106万円の壁とは?対象者の条件や130万円の壁との違い、撤廃による影響・対策を解説
更新日: 2025.9.29 公開日: 2024.10.20 jinjer Blog 編集部

106万円の壁とは、一定の条件下において社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しなければならない年収の基準のことです。パートやアルバイトなどの短時間労働者が年収106万円以上になると、社会保険への加入義務が発生し、保険料の支払いにより手取り収入が減少することがあります。
社会保険料は労使折半で負担する仕組みのため、企業側にも保険料の負担が生じます。したがって、労働者の収入を正確に把握し、適切に管理することが重要です。本記事では、「106万円の壁」の仕組みや、よく比較される「130万円の壁」との違いについて解説します。さらに、今後予定されている106万円の壁の撤廃に関する動向や、それに伴う企業への影響、取るべき対策についても詳しく紹介します。
目次
2025年から本格化する「年収の壁」の見直し。従業員への説明や社会保険手続きの増加など、労務担当者の業務負担は増すばかりです。
さらに働き控えの原因となっていた「年収の壁」の見直しは、パート・アルバイト従業員の労働時間増加を後押しし、人手不足の緩和につながる可能性があります。この機会を活かすための準備はできていますか?
▼この資料でわかること
- 結局どう変わる? 複雑な制度改正の要点と企業への影響
- 今後急増する社会保険手続きへの、具体的な備え
- 法改正対応で想定される、システム更新のコストと工数
- パート・アルバイト従業員への適切なアナウンス方法
複雑化する「年収の壁」問題について、2025年からの最新動向から企業がとるべき実務対応まで解説していますので、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、お役立てください。
1. 106万円の壁とは?


106万円の壁とは、社会保険への加入が必須となり保険料の支払い義務が発生する年収の基準です。社会保険とは、以下のリスクに備える公的保険制度を指します。
- 疾病
- 高齢
- 死亡
- 労働災害
- 失業
社会保険は、家族の扶養に入ることで保険料の負担なく加入できます。しかし、年収が106万円以上になると、社会保険に自分自身で加入しなければならない可能性があります。その場合、健康保険料や厚生年金保険料が自分の給与から天引きされるため、もらえる手取りが減るのが実情です。
扶養に入っている労働者が収入を維持したいと考え、106万円の壁を超えないよう勤務時間を調整することがあります。しかし、労働者が年収を考えず106万円以上となり、手取りが減少することも珍しくありません。
会社側は労働時間を正しく管理することが大切です。扶養に入っている社員が年収106万円以上になりそうなときは、声をかけるなどの対策をおこないましょう。
1-1. 106万円の壁の対象者
「106万円の壁」と聞くと、年収だけがポイントのように思われがちですが、実はそれ以外にも社会保険に加入するための条件があります。以下のすべての条件を満たす場合、「106万円の壁」の対象となり、扶養から外れて自身で保険料を支払う必要が出てきます。
- 事業所に社員が51人以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 給与が月額8万8,000円以上(いわゆる年収106万円の壁)
- 雇用期間の見込み日数が2ヵ月以上
- 学生ではない
なお、学生は基本的に社会保険の加入条件を満たしませんが、休学中の人や、定時制・通信制の学校に通う人などは、上記の学生以外の条件を満たせば、社会保険に加入できます。
また、週の所定労働時間に加えて月の所定労働日数が、常時雇用のフルタイム労働者の4分の3以上の労働者は、上記の条件に関係なく、社会保険の加入対象者に含まれます。
日雇い労働者や、所在地が一定しない事業所に雇用されている人などは、社会保険の被保険者となることができない点にも注意が必要です。
参考:社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について|厚生労働省
参考:「学生でないこと」について、学生とはどのような者を指すのですか。通信制課程に在学する者は対象となりますか。|日本年金機構
関連記事:社会保険の加入条件をやさしく解説|短時間労働や例外パターン、よくある質問も紹介
1-2. 106万円の壁と130万円の壁との違い
106万円と130万円の壁との違いは、以下のとおりです。
| 106万円 | 130万円 |
|
|
106万円の壁と130万円の壁は、対象者が同じではありません。前述した106万円の壁の対象者に該当しない人に、130万円の壁が適用されます。
このように、労働者は一定の年収以上になることで、配偶者や親の扶養から外れ、自身で社会保険(国民健康保険・国民年金)への加入義務が発生します。106万円の壁が適用される場合、社会保険料の支払いは労使間での折半です。
一方、130万円の壁が適用された場合でも、勤務先で社会保険の加入手続きがおこなわれないのであれば、従業員自身が市区町村の窓口で国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。このケースでは、保険料は全額本人負担となるため、会社側に保険料の負担義務はありません。この点を企業として正しく理解しておくことが重要です。
関連記事:社会保険料の計算方法とは?給与計算や社会保険料率についても解説
2. 106万円の壁を超えるかどうか判断するポイント


年収が106万円以上になると、勤務先での社会保険への加入義務が生じる可能性があります。ここでは、年収106万円の壁を超えるかどうか判断するポイントについて詳しく紹介します。
2-1. 交通費や残業代などは収入に含めない
「年収106万円の壁」に該当するかどうかを判断する際の「月額8万8,000円以上」という基準は、所定内賃金に基づいて判断されます。
所定内賃金とは、基本給や定期的に支払われる手当など、あらかじめ決められた労働時間に対して支払われる賃金を指します。そのため、以下のような報酬は、計算に含めません。
- 臨時に支払われる賃金(見舞金や結婚手当など)
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与やボーナスなど)
- 残業代や割増賃金(時間外労働・休日労働・深夜労働)
- 最低賃金の計算に含めないとされる賃金(皆勤手当・通勤手当・家族手当)
割増賃金の基礎となる賃金や標準報酬月額などの計算に含める賃金と定義が異なるので注意しましょう。
参考:所定内賃金が月額8.8万円以上かの算定対象となる賃金には、どのようなものが含まれますか。|日本年金機構
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説
2-2. 月額給与額が8万8,000円を超えても社会保険の加入義務が発生しない状況がある
月額給与が8万8,000円以上になっても、必ずしも社会保険の加入義務が発生するとは限りません。例えば、繁忙期に一時的に月額が8万8,000円以上となっても、年間を通じてその水準が継続すると見込まれない場合や、残業によって一時的に上回った場合には、社会保険の加入義務は発生しません。
社会保険の加入義務は、あくまで基準内賃金(通常の報酬)が継続的に月額8万8,000円以上となる場合に発生します。月額給与は、以下の計算式で概算できます:
- 月額給与額 = 時給 × 週の所定労働時間 × 52週 ÷ 12ヵ月
例えば、時給が1,050円で週の所定労働時間が20時間の場合、「1,050円 × 20時間 × 52 ÷ 12 = 約91,000円」となり、基準内賃金が8万8,000円以上となるので、他の加入条件(従業員数、雇用期間、学生でないことなど)も満たせば、社会保険に加入する義務が生じます。
時給だけでなく、労働時間によっても106万円の壁を超えるかどうかが決まるため、正確な勤怠管理が不可欠です。企業側は、加入要件を満たす可能性がある従業員について、早めに確認と対応をおこなうことが重要です。
2-3. 副業・ダブルワークをする人は1社で判断する
副業・兼業やダブルワークにより、2ヵ所以上の勤務先で働く場合でも、社会保険への加入は基本的に勤務先ごとに判断されます。つまり、複数の勤務先の賃金を単純に合算して、年収106万円の壁を超えるかどうかを判定するわけではありません。
例えば、A社の所定内賃金が6万円、B社の所定内賃金が5万円の場合、合算して考えると、年収106万円の壁を超えます。しかし、それぞれの勤務先ごとに月額8.8万円以上という条件を満たしていないため、社会保険の加入義務は発生しません。
一方、A社とB社どちらも社会保険の加入条件を満たす場合、A社とB社の両方で社会保険に加入することになります。この場合、被保険者本人が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構や健康保険組合に提出し、主たる事業所を選択する手続きが必要です。なお、社会保険料は、両事業所の報酬額に応じて按分されます。
参考:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構
参考:兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務する皆さまへ|日本年金機構
関連記事:本業と副業で可能な労働時間とは?割増賃金や注意点についても解説
3. 106万円の壁を超えた際の保険料の負担額


106万円の壁を超えた際の保険料の負担額を、以下の項目に分けて解説します。
- 健康保険料の場合
- 厚生年金保険料の場合
保険料の負担額を正確に計算しましょう。
3-1. 健康保険料の場合
106万円の壁を超えた際の健康保険料の負担額は、以下の計算式で算出できます。
| 標準報酬月額 × 健康保険料率 ÷ 2= 健康保険料の負担額 |
標準報酬月額とは、社会保険料の計算を簡略化するため、社員の月々の賃金を一定範囲に分けて区分したものです。標準報酬月額や健康保険料率は、所属する健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)が公表している数値を参考にしましょう。なお、協会けんぽの保険料率は都道府県によって異なるため、計算する際には要注意です。また、社会保険料は労使間での折半となるので、会社負担分を求めるときは2分の1を掛ける必要があります。
例えば、協会けんぽ(神奈川県)に所属し、標準報酬月額が16万円の場合、令和7年度の健康保険料の会社負担額は次のように計算できます。
- 16万 × 9.92% ÷ 2 = 7,936円
この場合、従業員負担分も7,936円となり、給与から天引きし、会社負担分とあわせて納付する必要があります。なお、従業員が40歳以上65歳未満の場合、介護保険料もかかるので、計算・納付漏れが起きないよう十分に注意しましょう。
参考:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)|全国健康保険協会
3-2. 厚生年金保険料の場合
106万円の壁を超えた際の厚生年金保険料の負担額の計算式は以下のとおりです。
| 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率 ÷ 2 = 厚生年金保険料の負担額 |
厚生年金保険料率は、全国一律で18.3%です。例えば、標準報酬月額を16万円としたときの、厚生年金保険料は以下の計算式で算出できます。
16万円 × 18.3% ÷ 2 = 14,640円
標準報酬月額が16万円のケースでは、会社が負担する金額は14,640円です。健康保険料と同様、従業員負担分(14,640円)をあわせて納付する必要があります。
参考:保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)|日本年金機構
関連記事:社会保険料の納付方法は?仕組みや納付期限・滞納時のリスクもまとめて解説
4. 106万円の壁に対する助成制度


106万円の壁に対する助成制度に、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)があります。この制度は、社会保険に新たに加入する労働者に対して、収入増加の取り組みを実施したら支給される助成金のことです。
企業は以下に該当する社員がいる場合には、助成金の申請ができます。
- 2023年10月以降に新たに社会保険の被保険者の条件を満たす労働者
- 社会保険加入日の6ヵ月の前日から継続して雇用されている労働者
- 社会保険加入日から過去2年以内に現職で社会保険に加入していない
申請が通った企業は、以下の3つのメニューから助成方法を選択できます。
| 手当等支給メニュー | 社会保険適用促進手当の支給などにより社員の収入をアップさせる際に支給する |
| 労働時間延長メニュー | 所定労働時間の延長により社会保険を適用させる際に企業に対して助成する |
| 併用メニュー | 手当等支給メニューと労働時間延長メニューを組み合わせたもの |
企業は助成金の支給によって、給与アップや労働時間の延長へ前向きに取り組めるようになるでしょう。
参考:キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)|厚生労働省
5. 106万円の壁は撤廃される?


パート・アルバイトなどの短時間労働者にとって大きな影響を与えてきた「106万円の壁」ですが、今後は制度の見直しにより、段階的に撤廃される方針が政府から示されています。
ここでは、106万円の壁撤廃に関する最新動向と、企業に求められる対応や対策について詳しく解説します。
5-1. 今後は段階的に賃金要件と企業規模要件が撤廃される予定
2025年(令和7年)6月13日に年金制度改正法(施行期日:2026年(令和8年)4月1日)が成立しました。これにより、長年パート・アルバイトなどの短時間労働者に影響を与えてきた「106万円の壁」が、法律の公布から3年以内に撤廃されます。
今回の法改正では「106万円の壁」撤廃に加え、いくつかの重要な見直しが盛り込まれています。例えば、社会保険の加入条件の一つである「企業規模51人以上」という要件については、2027年(令和9年)10月1日から2035年(令和17年)10月1日までの期間をかけて、段階的に撤廃されることとなりました。
さらに、「常時5人以上を雇用する個人事業所に対する社会保険の非適用業種の見直し」や、「適用拡大に伴う保険料負担割合の調整による従業員の負担軽減、並びにそのための支援策」なども盛り込まれており、社会保険制度全体の改革が進められようとしています。
5-2. 106万円の壁がなくなることによる会社への影響
106万円の壁が撤廃されることで、社会保険の適用対象者のさらなる拡大が見込まれます。社会保険料は労使折半で納めることが原則です。そのため、加入者が増えることにより企業側の保険料負担が増加する可能性があります。
一方で、これまで賃金要件などにより社会保険に加入できなかった短時間労働者も、制度の見直しによって加入対象となり、より安定した働き方が可能になるでしょう。このような制度変更は、労働者にとっての福利厚生の充実につながり、人材の確保や定着率の向上といった企業側のメリットも期待できます。
5-3. 106万円の壁撤廃に向けて対策すべきこと
106万円の壁は、すぐに撤廃されるわけではありません。まずは、今後どのように社会保険の適用拡大が進められるのか、最新の法改正動向を継続的に把握しつつ、時間をかけて社内制度の見直しを進めていくことが重要です。
実際に106万円の壁が撤廃された際には、誰が新たに社会保険の加入対象となるのかを事前に洗い出しておくことが、スムーズな実務対応につながります。あわせて、変更後の加入基準に対応できるよう、労務管理体制の見直しや勤怠管理システムの改修・更新についても、早期の準備が求められるでしょう。
さらに、企業によっては社会保険適用拡大に伴う助成金制度の活用が可能となる場合があります。自社がその要件を満たしているかを確認し、必要に応じて申請を検討することは、コスト負担の軽減策として有効です。
6. 106万円の壁を理解して労働環境を整えよう


企業は106万円の壁を理解して労働環境を整えることが大切です。対象者を正確に把握して、社会保険の加入者を正しく管理しましょう。
給与アップや所定労働時間を延長する際には、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を活用可能です。申請が通れば助成金が支給されるため、企業側は賃上げや労働時間の延長に前向きに取り組めます。
今後、社会保険に関する106万円の壁や企業規模要件は段階的に撤廃される見通しです。常に最新の制度動向を把握し、自社の就業規則や人事制度の見直しに着実に取り組んでいくことが求められます。



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