードディスクなど)
労使協定が結ばれているにも関わらず、これらの方法で確認できない場合は、後述する「労使協定の周知義務」が守られていない可能性があります。
2. 労使協定の周知義務
労使協定の周知義務には、周知内容・周知方法にルールがあり、違反した場合は罰則が発生します。周知が必要な項目と、正しい周知方法を見ていきましょう。
2-1. 周知が必要な項目
ほとんどの場合、労使協定単独ではなく、その他の労働基準法で定められた周知義務のある要項と並べて周知されます。
- 労働基準法と労働基準法による命令などの要旨
- 就業規則
- 労使協定(締結した種類すべて)
- 労使委員会の決議
上記4項目が労働基準法で周知義務が定められている項目です。
労使協定は、時間外労働、休日労働に関する労使協定(36協定)や労働者の貯蓄金の管理に関する労使協定など、締結した種類をすべて記載しなくてはいけません。
2-2. 周知方法
労使協定の周知方法は、労働基準法106条の労働基準法施行規則第52条の2に以下の通り定められています。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
- 書面を労働者に交付すること。
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
事業所の労働者がいつでも自由に確認できる場所への掲示、あるいは交付をすることが重要です。
例えば、以下のような対応が適切でしょう。
- 休憩室や事務所など、労働者が自由に出入りできる場所に掲示する
- 必要事項が記載された書類を労働者に配布する
- 社内サーバーをはじめ、労働者が自由にアクセスできる場所にアップロードする
ただし、書類の配布やデジタルデータ化をする場合、社外への持ち出しが可能になってしまいます。持ち出しを禁止する場合は、規制を行うか、デジタルデータであればコピーやダウンロード制限をするなどの対応が必要です。
2-3. 周知したと認定されない例
労使協定の周知は、経営者が「したつもり」になっているだけではいけません。形として残すことが重要です。
- 全従業員が集まる朝礼中に口頭で説明した
- ホワイトボードに書いてその後記録せずに消した
- 社長室に就業規則と労使協定を掲示した
- 役員のみがアクセスできるエリアにファイルをアップロードした
これらは周知したと認定されない可能性が高いです。
すべての従業員が自由に閲覧でき、内容を任意のタイミングで確認できる環境を整えましょう。
3. 労使協定を周知するタイミング
労使協定は締結、または内容の変更を行った内容を周知する義務があります。しかし、周知するタイミングに関しては、明確に定められていません。
多くの企業では労使協定の締結後すぐに周知を行います。その理由は、周知しない場合は労使協定の内容が効果を発揮しない可能性があるからです。
例えば、繁忙期に備えて労使協定の1つである36協定を締結し、法定時間を超えた残業を可能にしたとします。しかし、周知を忘れたまま繁忙期に突入してしまうと、法定時間を超えた残業が可能になったことを、労働者は知らないままです。そうすると、経営者側が残業を命じることが違法になる可能性が出てきます。
労使協定の周知時期に定めはないものの、効果を発揮させたい時期までに周知を行うことが重要です。特に内容を変更した際の周知は、混乱を招く可能性もあるため、可能な限り余裕を持って周知を行いましょう。
4. 派遣会社にも労使協定の周知義務がある
ここまでは一般企業での労使協定の周知義務についてお話をしてきました。形態の違う派遣会社でも周知義務があり、その範囲や周知方法には一般企業と異なる部分があります。
4-1. 労使協定を周知する範囲
派遣会社で労使協定を周知する範囲は「派遣元事業主」が雇用する「すべての労働者」です。派遣社員として別の企業で働く人はもちろん、内勤のスタッフに対しても労使協定の周知義務が発生します。
近年は派遣労働者の待遇が法改正によって改善されました。それに伴い、労使協定の内容が変更される場合は、内勤のスタッフも知ることになる点を考慮しなくてはいけません。全従業員の待遇に、格差が出ないように調節することも重要です。
4-2. 派遣会社の労使協定周知方法
派遣会社の労使協定周知は、以下のいずれかの方法をとる必要があります。
- 書面による交付(書面・電子メール・ファクシミリなど)
- 電子計算機(パソコン)に備えられたファイルや磁気ディスク(イントラネット内や特設ページなど)
- 派遣元事業主の各事業場への常時掲示
1と2は一般企業での周知方法と同じです。3も似ていますが、事業場が複数ある場合はすべての事業場への掲示が必要になります。本社にのみ掲示していても、周知義務を果たしていることにはならない点に注意が必要です。
5. 労使協定の届け出にも要注意
労使使協定の中で最も有名な36協定も届け出が必要です。労使協定を結ぶほとんどの企業が締結していますので「労使協定を結んだら届け出が必要」だと考えてもよいでしょう。また、これらの届け出は変更時にも必要です。
就業規則とセットでの変更も必要になります。正しく公平な労働を維持するためにも、就業規則と労使協定の締結・届け出・周知はセットで行うようにしましょう。
関連する労働基準法 | 労使協定の種類 |
第18条 | 貯蓄の管理に関する協定 |
第32条の2 | 1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定 |
第32条の4 | 1年単位の変形労働時間制に関する協定 |
第32条の5 | 1週間単位の非定型変形労働時間制に関する協定 |
第36条 | 時間外・休日労働に関する協定(36協定) |
第38条の2 | 事業場外労働に関する協定 |
第38条の3 | 専門業務型裁量労働制に関する協定 |
第38条の4 | 企画業務型裁量労働制に関する協定 |
また補足として、事業場外労働については事業場外のみなし労働時間が法定労働時間を超えた場合にも届出が必要になります。さらに、「フレックスタイム」については清算期間が1ヵ月を超える場合には労使協定の届出が必要です。
6. 労使協定は届け出と周知をセットで正しく行おう
労使協定は、経営者だけが知る条件や規則、無理な労働などの発生を防ぎ、労働者が公平な条件で働くために必要なものです。そのため、届け出と周知を行わなければ効力を発揮しません。
一部の労使協定には届け出の義務はありませんが、周知は必要です。必ず正しい方法で労働者全員に周知し、不満やトラブルが発生しない、すべての従業員が納得したうえで健全に働ける職場を目指しましょう。
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