試用期間でも雇用保険に加入させるべき?必要性や注意点を紹介
更新日: 2025.7.18 公開日: 2022.9.21 jinjer Blog 編集部

試用期間は、企業が採用した人材に対し、一定の能力や適性を持っているかどうかを見極めるために設ける期間です。
試用期間中は解約権留保付労働契約となり、客観的かつ合理的な理由があれば採用を見合わせる(解雇する)ことが可能です。
そのため、試用期間中はわざわざ雇用保険に加入させなくても良いのでは?と考える企業も多いようですが、実際には一定の要件を満たしている場合、加入が義務づけられます。
今回は、試用期間中における雇用保険への加入の必要性や、加入の必要がないケース、試用期間の雇用保険に関する注意点について解説します。
目次
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 試用期間でも雇用保険に加入させる必要はある?

まずは試用期間中に雇用保険に加入させる必要があるのか、その点を明確にしておきましょう。違反した場合は罰則もあるため、正しく理解しておく必要があります。
1-1. 特別な場合を除き加入が必要
結論から言うと、試用期間中であっても雇用保険に加入させる必要があります。
そもそも雇用保険に関しては、労働者を雇用する事業は、その事業や規模などを問わず、すべて適用事業とみなされます。そのため、適用事業に雇用される労働者は、雇用保険の被保険者となります。
ここでいう「雇用される労働者」とは、事業主の支配下で労働を提供し、その対象として報酬を得ている人のことです。
なおかつ、以下1と2のいずれにも該当する場合は、雇用保険の被保険者となるため、事業主は管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に、当該従業員が被保険者になった日の属する月の翌月10日までに雇用保険被保険者資格取得届を提出する義務があります。
以下いずれかに該当する場合により、31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
- 期間の定めがなく雇用される場合
- 雇用期間が31日以上である場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止めの明示がない場合
- 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
なお、1と4については、当初の雇用時に31日以上雇用されることが見込まれない場合であっても、その後に31日以上雇用されることが見込まれることになった場合は、その時点で雇用保険が適用されます。
焦点となるのは、試用期間中の労働者が上記1と2の要件に当てはまるかどうかです。
試用期間は採用した人材が業務において、一定水準の能力や適性を有しているかどうかを見極めるために設けるもので、労働時間や労働内容は原則として正社員に準じます。試用期間の長さは会社によって異なりますが、おおむね3ヶ月と規定しているケースがほとんどです。
以上の点から、試用期間中の労働者は1および2のいずれの要件も満たしていると考えられ、雇用保険への加入は必須となります。
参照:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
1-2. 未加入の場合は罰則を科される可能性がある
雇用保険の加入条件を満たしているにもかかわらず、加入をさせていない場合は罰則を科される可能性があります。
その場合は懲役6ヵ月以下、または30万円以下の罰金が科されることになります。不注意や失念による手続きの遅延であると認められた場合は、こうした罰則が即座に適用されるとは限りません。
しかし、どのような理由であっても雇用保険の未加入は問題になるため、電子申請も活用してできるだけ迅速に加入手続きを済ませましょう。
電子申請を活用するメリットは、提出先に出向いたり郵送する手間が省けるため手続きのスムーズな進行が可能になる点です。昨今では導入する企業が増えている中ではありますが、一方で「電子化というとなんだか準備が大変そう…」「電子申請を導入するために何からはじめたらいいのかわからない…」とお悩みも多いのではないでしょうか。
そんな方に向けて、当サイトでは社会保険の電子申請の手引きを無料配布しております。資格取得時の手続き方法をわかりやすくまとめているため、参考にしたい方はこちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
2. 雇用保険に加入させる必要がないケース

試用期間中は原則として雇用保険に加入させる必要があると説明しましたが、以下の要件に該当する場合は雇用保険の適用除外になります。
2-1. 1週間の所定労働時間が20時間未満
1週間の所定労働時間が20時間未満である場合、雇用保険の加入要件である「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」に該当しないため、適用除外となります。
たとえば週5日勤務の従業員の場合、1日あたりの所定労働時間が4時間未満の場合は雇用保険に加入させる必要はありません。
これは雇用形態を問いません。ほとんどがパートやアルバイト従業員に該当する適用除外条件ですが、雇用条件によってはそのほかの働き方でも該当する場合があります。
また、判断基準は「所定労働時間」です。休憩時間の取り扱いや法定労働時間との混同をしないように注意しましょう。
2-2. 同じ職場で31日以上働く見込みがない
雇用契約書に31日未満で労働契約を終了する旨が明記されていた場合は、雇用保険の加入要件である「雇用期間が31日以上である場合」「雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止めの明示がない場合」のいずれにも該当しないため、雇用保険の適用除外にとなります。
ただし、試用期間はもともと人材採用を前提とした制度であるため、あらかじめ31日未満で労働契約を終了する旨を明記することは事実上あり得ません。
また、試用期間中に客観的かつ合理的な事由とみなされる重大な問題が発生し、やむを得ず解雇することになった場合も同様です。契約時点で31日以上引き続き雇用することを見込んでいる場合、雇用保険が適用されるため要注意です。
2-3. 4ヶ月以内の期間を予定しておこなわれる季節的事業への雇用
雇用保険は原則として31日以上、同じ事業所で引き続き雇用される見込みがある場合に適用となります。しかし、1ヶ月以上の雇用実績があっても、もともと4ヶ月以内の期間を予定しておこなわれる季節的事業だった場合、雇用保険の適用除外になります。
たとえば、海水浴場が営業している間だけ海の家で働いている、冬場だけスキー場の運営に携わっているなどのケースが該当します。
こうした季節的事業は雇用期間が31日を超えたか否かにかかわらず、短期雇用とみなされるため、雇用保険への加入は不要です。
2-4. 昼間学生である場合
昼間学生とは、言葉の通り昼間学校に通っている学生を指します。一般的な学生はすべて昼間学生に該当するため、ほとんどの場合学生には雇用保険が適用されません。
ただし、通信課程の学生や夜間・定時制の学生は雇用保険の加入条件を満たします。また、昼間学生であっても、休学中であったり、卒業後に入社することが決まっている場合は加入対象です。
学生だからという理由で無条件に雇用保険に加入させていないと、問題なる恐れがあります。「学生=雇用保険に加入させなくてよい」と安易に判断してはいけません。必ずどのような学校の学生なのかを確認し、正しい判断をしましょう。
3. 試用期間中に雇用保険未加入にするリスク

試用期間中だからといって従業員を雇用保険に加入させないと、会社側にとっても従業員本人にとってもさまざまなリスクがあります。
ここでは試用期間中の雇用保険について特に注意したい未加入のリスクを4つ紹介します。
3-1. 【従業員側のリスク】必要な支援を受けられなくなる
雇用保険とは、労働者の生活や雇用の安定、就職の促進のために、失業した人や教育訓練を受ける人に対し、失業給付を支給する制度です。
雇用保険に加入していれば、失業中でも一定の給付金を受け取れるため、その間に次の職場を探すことができます。
雇用保険に加入していないと、失業給付金を受け取ることができず、契約の解除と同時に従業員は収入源を断たれてしまいます。
試用期間を経て、残念ながら本採用を見送ることになったとしても当該従業員が生活に困窮しないよう、雇用保険に加入させて適切な支援を受けられるようにすることが大切です。
3-2. 【企業側のリスク①】罰則の対象になる可能性がある
加入要件を満たしていながら、試用期間中の従業員を雇用保険に加入させなかった場合、雇用保険法第7条に規定する「被保険者に関する届出」に違反したとみなされ、ハローワークから是正勧告や指導を受けるおそれがあります。
指導や勧告を受けても改善されなかった場合は、雇用保険法第83条の1に基づき、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。
失念や不注意が原因である場合は罰則には至らないケースが多いですが、故意であったり、繰り返されたりする場合はこの罰則が適用されるかもしれません。知らなかったでは済まされないため、正しい対応を心がけましょう。
3-3. 【企業側のリスク②】追徴金や延滞金を課せられる
雇用保険の加入要件を満たしている従業員がいるにもかかわらず、保険に加入させていなかった場合、未加入が発覚した時点で追徴金や延滞金を請求される可能性があります。
従業員を雇用保険に加入させるのは事業主の義務であるため、延滞金や追徴金は会社側の負担になることもあります。
従業員1人を短期間未加入にしてしまった場合は、こうした追徴金や延滞金は少額で済みます。しかし、発見が遅れて複数人や長期間未加入の従業員が出てしまった場合は、支払う金額が大きくなります。
会社側の負担も大きくなるため、不安な場合は雇用保険が適用されていない従業員の勤務状況を確認し、間違いを発見できるようにしましょう。
3-4. 【企業側のリスク③】イメージダウンにつながる
雇用保険に加入させないまま試用期間中の従業員を働かせた場合、法や規則を遵守しない不誠実な企業として、マイナスイメージを抱かれるおそれがあります。
消費者や金融機関などからの信用が損なわれるのはもちろん、今後の人材募集にも影響を及ぼし、優秀な人材を確保しにくくなる可能性があります。
近年はSNSで情報が瞬く間に拡散されます。従業員とのトラブルや労働基準監督署からの勧告もすぐに発覚する可能性があり、事実とは異なる情報が広まってしまうことも少なくありません。
クリアな企業のイメージを損なわないためにも雇用保険の取り扱いには十分な注意が必要です。
4. 雇用保険への加入を忘れてしまった場合の対処方法

試用期間中に従業員の雇用保険加入を忘れていた場合、迅速かつ適切に対応することが求められます。
まず、問題が発覚した時点で速やかにハローワークへ連絡を入れ、必要な手続きを開始します。その際、事情を説明した上で申請すると多くの場合2年以上は過去に遡って保険料を支払うことが可能であり、これによって従業員の権利を保障するために必要な書類や証拠書類を正確に準備しましょう。場合によっては、弁護士に相談し、正しい方法で対応することも考慮に入れます。
また、従業員に対しても事情を説明し、該当期間分の権利が確保されることを確認します。
企業や従業員が抱えるリスクを最小限に留めるため、早期対応が重要です。再発防止策として、従業員の入社時に雇用保険の加入手続きを確実にするためのチェックリストを作成するなどの対策も講じることが推奨されます。
5. 加入条件を満たす従業員は試用期間中でも雇用保険に加入させよう

雇用保険は契約形態にかかわらず、加入要件を満たしているすべての労働者に適用されるものです。たとえ試用期間中でも、加入要件を満たしていれば、雇用保険に加入させる必要があります。
加入要件を満たしているにもかかわらず、雇用保険に未加入のまま働かせた場合、従業員の今後に支障を来すほか、事業主が罰則の対象となることもあり得ます。
新しく人材を採用し、試用期間を設ける場合は、雇用保険の加入要件を満たしているかどうかをきちんと確認しましょう。
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
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- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
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