雇用契約書と就業規則の優先順位とは?見直す際の2つのポイントを紹介
更新日: 2026.1.28 公開日: 2020.11.19 jinjer Blog 編集部

企業が従業員を雇用する際、労働条件を定めるものとして「雇用契約書」と「就業規則」が存在します。どちらも働くうえでのルールや条件を定めたものですが、両者の違いや、内容が食い違っている場合に、どちらが優先されるかを正しく理解できていないケースは少なくありません。
この優先順位を誤って認識していると、法令違反や労使トラブルに発展するリスクがあります。
本記事では、雇用契約書と就業規則の法的な違いや、内容が異なる場合の優先順位、見直す際の重要なポイントについて解説します。
関連記事:雇用契約の定義や労働契約との違いなど基礎知識を解説
目次
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 雇用契約書と就業規則の違い

雇用契約書と就業規則は、どちらも労働条件を定めるものです。しかし、その性質は異なります。
1-1.雇用契約書
雇用契約書は、企業と従業員が個別に合意して取り交わす契約書です。民法第623条(雇用)および労働契約法第6条(労働契約の成立)にあるとおり、労働者が労働に従事し、使用者がそれに対して報酬を与えることを約束するものです。
(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
雇用契約書は作成義務こそありませんが、トラブル防止の観点から多くの企業で作成されています。なお、労働基準法第15条により、労働条件の明示(労働条件通知書の交付など)が義務です。そのため、多くの企業では「雇用契約書 兼 労働条件通知書」として両者を兼ねる形で運用しています。
1-2. 就業規則
就業規則とは、事業場内の規律や共通の労働条件などを定めた「事業場全体のルールブック」です。就業規則は労働基準法第89条により常時10人以上の従業員を使用する事業場で作成が義務付けられており、作成した就業規則は所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
就業規則には労働時間、賃金、休日・休暇、退職、懲戒など統一的に適用する労働条件が定められており、その内容は法令や労働協約に反してはいけません。また、就業規則は従業員への周知が必要で、合理的な内容で適切に周知された就業規則は、各従業員との個別の雇用契約内容にも強く影響します。
次の表は、雇用契約書と就業規則の定義と対象範囲、作成義務を比較したものです。参考にしてください。
|
雇用契約書 |
就業規則 |
|
|
定義 |
企業と従業員が個別に合意して取り交わす個別の契約書のことです。 |
事業場の規律や共通の労働条件などを定めた「事業場全体のルールブック」のことです。 |
|
対象範囲 |
個人 |
事業場全体 |
|
作成義務 |
作成義務はありません。 |
常時10人以上の従業員を使用する事業場で作成義務があります。 |
1-3. 労働協約と労使協定とは?
雇用契約書や就業規則に関連して、「労働協約」や「労使協定」も労働条件に関わる重要な取り決めなので、ここで押さえておきましょう。
・労働協約
労働協約とは、労働組合法に基づき、労働組合と企業の間で労働条件や組合活動のルールについて書面で結ぶ契約のことです。労働協約は法律上強い効力を持ち、原則として当該労働組合の組合員に適用されます(一定要件を満たすと適用範囲が広がる場合があります)。
労働協約の内容は就業規則よりも優先されるため、就業規則が労働協約と異なる場合、その部分は労働協約が優先して適用されます。一方で、労働協約であっても法令に違反する定めは無効です。
・労使協定
労働基準法などに定める禁止事項について、一定の例外を可能とするために労働者代表と使用者が締結する協定です(免罰効果)。代表例として、時間外・休日労働をおこなうための「36協定」(労働基準法第36条に基づく協定)などがあります。
労使協定は各事業場ごとに労働者代表と締結し、その効力は協定を締結した事業場の労働者にのみ及ぶ点が特徴です。
関連記事:労使協定と労働協約の違いとは?位置付け(優先順位)や違反時の罰則もわかりやすく解説
2. 就業規則と雇用契約書の内容が異なる場合の優先順位

実務では、就業規則と雇用契約書の内容が異なるケースに直面することがあります。こうした場合、どちらの内容が優先されるのかを解説します。
2-1. 従業員にとって有利な内容が優先される
結論から言えば、個々の労働条件については従業員にとって有利な内容が優先されます。労働契約法12条では、個別の雇用契約が就業規則の基準より不利な場合について定めています。
(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
これにより、個別の雇用契約の不利な部分の内容は就業規則の基準に上書きされます。反対に、就業規則よりも雇用契約書の方が有利な場合は、その内容が優先されます。
具体的に雇用契約書が就業規則よりも優先される例は、次のようなケースです。
【例1】時給について、雇用契約書には1,000円、就業規則に900円と記載がある場合、雇用契約書に記載のある時給1,000円が優先される。
【例2】雇用契約書に、就業規則には書かれていない手当を支給する旨が記載されている場合、雇用契約書に記載のある手当を支給することが優先される。
関連記事:労働契約法12条による就業規則違反の労働契約を分かりやすく解説
2-2. 就業規則が雇用契約書よりも優先される例
上述のとおり、就業規則の内容が雇用契約書よりも有利になっている場合、就業規則が優先されます。就業規則が雇用契約書よりも優先される例は、次のようなケースです。
【例1】就業規則で規定されている福利厚生が雇用契約書に含まれていない場合、就業規則に記載のある福利厚生が受けられる。
【例2】就業規則で法定を上回る時間外割増率(例:30%)を定めている一方、雇用契約書には法定通りの割増率(25%)が記載されている場合、就業規則の定め(30%)が適用される。
このような場合は、就業規則の内容がより有利であるため、就業規則の内容が優先されます。
3. 法律・就業規則・雇用契約書・労働協約の優先順位

就業規則や雇用契約書などのほか、法律まで含めた複数のルールの優先される順序を解説します。優先順位を知って有効になる条件を把握しておきましょう。
3-1. 法律、労働協約、就業規則・雇用契約の順で優先
労働条件に関してルールを定めた文書の優先順位は次のとおりです。
法律>労働協約>就業規則・雇用契約(※就業規則より有利な部分は雇用契約が優先)
どのような内容の就業規則や雇用契約よりも、法律に記載されている内容が優先されます。優先順位を整理すると、次のようになります。
- 法律(労働基準法、労働契約法、民法など)
- 労働協約(企業と労働組合が締結する取り決め)
- 就業規則、雇用契約 ※就業規則と雇用契約の内容が異なる場合は、従業員にとって有利な内容が優先されます。
この優先順位を理解しておくことで、どの内容が無効となってしまうのかを判断できます。
3-2. 法律に違反する内容は無効
いかなる場合でも法律に違反する労働条件の定めは無効となります。これは就業規則であっても労働協約であっても同様です。また、従業員から労働基準監督署に申告があった場合、是正勧告や指導を受ける可能性があります。
このような事態を避けるためにも、就業規則を作る場合や内容の見直しの際には、社会保険労務士などの専門家へ確認をした方がよいでしょう。
当サイトでは、雇用契約に関する禁止事項や適切な対応を解説した資料を無料で配布しています。基本的なことを確認したいご担当者様は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
4. 就業規則と雇用契約書を見直す際の3つのポイント

就業規則や雇用契約書の内容を見直す際のポイントを解説します。2つの文書を見直す際には、注意すべきポイントが3つあります。
4-1. 必須項目の違い
雇用契約書と労働条件通知書を兼ねる形で運用する場合には、雇用契約書に必ず明示しなければいけない「絶対的明示事項」と、企業がその事項を定めている場合に明示しなければならない「相対的明示事項」があります。これは労働基準法第15条第1項で規定されたもので、すべての労働者を対象としたルールです。
一方、就業規則にも、絶対に記載しなければいけない「絶対的必要記載事項」と定めがある場合は記載しなければいけない「相対的必要記載事項」があります。
この2つの文書における必須事項はほとんど内容は同じですが、一部異なる点があります。次の表にまとめました。
|
雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書) |
就業規則 |
|
|
絶対的明示事項 (絶対的必要記載事項) |
|
|
|
相対的明示事項 (相対的必要記載事項) |
|
|
表において、太字で記述している項目が、雇用契約書と就業規則で異なる項目です。特に、雇用契約書は就業規則に比べ必須事項が多いため、見直す際には間違えないように注意しましょう。
また、有期雇用契約の場合に限り、「無期転換申込権」が発生する有期雇用契約の契約更新には、7つの絶対的明示事項に加え必要となる事項が2つあります。
- 無期転換を申し込むことができること
- 無期転換後に適用される労働条件
「無期転換申込権」が発生する有期雇用契約の契約更新においては記載を忘れないようにしましょう。
参考:労働契約締結時における労働条件の明示義務について|厚生労働省
記載事項を押さえたところで、実際に「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を作成する際に参考にできるサンプルがほしいという方向けに、当サイトでは社会保険労務士が監修したフォーマットを配布しています。
2024年4月に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットです。雇用契約書として兼用することもできる雛形ですので、「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
4-2. 適用範囲の記載
正社員、契約社員、パート・アルバイトなど、雇用形態が違えば労働条件も異なることが多いです。そのため、雇用形態ごとに就業規則と雇用契約書が必要となります。見直しの際にも、見直そうとしている就業規則と雇用契約書が、どの雇用形態に適用するものなのかを明確にすることが大切です。
就業規則の総則には通常、規則の適用対象者を明記する条項が置かれます。この適用範囲の定めは労務管理上とても重要です。適用範囲が曖昧だと、「自分はパートタイマーだがこの手当は適用されるのではないか」「懲戒処分のルールが自分にも適用されるとは聞いていない」といった従業員との認識違いが生じ、トラブルに発展しかねません。
このようなトラブルを避けるため、就業規則を作成・改定する際には必ず誰に適用される規定かを明確に記載するようにしましょう。
4-3. 就業規則と雇用契約書は同時に見直す
就業規則と雇用契約書の内容が異なった場合、基本的には従業員側が有利な内容が優先されます。従業員側に有利な内容が優先されるものの、記載内容の違いはトラブルのもとです。そもそも記載内容に違いが生まれないようにするためにも、就業規則と雇用契約書は内容の整合性が取れるように留意しなければいけません。
特に法改正によって労働条件に関するルールが変わった場合、就業規則は速やかに変更が必要になることが多く、あわせて雇用契約書の記載内容も見直しが必要になるケースがあります。
常に最新の法規制に両方の書類が適合しているようにしつつ、どちらか一方を変更する際は他方も併せてチェック・更新して、内容の齟齬がないようにしましょう。
5. 雇用契約と就業規則は従業員に有利な内容が優先される

就業規則と雇用契約書の内容が異なる場合は、原則として従業員にとって有利な内容が適用されます。就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める雇用契約は、その部分が無効となり就業規則の基準に変更されます。トラブルが発生しないように、整合性のある内容にしておくことが大切です。
これは従業員の権利を守るための重要なルールであり、結果的に企業にとっても公正な労務管理と信頼関係の維持につながるポイントです。法律の基本ルールを正しく理解し、自社の制度運用に生かしましょう。
関連記事:パートタイマーの雇用契約書を発行する際に確認すべき4つのポイント
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
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