労働契約法16条に規定された「解雇」の効力と無効になるケース
更新日: 2024.10.9
公開日: 2021.10.4
OHSUGI
労働契約法16条には、使用者が労働者を解雇する場合のルールが定められています。
労働契約法16条に反している場合、たとえ就業規則や労働条件通知書に記載されていても、解雇が無効になってしまうことがあるので注意が必要です。
今回は、労働契約法16条に規定された「解雇」の定義や効力、解雇が無効になるケースや16条、19条の違いなどについて解説します。
▼そもそも労働契約法とは?という方はこちらの記事をご覧ください。
労働契約法とは?その趣旨や押さえておくべき3つのポイント
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
当サイトでは、解雇の種類や解雇を適切に進めるための手順をまとめた資料を無料で配布しております。合理性がないとみなされた解雇の例も紹介しておりますので、法律に則った解雇の対応を知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 労働契約法16条に規定された「解雇」の定義
一般的に解雇とは、使用者(事業主)が労働者との間に締結した労働契約を一方的に終了させることを意味します。
ただ、解雇は使用者の意向ひとつで実行できるものではありません。
労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。
つまり、使用者に解雇の意向があったとしても、その理由が「客観的に合理的」と認められない場合、労働者を解雇することはできません。
ここでいう「客観的に合理的な理由」とは、社会の常識に照らして納得できる理由のことで、誰もが「解雇するのが妥当」とみなされる正当な理由がなければ、労働者を解雇できないことを意味しています。
1-1. 解雇の種類
解雇の種類は、その事由に応じて「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つに分類されます。
普通解雇とは、整理解雇や懲戒解雇に区分されない解雇のことで、主に労働者の能力不足や病気・けがによる長期の就業不能が事由となるケースが多く見られます。ただし、単純に他の従業員より能力が劣っている、ケガで1ヵ月間入院した等の理由だけでは、労働契約法16条の「客観的に合理的な理由」とはみなされません。
労働者側に問題がある場合でも、企業が指導・研修などをおこない、改善に向けて取り組んだ経緯がなければ「不当解雇」と認識されるので要注意です。
2つ目の「整理解雇」は、会社の経営不振などによってやむなく人員整理(リストラ)しなければならない場合におこなう解雇で、広義では普通解雇に分類されます。
こちらも、経営が傾く→即リストラとならないよう、労働契約法16条によって無効とされないためには、以下4つの要件を満たす必要があります。
①人員削減に経営上の必要性が認められること
②解雇を回避するための努力を講じたこと
③解雇の対象者を合理的基準に基づいて選定していること
④対象者と十分協議したこと
3つ目の懲戒解雇は、労働者が重大な規律違反を犯した際におこなわれる解雇です。懲戒解雇は16条だけでなく15条も関係します。
具体的には、犯罪行為によって会社の名誉を著しく低下させたり、ハラスメントを繰り返したり、重大な経歴詐称などをおこなったりした場合に適用されます。
なお、普通解雇および整理解雇は、労働基準法19条により、少なくとも30日前にはその予告を行わなければなりませんが、懲戒解雇については「労働者の責に帰すべき事由」にあたるため、即日解雇することも可能です。
ここまで解説したように解雇には3種類ありますが、すべてに対して解雇理由が妥当である必要があります。そこで当サイトでは、解雇の妥当性や、整理解雇において妥当と考えられやすくなる手順を具体的に解説した資料を無料で配布しております。解雇を検討しているが手順がわからないというご担当者は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
参考:厚生労働省 | 労働契約の終了に関するルール
参考:e-Gov法令検索 | 労働基準法
2. 労働契約法16条に規定された「解雇」に関する効力
そこで、労働契約法16条では、解雇に関するルールをあらかじめ明示し、権利濫用に該当する解雇の効力についての規定をおこなっています。
解雇に関する規定は、別途企業ごとの就業規則にも記載されていますが、労働基準法92条において「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」との定めがあるため、仮に就業規則に基づいて「妥当」と判断して解雇した場合でも、労働契約法16条に該当するとみなされた場合、解雇は無効になります。
解雇の正当性については、労使間で合意に至らなかった場合、最終的には裁判所において判断されることになります。
裁判所では、労働者の落ち度の程度や、行為の内容、それによって企業が被った損害の重大性、行為に悪意や故意があったかどうか、情状酌量の余地があるかなど、さまざまな事情を考慮した上で、労働契約法16条における「客観的に合理的な理由」の有無を判断します。
2-1.「解雇無効」となった判例
ここでは一例として、昭和52年に最高裁で結審した「高知放送事件」の判例を紹介しましょう。
高知放送事件とは、あるラジオニュースを担当するアナウンサーが、寝坊によって2週間に2度の放送事故を起こしたことに起因する事件です。
当該アナウンサーは2回目の事故について、当初上司に報告せず、後に事故報告書を求められたときも、事実と異なる内容を記載し、提出。会社は当該アナウンサーを普通解雇しました。
一見すると、アナウンサーの職務怠慢、虚偽報告は解雇に相当して然るべきように思えますが、最高裁の判決は労働契約法16条により、解雇を無効としました。
理由としては、放送事故は悪意や故意があって発生したものではないこと。アナウンサーを起こすべき他の担当者も寝過ごしていたこと。1回目の事故についてはすぐに謝罪し、2回目の寝過ごし時は一刻も早く放送できるよう努力したこと。さらには放送事故が会社に与えた損害の程度が少ないこと、当該アナウンサーの平素の勤務成績が悪くないことなどを挙げ、解雇はいささか苛酷であり、「合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできない」とし、原告(会社)側の上告を棄却しました。
当該アナウンサーの所業は、会社の就業規則所定の懲戒事由に該当するものでしたが、労働契約法16条に該当すると判断された場合、解雇が無効になるという典型例となっています。
3. 労働契約法16条の規定以外に解雇が禁じられるケース
以下では、労働契約法16条の規定以外に解雇が禁じられている主なケースを法令ごとにまとめました。
3-1. 労働基準法19条
労働基準法19条では、以下2つのケースについて解雇を禁じています。
①労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間
②産前産後の女性が65条(産前産後休業に関する条項)の規定によって休業する期間及びその後三十日間
ただし、療養開始後3年を経過しても負傷または疾病が治らず、かつ使用者が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払った場合や、天災事変その他やむを得ない事情によって事業継続が不可能になった場合は、この限りではありません。
関連記事:労働基準法による解雇の方法や種類、円満解雇するための秘訣を解説
3-2. 労働基準法104条
労働基準法104条では、同法またはこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合、労働者がその事実を行政官庁または労働基準監督官に申告できるとする「監督機関に対する申告」について規定しています。
使用者は、この申告をおこなったことを理由として、労働者を解雇することは禁じられています。
3-3. 労働組合法7条
労働組合法7条では、使用者は「労働者が労働組合員であること」や「労働組合の正当な行為をしたこと」などを理由に、その労働者を解雇することを禁じています。
3-4. 男女雇用機会均等法6条
男女雇用機会均等法6条では、事業主は労働者の性別を理由として、「退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新」といった差別的取り扱いをすることを禁じています。
参考:e-Gov法令検索 | 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)
3-5. 男女雇用機会均等法9条
男女雇用機会均等法9条では、事業主は女性労働者が婚姻・妊娠・出産したことを理由とした解雇や、産後一年を経過しない女性労働者に対する解雇を禁じています。
参考:e-Gov法令検索 | 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)
3-6.育児・介護休業法10条
育児・介護休業法10条では、事業主は労働者が育児休業の申し出をしたこと、または育児休業したことを理由に解雇することを禁じています。
参考:e-Gov法令検索 | 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)
4. 就業規則で規定しても、労働契約法16条に該当する場合は解雇が無効になる場合がある
ただし、事業主が就業規則に照らして「妥当」と判断した場合でも、解雇事由が労働契約法16条における「客観的に合理的な理由」がないとみなされた場合、使用者は労働者を解雇することができません。
解雇事由の正当性について、最終的な判断は裁判所に委ねられますが、解雇は労働者の生活に大きな影響をもたらすため、相応の理由がないと「客観的に合理的な理由」がないとみなされる可能性が高くなります。
何らかの理由で従業員の解雇をおこなう場合は、労働契約法16条における「客観的に合理的な理由」とみなされるかどうか、慎重に検討することをおすすめします。
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
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