フレックスタイム制で残業代は減る?残業の考え方や計算方法も紹介
更新日: 2024.11.15
公開日: 2021.9.8
OHSUGI
フレックスタイム制では、1日単位で残業時間を割り出すのではなく、実労働時間から清算期間内における所定の総労働時間を引いて、超過した分を残業時間として計算します。また、清算期間の長さによっても残業時間の考え方が変わってきます。本記事では、フレックスタイム制の残業時間の考え方や、残業代の計算方法を解説します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. フレックスタイム制で残業代は減る?
従業員個人で労働時間を調整しやすい特徴のあるフレックスタイム制ですが、この制度を導入することで実際に残業を減らすことができるのかどうか、まずはフレックスタイム制の概要に触れながら解説していきます。
1-1. フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、一定期間に定められた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業の時刻を自由に決定できる制度です。フレックスタイム制に関わる用語と意味は下記のとおりです。
- 清算期間:労働者が労働すべき時間を定めた期間。1~3ヵ月の間で決定する
- 総労働時間:労働者が清算期間内に労働すべき時間数。所定労働時間のこと。
- 実労働時間:労働者が清算期間内に実際に労働した時間数
- コアタイム:労働者が働くことを義務付けられた時間帯
- フレキシブルタイム:労働者が始業・終就業の時刻を自由に決定できる時間帯
残業時間の確認では、とくに1、2、3が重要となりますので言葉の意味をしっかりと押さえておきましょう。
フレックスタイム制では、残業時間の考え方が通常とは異なります。1日の労働時間を8時間以上超えていたとしても、労働者が清算期間内の1~3カ月で調整することができます。
例えば、「今日10時間労働をしたから、その分明日は2時間早く退勤しよう」というように柔軟に働き方を変えることができます。固定の労働時間が決まっていれば、10時間労働したとしても、次の日も所定の労働時間分、働く必要があります。
関連記事:フレックスタイム制とは?清算期間の仕組みやメリット・デメリットを解説
1-2. 必ずしも残業が減るとは言えないが
このようにフレックスタイムを導入することで、先ほどの例のように「今日10時間労働をしたから、その分明日は2時間早く退勤しよう」という調整が可能になり、結果的に残業時間が減ることがあります。とはいえ労働者自身の判断になるため、必ずしも残業時間が減るとはいえません。
このようにフレックスタイム制の導入は、業務の繁閑や個々の生活スタイルに合わせた柔軟な働き方を可能にします。しかし、この制度がうまく機能するためには、労働者が適切な判断を下し、自身の労働時間を管理することが求められます。この労働時間の管理を正確に行うためにも、続いてフレックスタイム制と残業時間の考え方をおさらいしていきましょう。
2. フレックスタイム制の残業(時間外労働)の考え方
労働者が自由に始業・終業時刻を決定できるフレックスタイム制でも、所定労働時間(総労働時間)を超過した分は、時間外労働(残業)として扱われます。フレックスタイム制での残業時間の考え方を詳しく解説します。
2-1. そもそも残業(時間外労働)とは
労働基準法における残業は、時間外労働のことをさします。しかしここでいう時間外労働を分解すると、法定内の時間外労働と法定外の時間外労働の二つに分かれます。労働基準法における法定外時間の労働が正式な残業となり、割増賃金を支払う義務があります。※法定内の時間外労働では賃金を割増する義務はなく、会社ごとに就業規則によって変わります。
法定内残業と法定外残業の違い
フレックスタイム制の残業代計算では、「法定内残業」か「法定外残業」かに注意しましょう。
法定内残業とは、会社の定めた総労働時間は超えているものの、法律上定められた労働時間(法定労働時間)は超過していないものです。残業時間が法律の範囲内であれば、割増賃金を払う必要はありません。残業代の割増を行うか否かは、個々の会社の規定に委ねられています。
一方、法定外残業とは、法定労働時間を超過した労働で、割増賃金の支払いが労働基準法第37条により義務付けられています*。
*参考:e-Gov 法令検索「昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法第四章 第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇(時間外、休日及び深夜の割増賃金)第三十七条」
2-2. フレックスタイム制の法定労働時間の算出方法
フレックスタイム制の法定労働時間は、下記の式により計算します。
法定労働時間=(清算期間の暦日数÷7)×一週間の法定労働時間(40時間)
上記を超える労働時間は、法定外残業となります。
また、清算期間が1カ月を超える場合の残業時間は、先述の通り、1カ月ごとに週平均50時間を超えた労働時間と、その数値を総労働時間から引き、さらに上記で求めた法定労働時間を差し引いたものが残業時間となります。
2-3. フレックスタイム制の残業時間は総労働時間と実労働時間の差で決まる
フレックスタイム制では、定時制のように1日単位で残業時間を割り出すことができません。そのため、総労働時間(働かなくてはいけない時間数)に対して、実労働時間(実際に働いた時間数)がどの程度超過しているかにより判断します。
例えば、清算期間1ヵ月、総労働時間160時間、実労働時間170時間の場合、超過分の10時間が1ヵ月の残業時間となります。
上記とは逆に、総労働時間が160時間、実労働時間が150時間で10時間分足りない場合は、1. 不足時間分を賃金から控除する、2. 10時間を翌月の総労働時間に加算する、などの処理が必要となります。
フレックスタイム制の残業時間の計算方法は複雑なため、一度読んだだけではなかなか頭に入らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
当サイトでは、フレックスタイム制における残業の計算方法を図を用いてわかりやすく解説した資料を無料配布しております。手元において「あれ、どうなってたっけ?」という時にすぐ確認できるようにしておきたい方は、こちらから「フレックスタイムを実現するための制度解説」をダウンロードしてご確認ください。
関連記事:フレックスタイム制に関わる就業規則のポイント・記載例を紹介!
3. フレックスタイム制での残業代の計算方法
フレックスタイム制での残業代は下記の式により計算します。
「残業代」=「基礎賃金」×「割増率」×「残業時間」
1つずつ確認します。
3-1. 基礎賃金
基礎賃金とは、1時間当たりの賃金のことです。月給制の場合、「月給」÷「所定労働時間」により計算します。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など基本を解説
3-2. 割増率
割増率は、法定内残業か、法定外残業かにより異なります。具体的には下記のとおりとなります。
法定内残業の場合、通常の賃金が支払われますが、法定外残業には割増賃金が適用されます。これを以下に示します。
例えば、法定外残業に対する基本的な割増率は25%以上ですが、月間の法定時間外労働が60時間を超える場合は50%以上となります。
また、深夜労働や休日労働についても特定の割増率が設けられています。
例えば、休日労働の場合は35%以上の割増が必要であり、さらに深夜労働を伴う場合はその割増率が50%以上に引き上げられます。
関連記事:残業による割増率の考え方と残業代の計算方法をわかりやすく解説
3-3. 残業時間
フレックスタイム制の残業時間は、「総労働時間」-「実労働時間」により求められます。
例えば、基礎賃金が1,700円で、時間外労働(法定外残業)のみを10時間行った場合の賃金を計算すると、下記のとおりとなります。
1,700(円)×1.25×10(時間)=21,250(円)
3-4. 清算期間が1ヵ月を超える場合の計算方法
2018年7月6日公布の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の一環として2019年4月に法改正が行われ、フレックスタイムの清算期間の上限が1ヵ月から3ヵ月に変更されています。
清算期間が1ヵ月を超える場合の法定外残業は、下記により計算します。
- 1ヵ月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
- 1. で数えた時間を除き、清算期間内で法定労働時間を超えて労働した時間
最終月以外は1.を確認し、最終月は1.と2.を確認したうえで、合算すると、清算期間全体の残業時間が算出できます。最終月が1ヵ月に満たない時(清算期間が2.5ヵ月の場合など)は、その期間内(0.5ヵ月)で週平均50時間を超えた分を、法定外残業として計算します。
関連記事:フレックスタイム制の清算期間の仕組みや総労働時間の計算方法を解説
4. フレックスタイム制の残業時間・残業代に関する注意点
フレックスタイム制を導入するにあたって、残業時間の集計や残業代の支払については間違いなく処理する必要があります。ミスをなくすためにも、フレックスタイム制での残業時間・残業代に関する注意点を解説します。
4-1. 残業(法定外残業)をするには36協定の締結と届出が必要
フレックスタイム制でも、清算期間を通じて残業(法定外残業)をするには、36協定の締結と、労働基準監督署への届出が必要です。また、清算期間が1ヵ月を超える場合は、36協定とは別に、フレックスタイム制に関する労使協定の締結と届出も必要となりますので、注意しましょう。
関連記事:36協定の届出とは?作成の方法や変更点など基本ポイントを解説
4-2. 特例処置対象事業所では週の法定労働時間が44時間になる
下記要件を満たす特例処置対象事業所では、法定労働時間を例外的に週40時間から44時間に延長できます。
1.常時使用する労働者が10人未満の事業所。
2.商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業のいずれかの業種に該当する事業所。
特例処置対象事業所で清算期間が1ヵ月以内の場合、週平均44時間を超える労働が残業に当たります。ただし、清算期間が1ヵ月を超える場合は、特例処置対象事業所であっても、週平均40時間を超える労働は、割増賃金の支払いが必要になります。
この特例は、労働者の長時間労働を過度に強いることなく、業種ごとの特性を考慮した制度です。特に小規模な事業所においては、業務の繁閑に応じた柔軟な働き方を提供できるメリットがあります。
しかし、労働者の権利が守られるためには、常に法令を遵守することが重要であり、残業の取り扱いや賃金計算についての透明性を確保することが求められます。フレックスタイム制と同様に、適切な管理がなされていない場合、法的なトラブルに発展するリスクもあるため、特例処置の適用に際しては慎重な運用が必要です。
4-3. 有給休暇を取得した場合の計算はどうなる?
フレックスタイム制において有給休暇を取得した場合の計算方法は、取得した有給休暇の種類に応じて異なります。
丸1日有給休暇を取得した場合、労使協定に基づき定められた「標準となる1日の労働時間」分を実働時間に加算します。一方で、半日単位で取得した場合には、その半分の時間が実働時間としてカウントされます。
ただし、残業代の計算には実際に働いた時間のみが考慮されるため、有給休暇による時間は含まれません。このように、有給休暇の取得に関するルールを理解し、正確な計算を行うことが重要です。
5. フレックスタイム制で残業が違法になるケース
フレックスタイム制においては、一定の条件下で残業が違法と見なされる場合があります。
特に、法律で定められた時間外労働の上限を超えて残業を命じることはできません。また、残業代を支払わずに残業時間を翌月に繰り越すことも許されていません。
これらの点を理解し遵守することで、労働者の権利を守り、企業としても法令に則った運営をすることが求められますので詳しく解説します。
5-1. 時間外労働の上限規制を超える残業命令がある
2019年4月(中小企業は2020年4月)の法改正により、時間外労働の上限規制が原則、月45時間(超過する場合も年6ヵ月まで)、年360時間までとなりました。残業の上限規制には、フレックスタイム制にも当てはまります。
また、下記については、労使の合意があったとしても、超えることはできません。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内
- 月100時間未満
違反した場合、罰則が課される可能性もあるため、今まで以上に、残業時間の適切な管理が必要となります*。このように、労働時間の柔軟性があっても、法定労働時間を越えることがないように注意を払う必要があります。
*参考:厚生労働省 働き方改革特設サイト「時間外労働の上限規制」
関連記事:働き方改革による残業規制の最新情報!上限時間や違反した際の罰則を解説
5-2. 残業代を払わず残業時間を翌月に繰越すこと
清算期間が1ヶ月を超えない場合には当月の残業時間を繰越して、次の清算期間の総労働時間を短縮するといった処理はできませんので注意しましょう。
労働で発生した賃金は全額まとめて支払うことが、労働基準法第24条*で定められています。残業が発生した場合は、割増賃金を計算し、必ず従業員に支払いましょう。
*参考:e-Gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法 第三章 賃金
6. フレックスタイム制を導入したら残業時間を適切に管理しよう
フレックスタイム制の残業時間は、「総労働時間」-「実労働時間」により求められます。
また、法定外残業や深夜残業には割増賃金が発生すること、時間外労働の上限を超えた労働は法律で禁止されていることは、定時制労働と変わりません。労働時間管理が複雑化しやすいフレックスタイム制では、より適切な残業時間の管理が求められるでしょう。
また、以下のページでは、フレックスタイム制を導入している企業における勤怠管理システムの活用方法を解説しています。
勤怠管理システムを導入しようか検討されている方や現状の勤怠管理に課題を感じる方はぜひご覧ください。
関連サイト:勤怠管理システムを用いたフレックスタイム制の運用|ジンジャー勤怠
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
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