法定外残業とは?法定内残業との違いや36協定、割増賃金の計算方法を解説
更新日: 2025.8.25 公開日: 2021.11.15 jinjer Blog 編集部

法定外残業とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働のことで、通常の賃金に加えて原則25%以上の割増賃金を支払う必要があります。従業員に法定外残業をさせる場合は、36協定の締結と労働基準監督署への届出が不可欠です。
本記事では、人事担当者向けに法定外残業とは何か、法定内残業との違いを踏まえてわかりやすく解説します。また、法定外残業代の計算方法や、割増賃金が発生する具体的なケースについても紹介します。
目次
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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1. 法定外残業とは


まずは言葉の意味を正しく理解するため、法定外残業について説明します。
1-1. 労働基準法で定められた法定労働時間を超えた残業
法定外残業とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超えた残業のことで、法外残業や、法定時間外労働などとよばれることもあります。
また、法定労働時間とは、労働基準法第32条1項に記載されている労働時間の上限のことで、原則「1日8時間、1週40時間」まで、と定められています。
法律上、上記の労働時間を超えた残業は25%以上の割増賃金が必要です。さらに、法定外残業がおこなわれる背景には、急な業務増加や納期の迫ったプロジェクトなどがあり、企業は従業員の健康や労働環境を考慮しつつ対応しなければなりません。
仕事における残業は、価値ある結果をもたらす一方で、従業員に対して精神的・肉体的な負担を与えることもあります。したがって、企業は法定外残業を適切に管理し、従業員の労働条件を最適化することが求められます。
2. 法定内残業との違い


法定内残業とは、就業規則や雇用契約書で規定している所定労働時間は超えるものの、法定労働時間の範囲内にとどまる残業のことです。
所定労働時間とは、始業から終業までの時間から休憩時間を除外したもので、労働者が労働の義務を負う時間です。
言葉の概要を理解できたところで、ここからは法定外残業と法定内残業の違いについて説明します。
2-1. 法定外残業と法定内残業の違い
労働基準法上、法定内残業では割増賃金の支払い義務はないため、割増した残業代を支給するか否かは、各企業の判断に委ねられます。
例えば、所定労働時間を7時間(休憩時間1時間)と定めている会社で9時から19時まで勤務した場合、9-17時までが所定労働時間(1時間の休憩を含む)、17-18時までが法定内残業、18-19時までが法定外残業となります。
18-19時の労働に対しては25%の割増率を乗じた残業手当を支払う必要がありますが、17-18時の労働に対して割増率を乗じるかは各企業次第となります。本章で解説した法定外残業と法定内残業の定義は、残業管理をするうえで最も重要になるので必ず覚えておきましょう。
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2-2. 法定外残業と時間外労働の違い
法定外残業と時間外労働は、日々の労務管理でよく見かける用語ですが、両者は基本的に同じ意味を指します。いずれも労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えておこなわれる労働を意味します。
ただし、法律上は「時間外労働」という用語が正式な表現です。一方、「法定外残業」という表現は、実務上よく使われる言い回しであり、法律上の正式な用語ではありません。したがって、「法定外残業」と「時間外労働」は実質的に同義ですが、法律用語として正確に使う場合は「時間外労働」と表現するのが適切です。日常の業務や就業規則においては、文脈に応じて両者を使い分けるとよいでしょう。
関連記事:時間外労働とは?定義や上限規制、割増賃金の計算など原則ルールを解説
3. 時間外労働の上限を定める36協定とは


法定外残業には上限が定められています。ここでは、法定外残業と大きく関係する36協定のルールについて詳しく紹介します。
3-1. 36協定とは
36(サブロク)協定は、法定労働時間を超える時間外労働(法定外残業)や、法定休日における休日労働をおこなう際に、使用者と労働者代表との間で締結する必要がある労使協定です。正式には「時間外労働・休日労働に関する協定」とよばれ、労働基準法第36条に基づいて定められています。
36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、本来は原則禁止されている時間外労働や休日労働を、一定の条件のもとで適法に実施できるようになります。適切な36協定の締結と管理は、企業のコンプライアンス確保と労働者の保護の両立に不可欠です。なお、法定内残業のみであれば、36協定の締結の必要はありません。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
3-2. 36協定が定める残業の上限
36協定を締結したとしても、無制限に法定外残業が可能になるわけではありません。36協定による法定外残業の原則的な上限は「月45時間・年360時間」です。そのため、労働基準法で定められた法定外残業の上限を遵守して、36協定を締結するようにしましょう。
関連記事:36協定の協定書とは?書くべき項目や記載例・協定届との違いを解説
3-3. 特別条項付き36協定を締結すれば上限を延長できる
臨時的な特別の事情がある場合に限り、特別条項付き36協定を締結することで、法定外残業の上限を延長させることが可能です。ただし、次のいずれもの条件を満たす必要があります。
- 法定外残業:年720時間以内
- 法定外残業+法定休日労働時間数:月100時間未満、2〜6ヵ月平均80時間以内
- 法定外残業が月45時間を超えられる回数:年6回まで
36協定を締結したら、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。また、従業員への周知も忘れずにおこないましょう。
関連記事:36協定の提出期限とは?いつまでに更新が必要?提出忘れの罰則も紹介
4. 法定外残業における割増賃金の計算方法


法定外残業の残業代の計算方法は下記のとおりです。
「1時間あたりの賃金」×「法定外残業時間」×「1.25(割増率)」
ここでは算出の際注意が必要な、「1時間あたりの賃金」の出し方を確認します。
4-1.「1時間あたりの賃金」の算出方法
1時間あたりの賃金は、就業規則や賃金規程、給与明細などから確認できます。
また、下記の計算式で算出することも可能です。
(月給 – 除外手当) ÷ 1日の所定労働時間 × 平均所定労働日数
従業員に支払う手当の中には、月給に含まれるものと含まないものがあります。
下記のように、「個人の事情に対して支払われる手当」は月給から除外します。
月給から除外する手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
もし、上記の名目で支払われていても、「従業員全員、一律同額」である場合などは、月給に含まれるものとして扱います。例えば、賃貸・持ち家を問わず、全ての従業員に毎月一律1万円を支給しているなら、月給に含まれるものと考えます。
4-2. 法定外残業の残業代の割増率一覧
法定外残業は、通常25%以上の割増賃金が必要です。ただし、深夜労働や法定休日労働と重複する場合は、それらの割増率も合わせて、残業代を計算します。
以下は時間外労働の区分ごとに設けられている割増率の一覧表です。残業代を算出する際にご参考ください。
|
区分 |
割増率 |
|
法定外残業 |
25%以上 |
|
月60時間を超える分の法定外残業 |
50%以上(※) |
|
深夜労働(午後10時~翌日午前5時) |
25%以上 |
|
法定休日労働 |
35%以上 |
|
法定外残業+深夜労働 |
50%(25%+25%)以上 |
|
法定休日労働+深夜労働 |
60%(35%+25%)以上 |
|
月60時間を超える分の法定外残業+深夜労働 |
75%(50%+25%)以上 |
(※)2023年4月から中小企業も50%以上の割増率が適用になりました
4-3. 割増賃金が重複した際の残業代の計算方法
下記を例に割増賃金を確認します。
13:00~23:00勤務、休憩1時間、実労働時間9時間の場合
13:00~16:00→所定労働時間
16:00~17:00→休憩時間
17:00~22:00→所定労働時間
22:00~23:00→法定外残業+深夜労働(割増賃金率50%以上)
1時間あたりの賃金が1,200円のなら、残業代は下記のとおりとなります。
1,200 × 1(時間) × 1.50(割増賃金率) = 1,800円
以上により、当日の賃金は
(1,200 × 8)円 + 1,800円 = 11,400円
上記のとおり、算出されます。
5. 労働時間制別の法定外残業の考え方


法定外残業の考え方は、採用している労働時間制により扱いが異なります。
5-1. フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、定められた期間(清算期間)の、総労働時間の範囲内で、労働者が自由に始業・終業の時刻を決定できる制度です。
例えば、清算期間を1ヵ月、総労働時間を160時間とした場合、その範囲内で労働者自身が自由に労働時間を設定できます。
そのため、1日8時間を超える労働をしたからといって、すぐに法定外残業とはみなされません。
フレックスタイム制では、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた労働を法定外残業として処理します。また、清算期間を1ヵ月を超えて設定する場合、週あたり50時間を超えた労働についても法定外残業として取り扱う必要があります。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
関連記事:フレックスタイム制で残業代は減る?残業の考え方や計算方法も紹介
5-2. 変形労働時間制
変形労働時間制とは、1ヵ月や1年など一定の期間を単位として、その期間内で労働時間の配分を調整できる制度です。設定した期間全体で平均して法定労働時間(1週あたり40時間)を超えない範囲であれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて働かせることが可能です。
そのため、繁忙期のある会社や、週の中でも労働時間に差の生まれやすい企業などで利用します。変形労働時間制では、所定労働時間により法定外残業の扱いが下記のように異なります。
- 1日の所定労働時間が8時間を超える場合は、所定労働時間を超えた時間が法定外残業。上記以外は、8時間を超えた時間が法定外残業
- 1週の所定労働時間が40時間を超える場合は、所定労働時間を超えた時間が法定外残業。上記以外は、40時間を超える時間が法定外残業。(1の残業を除く)
- 変形期間は、変形期間の法定労働時間の総枠を超えた労働時間が法定外残業。(1.2.の残業を除く)
下記の記事では変形労働時間制の残業の計算方法や、そもそもの変形労働時間制の導入についても詳しく解説しているので興味のある方はぜひご覧ください。
関連記事:1年単位の変形労働時間制とは?休日や残業の計算方法もわかりやすく解説
5-3. 裁量労働制
裁量労働制とは、実労働時間にかかわらず、「契約した時間分(みなし労働時間)のみ働いたこととみなす」労働契約です。
例えば、1日の実労働時間が4時間であろうと、10時間であろうと、みなし労働時間を「7時間」としている場合、7時間働いたものとして扱います。そのため、原則、「残業」という概念はありません。
ただし、みなし労働時間自体が法定労働時間を超えている場合、(例えば9時間)は法定外残業として扱います。また、深夜および、法定休日労働の割増賃金は発生します。
5-4. 管理監督者
管理監督者とは、経営者と一体の立場にあるもので、休憩や休暇に囚われず活動が必要な、職務内容・権限・責任を持つ労働者です。
そのため、労働基準法上、法定外残業や休日労働に対する割増賃金の支払いは不要です。ただし、深夜労働の割増賃金は発生します。
なお、「管理職」という肩書であっても、実態として一般従業員と変わらない待遇や労働管理下にある場合は、管理監督者とは認められません。
6. 法定外残業は他の割増率に注意して計算しよう


法定外残業が発生した場合、原則25%以上の割増賃金の支払いが必要です。なお、労働時間制度(フレックス制、変形労働時間制、裁量労働制など)によっては、残業の計算方法が異なるため、制度の内容を十分に確認しておくことが重要です。また、深夜(22時~翌5時)や法定休日の労働など、割増率が重なる場合には、合算した割増賃金を支払う必要があるので、賃金計算時に漏れがないよう注意しましょう。



人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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