時間単位の有給休暇とは?制度内容や導入方法を解説
更新日: 2025.10.17 公開日: 2021.9.3 jinjer Blog 編集部

有給休暇は1日単位での取得が一般的ですが、1時間単位で取得できる「時間単位の有給休暇」も存在します。
時間単位の有給休暇を上手に活用すれば、休暇を取るハードルが下がり、従業員のワークライフバランス向上が目指せます。しかし、導入や運用には注意が必要です。
この記事では時間単位の有給休暇制度の概要や導入方法、管理上の注意点を解説します。メリットとデメリット、導入方法を押さえ、自社の休暇制度の見直しにお役立てください。
関連記事:有給休暇に関する計算を具体例付きで解説!出勤率、日数、金額の計算方法とは?
目次
毎月の有給休暇の付与計算、取得状況の確認、法改正への対応…。
「この管理方法で本当に問題ないだろうか?」と不安を抱えながら、煩雑な業務に追われていませんか?
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◆この資料でわかること
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年5日の取得義務化で、企業が対応すべき3つのポイント
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すぐに使える!Excelでの年次有給休暇管理簿の作り方
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複雑なケース(前倒し付与など)の具体的な対応フロー
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1. 時間単位の有給休暇とは

年次有給休暇(有給休暇、年休)は、従業員の心身の疲労回復を目的として、法定休日のほかに毎年一定日数の休暇を与える制度です。次の2つの条件を満たすと10労働日の有給休暇が付与されます。
- 雇い入れの日から起算して6ヵ月継続勤務している
- 全所定労働日の8割以上出勤している
有給休暇の取得は1日単位や半日単位が原則ですが、例外として時間単位での取得も認められています。時間単位の有給休暇は2010年の法改正で導入された制度で、導入には労使協定の締結が必要です。
1-1. 時間単位年休の対象企業・対象者
時間単位年休の対象となる企業や従業員は次のとおりです。
- 対象企業
業種や規模を問わず、すべての企業が時間単位年休を導入できます。導入するかどうかは企業の任意です。
- 対象者
対象となる従業員の範囲は、就業規則や労使協定で定めます。ただし、特定の従業員を対象外にできるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」のみです。
例えば「育児をおこなう従業員」のように、取得目的による対象者の限定はできません。
1-2. 時間単位年休の日数・時間数の限度
時間単位年休を取得できる日数と、1日あたりの時間数にはルールがあります。
時間単位で取得できる有給休暇の日数は、1年につき5日分です。具体的な日数は労使協定で定めますが、年休以外の特別休暇で5日以上の時間単位の休暇を設定することは問題ありません。
1日分の有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかは、就業規則や労使協定で定めておく必要があります。時間単位年休は1時間単位での取得に限られ、分単位は認められません。
したがって、所定労働時間が7時間30分のように端数がある場合は、切り上げて8時間とする必要があります。この場合、1日の時間数を9時間や10時間にするなど、8時間を上回る時間を定めるのは従業員に有利になるため問題ありません。
1-3. 時間単位年休の賃金計算方法
時間単位年休の賃金の計算方法は、有給休暇を1日単位で取得する際と同様の方法で算出し、取得した時間数に応じて計算します。具体的には、次の3つの方法があげられます。
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 労働基準法12条に定められている平均賃金
- 標準報酬日額
- 計算式
-
3つの方法のいずれかで算出した額 ÷ 休暇取得日の1日単位の有給休暇に相当する時間数 × 時間単位年休の時間数
3つのうちどの方法で賃金額を算出するかは、就業規則に定める必要があります。就業規則で定めた方法以外は選べません。
▼細かい計算方法を知りたい方はこちら
関連記事:有給休暇取得日の賃金計算で知っておきたい3つのポイント
2. 法改正予定・時間単位の年次有給休暇制度の見直し


2-1. 有給取得率の推移と見直しの背景
時間単位の年次有給休暇が導入された最大の理由は、年休の取得率向上です。時間単位年休の導入以前、年次有給休暇の取得率は5割を下回っており、取得促進が課題となっていました。
図のとおり、時間単位年休の導入後、年次有給休暇の取得率は年々上昇傾向です。しかし「2027年までに取得率70%」という政府の目標には到達していません。
また、時間単位の年次有給休暇制度を導入している企業の割合も増えてはいるものの、令和4年時点で25.9%にとどまります。
加えて、時間単位年休は今のところ年5日分以内しか取得できず、通院や育児・介護などで数時間だけ休みを取りたい用事が多い従業員だと、すぐに使い切ってしまう可能性もあります。
時間単位の有給休暇を使い切ると、1日または半日単位の有給休暇しか取れないため、再び休暇を取得しにくい状態に戻ってしまうことが考えられます。
2-2. 時間単位の年次有給休暇等の取得促進とは
時間単位の年次有給休暇がより使いやすくなるよう、政府は年5日分の取得上限を緩和する見直しを検討中です。具体的には、年次有給休暇の付与日数の50%程度まで時間単位年休の上限を引き上げる案が労働政策審議会で議論されています。
見直し案が実現した場合、例えば年次有給休暇が14日付与される従業員であれば、7日分の時間単位年休が取得できます。最終的な結論は2025年度中に出される予定です。
2-3. 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)の助成対象に
中小企業が時間単位年休を導入した場合「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」の助成対象となる可能性があります。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、生産性の向上と従業員の休暇取得促進に取り組む中小企業事業主を支援する制度です。次の取り組みが助成対象となります。
- 時間単位年休を新たに導入する。
- 病気休暇や教育訓練休暇、不妊治療のための休暇などの特別休暇(時間単位取得の制度を含む)を新たに導入する。
助成対象は就業規則の作成・変更にかかる費用や、労務管理用のソフトウェア導入費用などで、上限額は25万円です。政府が時間単位年休の促進に力を入れていることがわかります。
参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)|厚生労働省
3. 時間単位の有給休暇のメリット


時間単位の有給休暇のメリットは、従業員が休みを取りやすくなるだけではありません。時間単位の有給休暇には、3つのメリットがあります。
3-1. 有給休暇の消化率が上がる
厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」によると、2025年の労働者1人あたりの平均有給消化率は65.3%でした。
日本の有給消化率は世界から見ても最低水準で、日本人の多くは有給休暇の取得に抵抗があり、休みたくても休めない雰囲気の企業がまだまだ多い現状が伺えます。
しかし、1日単位や半日単位の有給休暇取得に抵抗がある場合でも、時間単位であれば有給休暇を取る心理的抵抗を減らせます。
時間単位の有給休暇があれば「午前中の3時間だけ」「就業前の2時間だけ」など、柔軟に休暇が取りやすくなり、有給休暇の取得率を向上させる効果が見込めるでしょう。
関連記事:労働基準法で義務化された有給休暇消化を従業員に促す3つの方法
3-2. 企業イメージや従業員満足度が向上する
企業が時間単位の有給休暇を導入すると、企業のイメージや従業員満足度の向上が期待できます。
「柔軟な働き方を認めてワークライフバランス向上に取り組んでいる企業」というイメージがつき、採用応募者の増加が見込まれるでしょう。
人手不足に悩む企業や、イメージ戦略に力を入れたい企業が時間単位の有給休暇を導入すると、課題の解決に役立つ可能性があります。
3-3. ワークライフバランスの実現を目指せる
時間単位の有給休暇は、従業員のワークライフバランスの実現にも有効です。数時間単位で有給休暇が取れるようになれば、用事があるときに気軽に休めます。
時間単位の有給休暇を上手に使えば1日や半日の休暇取得に抵抗があったり、用事があるものの仕事が溜まっていたりする場合でも、仕事とプライベートを両立しやすくなるでしょう。
休暇を取りやすくなると従業員のワークライフバランスの向上が実現できます。企業へのエンゲージメントが向上して離職率の低下も期待できるため、企業側にもメリットがあるでしょう。
4. 時間単位の有給休暇のデメリット


時間単位の有給休暇にはデメリットもあるため注意が必要です。ここでは、デメリットを3つ紹介します。
4-1. 有給休暇の管理が複雑になる
時間単位の有給休暇を導入すると、次のとおり有給休暇の管理が複雑になります。
- 時間単位の有給休暇導入前:残日数のみを管理
- 時間単位の有給休暇導入後:日数と時間数を管理
有給休暇の管理が複雑になると、企業も従業員も有給休暇の残数を把握しにくくなり、トラブルの原因となる恐れがあります。
勤怠管理システムを導入するなど、正しく有給休暇を管理できる仕組みを作る必要があるでしょう。
例えば、勤怠管理システムの「ジンジャー勤怠」では、有給の残日数が従業員・管理者がいつでも確認できるほか、有給申請もシステムからおこなって自動で残日数へ反映されるため、有給残日数の管理の手間を削減できます。
4-2. 時季変更権を行使しにくくなる
有給休暇の取得は従業員の権利ですが、有給休暇の取得を認めると正常な事業運営に支障が生じるおそれがある場合、従業員に取得時期を変更するよう命令できます。これを企業の時季変更権といいます。
時間単位年休も1日単位の有給休暇と同様に、時季変更権の行使が可能です。ただし、時間単位の有給取得を1日単位の年休に変更したり、1日単位の年休を時間単位年休へ変更したりすることはできません。時間単位の年休に対し時季変更権を行使する場合は、取得時間数も変えず時間単位年休のまま変更する必要があります。
4-3. まとまった休暇が取りにくくなる可能性がある
有給休暇は、従業員が心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保証するために与えられる休暇です。時間単位の有給休暇は部分的にしか休めず、有給休暇本来の目的が達成できない可能性があります。
時間単位の有給休暇を活用する代わりに、1日単位や半日単位の有給休暇が取得しづらくなってしまうと本末転倒です。時間単位の有給休暇を導入する際は、通常の有給休暇の取得促進にも取り組みましょう。
日常的に発生する有休の日数管理の工数などは、Excelをはじめとしたツールを利用して工数の削減ができます。
関連記事:有給休暇に関する計算を具体例付きで解説!出勤率、日数、金額の計算方法とは?
5. 時間単位の有給休暇の導入方法

時間単位の有給休暇を導入するには、決められた手続きを取らなければなりません。就業規則に時間単位の有給休暇制度を定め、労使協定を締結する必要があります。
ここでは、時間単位の有給休暇を導入しようと考えている企業の人事担当者向けに、必要な手続きを紹介します。
5-1. 就業規則に記載する
就業規則とは、従業員の給与や労働時間などの労働条件や、職場内のルールなどを定めた規則集です。時間単位の有給休暇を導入するには、就業規則に定める必要があります。記載が必要な事項は次のとおりです。
- 時間単位の有給休暇が利用できる旨
- 時間単位の有給休暇が利用できる日数
- 対象となる従業員
- 1日の年次有給休暇に相当する時間数(所定労働時間が7時間を超え8時間未満の従業員は8時間など)
- 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数(2時間単位から取得可能など)
- 取得時の賃金の計算方法
就業規則の内容を変更した場合、従業員への周知と労働基準監督署への届け出が必要です。時間単位の有給休暇の定めを追加した場合も、忘れずに周知と届け出をしましょう。
関連記事:有給休暇の義務化で就業規則を変更する場合に注意すべき2つのポイント
5-2. 労使協定を締結する
時間単位の有給休暇を導入するときは、労働者の過半数で組織している労働組合、もしくは労働者の過半数を代表する者と、書面による労使協定を締結しなくてはなりません。
労使協定で定めておく必要がある内容は、次のとおりです。
- 時間単位の有給休暇が利用できる日数
- 対象となる従業員の範囲
- 1日の年次有給休暇に相当する時間数
- 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
就業規則と共通する部分も多いですが、労使協定の締結も忘れないようにしましょう。
6. 時間単位の有給休暇を取得する際の注意点


時間単位年休は、1日単位の有給休暇とは異なるルールがあります。時間単位の有給休暇の注意点を確認しましょう。
6-1. 時間単位取得は年5日分まで(分単位は不可)
年次有給休暇を時間単位で取得できるのは、年5日分までです。また「30分単位」「15分単位」などの分単位での取得は認められていません。
時間単位年休は法律上、年間で取得できる日数の上限が5日と定められています。5日を超える分は、通常どおり1日単位(もしくは半日単位)で有給休暇を取得しなくてはなりません。
1日分の時間数は通常、所定労働時間を基に規定されます。所定労働時間が7時間30分のように分単位の端数がある場合は、時間単位に切り上げるため、1日あたり8時間が時間単位の有給休暇として利用できます。
1日あたり8時間の場合、年間では8時間×5日で40時間が年間取得時間数の上限です。なお、企業の判断で上限を増やしたり、撤廃したりはできます。
また、取得できるのは日単位・半日単位・時間単位のみで、15分や30分などの分単位での取得はできません。従業員から「30分だけ年休を取りたい」と相談があった場合は1時間の時間単位年休を使うよう案内しましょう。
6-2. 年5日の取得義務(日単位付与分)には算入できない
2019年に施行された働き方改革関連法により、5日間の有給休暇取得が義務化されていますが、時間単位年休で取得した分の休暇は義務化された5日間に含まれません。
例えば、1日8時間分の時間単位の有給年休を5日分(合計40時間分)取得しても、有給休暇取得の義務である「年5日」にはカウントされません。
年5日の取得義務を果たすには、1日または半日単位で5日分の年休の取得が必要です。
年5日の取得義務を適切に管理するためにも、日単位の有給休暇と時間単位の有給休暇の取得日数はそれぞれ分けて管理する必要があります。
6-3. 計画年休には組み込めない
有給休暇の年間付与日数のうち5日を除いた分は、労使協定により従業員と使用者が合意したうえで、取得時季を決めて従業員に有給休暇を取得させることが認められています。これを計画年休といいます。
有給休暇の取得を促す目的から、計画年休を取り入れている企業も多いでしょう。
ただし、時間単位での有給休暇は、従業員が取得を希望した場合に取得できる制度のため、計画年休での付与は認められていません。
時間単位の有給休暇で計画年休を利用しないよう注意が必要です。
6-4. 中抜け利用が可能
年休の取得時期を変更できるのは、「事業の正常な運営を妨げる」場合のみに限られます。そのため、次の制限はできません。
- 時間単位年休を取得できない時間帯を定めておく
- 1日に取得できる時間数・回数を制限する
- 所定労働時間の途中での取得を制限する
「所定労働時間の途中での取得」とは、いわゆる中抜けです。時間単位年休の場合、勤務時間途中での取得も従業員の自由であり、中抜けを禁止する定めは設けられないため注意しましょう。
6-5. 1日未満の端数が残った場合は翌年繰り越しが可能
時間単位年休の取得により1日未満の端数が残った場合には、翌年に繰り越すことも、1日単位に切り上げて1日分として当年度に付与することも可能です。ただし切り捨てはできません。端数の取り扱いは時間単位年休の導入時点で決めておき、就業規則に定めましょう。
7. 時間単位の有給休暇でワークライフバランスの実現を目指そう!

時間単位の有給休暇は、1時間単位で休暇を取得できる制度です。
上手に使えば、有給消化率や企業イメージの向上、ワークライフバランスの実現などメリットが多くあります。職場の有給休暇の運用に課題を感じている企業は導入を検討してみてもよいでしょう。
ただし時間単位の有給休暇は管理が複雑になりやすく、心身の回復につながりにくい可能性がある点がデメリットです。
勤怠管理システムなどで適切に管理しつつ、1日単位・半日単位の有給休暇も取れるよう、企業全体で取り組んでいきましょう。
関連記事:年次有給休暇とは?をわかりやすく解説!付与日数や取得時期も紹介



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