労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務とは?ルール改正も解説
「採用した労働者が定着しない」「就業後すぐに辞めてしまう」そのようなときは雇用条件の明示が適切におこなわれておらず、労働条件について従業員と認識がそろっていないことが原因かもしれません。労働基準法第15条では、雇用主には雇用契約締結時における労働条件の明示義務について定められています。
労働条件の明示は不当な労働から労働者を守るための取り決めです。適切な条件明示が実施されれば、労働者も安心して就業できるようになるでしょう。この記事では労働基準法第15条で定めらる労働条件の明示について詳しく解説します。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1. 労働基準法15条で定められた労働条件の明示義務とは
労働条件の明示義務とは、使用者が労働契約を締結する際に、労働者に賃金や労働時間などの労働条件を具体的に明示することを義務付けたものです。
この義務は労働基準法第15条1項に基づいており、正社員だけでなくパート・アルバイトなどの非正規雇用者も対象です。これにより雇用契約締結後の労使トラブルを防止し、労働者は自身の労働条件を理解したうえで不当な労働から保護されます。その結果、労働者は安心して業務に従事できます。また、明示すべき項目については労働基準法施行規則により定められています。
1-1. 労働基準法第15条とは
労働基準法第15条は、労働条件の明示義務について規定する重要な条文です。具体的には、使用者が労働契約を締結する際に、労働者に対して賃金、労働時間、その他の労働条件を明示する義務を持つことを定めています。これは、労働者が安心して働くための基本的な権利であり、企業側にも透明性と公平性を求めるものです。
労働条件明示の実施対象となるのは雇用契約を締結する全ての労働者です。雇用期限の定めがない正社員はもちろん、有期雇用の契約社員、パート社員・アルバイト社員といった時短労働者に対しても適切に労働条件を明示しなければなりません。なお、明示された労働条件と異なる場合、労働者はすぐに契約を解除できることを、労働基準法第15条第2項で定めています。
1-2. 労働基準法第15条の条文
労働基準法第15条第1項では、労働者に対する労働条件の明示義務を定めたものです。その条文には以下の内容が記載されます。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
引用: 労働基準法|e-Gov法令検索
1-3. 労働基準法第15条に違反した場合の罰則
労働基準法第15条に違反した場合、使用者は労働基準監督署から勧告を受けるだけでなく、罰金を科されることがあります。具体的には、労働条件を明示しない場合や法令で義務付けられた方法で明示しない場合、労働基準法第120条第1号に基づき30万円以下の罰金が科せられます。また、これに伴う行政処分や企業の信用低下も避けられません。このため、労働条件の明示義務を厳守し、適切かつ具体的な情報を提供することが極めて重要です。
2. 労働基準法第15条に基づく労働条件の明示の目的
労働条件の明示は、雇用契約締結後の労使トラブルを防止し、労働者を保護することを目的とするものです。以下のとおり明示義務を怠った雇用主に対しては30万円以下の罰金刑が科されることもあります。
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
引用:労働基準法|e-Gov法令検索
罰則を科されないために、法令を遵守し、労働者に対して分かりやすく労働条件を示すことを心掛けましょう。
2-1. 労働条件と異なる場合は契約の即日解除も可能
事前に明示された労働条件と実際の労働条件に違いがあった場合、労働者は契約を即日解除し退職する権利が認められています。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
引用:労働基準法|e-Gov法令検索
通常、労働者が自主的に退職を申し入れる場合は14日の猶予期間が発生します。しかし、労働条件の違いによる退職は即日退職が認められる例外のひとつです。雇用契約締結時は必ず労働条件を説明する時間を設け、労働者に納得してもらった上で雇い入れるようにしましょう。
2-2. 契約解除で帰郷する際の費用は雇用主負担
就業のために住居を移動した労働者が契約解除後14日以内に帰郷する場合、必要な旅費の負担は雇用主の義務です。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
これはかつて集団就職が一般的であった時代、帰郷起用の補償がなければ事実上の強制労働にあたるため設けられた規定です。あくまで「帰郷」することが条件ですので、住居を移動せずに転職する場合は当てはまりません。
また、雇用主が負担する「旅費」には交通費のほか宿泊費や食事代も含まれます。荷物の運送費も旅費に含まれると判断できることから、引っ越し費用も雇用主の負担です。
3. 労働基準法第15条で規定される労働条件の明示事項
労働者に明示すべき労働条件は、書面での明示が義務付けられる項目と口頭での伝達でもよいとされる項目に分けられます。これらは労働基準法施行規則第5条にて定められるものです。適切な明示がなされていない場合は法令違反とみなされる可能性があります。
3-1. 絶対的明示事項
絶対的通知事項とは、雇用契約書や労働条件通知書を用いて必ず書面上で明示(昇給を除く)しなければならないもので、以下の6項目が該当します。
- 労働契約の期間
- 労働契約更新の基準
- 就業場所及び従事する業務の内容
- 労働時間、残業、休憩時間、休日、休暇に関する事項
- 賃金の支給額、計算方法、締め日、支払日、支払い方法ならびに昇給に関する事項
- 退職、及び解雇の事由と手続き方法
なお、2019年の法改正により、現在では電子メールやFAXを用いた労働条件の明示も認められています。ただし、その実施には制限もあり、運用には注意が必要です。
労働契約の期間について、正社員のように雇用期限の定めがない労働者の場合はその旨を記載します。雇用期限がある労働者についてはその期間と、契約を更新する際の取り決めに関する明示が必要です。
就業場所と業務内容については、雇用契約締結後に配属される部署に関して明示されていれば法律上の問題はありません。ただし、転勤や配置転換が発生する職場では、労働者への事前説明をおこないましょう。諸事情により転勤・転属が不可能な場合もあります。実際には事業所や業務内容を網羅的に記載するケースが一般的です。
関連記事:労働条件通知書の記入例や書き方のポイントを解説
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
3-2. 相対的明示事項
相対的明示事項とは、雇用主がその規定を定めていない項目のことで、以下の8項目については口頭での明示が許されています。
- 退職金に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(賞与)に関する事項
- 食費や作業用品など社員が負担すべき費用についての事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰と制裁に関する事項
- 休職に関する事項
口頭での明示が許されるとは言え、規定が定められる項目については必ず労働者に伝達されなければなりません。書面での明示をおこなわない場合は、就業規則の該当箇所を示しながら説明するとよいでしょう。
3-3. パートタイマーに関する特則
雇用する労働者がパートタイマーである場合、下記以外にもパートタイム労働法第6条に基づいた項目を明記しなければなりません。
事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第十四条第一項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。
引用:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-Gov法令検索
明示義務があるのは以下の3項目です。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口
なお、これらの項目は書面による明示が義務付けられています。電子メール、FAXを用いた明示も可能です。ただし、違反した場合はパートタイマー1名につき10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
関連記事:パートタイム・有期雇用労働法に定められた罰則の詳細を解説
3-4. 派遣労働者に関する特則
派遣労働者も労働者であることには変わりがありません。そのため、派遣労働者に対しても、就労条件の明示義務が労働者派遣法34条1項において定められています。
派遣労働者の方へは「労働条件通知書」と「就業条件明示書」が交付されます。双方意味が似ていますが意味が異なるので、ここで理解しておきましょう。
雇用条件通知書は、絶対的明示事項について労働基準法に基づき交付が要求されるものの一例であるのに対し、就業条件明示書は労働者派遣法において要求される書面になるのです。しかし実際のところ、両書面の内容は共通するものが多いことから、「労働条件通知書兼就業条件明示書」といった書面を使用者が労働者に対して交付し、実質的に1種類の書面としてしまうことがあります。
具体的には上記した労働基準法上の絶対的明示事項に加え、当該労働者を派遣する旨、及び派遣先での就業条件等を記載することになります。
4. 2024年(令和6年4月)から労働条件の明示ルールが改正
労働基準法第15条で規定される労働条件の明示事項について説明してきましたが、項目の中には2024年4月に、労働基準法施行規則の改正により、労働条件の明示ルールが変更され追加されたものもあります。
1. 就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲
2. 更新上限の有無と内容
3. 無期転換申込機会
4. 無期転換後の労働条件
これにより、労働者に対する情報提供がより透明かつ具体的になり、労働環境の公平性が向上することが期待されます。当サイトでは、最新の法律に基づいた明示事項や雇用契約のルールについてまとめた資料を用意しています。労働条件通知書や雇用契約書の内容を確認するにあたり、見るべき項目がわからない、現在の内容で問題ないのか不安、という方は、ぜひこちらからダウンロードしてご確認ください。では、改正されたルールの内容を項目ごとに解説していきます。
関連記事:【2024年4月】労働条件明示のルール改正の内容は?企業の対応や注意点を解説
4-1. 就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示
令和6年4月の改正により、この項目では労働者がどこで働くか、どの業務に従事するかが変更される可能性がある場合、その変更の範囲について明示が必要となります。(労働基準法施行規則第5条1項1号の3)。
これは、従業員を新たに採用する場合や有期雇用の従業員との雇用契約を更新する際に適用され、雇い入れ直後の就業場所と業務の内容に加えて明示する必要があります。目的は、就業場所の変更や業務の変更に対し従業員に予測可能性を与え、トラブルを未然に防ぐことです。対象は正社員だけでなく契約社員、アルバイトなど全ての労働者です。
記載例
具体的な労働条件通知書の記載例として、就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合には、「会社の定める就業場所」「会社の定める業務」と記載する方法や変更範囲を別紙として添付する方法があります。
例えば、「就業場所:(雇入れ直後)東京支店、(変更の範囲)海外(アメリカ、中国、マレーシア)及び全国(東京、名古屋、大阪、福岡)への転勤あり、その他今後新設される拠点を含む」とすることが考えられます。
変更が一定の範囲に限定される場合には、「就業場所:(雇入れ直後)板橋出張所、(変更の範囲)東京都内」といった具体的な範囲を明確に記載します。
変更が想定されていない場合は、「就業場所:(雇入れ直後)千葉センター、(変更の範囲)青梅センター」と記載します。
例えば、「変更なし」や「雇い入れ直後に従事すべき業務と同じ」と明示しても問題ありません。
4-2. 更新上限の有無と内容の明示
この改正は、労働契約の更新に関して、何回まで更新が可能か、その上限および内容を明示することが求められます。
令和6年4月の改正に伴い、労働基準法施行規則第5条1項1号の2に基づき、有期雇用契約における更新上限の有無とその内容の明示が義務付けられました。
有期雇用の従業員に対して契約の更新について予測可能性を与え、契約終了時のトラブルを予防することを目的としています。これは特にアルバイトや契約社員、定年後再雇用の従業員など、有期雇用の労働者に該当するものです。
有期雇用契約の更新に関して、更新回数や契約期間の上限を設定する場合には、最初の契約締結時や契約更新のタイミングで、その内容を具体的に明示する必要があります。
記載例
具体的な記載方法としては、契約の初期から数えた更新回数や通算の契約期間の上限を示し、さらに現在の契約更新が何回目であるかを併せて記載する方法が推奨されます。
例えば、契約の更新回数は●回までとする(本契約の更新で更新回数●回目)、契約期間は通算●年を上限とする(本契約は通算●年目)といった具体的な表現を使用することで、労働者に対して明瞭な情報を提供することが可能です。
4-3. 無期転換申込機会の明示
この改正では、無期転換の申込が可能な機会について、労働者に具体的な時期や方法を明示する義務が生じます。
令和6年4月の改正により、労働契約法第18条に基づいて明示が義務づけられました。有期雇用契約が更新されて通算5年を超えた場合、従業員には無期雇用契約への転換を申し込む権利が発生します。この無期転換ルールにより、無期転換申請機会が発生する際には、その事実を従業員に明示することが必要です(労働基準法施行規則第5条第5項、第6項)。
無期転換権が発生するのは、有期雇用契約が5年を超える場合に限られます。例えば、1年契約の有期雇用が5回目の更新に達すると、この権利が生じます。従業員が無期転換を申し込まないまま契約が更新される場合、更新の都度、無期転換申込機会について明示する義務があります。これにより従業員はスムーズに無期雇用へ転換できる可能性が高まります。
記載例
具体的な記載例として、「本契約期間中に無期労働契約締結の申込みをしたときは、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる」といった明示が必要です。
4-4. 無期転換後の労働条件の明示
無期雇用に転換後の労働条件についても、企業は労働基準法第15条に基づき、明確に示す義務があります。
特に、令和6年4月の改正により、新たに無期転換後の労働条件の明示が義務づけられました。この明示は、無期転換申込権が発生するタイミングごとに書面で行う必要があります(労働基準法施行規則第5条5項、6項)。
無期転換後の労働条件について具体的に明示すべき事項は、労働基準法施行規則第5条1項に規定されている内容と同様です。主な明示方法は次の通りです。
記載方法
1. 労働条件通知書を作成し、事項ごとに明示する方法
具体的には、厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー」からダウンロードできる、「(令和6年4月1日以降)労働条件通知書(無期転換後の労働条件)」を使用することが推奨されます。
2. 労働条件の変更の有無について明示し、変更がある場合はその内容を詳細に説明する方法
無期転換後も労働条件に変更がない場合は「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」と明示し、変更がある場合は「無期転換後は、労働時間を○○、賃金を○○に変更する」と具体的に記載します。
このように、無期転換後の労働条件を明示することで、労働者は安心して勤務することができ、企業に対する信頼も高まります。
5. 労働基準法第15条に基づく労働条件の明示時期
労働条件の明示時期として覚えてきたいタイミングは以下の2つあります。
①労働契約を締結するとき
②契約を更新する都度(※有期労働契約の場合)
労働者を雇い入れた時には、賃金、労働時間などの労働条件を書面の交付により明示しなくてはなりません。平成31年4月1日から労働者が希望した場合は、FAX・電子メール・SNS等でも明示できるようになっています。ただし、労働者が記録を出力し、書面を作成できるものに限るので様式には注意が必要です。
5-1. 新卒採用における明示時期について
明示時期でひとつ分かりづらいものが新卒採用になります。募集要項を出しているときに明示する必要があるのか、それとも内定を出す時なのか、それとも入社をするタイミングなのか、明確に理解している方も多くはないのではないでしょうか?
まず労働契約法6条は「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と規定しています。
そのため、原則として採用内定時に労働条件は提示すべきことになりますが、労働者の期待権を侵害しミスマッチが発生するようなリスクを除けば、実際の入社時に明示することで足りる、とされています。
6. 労働基準法第15条に基づく労働条件の明示方法
労働基準法第15条に違反した場合は、罰則の対象となる可能性もありますので、法律に基づく労働条件の明示方法を正しく理解しておくことは大切です。労働条件の明示方法を解説します。
6-1. 明示方法は口頭ではなく書面で行うことが原則
労働条件の明示は口頭ではなく、書面や電子文書で行うことが原則です。具体的には、労働契約の期間、就業の場所及び業務内容、始業及び終業時刻、労働時間の取扱、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定、計算及び支払い方法、賃金の締切り及び支払時期、昇給、退職に関する事項(解雇の事由を含む)については、労働基準法施行規則第5条4項に基づき、書面の交付により明示しなければなりません。
書面の様式について特に決まりはありませんが、厚生労働省のモデル労働条件通知書を利用することで、漏れのない明示が可能です。モデル労働条件通知書は厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能です。
6-2. 労働条件の明示をメール等で実施する場合の要件
労働条件の明示を電子メール等で実施する場合は以下の要件を満たす必要があります。
- 労働者の本人の希望があること
- 受信者を特定できる通信手段を用いること
- 明示内容を出力して書面が作成できること
2019年4月の労働基準法改正により、電子メールやFAXによる労働条件の明示が認められました。しかし、その運用には制限もあるため、要件を押さえて正しく運用しましょう。
労働者の希望があること
電子メール等での労働条件明示が認められるのは労働者本人の希望があった場合に限られます。本人の同意を得られないまま、雇用主が一方的に電子メール等で明示することはできません。なお、労働者の希望ついては個別に確認することが求められます。
受信者を特定できる通信手段を用いること
労働条件を電子で明示する場合、その受信者が特定できる通信手段を用いなければなりません。例えは、その労働者のブログやSNSへの書き込みなど、第三者に情報が伝わる可能性がある伝達方法は禁止です。
明示内容を出力して書面が作成できること
電子メール等で労働条件を明示する場合、必要に応じてその内容が書面で出力できることが求められます。チャットアプリやSNSのメッセージ機能を用いることは禁止されていませんが、情報保存や印刷の利便性を考慮すると利用を控えた方がよいでしょう。
電子メールを利用する場合も、本文に直接記載するのではなくPDF等のファイルを添付する形式が望ましいとされます。
6-3. 就業規則のコピーを交付し労働条件の明示も可能
労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務を果たす方法の一つとして、企業は就業規則のコピーを労働者に交付することがあります。ただし、この方法を採用する際には、就業規則が全ての労働条件を具体的に記載している必要があります。また、労働者に適用する部分を明確にしたうえで交付することが重要です
参考:「労働基準法の一部を改正する法律の施行について(平成11年1月29日基発第45号)」の通達の第二の四|厚生労働省
しかし、就業規則のコピーを交付するだけでは、賃金や労働時間などの個別の労働条件が明瞭に伝わらない場合があります。
このため、多くの場合、労働条件通知書や雇用契約書を個別に作成・交付する必要があります。従って、企業の人事担当者は労働基準法の改正内容や具体的な明示方法について深く理解し、適切な手続きを踏むことが求められます。
7. 労働条件の明示義務に関するよくある質問
労働条件の明示義務に関するよくある質問について、以下で詳しくご説明します。
7-1. 有期雇用契約の場合「変更の範囲」の具体的な明示方法は?
有期雇用契約における変更の範囲の明示は、労働基準法第15条に基づき、契約期間中の就業場所や業務内容の変更を具体的に示すことが要求されます。
変更の範囲とは、労働契約期間中の変更を意味します。したがって、契約が更新された場合に命じられる可能性がある就業場所や業務については、現行の法律では明示する必要がありません。
7-2. 有期雇用契約の場合「更新の上限」の具体的な明示方法は?
有期雇用契約の場合、労働条件の明示義務に関する労働基準法第15条に基づき、契約更新の上限についても具体的な明示が必要です。この際、契約の当初から数えた更新回数または通算契約期間の上限を明確に示すことが、労働者と使用者間の認識の一致に繋がります。
具体的には、契約当初から数えて何回目の更新かや現在の契約更新回数といった情報を併せて示すことで、労働者が自身の契約の継続可能期間を正確に理解することができます。従って、更新回数や通算契約期間の上限を明示する際は、双方が同じ認識を持てるような具体的で詳細な情報提供を行うことが重要です。
7-3. 更新の上限がない場合はどう記載すべき?
労働基準法第15条に基づき、有期労働契約の更新上限がない場合でも、その旨を明示することが推奨されます。
具体的には、厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書には更新上限の有無(無・有)という欄があります。この欄で更新上限がない場合には、無の旨を必ず明示する必要があります。
7-4. 無期転換後の具体的な労働条件の明示方法は?
無期転換後の労働条件については、詳細を記載する義務があります。具体的には、賃金、労働時間、勤務地などの条件を含める必要があります。有期労働契約の更新時に「無期転換後の労働条件」として示された内容と書面で明示された事項に変更がなくても、口頭で明示された事項に変更が生じた場合、「無期転換後の労働条件として○月○日に明示したものと同じ」旨を示すだけでは不十分です。施行通達に基づき、有期労働契約の更新時に書面や口頭で明示した全ての事項について変更がない場合にのみ、変更がない旨の明示が許容されます。このため、全ての明示事項について変更がないことを確認し、改めて労働者に対して適切に労働条件を明示する必要があります。
8. 労働条件を適切に明示して労使トラブルを防ごう
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