社会保険の遡り加入をすべきケースや支払い方法について
社会保険は、2年まで遡って加入できます。
従業員に未加入の時期があれば、加入手続きを行いましょう。
この記事では、厚生年金・健康保険の遡り加入が必要なケース、保険料の支払い方法や還付請求、会社が社会保険に未加入だったときの遡及適用を解説します。
▼社会保険の概要や加入条件、法改正の内容など、社会保険の基礎知識から詳しく知りたい方はこちら
社会保険とは?概要や手続き・必要書類、加入条件、法改正の内容を徹底解説
目次
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社会保険料は従業員の給与から控除するため、ミスなく対応しなければなりません。
しかし、一定の加入条件があったり、従業員が入退社するたびに行う手続きには、申請期限や必要書類が細かく指示されており、大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
さらに昨今では法改正によって適用範囲が変更されている背景もあり、対応に追われている労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
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1. 未加入時期があれば社会保険の遡り加入を行う必要がある
加入条件を満たしているなら、遡って加入が必要です。
1-1. 加入要件を満たした時期まで遡って加入が必要
社会保険の未加入が発覚したら、通常、加入条件を満たす時期まで遡って加入しなければいけません。
遡って加入する際は、当時の法律と照らし合わせて、加入条件を満たしているか確認しましょう。
1-2. 遡り時期の指定はできない
なお、遡り加入の時期は会社や従業員が指定できるものではありません。
法律上の条件を満たした時が加入時期となります。
1-3. 遡り加入時期の確認方法
社会保険の遡り加入の手続きをする際は、雇用の実態が加入条件にあっているか、客観的に証明できる書類も必要です。雇用契約書など、当時の労働条件が把握できる書類があれば、その内容を元に遡り時期が特定できます。
しかし、人手不足により徐々に労働時間が超過し、結果的に社会保険の加入条件を満たして働かせていた従業員の場合は、勤務簿や賃金台帳から、加入時期を特定する必要があります。
1-4. 国民年金の遡り加入は従業員自身で手続きが必要
なお、国民年金も免除や納付猶予、学生納付特例期間があれば遡って加入できます。
ただし、国民年金の追納ができる期間は状況により異なります。
手続きは従業員自身で行う必要があるため、問い合わせを受けたら、年金事務所で手続きを行うように案内しましょう。
2. 遡及できる期間には時効がある
社会保険(厚生年金保険・健康保険)は条件を満たした時から全て遡って加入できる訳ではありません。
遡りできる期間は「請求のあった日から2年まで」と、厚生年金保険法 第92条 第1項により定められています。
例えば、2018年から社会保険の加入条件を満たして働いている従業員がいたとしても、実際に遡って加入できるのは、2020年分からということになります。(2022年時点)
2-1. 遡り加入が必要な社会保険の加入要件
現行の法律では、下記の要件に該当する従業員は、社会保険への加入が義務付けられています。
- フルタイム勤務の従業員
- 労働時間がフルタイム勤務の3/4以上の従業員
また平成28年からは特定事業所で働く短時間労働者は、下記の条件を満たす短時間労働者も社会保険に加入しなければいけません。
- 1週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金の月額が88,000円以上
- 雇用期間が2ヶ月を超えること
- 学生でない
これらの条件に該当するようになったときから、2年間遡って社会保険への加入が可能となります。
また、段階的に特定事業所の範囲が拡大されていくため、加入漏れのないように注意しましょう。
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3. 社会保険遡り加入時の支払い方法
遡って社会保険に加入した場合、その分の保険料は一括して支払う必要があります。
例えば月給10万円の従業員では、会社と本人の負担額、両方合わせて約1万8千円が保険料額となります。
これを24カ月分一括で支払うとなると、43万2千円になります。
もし、同じ条件の従業員が複数名いる場合は、その分も合わせて支払わないといけません。
3-1. 遡り加入の支払いは、会社が全額立て替えを行う
未納分の社会保険料は一括支払いを基本とし、さらに、金額はいったん、会社が全額立て替えなくてはいけません。
その後、従業員に本人負担分を請求する流れとなります。
なお、従業員の給与から控除するのは原則として前月分で、多くの保険料を控除してしまうと生活ができなくなってしまう恐れもあるため、本人負担分をどのように支払うか本人との調整も必要となります。
4. 社会保険遡り加入時の保険給付の返還について
国民年金は申請により還付を受けられるため、年金事務所などで手続きをするよう、従業員に説明しましょう。
4-1. 健康保険の還付は手続きが複雑なため注意
健康保険の場合、遡及することで管轄する保険者自体が変わるため、年金保険以上に手続きが複雑となります。
もし、遡及する間に健康保険を利用していた場合、保険給付分(医療費の7割)を先に旧保険者(市区町村の国民健康保険など)に支払い、支払い証明を受けなければいけません。
その後、新保険者に保険給付分(医療費の7割)を請求する流れとなります。
手続きが複雑であり、さらに通院などをしていた場合は、支払額も高額となるため、従業員と話し合い、処理方法を検討しましょう。
5. 会社が社会保険に未加入時だったときの遡及適用
通常、厚生労働省(日本年金機構)の立ち入り検査が行われ、強制的に加入手続きを取られた場合、2年間分遡って社会保険料の支払いが必要となります。
しかし、自ら手続きを行った場合は、新規適用の扱いとなり、遡及適用は発生しないとされています。[注1]
[注1]厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取組|日本年金機構
5-1. 自主加入
社会保険の適用事業所は速やかに届け出を行い加入しましょう。
年金事務所から指導を受ける前に自主的に加入した場合、通常、届け出を出した日が新規適用日とみなされるため、遡及適用は行わないとされています。
郵送や電話などで加入案内が来ているときは、無視せず、早めに加入手続きを行いましょう。
5-2. 加入指導
加入案内を行っても応じない事業所には、年金事務所職員による加入指導が行われます。
加入指導では、書面や電話だけでなく、会社への個別訪問により、制度説明や納付金額、提出書類の案内が行われます。
指導に応じ、この時点で加入した場合は通常、新規適用の扱いとなります。
5-3. 立入検査
度重なる加入指導にもかかわらず、手続きを行わない事業所には、立ち入り検査の末、強制的に加入手続きが行われます。立入検査により加入手続きが行われた場合、過去2年分の遡及適用が行われます。
さらに、勤務実態について虚偽の報告をするなど、悪質な場合は、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が課されるもあります。
5-4. 適用事業所への調査
適用事業所になった後も、従業員の報酬月額が間違っていたり、算定基礎届が未提出であったり、勤務管理がずさんな事業所には指導や指摘が行われます。
指摘したにもかかわらず適切な届け出がなされない場合は、遡及加入が命じられるケースもあります。
6. 遡り加入が発生しないよう、日々の勤怠管理を適切に行おう
しかし、遡り加入をすれば健康保険の還付請求など、多くの手間が発生します。
業務を円滑に進めるためにも、勤怠システムなどで日々の管理を正確に行い、適用漏れのないようにすることが大切です。
また、管理がずさんな事業所は適用指導も強化されるため、特に注意しましょう。
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