離婚後の年末調整はタイミングに注意!ひとり親控除や扶養控除の適用も解説

人事担当者は、従業員が離婚を報告する義務の有無や、年末調整で必要となる情報の範囲を正しく理解し、適切に案内・確認をおこなわなければなりません。
本記事では、従業員が離婚した場合に年末調整で留意すべきポイントと、会社としての対応の基本を解説します。
目次
令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、令和7年分の年末調整に必要な書類から対象者、計算の流れまで、年末調整に関する基本的な業務を図解でわかりやすくまとめた資料を無料で配布しております。
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1. 離婚後の年末調整で気をつけるべきポイント


従業員の離婚後の年末調整では、受けられなくなる控除があるなど、注意点が多くあります。ここでは、離婚後の年末調整で気をつけるべきポイントについて詳しく紹介します。
1-1. 離婚した後の年末調整では受けられなくなる控除がある
離婚をした場合、配偶者や扶養する子どもがいることで受けられた所得控除が受けられなくなる可能性があります。
|
受けられなくなる所得控除の種類 |
受けられなくなる所得控除額 |
|
配偶者控除 |
38万円 |
|
配偶者特別控除 |
配偶者の所得額によって異なる |
|
扶養控除(16歳以上の子どもを扶養している場合) |
38万円(19歳~22歳の子どもを扶養している場合は63万円) |
離婚しても16歳以上の子どもの親権をもち、子どもと生計を共にしている場合は扶養控除が受けられます。
また、子どもと別居していても養育を常におこなっている場合は扶養控除の適用となるケースもあります。ただし、その場合も扶養控除が適用されるのは父側・母側どちらか片方だけです。
なお、令和7年度税制改正により、2025年分から特定親族特別控除が創設されました。19歳~22歳の子どもを扶養している場合、その子どもの合計所得⾦額が58万円を超えても123万円以下であれば、扶養控除ではなく、特定親族特別控除が適用できる可能性があります。また、扶養親族の所得要件が48万円以下から58万円以下へと緩和された点にも注意しましょう。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
1-2. 離婚したことで受けられる控除もある
離婚したことで受けられなくなる控除もある一方で、離婚したから受けられるようになる控除もあります。
- ひとり親控除
- 寡婦控除(女性のみ)
なお、令和7年度税制改正により、ひとり親控除の⽣計を⼀にする⼦の所得要件が48万円以下から58万円以下へと緩和された点に注意が必要です。
ひとり親控除・寡婦控除(女性のみ)の存在は知っていても、内容まで理解していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
控除金額や必要な申請書を間違えると年末調整にも影響が出るため、しっかり把握しておく必要があります。
当サイトでは、それぞれがどのような控除か具体的な内容を知りたい方に向けて年末調整の控除について金額や条件をまとめた資料を無料でお配りしています。
年末調整の控除に関してミスがないか確認したい方は、こちらの「年末調整ガイドブック」をダウンロードしてご確認ください。
1-3. 扶養控除がなくなることで追徴される可能性がある
離婚して子どもなど扶養親族がいなくなった場合、その年の源泉徴収額の合計額がその年に納めるべき所得税額を下回り、不足分としていくらか追徴される可能性があります。特に、年末調整の際には、離婚前の扶養人数を基に税額が計算されるため、離婚後に扶養人数が減少した場合は追加で税金を納める必要が出てきます。
この追徴は、離婚した年の年末調整における申告内容に影響を与えるので、従業員は急いで関連する書類の見直しをおこなう必要があります。また、扶養控除に関連する控除が適用できなくなることを考慮に入れることで、従業員は自身の税負担を見積もり、必要な対応をおこないやすくなります。
従って、離婚後は新たに適用できる控除や失われる控除についてしっかり理解し、税務処理に反映させることが大切です。
関連記事:年末調整でマイナスになる主な理由と対処方法を詳しく解説
1-4. 離婚協議中や別居の状態では配偶者控除や扶養控除が受けられる
配偶者控除や扶養控除の可否は、その年の12月31日時点の状況で判定されます。たとえ離婚協議中や別居中であっても法的に離婚が成立していない場合、配偶者や子どもと生計を一にしていれば、それぞれの控除を受けられます。
一方、12月31日時点で離婚が成立していれば、同居していても元配偶者に対する配偶者控除や扶養控除は適用されません。ただし、自分の両親や、自身が親権を持ち生計を維持している子どもについては、離婚後も扶養控除の対象とすることができます(所得要件等を満たす場合)。
1-5. 生命保険金の受取人を変更する
生命保険料控除を受けるためには、保険料負担者が本人であり、かつ保険金の受取人が本人または親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)である必要があります。離婚すると元配偶者は親族ではなくなるので、離婚後も元配偶者を受取人としたまま支払った保険料は控除の対象外となります。
そのため、離婚した場合は速やかに受取人を本人または元配偶者でない親族に変更する必要があります。受取人は子どもや親などの血族に変更するケースが多く見られますが、誰にするかは家庭の状況や相続・手続きのしやすさなどを踏まえて決定します。
1-6. 控除を最大限適用させるには年明け後に離婚をしたほうがいい
年末調整における控除適用の判断はその年の12月31日の現況によっておこなわれます。
12月31日までに離婚をすると、その年の配偶者控除や子どもの扶養控除が受けられなくなりますが、翌年1月1日以降に離婚をすればその年は控除が適用される仕組みです。
例えば、2025年分の所得控除は2025年12月31日までに離婚をすれば適用されなくなります。しかし、2026年1月1日以降に離婚すれば2025年分に関しては控除が適用されます。
2. 年末調整で離婚がバレる?知っておきたい知識


年末調整がきっかけで離婚が発覚することを恐れて、書類の作成・提出について非協力的になってしまう従業員がいないとも限りません。ここでは、年末調整と離婚に関して知っておきたい知識について紹介します。
2-1. 利用する控除の種類によって離婚が発覚する可能性がある
年末調整ではさまざまな書類を作成・提出してもらう必要があります。そのため、以下のような理由で従業員の離婚が発覚することもあるでしょう。
- 苗字が変わった
- 配偶者控除や扶養控除の適用がなくなった
- ひとり親控除や寡婦控除の適用対象となった
一方で次のようなケースは離婚が発覚しにくいでしょう。
- 子どもがいない
- 子どもが16歳未満または子どもが働いていて扶養控除を受けていなかった
- 夫婦共働きで配偶者控除を受けていなかった
これは年末調整の際に提出が必要な「扶養控除等(異動)申告書」に配偶者や扶養親族の情報を記載するからです。もともと配偶者控除と扶養控除を受けていなかった場合、離婚しても記載内容に変更がないため、年末調整がきっかけで離婚が発覚することは少ないでしょう。
2-2. 会社に離婚を報告する義務はないが給与や税金に影響がある場合は必要
会社の就業規則などで報告が義務とされていない限りは離婚を報告する義務はありません。しかし、離婚をすると支給されなくなる控除を受けている場合は、年末調整や源泉徴収といった納税事務に影響を与えるため報告する必要があります。
もしも離婚後に不当に配偶者控除や扶養控除を適用している場合、脱税となる可能性があります。また、離婚したことを隠して家族手当を受け取っている場合も、不当受給などトラブルの原因となる恐れがあります。
なお、離婚したことを報告するのは、人事部と経理部など手当や税金に関する手続きをおこなう部署に限定されるのが一般的です。中には「他の従業員にも離婚したことがバレるのでは」と心配する人もいるため、従業員から離婚の報告を受けた際はしっかり考慮して対応しましょう。
関連記事:年末調整は結婚したら何が変わる?結婚後の書き方や結婚予定がある場合の対応を解説
3. ひとり親控除と寡婦控除について知っておきたいポイント


2020年に従来の寡夫控除が改正されて「ひとり親控除」の制度が新設されました。ひとり親控除は離婚や死別だけではなく、既婚・未婚に関係なく、全てのひとり親家庭に対して控除が適用されるものです。
3-1. ひとり親控除の対象となる人
年末調整におけるひとり親控除の対象になる人は次の要件を全て満たしている人です。
- 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の相手がいない
- 生計を一にする子がいる
- 合計所得金額が500万円以下(給与収入678万円以下)である
2にある子は、その年の総所得金額等が58万円以下(改正前:48万円以下)で、他の人の同一生計配偶者または扶養親族になっていない人のみに限られます。
関連記事:年末調整の「ひとり親控除」とは?寡婦控除との違いや対象者を解説
3-2. ひとり親控除の控除額は35万円(住民税は30万円)
年末調整で受けられるひとり親控除の控除額は35万円です。これは所得税における金額で、課税所得から差し引かれるため、適用されれば税額が軽減されます。一方で、住民税におけるひとり親控除の控除額は30万円と、所得税とは金額が異なります。
3-3. 子ども以外の扶養親族がいる離婚した女性は寡婦控除が受けられる
離婚した女性に子ども以外の扶養親族がいる場合は、いずれかの条件に該当すれば年末調整で寡婦控除を受けられます。
- 夫と離婚後に婚姻をしておらず、扶養親族がいて、合計所得金額が500万円以下(給与収入678万円以下)である
- 夫と死別後に婚姻をしていない、または夫が生死不明で合計所得金額が500万円以下(給与収入678万円以下)である
寡婦控除の控除額は27万円(住民税:26万円)です。なお、ひとり親控除と寡婦控除は併用できません。寡婦控除はあくまでもひとり親控除を受けられない人に適用される可能性があることを押さえておきましょう。
3-4. ひとり親控除・寡婦控除を受ける際の年末調整の書き方
年末調整でひとり親控除や寡婦控除を受けるには「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を記載し、給与支払者に提出する必要があります。
「C 障害者、寡婦、寡夫または勤労学生」の欄にある「ひとり親」または「寡婦」の所のチェックボックスにチェックを入れます。
参考:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁
4. 年末調整後に離婚した場合の対応


年末調整後に離婚が発生した場合、どのような対応を取ればよいのでしょうか。ここでは、年末調整後に離婚した場合の対応方法について詳しく紹介します。
4-1. 離婚のタイミングによっては年末調整のやり直しが必要
配偶者控除やひとり親控除などの控除は、その年の12月31日時点の状況で適用されるか否かを判定します。そのため、離婚が翌年1月1日以降の場合、前年分の年末調整をやり直す必要はありません。一方、年末調整後にその年の12月31日までの間に離婚が成立した場合は、年末調整を再びおこなう必要があります。
関連記事:年末調整の再調整は可能!方法やポイントをわかりやすく解説
4-2. 年末調整が間に合わない場合は従業員による確定申告が必要
年末調整をやり直そうとしても、離婚のタイミングや会社の処理スケジュールによっては、年末調整の提出書類(法定調書や給与支払報告書など)の期限である翌年1月31日までに再調整が間に合わない可能性があります。
この場合、年末調整では対応できないため、従業員自身による確定申告が必要です。確定申告期間は原則として2月16日から3月15日までです。ただし、2月16日や3月15日が土日祝日の場合は期間がずれるため、従業員に案内する際は最新情報を確認する必要があります。また、確定申告には会社から交付される源泉徴収票が必要なため、交付期限(翌年1月31日)を守って渡しましょう。
関連記事:年末調整とは?確定申告との違いや必要書類、計算の流れをわかりやすく解説
5. 離婚後の年末調整では所得控除の変化に注意


離婚後は、配偶者や扶養していた子どもがいなくなることで、従業員の所得控除額が変わる可能性があります。離婚の事実を会社へ報告せずに、配偶者控除や扶養控除を受け続けたり、扶養手当などを受給し続けたりすると、後に税務上や社内規定上のトラブルに発展しかねません。
また、離婚した従業員がひとり親控除や寡婦控除など新たな所得控除を受けられる場合もあります。人事担当者は年末調整時に必ず要件を確認し、該当する場合は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に正しく記載して提出するよう、全従業員へ周知徹底しましょう。



令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
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