同一労働同一賃金で業務における責任の程度はどう変化する?
更新日: 2025.8.26 公開日: 2022.2.4 jinjer Blog 編集部

2018年6月に働き方改革関連法が成立し、パートタイム・有期雇用労働法により同一労働同一賃金のルールが強化されました。この制度は、同じ仕事には雇用形態にかかわらず同じ待遇を求めるものです。
大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から、派遣元事業主には企業規模に関わらず2020年4月から適用されています。本記事では、同一労働同一賃金における「責任の程度」の考え方と、実務で注意すべきポイントやトラブル防止策について解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?派遣・非正規の待遇における規定や法改正の背景をわかりやすく解説
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金における責任の程度とは?


同一労働同一賃金における「責任の程度」とは、労働者が業務を遂行するうえで負う業務上の責任の重さや、その仕事が企業や組織全体に及ぼす影響力の大きさを指します。例えば、どの程度の権限が与えられているか、業務成果に対する期待の大きさ、トラブルや緊急時への対応の有無、ノルマなどの成果目標に対するプレッシャーの度合いなどが該当します。単にポジションや肩書だけで判断されるものではない点に注意が必要です。
この「責任の程度」は、パートタイム・有期雇用労働法で定める「均衡待遇」や「均等待遇」の適用を判断するうえで、重要な考慮要素の一つです。第8条「均衡待遇」では、正社員と非正規社員(短時間労働者や有期雇用労働者)との間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されています。さらに、同法第9条「均等待遇」では、正社員と同等と認められる短時間・有期雇用労働者に対して、雇用形態を理由に待遇面で差別的に扱うことが禁じられています。
1-1. 均衡待遇とは?
均衡待遇とは、同一労働同一賃金を実現するための基本的な考え方の一つであり、同一企業内で働く非正規雇用労働者(パート・アルバイトや契約社員など)について、正社員との間に不合理な待遇差を設けることを禁止するものです。
具体的には、業務の内容や責任の程度、配置変更の範囲、その他の事情を考慮したうえで、正社員とのバランスが取れた待遇とすることが求められます。なお、「業務の内容」と「責任の程度」は、法律上あわせて「職務の内容」と定義されています(パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第8条|e-Gov法令検索
1-2. 均等待遇とは?
均等待遇とは、短時間・有期雇用労働者(パート・アルバイト、契約社員など)について、職務内容(業務内容および責任の程度)および配置の変更範囲が、通常の労働者(正社員)と同一である場合には、待遇面で雇用形態を理由とした差別的取扱いを禁止するという原則です(パートタイム・有期雇用労働法第9条)。これは「同じ仕事には同じ待遇を」という考え方に基づくもので、同一労働同一賃金の具体的な実現手段の一つといえます。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第9条|e-Gov法令検索
2. 同一労働同一賃金の「職務の内容」が同じかどうかの判断基準


同一労働同一賃金における「均衡待遇」「均等待遇」が求められるかどうかを判断するには、まず職務の内容(=業務の内容および責任の程度)を正確に把握することが不可欠です。ここでは、正社員と非正規労働者の職務内容が同一かどうかを判断するための具体的な基準について詳しく解説します。
2-1. 職種が同じか
まずは職種(事務職、エンジニア職など)が同じかどうかを比較します。例えば、正社員Aが事務職で、非正規社員Bがエンジニア職の場合、職務の内容が違うことになります。なお、表面的な職種名だけでなく、実際に担当している業務を正しく把握したうえで判断することが大切です。
2-2. 中核的業務が実質的に同じか
職種が同じと判断されたら、次に中核的業務を比較します。なお、中核的業務とは、労働者に割り当てられた職務の中で、その職務を象徴し、業務遂行において不可欠とされる重要な業務を指します。これは、業務の成果が職場の業績や評価に大きく影響するかどうか、またその業務が労働者の業務全体に占める時間や頻度が高いかといった観点から、総合的に判断されます。
2-3. 責任の程度に大きな違いがないか
職種および中核的業務が同じと判断された場合、最後に責任の程度を比較しましょう。責任の程度とは、与えられた権限の広さや、業務成果に対する期待、トラブルや緊急時への対応の必要性、さらにはノルマなど成果に対する要求水準などを総合的に見て判断されます。責任の程度に大きな差がなければ、職務の内容は同じと判断されます。
参考:不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)について|厚生労働省
3. 同一労働同一賃金の「職務内容・配置の変更範囲」が同じかどうかの判断基準


次に、正社員と非正規労働者の職務内容・配置の変更範囲が同一かどうかを判断するための具体的な基準について詳しく解説します。職務内容・配置の変更範囲が同じと判断されれば、人材の活用方法に違いはないと判断されることになります。
3-1. 転勤の有無を比べる
まずは転勤の有無を比較しましょう。正社員Aが「転勤の可能性あり」、非正規社員Bが「転勤の可能性なし」の場合、人材の活用方法(職務内容・配置の変更範囲)に違いがあると判断されます。
3-2. 転勤の範囲を比べる
次に転勤の有無が同一の場合、その範囲を比較しましょう。例えば、正社員Aが「全国転勤の可能性あり」、非正規社員Bが「同一の市内で転勤の可能性あり」の場合、どちらも転勤の可能性がありますが、その範囲が実質的に同一とは判断できないため、人材の活用方法に違いがあると判断できます。
3-3. 職務内容・配置の変更有無を比べる
転勤の有無とその範囲が実質的に同一の場合、職務内容・配置の変更有無を比較しましょう。正社員Aが「変更の可能性あり」、非正規社員Bが「変更の可能性なし」の場合、たとえ転勤の有無とその範囲が同一でも、人材の活用方法に差があると判断されます。
3-4. 職務内容・配置の変更範囲を比べる
最後に転勤の有無とその範囲が実質的に同一で、職務内容・配置の変更有無も同じ場合、職務内容・配置の変更範囲を比較しましょう。正社員Aが「すべての職種への配置転換の可能性あり」、非正規社員Bが「事務職の範囲で配置転換の可能性あり」の場合、人材活用に違いがあると判断されます。
参考:不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)について|厚生労働省
4. 同一労働同一賃金における待遇の考え方


実際に「均衡待遇」や「均等待遇」を実現しなければならないと判断された場合、企業は対象となる労働者の待遇について見直しを検討する必要があります。賃金などの待遇項目について、不合理な差がないかどうかを検証しなければなりません。
なお、待遇に差を設けること自体がただちに違法となるわけではなく、労働者の職務内容や責任の程度、配置変更の範囲、企業内における人材活用の仕組みなどを総合的に判断し、合理的な理由があると認められる場合には、その待遇差は法的にも許容されます。
4-1. 基本給だけでなく賞与・手当・福利厚生・教育訓練も対象
同一労働同一賃金の原則に基づき見直しが求められる待遇には、「基本給(昇給を含む)」だけでなく、「賞与(ボーナス)」「各種手当(通勤手当や役職手当など)」「福利厚生・教育訓練」も含まれます。これらの待遇項目ごとに、正社員と非正規労働者との間に不合理な差がないかを個別に検証する必要があります。
例えば、賞与については、企業の業績や労働者の貢献度などに応じて支給されることが一般的ですが、同一の業績・成果に対しては正社員と非正規社員とで同等の支給がなされるべきです。仮に業務の内容や責任の程度などに違いがある場合でも、その差に見合った範囲での支給差でなければなりません。
関連記事:同一労働同一賃金における福利厚生の待遇差や実現するメリットとは
5. 同一労働同一賃金でトラブルを起こさないための対策


実際に令和2年10月15日に日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件で、雇用形態の違いに応じて待遇差を設けることは不合理とする判決が出ています。本判決では、扶養手当・祝日給・年末年始勤務手当・夏期冬期休暇・有給の病気休暇の待遇差が不合理と判断されました。
このように、正社員と非正規社員との間に設けられた待遇差が原因で、実際に労使トラブルに発展するケースも見られます。ここでは、同一労働同一賃金でトラブルを起こさないための対策について詳しく紹介します。
参考:同一労働同一賃金に関する最高裁判決がありました!!|厚生労働省
5-1. 仕事内容や責任の程度を明確化する
正しく同一労働同一賃金を実現するためには、従業員の仕事内容(その範囲を含む)や責任の程度を明確にすることが大切です。これらが曖昧なままだと、待遇差に合理性があるかどうかを正確に判断できず、不合理な差だと指摘される恐れがあります。とくに非正規社員から説明責任を求められた場合、企業側が適切に対応できなければ、法的リスクを抱える可能性もあるので注意しましょう。
5-2. 不合理な待遇差がないか定期的にチェックする
正社員と非正規社員との間に不合理な待遇差がある場合、法令違反とされる可能性があり、訴訟や損害賠償などのリスクを伴います。このような事態を招かないためにも、従業員に対する待遇の状況を定期的に見直しすることが大切です。
仮に待遇に違いがある場合は、その理由が合理的であることを説明できるよう準備しておく必要があります。不合理な待遇差が見つかった場合には、できるだけ早期に改善に取り組むことが求められます。厚生労働省が提供する「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」などの資料も活用しながら、正しく同一労働同一賃金の実現を目指しましょう。
参考:パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書|厚生労働省
関連記事:同一労働同一賃金で各種手当はどうなる?最高裁判例や待遇差に関して
5-3. 従業員に対する説明義務の責任を果たす
パートタイム・有期雇用労働法第14条では、事業主に対して、短時間・有期雇用労働者(パート・アルバイトや契約社員など)への説明義務が定められています。具体的には、これらの労働者を雇い入れる際に、その待遇に関する事項や、待遇に関して講じようとしている措置について説明しなければなりません。また、労働者本人から求めがあった場合には、正社員(通常の労働者)との待遇の違い、その内容およびその理由について説明する義務もあります。
当サイトでは、どのように説明すれば合理的な待遇差だと認めてもらえるかについて、具体例を用いて解説した資料を無料で配布しております。万が一不合理であると判断された場合の対処法もまとめておりますので、待遇差の説明に関して不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第14条|e-Gov法令検索
関連記事:同一労働同一賃金の説明義務はどう強化された?注意点や説明方法も解説
6. 労働者派遣契約書には「責任の程度」の記載が必要


「責任の程度」は、パートタイム・有期雇用労働法だけでなく、労働者派遣法にも記載があります。具体的には、労働者派遣法第26条に基づき、労働者派遣契約書に「責任の程度」の記載が必要です。
前項の「比較対象労働者」とは、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする者に雇用される通常の労働者であつて、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令で定めるものをいう。
6-1. 労働者派遣契約書の書き方・記入例
労働者派遣契約書の作成にあたっては、厚生労働省が提供する記載例やガイドラインを参考にすることが推奨されます。とくに「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」については、派遣労働者に付与されている権限の範囲やその行使の程度を指すものです。
例えば、チームリーダーや副リーダーといった役職がある場合は、その役職名を明記し、それに伴う責任範囲を具体的に記載します。役職がない場合には、その旨を記載するだけでも構いません。ただし、派遣元事業主と派遣先との間で派遣労働者の責任の程度について共通認識を持つことが重要であるため、可能な限り具体的な記載を心がけることが望ましいです。
参考:労使協定方式 様式・記載例|厚生労働省
参考:労働者派遣(個別)契約書 記入例|厚生労働省
関連記事:労使協定方式とは?均等均衡方式との違いや派遣労働者の賃金水準について解説
7. 同一労働同一賃金は原理や考え方を理解してトラブルを避けよう


同一労働同一賃金を適切に実現するためには、「均衡待遇」と「均等待遇」の考え方を正しく理解することが重要です。正社員と非正規社員の間で、職務の内容(業務内容および責任の程度)や配置の変更の範囲が同一であるにもかかわらず、待遇に差がある場合には、法令違反となる恐れがあります。
不合理な待遇差を防ぎ、すべての労働者が納得して働ける環境を整備するためにも、法令に基づいた正しい対応をおこない、同一労働同一賃金の取り組みを推進しましょう。



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
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