同一労働同一賃金における60歳以上の定年後再雇用の扱いとは
更新日: 2025.9.10 公開日: 2022.2.3 jinjer Blog 編集部

同じ労働には同じだけの賃金を支払わなければならない原則を「同一労働同一賃金」といいます。同一労働同一賃金は、定年後の60歳以上にも適用されるのがポイントです。この記事では、同一労働同一賃金における60歳以上の定年後再雇用の扱いや裁判例、注意点について解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?適用された理由やメリット・デメリットについて
2021年4月に法改正され、すべての企業に同一労働同一賃金が適応されましたが、
「具体的にはどのような法律で、対応せずにいると、どのような罰則があるのか、実はイマイチわかっていないけど、時間の経過と共に今更聞けない…」とお悩みではありませんか?
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目次
1. 同一労働同一賃金における60歳以上の定年後再雇用とは


「同一労働同一賃金における60歳以上の定年後再雇用」とは、定年を迎えた労働者を再雇用する際にも 「仕事内容が同じなら待遇差を不合理に設けてはならない」 という原則を守る必要がある、という仕組みのことです。
1-1. 定年後再雇用制度で不合理な待遇差を受けない原則のこと
同一労働同一賃金における定年後再雇用とは、定年後再雇用制度で不合理な待遇差を受けない原則のことです。
同一労働同一賃金では、責任の重さや範囲、業務内容などが同じなら、雇用形態を理由に待遇差を受けてはいけないと定められています。定年後再雇用の場合、多くは有期雇用契約(契約社員など)や短時間労働契約(パートやアルバイトなど)として再雇用されます。そのため、パートタイム・有期雇用労働法が適用され、同一労働同一賃金の対象となるのです。
ただし、定年後再雇用の同一労働同一賃金の対象であっても、ほかの労働者と比べた際に賃金が安くなる理由が合理的と判断されれば、「その他の事情」として待遇の差が認められることがあります。例えば次のような例です。
- 加齢による体力
- 判断力の低下や退職金の支給があった場合
- 年金を受給しているケース
関連記事:定年後再雇用は同一労働同一賃金の対象になる?メリット・デメリットも解説
関連記事:同一労働同一賃金はいつから適用された?ガイドラインの考え方や対策について
1-2. 定年後再雇用の注意点
ただし、定年後再雇用で「その他の事情」として待遇の格差が認められるケースでも、注意しないといけない点があります。
- 定年後再雇用で注意すべき点
-
- 定年後再雇用で待遇を下方修正する場合は労使双方の合意が必要
- 定年前と業務が同一の場合、賃金を大幅に下げる場合は不合理となる可能性がある
たとえ雇用形態が変わっても、業務内容が定年前と同じ場合は、大幅に賃金を下げると違反と判断される可能性が高いでしょう。加えて、加齢による体力の低下が認められる場合でも、事業者側による一方的な賃金の引き下げや待遇の変化は認められません。
こうした問題は過去に労働者側が訴えたことで、裁判に発展した事例もあります。すべてが認められたわけではありませんが、企業側の対応が不合理であるとされ、是正が求められるケースもみられます。
このように、同一労働同一賃金は訴訟リスクが生じるため、正しい知識を有したうえで適切な対応をしなければなりません。 当サイトでは、同一労働同一賃金の基礎知識や企業に求められる対応などを表を用いて解説した資料を無料で配布しています。
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2. そもそも定年後再雇用とは?


そもそも定年後再雇用とは、一体どのような仕組みなのでしょうか。
定年後再雇用とは、少子高齢化や労働人口の不足によって導入された制度です。混同されることが多い、「定年後の再就職」と「定年後再雇用制度」は全く異なる制度なので注意が必要です。定年後の再就職は、ハローワークやシルバー人材センターなどで自ら職を探しますが、定年後再雇用は定年前に働いていた企業に再び務めることを指します。
2-1. 65歳未満に定年を設定する場合は継続雇用(定年後再雇用)制度の導入が義務化
高年齢者雇用安定法第9条では、事業主が定年を65歳未満に定めている場合、高年齢者(60歳以上など)の65歳までの安定的な雇用を確保するため、次のいずれかの措置を講じることが義務付けられています。
- 定年の65歳までの引き上げ
- 継続雇用制度の導入(定年後再雇用・勤務延長など)
- 定年制の廃止
いずれの措置も講じていない場合は、法違反となり、行政指導や勧告の対象となります(第10条)。直接的な罰則規定はありませんが、是正勧告に従わなかった場合には、企業名が公表される可能性もあり、社会的信用の低下リスクも無視できません。
また、70歳までの就業機会の確保も、事業主に対する努力義務として定められています(第10条の2)。制度の主旨を正しく理解し、適切に対応していく必要があります。
参考:高年齢者の雇用|厚生労働省
参考:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)第9条、第10条、第10条の2|e-Gov法令検索
3. 60歳以上の定年後再雇用をおこなうメリット・デメリット


この同一労働同一賃金に基づいた60歳以上の定年後再雇用には、企業にとって大きなメリットがあります。少子高齢化が進む日本では積極的に取り入れるべき制度ではありますが、一方で、メリットばかりではなくデメリットも存在します。
ここでは、メリットとデメリットの両面から定年後再雇用制度について理解を深めましょう。
3-1. 60歳以上の定年後再雇用をおこなうメリット
企業にとっての定年後再雇用をおこなうメリットには、次の例が挙げられます。
- 人手不足を解消できる
- 顧客の安心と信頼を継続できる
- 採用費用や育成コストを削減できる
- 65歳超雇用推進助成金の申請ができる
3-1-1. 人手不足を解消できる
業種によって状況は異なりますが、人手不足が深刻な職種においては、定年後再雇用による人材活用が労働力確保の一助となります。とくに経験や専門知識を有する人材は、現場での戦力となるだけでなく、若年層の指導や育成にも貢献が期待されます。
体力的な配慮や業務内容の調整は必要ですが、高齢化が進行する現代社会において、高齢者の就業機会の確保は社会的にも有意義であり、企業にとっても重要な戦略の一つといえるでしょう。
3-1-2. 顧客の安心と信頼を継続できる
定年前から取引先や顧客との関係を築いてきた社員であれば、定年後も再雇用によってその関係を継続できます。担当者の変更がないことは、取引先や顧客にとって安心感につながり、対応も円滑になるでしょう。
また、担当変更に伴う引継ぎ業務や挨拶、説明の手間が不要となり、時間的・人的・費用的なコストを削減できる点も大きなメリットです。このような効果は、営業職や接客業などの顧客との関係性が重視される業種でとくに顕著です。
3-1-3. 採用費用や育成コストを削減できる
定年退職によって減った人員を新たな人材で補う場合、採用活動にかかる費用や、入社後の育成コストが発生します。とくに経験の浅い人材を育てるためには、時間と費用だけでなく、指導にあたる周囲の社員の負担も少なくありません。
また、育成後に早期離職してしまうケースもあり、企業にとっては大きなリスクとなります。一方で、定年後再雇用を活用すれば、すでに社内の業務や文化に精通した人材を引き続き活用できるので、人員補充にかかるコストやリスクを大幅に軽減することが可能です。
3-1-4. 65歳超雇用推進助成金の申請ができる
定年後の再雇用制度を整備・運用するには、人件費や専門家への相談費用など、一定のコストがかかります。その負担を軽減するために活用できるのが、「65歳超雇用推進助成金」です。この助成金には以下の3つのコースがあり、それぞれ目的に応じた支援が受けられます。
- 65歳超継続雇用促進コース
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 高年齢者無期雇用転換コース
助成金の活用を検討しつつ、評価制度や職場環境の見直しなどを通じて、定年後も高齢者が安心して働き続けられる環境づくりを進めていくと良いでしょう。
参考:65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)|厚生労働省
関連記事:無期雇用は同一労働同一賃金の対象外!リスクや高齢者の特例措置も解説
3-2. 60歳以上の定年後再雇用をおこなうデメリット
定年後再雇用の制度には、メリットだけでなくデメリットもあります。ここでは、企業にとっての定年後再雇用の制度を設けるデメリットについて詳しく紹介します。
3-2-1. 希望者は再雇用しなくてはいけない
定年後の再雇用制度では、企業は原則として希望する労働者全員を65歳まで継続雇用する義務があります。ただし、重大な非違行為や就労不能といった客観的かつ合理的な理由がある場合を除き、単に「能力不足」や「人格的に問題がある」といった主観的な理由だけで一律に再雇用を拒否することはできません。企業は、再雇用の判断において、労働者の権利を十分に尊重する必要があります。
3-2-2. 次の世代を担う若者が減ってしまう可能性がある
高齢者の再雇用が進むことで、企業内の年齢構成が偏り、若手社員の採用や活躍の機会が相対的に減る懸念もあります。また、日本企業では年功序列的な風土が今なお根強く残る場合も多いため、再雇用された高齢社員が現場で影響力を持ちすぎると、若手の意欲や発想が活かされにくくなることも考えられます。このような世代間のバランスも意識し、全社員が活躍できる職場環境を整えるためには、事業者側による役割の明確化や職場風土づくりへの配慮が欠かせません。
4. 定年後再雇用後の賃金格差に関する裁判例を紹介


同一労働同一賃金は厚生労働省がガイドラインを定めており、「定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法が適用される。」としています。[注1]
従って、定年後再雇用の場合でも、定年前と同じように待遇を決める必要があります。定年後再雇用の同一労働同一賃金に関しては、実際に待遇が不合理と判決が下された判例もあります。
4-1. 判例①定年後再雇用された社員が賃金の格差を不合理だと訴えた裁判
当時の賃金は定年退職前の79%で、一部の賃金には不合理との判決を下したものの、他の賃金や手当の格差は不合理ではないとされました。
不合理と判断されたのは、精勤手当です。しかし、次のような手当については、正当な理由があるために不合理ではないと判断されています。
- 能率給・職務給(歩合給が支給されるため)
- 役付手当(該当する社員にのみ支給されるため)
- 住宅手当・家族手当・賞与(老齢厚生年金の支給予定があるため)
※老齢年金手当の支給開始までは調整給があったため
このように、定年前と手当の内容が多少変わっていても、正当な理由があったり、別の手当てが支給されていたりすれば、不合理ではないと判断されることがわかります。
関連記事:同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
4-2. 判例②定年前の基本給と比べてどの程度の差が違法か争われた裁判
定年前の基本給と比べてどの程度の差なら違法ではないかが争われた裁判もあります。当時は定年後再雇用された職員が、定年退職前と比べて40%の賃金で働いていましたが、これを不当として裁判に発展しました。
ここでの判決は次のようになりました。
- 定年後再雇用でも定年前の60%の基本給を下回るのは違法
- 賞与に関しても正職員の賞与の調整率を乗じた数を下回るのは違法
判例数は少ないものの、基本給があまりにも少ない場合には不合理と判断されており、賞与も全く支給されなかったり、他の正社員と比べて低すぎたりする場合は、違法と判断される場合があります。
5. 60歳以上定年後にパートで雇用継続する注意点


ここでは、実際に定年後の従業員を再雇用する際の注意点を60歳以上の同一労働同一賃金の観点から、押さえておくべきポイントを解説します。
5-1. 同一労働同一賃金の原則を厳守する
同一労働同一賃金の原則はパートタイム・有期雇用労働法によって適用されており、大企業では2020年4月1日から、中小企業では2021年4月1日から施行されています。従って、定年後にパートタイムとして雇用継続する場合は、待遇差によってトラブルに発展しないように注意が必要です。
また、定年後再雇用は退職後に再び雇用契約を結ぶため、パートタイムとして雇用形態を変えての雇用が可能です。雇用形態の変更に伴い、業務内容や責任の範囲も変更可能。賃金も業務内容に応じて変えることができます。
5-2. 業種、労働条件、手当、有休にも不利にならないよう注意
また再雇用時において注意したい具体的な点は、以下の4点になります。
- 業種は変更しない
- 労働条件は1年単位で見直す
- 手当は正当な理由がない場合には原則支給しなければならない
- 有給休暇には勤続年数が反映される
まず、定年後再雇用では他の業種として再雇用することはできません。実際に正社員として雇用されていた社員が定年後に清掃員として再雇用され、損害賠償の支払いを求めた事件では違法であると判決が出ています。[注2]
また、健康状況も日々変化するため、労働条件は1年ごとに見直すのがおすすめです。さらに、手当や有給休暇は原則正社員と変わらない待遇を用意するように定められていますが、一部手当は正当な理由があれば待遇を変えても問題にならない場合があります。
ただし、有給休暇の取得日は定年前の勤続年数から続いて反映されるため、注意が必要です。労働日数が減る場合は有給の付与日数が変わるので、再度見直しましょう。
[注2]全情報「トヨタ自動車ほか事件」
関連記事:パートタイム・有期雇用労働法の第8条について分かりやすく解説
関連記事:同一労働同一賃金が中小企業に適用されどう変わった?
6. 定年後再雇用にも同一労働同一賃金は適用される


60歳で定年を迎えた後も、原則65歳までは同じ企業で再度働ける制度を定年後再雇用制度といいます。定年後再雇用の場合も、同じ労働には同じだけの賃金が支払われるという原則は適用されるので注意が必要です。
実際に定年後再雇用で不当な減給を受けたとして2件の判例があります。一部手当は正当な理由があれば差をつけることが認められていますが、基本給は定年前の60%を下回ると不合理として判断されるかもしれません。
不足する労働人口を補うには便利な制度ですが、思わぬトラブルに発展しないよう、定年後再雇用を活用する際は同一労働同一賃金の原則に反しないように注意が必要です。
2021年4月に法改正され、すべての企業に同一労働同一賃金が適応されましたが、
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