労働基準法第89条で定められた就業規則の作成と届出の義務
更新日: 2024.3.8
公開日: 2021.10.1
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職場のルールを定める「就業規則」は、労働基準法第89条に則って作成する必要があります。
特に常時10人以上の労働者を雇用する使用者は、就業規則を届け出ることが法律で義務づけられていますので、要件に該当する場合は速やかに作成・届出と行いましょう。
今回は、労働基準法第89条で定められた就業規則の概要と作成方法、届出の義務について解説します。
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労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
労働基準法総まとめBOOK
1.労働基準法第89条で定められた就業規則とは
就業規則とは、労働者の賃金や労働時間、退職などの労働条件に関する事項や、職場での規律について定めた規則のことです。
職場におけるルールを明確に定め、労使双方がそれを守ることで、労働者が安心して働ける環境を整えることを目的としています。
労働基準法第89条の条文は以下のとおりです。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
このように、常時10人以上の労働者を使用する企業は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられており、これを怠ると同法第120条の規定により、三十万円以下の罰金に処されます。
常時10人以上の労働者を使用していない使用者の場合、就業規則の作成は任意ですが、労使間の無用なトラブルを避けるために、就業規則の作成が推奨されているのです。
また、就業規則の内容を変更・修正する場合も、同様に届け出が必要なため、注意しましょう。
1-1.就業規則の持つ効力
会社における就業規則の効力はかなり強く、賃金や労働時間、解雇事由などは、原則として就業規則に準じます。
ただ、就業規則に定めれば何をしても良いというわけではなく、労働基準法第92条では、「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と定められています。
たとえば、同法第32条で定められた労働時間である休憩時間を除いて1週間に40時間、1日あたり8時間を超えて労働させる規約を就業規則に設けた場合、労働基準違反となり、その規約は無効となります。
仮にそのような規約を設けても、同法第92条の規定により、行政官庁(労働基準監督署長)から就業規則の変更を命じられます。
このように、勤怠・労務管理をするうえでは知っておくべき原則となる法律が存在するため、網羅的に確認したい方は当サイトで無料配布している「労働基準法総まとめBOOK」という資料もご活用ください。本資料では89条の就業規則はもちろん、労働時間や割増賃金、労働契約、罰則など労働管理に関する法律内容を図解つきで網羅的に解説しており、労働基準法について概要を把握したいと考えている担当者の方にとっては大変参考になる内容となっています。興味のある方はこちらから無料でダウンロードしてご覧ください。
2.労働基準法第89条による就業規則の作成方法
労働基準法第89条で定められている就業規則の作成方法を3つのステップに分けて解説します。
2-1. 原案の作成
まずは就業規則の原案を作成します。
労働基準法第89条では、就業規則の内容として、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、当該事業所で定めをする場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」、および当該事業所の労働者すべてに適用される定めをする場合は「任意記載事項」の3つを記載することとしています。
具体的には、以下の1~3が絶対的必要記載事項、4~10が相対的必要事項です。[注2]
- 労働時間に関する事項
- 賃金に関する事項
- 退職に関する事項
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
1について、具体的には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇のほか、交代制を導入している場合には就業時転換に関する事項を記載します。
次に2は賃金の決定や計算、支払いの方法、締め切り、支払いの時期のほか、昇給に関する事項も含まれます。
3は労働者による自主退職(自己都合退職)だけでなく、解雇の事由も記載します。
任意記載事項にあたる11には、労働基準法上では記載を要求されないものの、使用者が特に記載しておきたいと思った項目を記載します。
たとえば、経営理念や社是、就業規則を設ける目的、用語の定義、採用手続などを記載します。
2-2. 労働者を代表する者から意見聴取する
労働基準法第90条では、使用者は就業規則を作成するにあたり、労働者を代表する者の意見を聴取することが義務づけられています。
ここでいう「労働者を代表する者」とは、労働者の過半数で構成された労働組合がある場合はその労働組合を意味しますが、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者を選出します。
後者の場合、投票や挙手などの方法で選出するのが一般的ですが、労働基準法施行規則第六条により、使用者(事業主)の意向に基づいて選出された者や、監督または管理の地位にある者が代表者となることは禁じられています。[注3]
使用者はステップ1で作成した就業規則の原案を労働者の代表に提示し、その内容を確認してもらったうえで、意見を聴取します。
労働者代表は就業規則について、賛成・反対どちらの意見も出すことができますが、労働基準法で定められているのはあくまで「意見を聴くこと」ですので、必ずしも労働者代表の意見を汲んで就業規則を加筆・修正することはありません。
労働者代表の意見を書面にまとめたら、代表者に署名・捺印してもらいます。
2-3. 就業規則届を作成する
労働基準監督署に提出するための就業規則届を作成します。
就業規則届に決まった様式はなく、企業が任意で作成・提出しても良いですが、労働基準監督署のHPなどで公開されているテンプレートを利用すると便利です。
就業規則届には、提出する年月日と、提出先の労働基準監督署の名前、事業所名や労働保険番号、事業所の所在地、使用者の名前、業種・労働者数などを明記し、社印を捺印します。
3.労働基準法第89条による就業規則の届出義務
労働基準法第89条では、常時十人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成するだけでなく、行政官庁に届け出ることを義務づけています。
届出には、作成した就業規則と就業規則届をそれぞれ2部ずつ、労働基準監督署の窓口に持参するか、または郵送します。
郵送する場合は、控えを事業所に返送してもらうための返送用封筒(切手付き)を同封します。
届出にあたって手数料などは必要なく、窓口や郵送で手続きが終われば、労働基準監督署の受付印が押印されます。
労働基準法施行規則第49条では、常時十人以上の労働者を使用するに至った場合、遅滞なく就業規則の届出を行わなければならないと定められていますので、要件を満たしたら速やかに届出を実施しましょう。
なお、労使間のトラブルを避けるために就業規則を作成したものの、常時十人以上の労働者を使用していない場合は、届出の義務はありません。
関連記事:就業規則の届出方法と具体的な手順を分かりやすく解説
3-1.就業規則の一括届出について
就業規則は原則として、事業所ごとに届け出る必要がありますが、本社の就業規則と、それ以外の事業所の就業規則内容が同じ場合、「本社一括届出制度」を活用すればまとめて届け出ることが可能となります。
やり方としては、本社の所轄労働基準監督署宛に、本社を含む事業所の数に対応した必要部数の就業規則を届け出ます。
この際、厚生労働省で公開している届出事業場一覧表(任意書式でも可)に、各事業所の名称や所在地、所轄労働基準監督署長をまとめて記載し、添付します。[注4]
また、本社と各事業所の就業規則が同一内容であることを、届出事業場一覧表の欄外等に記載します。
なお、意見の聴取および意見書の作成は各事業所に行う必要があるので、あらかじめ注意しましょう。
[注4]就業規則・36協定の本社一括届出について|厚生労働省
4.就業規則は労働基準法第89条に則って作成しよう
常時十人以上の労働者を使用している事業者は、労働基準法第89条に基づき、就業規則の作成および届出を行うことが義務づけられています。
就業規則には、業種や業態にかかわらず必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、その企業で定めがある場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」などを記載し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
就業規則はその職場のルールであり、基準となるべき規則ですので、労働基準法第89条をもとに、内容をよく精査して作成するようにしましょう。
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