有給休暇取得日の賃金計算方法と正しく計算するための注意点を解説
更新日: 2025.9.29 公開日: 2020.4.24 jinjer Blog 編集部

従業員が有給休暇を取得した際の賃金計算方法は、労働基準法で規定されています。規定されている以外の、企業独自で定めた賃金計算方法は認められていないため、法律に則った方法で賃金計算をおこないましょう。
また、有給休暇取得の際の賃金計算方法は、就業規則へ記載しておく必要があります。
賃金計算方法は3つありますが、従業員ごとや収益の増減などによって変えることができないため、自社の状況に合わせて統一しなくてはなりません。
本記事では、有給休暇中の賃金計算の方法や注意点を解説します。
関連記事:【図解付き】有給休暇付与日数の正しい計算方法をわかりやすく解説
有給休暇では給与が発生するため、適切な方法で計算して従業員に支給する必要があります。
当サイトでは、本記事でご紹介している有休取得時の給与計算方法3つに加え、計算例つきでよりわかりやすくまとめた資料を無料で配布しております。
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1. 有給休暇取得日の賃金計算方法


有給休暇の取得日の賃金計算は、労働基準法第39条第9項にて、以下の3つの方法が認められています。
- 有給休暇の取得日も通常通り勤務したとみなす方法
- 直近3ヵ月の平均賃金を求める方法
- 標準報酬日額から算出する方法
ここでは、それぞれの計算方法について具体的に解説します。
第三十九条
⑨ 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。
1-1. 通常勤務と同じ賃金を支払う
有給休暇の賃金計算の手法の中で、もっとも一般的かつ計算が簡単なのが、有給休暇を取得した日も通常勤務と同じ金額の賃金を支払うものです。
月給制のフルタイムの従業員の場合、何日有給休暇を取得したとしても、その期間を通常通り出勤したとみなして給与計算すればよいため、事務処理が大きく簡略化される点がメリットです。
また、一定の所定労働時間で働く時給制のパートやアルバイトに対しても、通常の勤務と同様に所定労働時間×時給で有給休暇の計算がおこなえます。
1-2. 平均賃金を求めて支払う
平均賃金を有給分の給与として支給する場合には、以下の2通りの計算をして、金額が大きい方を使用します。
【計算方法】
直近3ヵ月の賃金の総額÷休日を含んだ全日数
直近3ヵ月の賃金の総額÷労働日数で割った額×0.6
例えば、2022年4月から6月までの賃金総額が100万円だとすると、歴日は91日、労働日数は61日のため、①で計算すると10,989円、②で計算すると9,836円です。このうち、金額が大きい①の10,989円が有給休暇分として支給される給与となります。
有給休暇の取得日数にこの平均賃金を掛け算することで、支払額を求めることができます。
月給制、週休制、日給制問わずすべての従業員に適用できる賃金計算方法であるため、給与の支給形態が従業員ごとにばらばらな企業では、この方法を取ることで管理が楽になる場合があります。
一方で、平均賃金を用いる計算方法では土日祝などが多く、歴日数に対して給与が少ない場合は、支払い額が減る可能性があります。給与の支払い金額を抑えるという点では魅力的かもしれませんが、従業員のモチベーション低下や不満を招きかねないため、注意が必要です。
また、平均賃金には最低保障額が設けられていることにも注意しましょう。平均賃金の計算では②で求めた金額を最低保証として定めているため、①で計算した額が②よりも下回る場合は、①ではなく②の額を支払う必要があります。
1-3. 標準報酬月額を基準に支払う
健康保険料の算定に使う「標準報酬月額」を用いて有給休暇の賃金計算をするのもひとつの方法です。
【計算方法】
標準報酬月額÷30
すでに算出済みの標準報酬月額を用いて計算すればよいため、平均賃金を計算する方法よりも簡単です。
ただし、社会保険の対象外となっているパートやアルバイトなどの従業員には標準報酬月額が算出されていないため、標準報酬日額に相当する額を算出しなければなりません。そのため、かえって計算が複雑になる場合があります。
また、標準報酬月額には金額の上限が設けられています。有給休暇中の給与が少なくなるケースがあることから、この計算方法を選択する場合は、従業員との間に労使協定を締結したうえで就業規則に記載しなければなりません。
2. 有給休暇は年5日の消化が義務化

2019年4月の働き方改革関連法案の施行にともない、年5日の有給休暇消化が企業に義務付けられ、有給休暇取得日の賃金計算もより重要になりました。有給休暇の基本を再確認しておきましょう。
【労働基準法第39条】
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
関連記事:有給休暇年5日の取得義務化とは?企業がおこなうべき対応を解説
2-1. 2019年4月から年5日分の取得が義務になった
2019年4月、働き方改革関連法が施行され、有給休暇の取得が義務化されました。10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者は、1年間で5日分の有給休暇を確実に取得しなければなりません。
有給休暇の取得は任意ではなく企業の義務となったことから、最低でも毎年1人あたり5日分の賃金計算が発生します。つまり、有給休暇の取得義務化によって、有給休暇の賃金計算もより重要になったので、賃金計算の方法や仕組みを学んでおきましょう。
有給休暇の法律に違反した場合は罰金が科される可能性もあるため、今のうちに法改正内容と有給休暇の効率的な管理方法を理解しておくことが大切です。
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パート・アルバイトでも有給休暇を付与しなければならない
有給休暇というのは、労働基準法で定められている条件を満たしていれば、パート・アルバイトに対しても付与しなければなりません。
有給休暇が発生する条件の1つ目は、入社日から継続的に働き始めて半年以上経つことです。2つ目は、雇用契約書などで交わした所定労働日の8割以上の出勤を満たすとこととされています。
有給休暇の取得日数は、契約している労働日数や労働時間によって変わりますが、例えば週1回のシフトであっても入社後半年以上過ぎれば、パートでもアルバイトでも有給休暇を与えることが義務付けられています。
2-2. 有給休暇取得義務を果たさないとどうなる?
企業が有給休暇取得義務を果たさなかった場合、30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
この罰金は、従業員一人当たりで計算されます。そのため、7人の従業員に年5日の有給休暇取得義務を果たしていない場合は、7人×30万円、つまり210万円の罰金が発生する計算です。
義務を果たしていない企業に対して即座に発生する罰則ではありませんが、是正に向けた指導は入る可能性があります。
労働基準法違反というのは企業イメージの低下や、従業員との信頼関係に影響することも多いので、有給休暇取得義務は軽視せずに守るように環境を整えましょう。
3. 有給休暇取得日の賃金計算に関する5つの注意点

有給休暇の取得日を賃金計算する際に注意すべきポイントは5つあります。
- 賃金計算の方法は就業規則に記載する
- 有給休暇取得時にも通勤手当を支給する
- 有給休暇を時間単位で取得した場合の対応
- 最低賃金の改定により賃金計算の方法の見直しが必要
- 有給休暇の賃金計算による業務負担の増加
本章で解説する点に注意しないと、最悪の場合違法となり罰則を科される可能性もあるため、しっかりと把握しておきましょう。
3-1. 賃金計算の方法は就業規則に記載する
労働基準法第39条第9項では、「有給休暇中の賃金計算の方法は就業規則に記載されている方法に準ずる」なっているので、賃金計算の方法は必ず記載しなければなりません。。
例えば、「平均賃金や標準報酬月額で賃金計算すると支払い額が減る」という理由で、企業側が勝手に計算方法を変更することはできません。
有給休暇の取得で発生する賃金は、就業規則に記載した計算方法にもとづき、従業員や状況にかかわらず常に同一の賃金計算の方法を取る必要があります。当然ですが、就業規則に記載されていることを守らないのは違法となるため、企業側にはペナルティが科せられます。
また、就業規則を破るというのは従業員からの信頼を失うことになるので注意しましょう。
関連記事:有給休暇の義務化で就業規則を変更する場合に注意すべき2つのポイント
3-2. 有給休暇取得時にも通勤手当の支給が原則必要
従業員が有給休暇を取得した場合も通勤手当の支給が原則必要です。なぜなら、通勤するために定期を買っている従業員にとっては、有給休暇を取得しても通勤のために支払う金額は変わらないからです。
ただし、通勤手当が後日実費支給である場合や、あらかじめ就業規則に「実際に通勤した日数の通勤手当のみ支給する」などの規定を設けている場合などは、有給休暇を取得した日に支給する義務はありません。
就業規則に記載がない場合は支給することが原則となっているので、定期券を購入しない従業員などがいる場合には、通勤手当に関する規定を明確にしておく必要があります。
3-3. 有給休暇を時間単位で取得した場合の対応
労使協定を締結することで、有給休暇は1日単位のほかに、時間単位で取得することも可能です(ただし、年5日を超える取得はできません)。
この場合、1時間あたりの賃金は、前述で紹介した3つの計算方法のうちいずれかの方法で算出した1日あたりの賃金を、所定の労働時間で割った金額となります。そのため、選んだ計算方法によっては、時間給の算出が複雑になってしまうかもしれないので、時間単位での有給休暇の取得を認めている企業においては、間違いがないよう計算の際に注意が必要です。
また、従業員は時給を把握していないこともあるので、時間単位で取得する従業員に対しては時給額を事前に伝えておくとよいでしょう。
3-4. 最低賃金の改定にともない賃金計算の方法の見直しが必要
有給休暇の賃金計算においては、先述の3つの方法のいずれかで求めればよいとなっています。ただし、算出した賃金が、各都道府県で定める最低賃金を下回っていた場合、故意ではなくとも労働基準法上は違法となります。
賃金に関するトラブルを防止するためには、最低賃金を下回らないよう有給休暇の賃金計算の方法を見直す必要があるかもしれません。また、最低賃金は毎年改定されることにも注意が必要です。いくら見直したとしても、改定によって最低賃金を下回ってしまう可能性もあるため、最新の情報に基づいて確認をおこなうことが重要です。
3-5. 有給休暇の賃金計算は業務負担になることがある
有給休暇の賃金計算は、思わぬ業務負担になります。
有給休暇の賃金は、有給休暇の取得日分だけ発生するため、まずは従業員一人ひとりの有給休暇消化数を把握しなければなりません。そのうえで、就業規則で定めた方法に基づき、通常勤務の賃金をそのまま参考にしたり、3ヵ月分の賃金の平均を算定したりして、給与の支払い額を算出します。この工程は、通常の給与計算に加えておこなう業務となるので、担当者の負担に配慮をすることが求められます。
とくに多くのリソースを割くことが難しい中小企業にとって、限られた人員で有給休暇の賃金計算をおこなうためには工夫が必要でなので、給与計算システムなど業務を効率化できるツールの導入を検討してみるのがおすすめです。
4. 有給休暇取得日の賃金計算は正しく効率的に処理しよう

今回は、有給休暇取得日の賃金計算や注意点を解説しました。
有給休暇中の給与計算の方法は、通常通りの給与を支払う、平均賃金を計算する、標準報酬月額を使う、という3つの方法があります。どの方法にも一長一短がありますが、方法に関係なく、有給休暇中の賃金計算方法を決めたらあらかじめ就業規則への記載しなければならないので、忘れないようにしましょう。
また、有給休暇取得日の賃金計算は、従業員一人ひとりの有給休暇消化数を把握しなければならないため、思わぬ業務負担になります。負担が大きいとヒューマンエラーを引き起こす可能性もあるので、給与計算システムや勤怠管理システムの導入などによって、賃金計算の効率化に取り組みましょう。
関連記事:年次有給休暇とは?付与日数や取得義務化など法律をまとめて解説
有給休暇では給与が発生するため、適切な方法で計算して従業員に支給する必要があります。
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