離婚後の年末調整はタイミングに注意!ひとり親控除や扶養控除の適用も解説
更新日: 2025.12.17 公開日: 2021.11.5 jinjer Blog 編集部

従業員が年の途中に離婚した場合、その年の年末調整で配偶者控除や扶養控除が適用できなくなる可能性があります。一方で、条件を満たせば、ひとり親控除や寡婦控除の対象となります。
本記事では、離婚の時期や成立のタイミングによって変わる年末調整上の注意点をわかりやすく解説します。あわせて、年末調整後の再調整や確定申告での対応方法、離婚が会社に知られる可能性についても触れています。
目次
令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
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1. 離婚した従業員の年末調整で気をつけるポイント


従業員の離婚後の年末調整では、受けられなくなる控除(配偶者控除や扶養控除)と、逆に対象となる控除(ひとり親控除や寡婦控除)があるなど、注意点が多くあります。ここでは、離婚後の年末調整で気をつけるべきポイントについて詳しく紹介します。
1-1. 離婚後は配偶者控除や扶養控除が受けられなくなる可能性がある
離婚をした場合、配偶者や扶養する子どもがいることで受けられた所得控除が受けられなくなる可能性があります。
|
受けられなくなる所得控除の種類 |
受けられなくなる所得控除額 |
|
配偶者控除 |
38万円 |
|
配偶者特別控除 |
配偶者の所得額によって異なる |
|
扶養控除(16歳以上の子どもを扶養している場合) |
38万円(19歳~22歳の子どもを扶養している場合は63万円) |
離婚しても16歳以上の子どもの親権をもち、子どもと生計を共にしている場合は扶養控除が受けられます。
また、子どもと別居していても養育を常におこなっている場合は扶養控除の適用となるケースもあります。ただし、その場合も扶養控除が適用されるのは父側・母側どちらか片方だけです。
なお、令和7年度税制改正により、2025年分から特定親族特別控除が創設されました。19歳~22歳の子どもを扶養している場合、その子どもの合計所得⾦額が58万円を超えても123万円以下であれば、扶養控除ではなく、特定親族特別控除が適用できる可能性があります。ただし、特定親族特別控除では、合計所得金額に応じて控除額が段階的に変動する点に注意が必要です。また、扶養親族の所得要件が48万円以下から58万円以下へと緩和された点にも注意しましょう。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
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1-2. 離婚協議中や別居の状態では配偶者控除や扶養控除が受けられる
配偶者控除や扶養控除の可否は、その年の12月31日時点の状況で判定されます。たとえ離婚協議中や別居中であっても法的に離婚が成立していない場合、配偶者や子どもと生計を一にしていれば、それぞれの控除を受けられます。
一方、12月31日時点で離婚が成立していれば、同居していても元配偶者に対する配偶者控除や扶養控除は適用されません。ただし、自分の両親や、自身が親権を持ち生計を維持している子どもについては、離婚後も扶養控除の対象とすることができます(所得要件等を満たす場合)。
1-3. 離婚後はひとり親控除または寡婦控除が受けられる可能性がある
離婚したことで受けられなくなる控除もある一方で、離婚が要件のひとつとなって適用される控除もあります。
|
受けられる可能性がある所得控除の種類 |
受けられる所得控除額 |
|
ひとり親控除 |
35万円 |
|
寡婦控除(女性のみ) |
27万円 |
年末調整においてひとり親控除の対象になる人は次の要件を全て満たしている人です。女性だけでなく、男性でも「ひとり親」に該当すれば控除が受けられます。
- 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の相手がいない
- 生計を一にする子どもがいる
- 合計所得金額が500万円以下(給与収入678万円以下)である
なお、子どもは、その年の総所得金額等が58万円以下(改正前:48万円以下)で、他の人の同一生計配偶者または扶養親族になっていない人のみに限られます。
一方、離婚した女性に子ども以外の扶養親族がいる場合、いずれかの条件に該当すれば年末調整で寡婦控除を受けられます。
- 夫と離婚後に婚姻をしておらず、扶養親族がいて、合計所得金額が500万円以下(給与収入678万円以下)である
- 夫と死別後に婚姻をしていない、または夫が生死不明で合計所得金額が500万円以下(給与収入678万円以下)である
なお、ひとり親控除と寡婦控除は併用できません。寡婦控除はあくまでもひとり親控除を受けられない人に適用される可能性があることを押さえておきましょう。
年末調整でひとり親控除や寡婦控除を適用するには、従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を記入・提出してもらう必要があります。具体的には、「C 障害者、寡婦、寡夫または勤労学生」の欄にある「ひとり親」または「寡婦」のチェックボックスにチェックを入れます。
扶養控除等申告書の情報は毎月の給与からの源泉徴収にも使用されます。そのため、離婚があったら速やかに扶養控除等申告書を再提出してもらうよう事前に周知しておきましょう。
参考:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁
関連記事:年末調整の「ひとり親控除」とは?寡婦控除との違いや対象者を解説
1-4. 年末調整の結果が還付ではなく追加徴収となる可能性がある
毎月の給与や賞与(ボーナス)から差し引かれる源泉所得税は、扶養親族の人数をもとに算出されます。離婚前は扶養親族が多いため源泉徴収税額は少なくなりますが、離婚後は扶養親族が減ることで、以後の源泉徴収税額は増加します。なお、過去にさかのぼって源泉所得税を再計算・精算することはありません。
その結果、年末調整では、その年に源泉徴収された税額の合計が実際の所得税額を下回り、還付ではなく、不足分の追加徴収が必要になる場合があります。追加徴収があると、12月支給分の手取り額が減少することになります。
従業員によっては突然の減額に戸惑うこともあるので、事前に離婚後の所得控除の変更や年末調整への影響を丁寧に説明しておくとよいでしょう。特に人事・給与担当者は、本人からの「扶養控除等申告書」の再提出を早めに依頼し、変更内容を正確に反映させることで、トラブルや誤解を防げます。
関連記事:年末調整でマイナス表記が起きるのはなぜ?その理由と対処方法を詳しく解説
1-5. 生命保険金の受取人を変更する
生命保険料控除を受けるためには、保険料負担者が本人であり、かつ保険金の受取人が本人または親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)である必要があります。離婚すると元配偶者は親族ではなくなるので、離婚後も元配偶者を受取人としたまま支払った保険料は控除の対象外となります。
そのため、離婚した場合は速やかに受取人を本人または元配偶者でない親族に変更する必要があります。受取人は子どもや親などの血族に変更するケースが多く見られますが、誰にするかは家庭の状況や相続・手続きのしやすさなどを踏まえて決定します。
1-6. 離婚のタイミングによって受けられなくなる控除がある
年末調整における控除適用の判断はその年の12月31日の現況によっておこなわれます。
12月31日までに離婚をすると、その年の配偶者控除や子どもの扶養控除が受けられなくなりますが、翌年1月1日以降に離婚をすればその年は控除が適用される仕組みです。
例えば、2025年分の所得控除は2025年12月31日までに離婚をすれば適用されなくなります。しかし、2026年1月1日以降に離婚すれば2025年分に関しては控除が適用されます。
つまり、離婚のタイミングによって所得控除を適用できる年が変わる点に注意が必要です。
関連記事:年末調整の再調整は可能!方法やポイントをわかりやすく解説
2. 年末調整で離婚がバレる?知っておきたい知識


年末調整がきっかけで離婚が発覚することを恐れて、書類の作成・提出について非協力的な従業員が出てくる可能性もあります。ここでは、年末調整と離婚に関して知っておきたい知識について紹介します。
2-1. 利用する控除の種類によって離婚が発覚する可能性がある
年末調整ではさまざまな書類を作成・提出してもらう必要があります。そのため、以下のような理由で従業員の離婚が発覚することもあるでしょう。
- 苗字が変わった
- 配偶者控除や扶養控除の適用がなくなった
- ひとり親控除や寡婦控除の適用対象となった
一方で次のようなケースは離婚が発覚しにくいでしょう。
- 子どもがいない
- 子どもが16歳未満または子どもが働いていて扶養控除を受けていなかった
- 夫婦共働きで配偶者控除を受けていなかった
これは年末調整の際に提出が必要な「扶養控除等申告書」に配偶者や扶養親族の情報を記載するからです。もともと配偶者控除と扶養控除を受けていなかった場合、離婚しても記載内容に変更がないため、年末調整がきっかけで離婚が発覚することは少ないでしょう。
2-2. 会社に離婚を報告する義務はないが給与や税金に影響がある場合は必要
会社の就業規則などで報告が義務とされていない限りは離婚を報告する義務はありません。しかし、離婚をすると支給されなくなる控除を受けている場合は、年末調整や源泉徴収といった納税事務に影響を与えるため報告する必要があります。
もしも離婚後に不当に配偶者控除や扶養控除を適用している場合、脱税となる可能性があります。また、離婚したことを隠して家族手当を受け取っている場合も、不当受給などトラブルの原因となるおそれがあります。
なお、従業員が会社に離婚したことを報告する際、報告先は手当や税金に関する手続きをおこなう部署に限定されるのが一般的です。中には「他の従業員にも離婚したことが知られてしまうのでは」と心配する人もいるため、従業員から離婚の報告を受けた際はしっかり考慮して対応しましょう。
関連記事:年末調整は結婚したら何が変わる?結婚後の書き方や結婚予定がある場合の対応を解説
3. 離婚のタイミングによっては年末調整のやり直しが必要


年末調整後にその年の12月31日までの間に離婚が成立した場合は、控除の適用要件が変わるため、年末調整を再びおこなう必要があります。ただし、離婚のタイミングや会社の処理スケジュールによっては、法定調書や給与支払報告書の提出期限(翌年1月31日)までに再調整が間に合わないこともあります。そのような場合、会社での再調整が難しいため、従業員本人が確定申告をして修正が必要です。
確定申告の期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までです。また、確定申告には会社が発行する源泉徴収票が必要になります。源泉徴収票の交付期限(翌年1月31日)を守って従業員に交付するようにしましょう。なお、離婚によって配偶者控除や扶養控除の適用がなくなり、結果的に追加の所得税が発生する場合、期限にかかわらず年末調整の再調整が必要となる点にも注意が必要です。
参考:No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき|国税庁
関連記事:年末調整とは?【令和7年最新】確定申告との違いや必要書類、計算の流れをわかりやすく解説
4. 離婚後の年末調整では所得控除の変化に注意


離婚後は、配偶者や扶養していた子どもがいなくなることで、従業員の所得控除額が変わる可能性があります。離婚の事実を会社へ報告せずに、配偶者控除や扶養控除を受け続けたり、扶養手当などを受給し続けたりすると、後に税務上や社内規定上のトラブルに発展しかねません。
また、離婚した従業員がひとり親控除や寡婦控除など新たな所得控除を受けられる場合もあります。人事担当者は年末調整時に必ず要件を確認し、該当する場合は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に正しく記載して提出するよう、全従業員へ周知徹底しましょう。



令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
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- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
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