残業申請制とは?申請ルールの作り方やその例、運用方法も紹介
残業について明確なルールがない場合は、効率的な働き方ができていない従業員がいるかもしれません。残業の申請制度を設けることによって得られる効果は、残業時間の正確な管理が可能になるだけでなく、従業員の士気向上や経費の削減、職場環境の改善が期待できるでしょう。
本記事では、残業申請の必要性やメリット、導入する際の方法を解説します。また、残業申請を導入した後の見直し方についても解説していますので、「これを機に自社の残業申請のあり方について見直したい」という人事担当者様にもおすすめです。
関連記事:残業時間の定義とは?正しい知識で思わぬトラブルを回避!
残業時間の法改正!ルールと管理効率化方法を確認しておきましょう
働き方改革による法改正で、残業時間の管理は大幅に変化しました。
大企業への適用から始まったこの法改正ですが、いまや中小企業にも適用されました。この法律には罰則もあるので、法律を再確認し適切な管理ができるようにしておきましょう。
今回は「残業時間に関する法律と対策方法」をまとめたルールブックをご用意いたしました。
資料は無料でご覧いただけますので、ぜひこちらからご覧ください。
目次
1. 残業申請制とは?
残業申請制とは、労働者が所定の労働時間外に働く場合(=残業する場合)に、事前に申請を行う制度です。労働者は企業側から承認を得られた時のみ残業することができます。 個々の従業員が自主的に労働時間を管理し、適切な残業を行うことが理想です。
残業申請や残業時間の管理が大切なことはわかっていても、組織内部に問題があって残業管理が上手くできない、残業の削減がおこなえない場合もあるでしょう。
残業申請を制度化する前に、どのような理由によって残業管理が上手くできていないかを把握しておくことも大切です。経営側と従業員側の2つの視点から解説します。
1-1. 残業がおきる理由 ー経営側や管理職の問題
そもそも、残業抑制をよしとしない風土の企業もあるでしょう。日本では人事考課の際に仕事の成果だけでなく、仕事への熱量や自社へのロイヤリティを労働時間=残業時間で推し量ってきた経緯があるため、残業する社員の評価を高く考える管理職や経営陣がいる場合があります。
残業を歓迎する風潮があると、従業員は必然的に残業せざるを得ないことになってしまいます。
また、業務量や業務効率を考慮せず無理に残業規制だけを行うと、従業員のサービス残業を上司も「必要な業務」と黙認してしまう場合もあります。
1-2. 残業がおきる理由 ー従業員側の問題
会社としては残業削減を掲げていても、基本給が低く「生活給のため」といって、従業員が不必要な残業を行うことがあります。
一方で、そもそも業務量が多く残業をしないと終わらない、上司が残業を歓迎している、上司が残っているため帰りにくいなど、従業員が残業せざるを得ない状況であることも考えられます。
経営側・管理職、従業員のいずれに問題があったとしても、残業削減には残業申請を導入するだけでは問題が解決しないことも往々にしてあります。
残業申請を導入する場合は目的は何かはっきりさせること、また残業申請制以外にも取り組めることがないか考えるとよいでしょう。
例えば固定残業代制度です。残業時間が従業員によって異なると残業代の計算が煩雑になります。固定残業代制度を導入すると残業代が毎月定額になり、残業代の計算にかかる工数を大きく削減できます。下記の記事では固定残業代制度の概要はもちろん、固定残業代制度を導入するメリットや導入時の注意点など網羅的に解説しておりますので、ぜひご覧ください。
関連記事:固定残業代とは?制度の仕組みや導入のポイントをわかりやすく解説
関連記事:残業削減対策の具体的な方法・対策と期待できる効果について解説
2. 残業申請制のメリット
また近年、客観的な方法によって労働時間を管理することが労働安全衛生法で定められたりと、ますます正確な勤怠管理が求められています。残業申請を行うことは、正確な労働時間の把握につながりますが、それ以外にも以下のようなメリットがあります。
2-1. 法令順守につながる
従業員の残業時間をきちんと管理できていないと、知らないうちに法律違反になっている場合があります。労働基準法では法定労働時間は1日8時間まで、1週間では40時間までと定められています。これを超えて従業員を労働させる場合には、36協定の締結が労使間で必要となります。
36協定の締結および届出が済んでいる場合は、月45時間・年間360時間以内の範囲であれば残業することが可能となります。
残業時間の管理が適切に行われなかったことで従業員も管理者も知らないうちに上記の時間を超過して残業してしまった場合、法律違反となる可能性があります。
また、労働時間の記録は5年間(当分の間は3年)の保管義務がありますが、労基署から抜き打ちでチェックされた際に残業時間がきちんと管理されていないことが露呈し、問題となることも考えられます。
残業申請制を取り入れることで、残業申請する従業員と申請を承諾する管理者の両者が残業時間を意識する環境を作り出せます。気づかないうちに法律で定められた残業時間の上限を超過してしまった、というようなことがそもそも起こらないような仕組みづくりができます。
関連記事:残業削減対策の具体的な方法・対策と期待できる効果について解説
2-2. 残業時間の削減
「やけに残業したがる部下」がいませんか。生活のために無駄な残業が発生している、実際は仕事をせずに従業員同士でしゃべっているだけなど、残業申請を行わないでいると、不必要な残業にも残業代として賃金を支払うことになってしまいます。
残業申請のルールをきちんと明文化し、従業員に浸透させることができると、余計な残業や残業代を削減することが期待できます。残業申請の方法の見直しと同時に、社内で「定時内にきっちり業務を終わらせて長時間残業をしない」という風潮を作ることで、残業抑制にもつながります。
残業における無駄な業務を簡略化するだけでも、従業員が職場に対して抱くイメージが改善し、従業員満足度の高まりが期待できます。
また、企業側としても残業代が減ることで人件費が削減できるメリットがあります。
2-3. 適切な労働時間の管理で健康管理などにつながる
残業による長時間労働は、従業員の健康を損なうリスクがあります。残業申請の導入によって残業時間が削減されれば長時間労働によって従業員の健康を害する可能性も減りますし、残業時間をきちんと管理することで働きすぎの従業員に対してアラートをだすこともできます。
場合によっては、働きすぎの従業員と上司や人事部との面談を設けて、なぜ残業時間が長くなるのかをヒアリングし、業務量を調節して従業員の負担を減らしたり、業務効率の改善につなげることもできるでしょう。
3. 残業申請制のデメリット
一方で残業申請制を取り入れるデメリットも存在します。
デメリットはルールの設け方次第で回避できるものでもあります。厳格なルールにし過ぎてしまうと以下のようなデメリットが発生してしまうため、申請ルール作りや申請ルールの運用時の注意点という意味でも、以下の2点に気を付けましょう。
3-1. サービス残業が発生する可能性がある
残業申請制を導入したことにより、残業申請するのが面倒、残業申請理由が通らない、けど残業しないと業務が終わらない、といった理由からサービス残業が横行してしまう可能性があります。
サービス残業は正しい勤怠管理ができないだけでなく、残業代の未払いからトラブルや裁判に発展することもあるため、企業としては厳しく管理しなくてはならない問題です。
関連記事:残業代はタイムカードの打刻通りに支払おう!労働時間の把握が企業の義務
3-2. 申請者側も管理者側も負担が増える
従業員は残業を行うために、残っている業務から必要な残業時間を算出したうえで申請し、申請後は承認を待たなければなりません。残業を申請するための作業に時間を取られてしまい、最終的には生産性が低下する可能性もあります。
また、上司や管理者が従業員の申請を確認・承認する必要があるため、申請の審査や承認作業など管理者の負担も増えてしまいます。
緊急で発生した残業などイレギュラーな場面にも対応できるよう、事後申請も受け入れるなど、ルールの厳格さをどこまで持たせるか次第で負担軽減も可能であるため、慎重に検討しましょう。
4. 残業申請をルール化する方法
残業管理の大切さと残業管理が上手く行えていない原因を確認したところで、残業申請をルール化して運用するまでの流れと方法をご紹介します。
こちらを参考に、ぜひ自社にあった残業申請の制度を構築してみてください。
4-1. 就業規則や勤務形態に則り、申請制とする残業時間と申請方法を策定する
残業申請のルールを作成する前に、今一度自社の就業規則を確認し、残業となる時間はいつなのかを正確に把握しておきましょう。
その上で、どのタイミングで、誰に対して、どのように申請をする必要があるのかを考えていきます。
その際に注目しておきたいポイントは、自社の勤務体系です。事業内容、職種、雇用形態などで勤務体系は異なりますが、申請のタイミングや方法は勤務体系によってベストなものが異なります。
例えば、外回りの営業やリモートワーク中の従業員に対して会社で申請書を書かせて提出させたり、エンジニアに対して突発的に発生した問題に対処する時間を考慮せず事前申請のみをルールとして設けても、現実的に難しいため運用が定着しません。
例えば、場所を問わず申請できるシステムを導入したり、22時以降の残業は事前申請必須とするなど、自社の従業員の働き方に見合った制度を検討します。
申請承認のルートも一緒に策定しましょう。誰の承認が必要か、そのルートやフローはどうするかを細かく決めていきます。
また、残業代は1分単位での支払いが原則であるため、申請可能な残業時間も1分単位を許容することが望ましいです。仮に残業申請の最小単位を15分等のまとまった単位にした場合でも、実働した残業時間は1分単位で記録して正確な残業代を支払いましょう。残業時間の切り捨ては違法です。
関連記事:勤怠管理とは?目的や方法、管理すべき項目・対象者など網羅的に解説!
4-2. 残業申請をする際に必要な項目を決める
残業申請制を適用する時間や申請方法、申請ルートが決まったら、申請する際に従業員に入力してもらう項目を検討します。
一般的には「残業予定日」「残業予定時間」「残業理由」を項目として設けます。
項目が多いと入力負担が増えてしまう一方で「残業理由」を任意の入力項目としてしまうと、形だけの申請となり残業抑制につながらない懸念があります。
また、残業理由を記入させたことにより残業理由の傾向がわかり、対策を打つ判断材料になる可能性もあります。嫌がられるかもしれませんが、残業抑制や業務効率化のための協力を仰ぐ形で従業員に入力してもらえるよう促しましょう。
以下は入力項目の一例です。項目を作成する際の参考にしてください。
項目名 | 内容 |
残業予定日 | 残業する予定日を記入。 1日だけでなく、数日にわたって残業したい場合も考えられるため、〇月〇日~〇月〇日のように指定できるように項目を用意しておくと親切です。 |
残業予定時間 | 残業する予定時間を記入。 開始時刻と終了時刻を入力できるようにしましょう。 |
残業理由 | 残業時間中に何の業務を行うのか、なぜ残業をしなければならないのか記入 |
4-3. ルールを周知し、残業申請を徹底させる
いくら自社にあった残業申請のルールを作成しても、従業員が残業申請のルールやその意義を正しく把握していなければ、残業申請が運用にのることはありません。
残業申請に限らず、新しい制度を導入する際はその制度の意味・意義を説明した上で、わかりやすくルールの周知を行いましょう。また、各部署の管理職にも別途詳しくルールを周知をしたうえで、部下たちに残業申請を徹底させるようお願いすることもおすすめです。
さらに、残業申請を導入した場合は、制度を就業規則に明記した上で人事評価や給与の支払いについても見直しをしましょう。
5. 申請ルールを運用する際の注意点
残業申請を制度として導入したらそれで終わりではなく、運用にのせるための工夫が必要です。ここでは、残業申請がきちんと運用されるよう、気を付けておきたいポイントを4つご紹介します。
5-1. 承認の基準を明確に
部署が複数ある企業では、残業申請の承認も各部署の部長に任せるなど、複数人が残業申請の承認を行うことになります。
その際に注意しておきたいことは、承認の基準を全員でそろえることです。
「A部署の部長はきちんと残業の理由を確認して必要な残業かを見極めて承認しているが、B部署の部長は申請内容を確認せず全ての残業申請を承認している」という状態では、正しく残業申請が運用されているとは言えません。「B部署は残業できるのに、うちの部署では残業ができない」とA部署の従業員から不満の声が上がることも考えられます。
「どのような時に残業が必要か」「承認しない基準は何か」を定めたうえで承認者全員に共通認識をもたせましょう。従業員にも承認/非承認にする基準を周知すると、無駄な申請が減ったり、適切な残業とは何かの意識を持たせることができます。
5-2. ルールが形骸化しないようにする
苦労して残業申請の制度を導入しても、「全ての申請が承認される」「残業申請がめんどくさいので、申請せずに残業する」といった状態になってしまうと、適切な労働時間の管理ができませんし、残業申請を導入した意味がなくなってしまいます。
そのためには、そもそも面倒な手続きが発生するような方法にしない、簡潔でわかりやすい方法にするなど、ルール化の段階で形骸化しないような制度にすることが大切です。
また、運用をしていく中でも残業申請の漏れがあった場合はきちんと注意する、残業申請を管理職から毎月促すなど、申請漏れを許容しない態度を示すことも重要です。
関連記事:残業管理をわかりやすく簡潔にするルール作りのポイント
5-3. 例外が生まれにくいようにする
制度が上手く運用にのらない理由として、例外が発生しすぎて都度対応が必要になることも挙げられます。
例えば、残業は2営業日前までに申請が承認完了された場合のみ可能としていても、実際は突発的なお客様対応や問題に対処するために残業が発生したため、申請が間に合わないということも考えられます。
自社の勤務体系や業務内容に合わせたルールを作ることで、残業申請を運用にのせることができます。
5-4. クラウド型勤怠管理システムの導入を検討するのもおすすめ
残業申請の制度を新しく導入するということは、その分申請する従業員やそれを承認する管理職、集計する人事担当者にも新たな負担がかかることになります。
例えば、残業申請を紙の書類でやり取りをしていると、従業員が手書きで申請書に記入して、それを管理職に提出、人事部もタイムカードと突き合わせて紙ベースで集計するとなると、工数が多いうえに書類がきちんと提出されないという問題が起こる可能性もあります。
残業申請を運用にのせるため、従業員や管理者の負担を最小限にするには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。勤怠管理システムを導入すれば、PCやスマホで簡単に申請・承認ができ、労働時間の集計まで自動化されるため、面倒な手続きもなく、集計の時間も削減されます。
当サイトで無料配布している「お悩み別│勤怠管理システム導入事例集」では、業種や従業員規模が様々な企業の残業管理における課題やシステム導入で得られた効果について紹介しています。「勤怠管理システムを導入した企業が具体的にどう活用しているのか」を知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。多くの企業の事例を紹介しているため、自社と近い課題を抱えている企業の事例も見つかり、導入検討の参考となるでしょう。
6. 残業申請のルールは定期的に見直し、改良を重ねるのがポイント
残業の申請方法の見直しは、新しいルールづくりと捉えることができるでしょう。
さらに、定期的なルールの見直しをおこなうことで、従業員にとってより働きやすい環境をつくることが実現できるでしょう。
6-1. 残業申請の見直しとは、新たなルール作りをおこなうこと
残業申請方法の見直しは、新しいルールを導入することですが、従業員のモチベーションやストレス改善、会社の利益にも関わるため、非常に重要です。現状の申請方法に大きな問題がある場合は、見直しをきっかけに職場の雰囲気が一変することもあります。
残業申請の見直しをおこなうことで、これまでの働き方を改め、効率的な業務をおこなうことが期待できます。
6-2. 残業申請の見直しの目的は従業員の意識改革と生産性向上
残業申請の見直しをおこなう目的は、従業員の意識を変えて生産性向上のきっかけにすることです。
たとえば、残業を原則おこなわないとルールを設けることで、従業員には「定時までに仕事を終わらせよう」という意識が芽生え、生産性の向上が期待できます。
さらに、企業全体で残業時間が少なくなり業務の生産性が向上することで、利益の改善を見込めるでしょう。生じた利益を従業員の福利厚生や給与に還元することで、従業員満足度が高まる可能性があります。
6-3. ルール化と定期的な改善が必要
残業の申請方法を見直す際には、誰が見ても同じ解釈ができるわかりやすい文言でルールを設けることをおすすめします。誰でも一目でわかるルールは、従業員が混乱することなく受け入れられるでしょう。
また、残業の申請方法を見直したあとは、何らかの不都合が生じる可能性があります。その場合は、現場で働く従業員に直接ヒアリングをおこない、定期的に申請方法の内容を見直していくことがよりよい制度を作るポイントになります。例えば、残業の申請受付時間を前日12時までとして運用していたが、従業員が前日12時までに残業の有無の判断が難しくサービス残業をする人が増えてしまったため、残業申請受付時間を当日の12時に変更する、など実際に運用しながら発生した問題点に対して新たなルールを設けていくイメージです。
最初から完璧なルールを作成することは難しいです。ルールを作成して終わりではなく、運用をし始めてからがスタートだと考えましょう。
残響管理のルール設定でお悩みの方は下記の記事もおすすめです。
7. 残業申請の導入によって正確な勤怠管理を!
残業申請の導入は、適切な労働時間の管理だけでなく、残業の削減や従業員の健康管理、モチベーションアップにもつながります。
残業申請をルール化するには、自社の勤務形態や就業規則に合わせるだけでなく、運用のしやすさも考慮することが大切です。
自社にあった残業申請のルールを作り、従業員がより働きやすい職場を目指していきましょう。
残業時間の法改正!ルールと管理効率化方法を確認しておきましょう
働き方改革による法改正で、残業時間の管理は大幅に変化しました。
大企業への適用から始まったこの法改正ですが、いまや中小企業にも適用されました。この法律には罰則もあるので、法律を再確認し適切な管理ができるようにしておきましょう。
今回は「残業時間に関する法律と対策方法」をまとめたルールブックをご用意いたしました。
資料は無料でご覧いただけますので、ぜひこちらからご覧ください。
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