労働基準法による休業手当の意味と休業補償の違いは?計算方法も紹介
企業がやむを得ず休業するときには、労働者に対して休業手当を支払わなければならないことがあります。
休業手当は労働基準法第26条に詳しく取り決められています。これによると、企業が労働者を休ませるときには100分の60以上の手当を支払う必要が生じるのです。
この記事では、労働基準法による休業手当の意味と計算方法をご説明いたします。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1. 労働基準法に定められた休業手当とは
労働基準法の第24条には、賃金の支払いについて定められています。これは原則として、労働者による労働の提供がおこなわれなかったときには賃金の支払いが発生しないという取り決めです。
しかし、企業側の事情が従業員を休ませるときには、労働が提供されていない場合であっても企業は休業手当を支給しなければなりません。これが休業手当です。
1-1. 「休業」「休暇」「休日」の意味の違い
まず、休業、休暇、休日の違いを理解することが重要です。休業とは、企業と労働者間で労働契約を維持するものの、業務を行う意思があっても働けない状態を指します。具体例としては、企業側の事情で休業命令が出た場合や、労働者が怪我や病気で働くことが困難な場合が該当します。
一方、休暇は、労働の義務があるが、それを免除された日です。これは短期間の休みであることが多く、年次有給休暇や慶弔休暇などの特別休暇が含まれます。
休日は、労働義務のない日です。これは通常、週休や祝日などが該当し、労働者が労働から完全に解放される日とされています。
労働基準法に基づく休業手当や休業補償の対象は、主に休業に該当するケースです。休業手当は、使用者の都合で働けなくなった労働者に対して支払われるものであることを、企業の人事・労務担当者は正しく理解し、適切な対応をすることが求められます。
1-2. 休業手当の定義
労働基準法第26条には休業手当について「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」記載があります。
つまり、企業の事情によって発生した休業の期間中には、使用者が労働者に対して平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならないのです。
1-3. 法律に定められた休業手当の適用範囲
休業手当は正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなど雇用形態を問わずすべての労働者に対して支払われます。派遣社員の場合には休業手当の適用が妥当か否か判断に悩むこともあるかもしれません。派遣社員であっても労働基準法第26条が適用され、雇用関係にある企業には休業手当の支払い義務が発生するのです。業務委託契約を結んでいる場合には一般的には休業手当の対象外となります。しかし、委託している企業の業務内容や程度によっては休業手当の支払いが妥当とされるケースもあります。
2. 労働基準法によって休業手当が適用される例
労働基準法第26条における休業とは、労働者との労働契約が交わされており、さらに労働者が労働の意思をもっているにもかかわらず、結果的に労働ができない状態のことを指します。
労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」を基に、休業手当の適用例と適用されない例を具体的に説明します。
2-1. 休業手当が適用される例
労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、具体的には以下のようなものです。
- 経営上の障害
- 使用者の故意または過失
- 経営不振で仕事がない、または資金調達が困難、運転資金が不足している
- 資材や燃料、電力などが不足している
- 従業員が不足している
- 注文が少なく人員が余り、交代で休業させる必要がある
- 組合のストライキによって業務の履行ができない
- 親会社の経営不振
近年では、東日本大震災の影響で夏期に節電対策が求められ、多くの企業が休業を余儀なくされました。さらに、新型コロナウイルスの蔓延によって労働者を業務に従事させることができない場合に、使用者の自主的な判断で休業させるケースもありました。
このようなケースも「使用者の責に帰すべき事由」と判断されることもあるため、休業手当支払いの対象となります。
2-2. 休業手当が適用されない例
上記のような事情がない場合には「使用者の責に帰すべき事由なし」と判断され、休業が適用されないことがあります。
休業手当の対象とならない休業には以下のようなものがあります。
- 天変地異等の不可抗力
- ロックアウト
- 災害によって事業所が直接的な被害を受けたための休業
これらの問題は不可抗力とみなされるため、企業側の責任として休業をおこなう理由にはなりません。そのため、労働基準法による休業手当の対象ともならないのです。
休業に追い込まれるような問題が起きたときには、休業手当の対象か否かを見極めるようにしましょう。
たとえば、休業の原因が事業の内部ではなく外部から発生した事故であれば、使用者の責に帰すべき事由とは言い難いため、適用にはなりません。また、事業者が最大限の努力をしても避けられない事故の場合にも、使用者の責に帰するとは認められないのです。
関連記事:労働基準法第26条による休業手当について分かりやすく解説
3. 休業手当と休業補償の違い
休業手当とよく似た制度に休業補償がありますが、この2つの意味は違っています。休業補償とは業務中に発生した怪我や病気が原因で休業を余儀なくされたときに支払われる費用です。支給総額は平均賃金の60~80%とされており、休業日数分が支払われます。休業補償の場合には労働基準監督署での手続きが必要となるため、支給には1~2ヶ月程度の時間がかかります。
関連記事:労働基準法76条に規定された休業補償の金額や支払期間を紹介
3-1. 休業手当と休業補償の違い
休業手当は、企業の都合で休業時に労働者へ支払われる賃金の一部です。具体的には、企業が操業を停止した場合などが該当し、労働基準法により、労働者には平均賃金の60%以上の金額が支払われる必要があります。
一方、休業補償は労働災害が原因で休業する場合に適用されます。これは就労中に発生した怪我や病気など労働者の業務上の理由で働けなくなった際に支給されるもので、労働基準法第76条により平均賃金の60%の金額が支払われる義務があります。特に、企業側に過失がなくても、企業はこの補償を行う責任を負います。
両者の大きな違いとして、休業手当は企業の都合に基づくものであり、一方の休業補償は業務上の事故や病気によるものです。また、休業補償には特別給付もあり、給付基礎日額の80%が支給される仕組みがありますが、これは休業4日目から適用され、最初の3日間は企業が補償を行う必要があります。
休業補償は非課税で労働保険料の対象外となるため、企業側の対応が求められる重要なポイントです。
3-2. 休業手当と年次有給休暇の違い
休業手当と年次有給休暇は、目的と適用範囲が異なります。まず、休業手当は企業の事情で休業を命じた場合に支払われ、労働者が働けなかった日でも保障されます。一方、年次有給休暇は労働者が自ら取得する休暇で、労働基準法に基づいて給料が支払われる休暇です。
具体的に、年次有給休暇は労働基準法第39条に基づき、雇入れの日から6ヶ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に与えられます。企業は労働者に定められた日数の有給休暇を与える義務があります。
さらに、年次有給休暇中の賃金は、企業が「通常働いた場合の賃金」「平均賃金」「健康保険法上の標準報酬日額」のいずれかを選択して支払う必要があります。一般的には「通常働いた場合の賃金」が支給されることが多いです。
このように、休業手当は企業の都合での休業に対する保障であり、年次有給休暇は労働者の権利として取得する休暇です。
4. 労働基準法に則った休業手当を支給する際の給与計算方法
労働基準法第26条では、休業手当の支給額について平均賃金の60%以上と定めています。休業手当の支払金額は基本給ではなくあくまで平均賃金に準拠するので注意しましょう。
平均賃金は、使用者の責に帰すべき事由が発生した以前3ヶ月間に支払われた賃金総額を3ヶ月間の総日数で割って求めます。3ヶ月以内に支払われた賃金総額には通勤手当や時間外手当、年次有給休暇取得分、皆勤手当なども含まれます。
ただし、この金額には傷病手当や見舞金、退職金、結婚手当などは含みません。
4-1. 平均賃金とは
直近3ヶ月以内に出産や育児、介護、就労中の負傷や病気療養などのために休業したのであれば、ほかの手当が支給されることがあります。こういった場合には、ほかの手当の支給日数や賃金額を控除した上で、あらためて休業手当の総額を求めることになります。
4-2. 勤務期間が3ヶ月に満たなかった場合
勤務期間が3ヶ月に満たなかった場合には、入社から直近の給与締日までの賃金総額で休業手当を算出します。なお、試用期間は直近3ヶ月の労働に含まれません。休業手当は一般の給与と同じタイミングで支給しましょう。休業手当は給与所得の一部として扱われるため、課税の対象となります。社会保険料などを引いた正しい金額を支給することが大切です。休業手当を支払うときにはまず、休業補償給与支給請求書を社員に送付します。社員が書類を提出したのちに担当者が労働基準監督署で手続きをおこなえば支給が決定されます。
関連記事:労働基準法第26条による休業手当について分かりやすく解説
4-3. コロナウイルスによる休業があった場合
近年では新型コロナウイルス蔓延を原因として企業が休業する例も増加しています。こういった場合に休業手当の支払いが必要となるかどうかはケースバイケースです。
新型コロナウイルス感染症が原因で休業を余儀なくされたときには、支援金や給付金の特例を活用するとよいでしょう。
関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介
5. 労働基準法による休業手当の意味を知り、必要に応じて支払いをしましょう
労働基準法第26条には、使用者の責に帰す休業が発生したときに支払われる休業手当についての取り決めがあります。
休業手当の対象となる場合に適正な金額の休業手当が支払われない場合には、労働者が労働基準監督署や弁護士に相談して対処することがあります。トラブルを防ぐためにも、休業をするときには必ず休業手当の支払いをおこないましょう。
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