特別手当とは?賞与との違いやメリット・注意点を解説
更新日: 2025.3.5
公開日: 2024.1.12
OHSUGI
特別手当とは、給与とは別に支給する手当のことです。
「業績が良かった」「営業目標を達成した」など従業員が結果を出した際には、臨時で手当を支給したいと考える経営者の方も多いでしょう。特別手当は、従業員の努力や貢献に対するご褒美として付与することができます。
しかし、特別手当に法的な義務はなく、金額や支給時期はすべて企業で設定できる手当なので、社会保険上どのような区分に該当するか悩む方もいるでしょう。
この記事では、特別手当の基本知識や賞与との違い、特別手当の種類や具体例、メリット・デメリットを紹介しています。特別手当を支払う場合の注意点にも触れているので、企業経営者・労務担当者の方はぜひ参考にしてください。
1. 特別手当とは
特別手当とは、給与とは別に企業が従業員に対して支払うものですが、法的な支払い義務はありません。正社員だけでなくアルバイトやパートが支給対象になることもあり、毎月、給与にプラスして特別手当を支払うケースもあれば、臨時で特別手当を支払うケースもあります。
早朝手当やノルマの達成に対する手当、繁忙期手当など、特別手当を支給する理由は企業によって異なります。
ただし、下記の手当は「特別手当」に該当しないので、企業は必ず支払わなければなりません。
時間外手当 | 法定労働時間を超えた場合 |
休日手当 | 法定休日に勤務させた場合 |
深夜手当 | 22時~5時までの間に勤務させたとき |
住宅手当・資格手当・役職手当などの手当は、企業側の独自ルールで支払われます。特別手当はこれらの手当と同じく、企業が必ず支払わないといけないものではありません。
なお、定期給与とは別で支払われるという点は賞与と同じなので、特別手当とボーナスは同じ意味で用いられます。
関連記事:役職手当とは?相場・金額の決め方をわかりやすく解説
1-1.課税となる特別手当
課税対象となる特別手当は、ノルマを達成したときに支払われるインセンティブや業績手当などがありますが、毎月支給される手当では下記のようなものが挙げられます。
役職手当
役職手当とは、課長や部長など特定の役職に就く従業員が支給対象となる手当です。多くの企業で採用している手当ですが、法的義務はありません。
支給額は、業務の負担率や責任の大小によって変わるのが一般的です。
家族手当
家族手当とは、配偶者や子どもなど扶養する家族が支給対象となる手当です。支給額は配偶者と子どもの人数によって決まるのが一般的ですが、法的義務はないため企業によってまったく違います。
また、扶養手当を採用している企業は、家族手当は支給しないというところが多いようです。
住宅手当
住宅手当は、アパートやマンションなど賃貸住宅に住む従業員の住居費を補助する手当です。ただし、すべての家賃を補助するのではなく、家賃の一部を補填するという形で、家賃の額に限らず一律の金額が支給されるのが一般的です。
1-2.非課税となる特別手当
非課税となる特別手当に関しては、原則として国税庁が決めます。そのため、法改正があった場合は課税対象になる可能性もありますが、現時点では下記の手当が非課税となっています。
通勤手当
通勤手当は、通勤のために使用する車や公共交通機関にかかる交通費を補助する手当です。ただし、非課税となるのは通勤手段ごとに上限があり、例えば公共交通機関の場合は、月額15万円までは非課税ですが、それを超えると課税対象となります。
資格取得手当
資格取得手当とは、従業員がおこなっている業務上もしくはスキルアップのために必要な資格を取得した際に支給される手当です。支給対象となるのは、原則として教材費や受講費など資格を取得するための費用として、適正の範囲内が非課税になります。
出張手当
出張手当とは、業務で必要となる出張に対して支給される手当です。基本的には、交通費や宿泊費が非課税となりますが、接待交際費は出張手当とは仕訳が異なるため課税対象となります。
2. 特別手当と賞与の違い
特別手当と賞与は、同じ扱いになる場合とならない場合にわかれます。
時期 | 金額 | 社会保険上の取扱い | |
特別手当 | 決まっていない | 決まっていない | 賞与:年に3回まで |
給与:年に4回以上 | |||
賞与 | 定期的(年に1~2回が一般的) | 支給額を定める場合もある | 賞与:年に3回まで |
給与:年に4回以上 |
特別手当でも賞与でも、年に支給する回数で社会保険上の取扱い区分が変わります。年に4回以上支給すれば、特別手当・賞与と呼ばれていても、扱いは「給与」と同じです。
ここでは、賞与と特別手当のそれぞれの取扱いについて詳しく解説します。
2-1. 特別手当
年に3回以下で支払う特別手当は、社会保険上「賞与」の扱いです。この場合、特別手当と賞与に法律的な違いはありません。違いは、特別手当は支払う時期が決まっていないのに対し、賞与は定期的に支払う点です。
特別手当も、賞与と同じように年4回以上支払うと、給与と同じ方法で社会保険料の計算をおこなう必要があります。
ただし、企業の売上が良かった場合に従業員に配る「大入り袋」として配る場合には扱いが変わります。大入り袋の場合は福利厚生費に該当するため、社会保険料がかかりません。
大入り袋として取り扱うためには「臨時に受けるもの」「高額でない」「恩恵的要素が強い」などの条件を満たす必要があります。
大入り袋のほかに、福利厚生費に該当し社会保険料の対象外になるのは、下記の手当や費用が挙げられます。
- 住宅手当
- 出張手当
- 慰安旅行手当
- 忘年会新年会費用
- 懇親会費用
- 残業時の食事代
- 慶弔見舞金
- 健康に関する手当
2-2. 賞与
賞与とは給与とは別に支給するものです。多くの企業では、基本給◯ヵ月分と表現される「基本給連動型賞与」が採用されています。
賞与の定義は、厚生年金保険法3条4項で以下のように定義されています。
賞与 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。
年4回以上の賞与を支払った場合には、賞与ではなく給与と同じ扱いになるでしょう。従業員へ賞与や給与が支払われる際には社会保険料がかかりますが、賞与と給与ではそれぞれ保険料の計算方法が異なります。
賞与は、労働契約や就業規則で支給額を定めているケースもあるかもしれません。ただし、支給条件が明確になっている場合には、賞与の減額・不支給が問題になる場合があります。
関連記事:賞与計算の基本や注意点・社会保険料が引かれる理由を解説
3. 特別手当の具体例
特別手当の具体例としては、下記のような手当が挙げられます。
- 夜勤や早出している方への手当
- 売上目標の達成に対する手当
- 企業に大きな利益が出た際に支給する手当
- 時間外勤務手当
- 繁忙期手当
- オープン準備に対する手当
特別手当は、何に対して支給するかは決まっていません。したがって、手当の内容は企業によって異なります。
時間外勤務手当や早出・夜勤手当を支給する場合、その勤務状態が継続的に続くのであれば、その勤務をねぎらう手当も毎月支給することもあります。
4. 特別手当のメリット
特月手当のメリットは以下の2つです。
- 従業員のモチベーションが上がる
- 基本給を上げずに支払金額を上げられる
ここでは、それぞれのメリットを詳しく解説します。
4-1. 従業員のモチベーションが上がる
特別手当は、従業員のモチベーションアップにつながります。忙しい時期を頑張って乗り越えた従業員や、営業目標を達成した従業員には、特別手当で感謝や慰労の気持ちを伝えましょう。
企業全体の利益を特別手当として従業員に還元すれば、従業員のさらなる利益アップへの意気込みを強くできます。
4-2. 基本給を上げずに給与の総額をあげられる
毎月特別手当を支給すると、基本給を上げずに給与の総額を上げられます。基本給とは、手当を含まない賃金です。ほとんどの場合、基本給をベースにして賞与や残業代、退職金の額が決まります。
企業としては、基本給を上げるほど従業員への支払金額が増えます。しかし、従業員への月々の支払い総額をアップしたい場合に特別手当の名目で支払うと、賞与・残業代・退職金の金額を上げずに、給与の総額を上げられるでしょう。
また基本給は簡単に減額できませんが、手当として支払う場合には労働条件の変更などがないため、減額や支給の取りやめが可能です。
5. 特別手当のデメリット
特別手当のデメリットは、働き手に「基本給が低いと判断される場合がある」ことです。
基本給とは別に毎月特別手当をはじめとした各種手当てを支払うと、企業側はすべてを基本給で支払うよりも賞与・残業・退職金の金額を抑えられます。
しかし、働く側でも基本給を重視する傾向があり、あまりに基本給が低いと求人の段階で敬遠される可能性があるでしょう。従業員のなかには、基本給の低さを理由に転職を検討する人が現れかねません。
あまりに基本給が低く、かつ手当の金額が高いと企業全体のイメージを損なってしまうので、基本給と手当のバランスをよく考えて設定することが求められます。
6. 特別手当を支給する際の注意点
特別手当を支給する際の注意点は、福利厚生と報酬(給与・賞与)のどちらに該当するかを考慮しなくてはならない点です。本来なら、特別手当は福利厚生として扱われるので、報酬(給与・賞与)とはならず社会保険料の対象にはなりません。しかし、報酬(給与・賞与)として扱ってしまうと、社会保険料を納める必要があるため企業に負担がかかります。
ただし、福利厚生として扱っても、支払いが定期的・高額である場合は、福利厚生ではなく報酬(給与・賞与)だと年金事務所に判断される可能性が高く、社会保険料の対象とみなされるので注意しましょう。
例えば、1年に1~2回特別手当を定期的に支払う場合には、賞与とみなされるでしょう。特別手当が賞与に該当する場合には、賞与に対する社会保険料を計算し、納めなければなりません。
年に4回以上特別手当を支給した場合には、賞与ではなく給与として社会保険料を計算する必要があります。
後から報酬に当たると年金事務所に指摘されれば、2年間遡って社会保険料を納めなければならないので注意が必要です。
7. 特別手当を上手に活用しよう
特別手当がどのような手当なのかは、企業によって異なります。また支給方法も、月々支払う給与にプラスされる場合もあれば、臨時で支払う場合もあるでしょう。
企業の業績が上がった場合や、営業目標を達成した場合などに特別手当を支給すれば、社員のモチベーションが上がります。社員のやる気が引き出せれば、さらなる生産性アップが期待できるでしょう。
しかし、特別手当が社会保険上で賞与・給与・福利厚生費のどの区分に該当するかは十分に考慮する必要があり、賞与や給与と判断された場合は社会保険料が発生するので要注意です。そのため、特別手当を導入する場合は特徴やリスクを把握して、上手に活用していくことがポイントになります。
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