外国人の年末調整は必要?扶養や帰国者、退職者の取り扱いも解説!
更新日: 2025.11.21 公開日: 2021.2.4 jinjer Blog 編集部
グローバル化が進むなかで、日本で働く外国人が増えてきています。初めて外国人の従業員を雇う場合、年末調整に迷うことがあるでしょう。
外国人の年末調整は日本人と異なる点が多々あります。本記事では、外国人の年末調整の手続き方法や注意点についてわかりやすく解説します。ミスなく正確に年末調整の手続きを済ませられるようにポイントをつかみましょう。
年末調整の全体像を知りたい方は、次の関連記事をご覧ください。
目次
令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「アルバイトやパート、退職者に年末調整は必要?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、令和7年分の年末調整に必要な書類から対象者、計算の流れまで、年末調整に関する基本的な業務を図解でわかりやすくまとめた資料を無料で配布しております。
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1. 外国人も年末調整が必要


外国人でも従業員であれば、原則として年末調整が必要です。ただし、外国人は、日本国内における住所や居所(生活の本拠ではないが実際に住んでいるところ)の有無によって、年末調整の対象かどうかの判別が必要となります。また、課税対象となる所得の範囲などにも違いがあり、日本人と全く同様には進められません。ここでは、年末調整の対象となる外国人の条件を解説します。
1-1. 外国人で年末調整の対象となる人
年末調整は、原則として給与の支払者である企業に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しているすべての従業員が対象です。国籍は関係なく、外国人であっても要件に該当すれば、年末調整の対象となります。
具体的には、外国人で次の条件に当てはまる方は、年末調整の手続きが必要です。
- 日本での現地採用で、ほかの日本人と同じ給与形態・雇用契約の方
- 駐在員で給与は海外払いだが、国内で所得税の課税となる給与や現物支給などを受けている方(海外払いの給与分は年末調整の対象外になる)
- 年の途中で海外の支店へ転勤したため、非居住者となった方(出国までの所得が年末調整の対象になる)
1-2. 帰国・退職した場合
外国人が帰国した場合は、原則として出国時点で年末調整をおこないます。年末調整の対象となる人として、「帰国により居住者から非居住者になった場合」と定められているためです。居住者・非居住者とは、所得税法における個人の区分のことを指します。国内住所の状況により、次の3つの区分があります。
個人の区分 定義 課税所得の範囲 居住者 非永住者以外の居住者 次のいずれかに該当する個人のうち非永住者以外の者
・ 日本国内に住所を有する者
・ 日本国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者国内および国外において生じたすべての所得 非永住者 居住者のうち、次のいずれにも該当する者
・ 日本国籍を有していない者
・ 過去10年以内において、日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である者国外源泉所得以外の所得および国外源泉所得で日本国内において支払われ、または国外から送金されたもの 非居住者 居住者以外の個人 国内源泉所得
国内に在住する外国人の場合、原則として居住者に該当します。居住者が年の途中で出国し非居住者となった場合は、出国の時点で年末調整をおこなわなければなりません。通常の年末調整と異なり、年の途中で手続きが必要になるため注意しましょう。
なお、年の途中で退職した場合には年末調整をおこなう必要はありません。転職先の企業で年末調整をおこなうか、従業員自身で確定申告をすることになります。
2. 日本人と外国人の年末調整の違い


外国人の従業員が居住者や非永住者の場合は、日本人の従業員とほぼ同様の手続きです。しかし、保険料控除や国外扶養親族の取り扱いなどに違いがあります。手続きの違いを確認しましょう。
2-1. 保険料控除
保険料控除とは、従業員が加入する社会保険や生命保険、地震保険などに支払った保険料に応じて、その年の所得を控除する仕組みです。次の4種類の控除があります。
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
控除対象は、日本の社会保険や日本企業と契約した生命保険などの保険料です。外国の社会保険制度や外国企業との間で契約を締結した保険は、原則として日本では所得控除できません。
関連記事:年末調整の社会保険料控除とは?対象となる保険や計算方法を解説
関連記事:【令和7年分】保険料控除申告書の書き方を解説|申請時の注意点も紹介
2-2. 扶養家族が国外にいて送金している場合
国外に住んでいる親や子供などの親族を扶養控除の対象とする場合、次の資料が必要です。
- 親族関係書類(国外にいる家族が扶養控除を受ける対象者の親族だと証明できる書類)
└戸籍附票のコピーまたは国や地方公共団体が発行した書類および国外居住親族の旅券のコピー
- 送金関係書類(国外に居住する親族の生活費や教育費などに充てるため、海外へ送金していることを証明する書類)
- 外国送金依頼書の控えまたはクレジットカードの利用明細書(家族カードなどで、送金の事実と商品などの購入が証明可能なもの)
資料が外国語の場合は翻訳文も必要です。必要な書類を揃えるには時間がかかるため、対象となる従業員には早めに案内しましょう。
関連記事:【令和8年分】扶養控除等(異動)申告書とは?書き方や提出の必要性をわかりやすく解説
2-3. 租税条約による特例
租税条約とは、二重課税を防ぎ、課税関係を整理するための国家間の取り決めです。条約の内容は締結相手国によって異なります。条約の内容によっては、所得税等の免除を受けられる場合があります。
租税条約の適用を受けるには、企業経由で税務署へ「租税条約に関する届出書」を提出します。
3. 外国人の年末調整で必要な書類と書き方
外国人の年末調整の場合、日本人従業員の年末調整書類に追加で必要になる書類や、申請書の書き方が異なる書類があります。まず、追加で必要になる書類は次の6つです。
- 在留カードのコピー
- 親族関係書類
- 送金関係書類
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
ここでは、外国人の年末調整をおこなう際に必要となる6つの書類と、書き方を確認します。
3-1. 在留カードのコピー
在留カードとは、日本に中長期間滞在する外国人に交付される書類です。交付された外国人が適法に在留する資格を有する証明書としての役割があります。
在留カードのコピーは、外国人が居住者か非居住者かの判定に必要です。在留カードに記載された在留期間や在留資格などから区分を確認し、年末調整の対象となるか判定します。
3-2. 親族関係書類
国外に扶養の対象とする家族がいる場合、親族関係書類が必要です。親族関係書類によって、扶養対象に該当するかを確認します。
親族関係書類として、次の書類のいずれかの提出を求めましょう。
- 戸籍の附票の写しその他の国または地方公共団体が発行した書類および国外居住親族の旅券(パスポート)の写し
- 外国政府または外国の地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日および住所または居所の記載があるものに限る)
3-3. 送金関係書類
国外親族を扶養控除の対象とするには、親族関係書類に加えて送金関係書類も必要です。送金関係書類によって、扶養対象の親族が扶養控除の対象となるかどうかを確認します。
送金関係書類として、次の書類のいずれかの提出を求めましょう。
- 金融機関(資金移動業者を含む)の書類またはその写しで、国外居住親族に送金したことを明らかにする書類
- クレジットカード発行会社の書類またはその写し(国外居住親族が利用したことで、従業員から金銭を受領した、または受領することを明らかにする書類)
- 電子決済手段等取引業者(電子決済サービスを有する銀行や資金移動業者を含む)の書類またはその写しで、国外居住親族に送金したことを明らかにする書類
3-4. 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」は、4つの申告書が1つにまとめられた書類です。
日本人の場合と書き方に大きな違いはありませんが、次の点に注意しましょう。
- 配偶者控除申告書
配偶者控除の基準は日本人の従業員と変わりません。配偶者の所得や自身の基礎控除に基づいて控除額が決定します。 - 所得金額調整控除申告書
所得金額調整控除は、年間の収入額が850万円を超える居住者で、次のいずれかに該当する場合に受けられる控除です。- 従業員本人が特別障害者に該当する
- 年齢23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる
正しく申告書を記載しないと受けられるはずの控除が適用できません。外国人の従業員は日本の税制に馴染みがない場合がほとんどのため、簡単な日本語で要点を伝えるなど、適切なサポートが必要です。
国税庁のサイトには外国語の申告書も用意されています。従業員に合わせた言語の申告書を活用しましょう。
参考:《外国語》令和7年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼給与所得者の特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書|国税庁
3-5. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書では、国外居住親族が過不足なく扶養控除の対象として記載されているか確認します。扶養控除の対象となる親族は、次のとおりです。
- 16歳以上30歳未満
- 70歳以上
- 30歳以上70歳未満で、次のいずれかに該当
- 留学により国内に住所や居所を有しない
- 障害者である
- 従業員から生活費または教育費の支払いを年38万円以上受けている
日本人の場合と同様に、16歳未満の親族は扶養控除の対象にはならないため注意しましょう。
3-6. 給与所得者の保険料控除申告書
給与所得者の保険料控除申告書には、控除の対象となる社会保険や生命保険などを記載します。ただし、出身国の社会保険制度を利用している場合や、海外の保険会社と契約している各種保険は控除の対象とならないため、保険料控除申告書にも記載する必要はありません。
対象となる保険制度や契約をあらかじめ説明し、書類の提出を受けたあとも対象外となる制度が含まれていないか確認しましょう。
4. 外国人の年末調整手続きの注意点


外国人の年末調整の手続きでは、次の4点に注意しましょう。
- 居住区分と国内源泉所得税の判定
- 国外の扶養親族の適用判定
- 書類準備に時間がかかりやすい点
- 書類の翻訳ミスや不備
それぞれ詳しく解説します。
4-1. 居住区分と国内源泉所得の判定
外国人の年末調整は、居住区分と国内所得源泉の判定が重要です。
居住者や非居住者の区分を間違えると、本来は年末調整の対象となる居住者を対象外としたり、対象外である非居住者の年末調整をおこなったりなどの誤りが発生する可能性も考えられます。区分が居住者で年末調整が必要な場合も、非永住者かそれ以外かによって課税対象となる所得の範囲が異なり、注意が必要です。
いずれも大きな誤りにつながる可能性が高いため、慎重に判定しましょう。
4-2. 国外の扶養親族の適用判定
国外の扶養親族の適用判定も注意深くおこなう必要があります。なぜなら、申告に誤りや虚偽があった場合は、不足分の源泉所得税や延滞税、過少申告加算税などが発生します。これらを納める義務を源泉徴収義務者である企業が負うためです。
外国人従業員が国外扶養親族の要件を理解していない場合、親族全員を国外扶養親族として申告し、対象外の親族まで扶養控除に含めてしまうケースがあります。また、国外在住の親族の所得は、日本の税務署では調査が困難と考え、所得要件を満たさないにもかかわらず、控除の対象と虚偽申告をする従業員もいるようです。
さらに、国外扶養親族ごとに送金関係資料を提出しているにも関わらず、親族の代表者などにまとめて送金してしまうのもよくある間違いです。税務調査で指摘されるため、扶養親族ごとに送金し、送金記録を保管してもらいましょう。
4-3. 書類準備に時間がかかりやすい点
外国人の年末調整では親族関係書類や送金関係書類など、申告書以外にも準備する必要がある書類が多くあります。書類が外国語で作成されている場合、日本語の翻訳文も必要です。
さらに、必要な書類を海外から取り寄せる場合には、準備に日数がかかります。外国人の従業員には必要な書類を十分に説明し、期限に間に合うよう準備を進めてもらいましょう。企業側としても、時間がかかることを前提にスケジュールをたてるなど、期限までに年末調整が終わるような工夫が必要です。
4-4. 書類の翻訳ミスや不備
従業員から提出を受けた書類にミスがないとは限りません。添付された日本語訳に誤りがあったり、書類に不備があったりすると、税務署に受け付けてもらえない場合もあります。
日本の税制を外国人が正しく理解するのは困難な場合が多く、意図的でなくても誤りがあるケースは考えられます。正しく翻訳がされているか、記載内容に不足がないかを十分に確認しましょう。
5. 対象者や扶養の要件を確認し外国人の年末調整を正しくおこなおう

外国人の居住者の年末調整は、基本的には日本人の居住者と同様の手続きです。しかし、次の点は日本人の場合と異なり、税務調査でも確認されやすい事項のため注意を払いましょう。
- 居住者と非居住者の区分は適切か。
- 国外扶養親族の親族関係資料、送金関係資料が適切か。
- 外国人駐在員などに対する経済的利益の給与課税は適切か。
このように、外国人の年末調整は日本人従業員に比べ、準備する資料が多く、複雑です。正しい年末調整をおこなうためには、外国人の従業員へ丁寧に説明し、手続きをサポートすることが欠かせません。
年末調整の計算を間違えて納税額を誤ってしまうと、多額の延滞税や加算税が発生する可能性もあります。外国人の年末調整は、日本人の年末調整以上に注意を払いながら対応しましょう。
▼使用者側のリスクが気になる方はこちらをチェック
関連記事:年末調整をしないとどうなる?考えられる5つのリスクを解説



令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「アルバイトやパート、退職者に年末調整は必要?」
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