雇用保険の加入条件とは?雇用形態ごとの条件や手続き方法を解説
雇用保険は、企業に雇われる労働者の雇用維持や生活の安定を目的とする保険制度です。条件を満たす労働者は原則として雇用保険に加入せねばならず、また事業者も自社の従業員を適切に雇用保険へ加入させなければなりません。今回は雇用保険の加入条件や手続き方法について解説します。
関連記事:雇用保険とは?給付内容や適用される適用事業所について
目次
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社会保険料は従業員の給与から控除するため、ミスなく対応しなければなりません。
しかし、一定の加入条件があったり、従業員が入退社するたびに行う手続きには、申請期限や必要書類が細かく指示されており、大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
さらに昨今では法改正によって適用範囲が変更されている背景もあり、対応に追われている労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
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1. 雇用保険とは
雇用保険とは、労働者の雇用と生活の安定を維持するための社会保険です。雇用保険に加入することで、失業した際や再就職の際などさまざまな給付を受けることができます。
一例を挙げると、失業で就労できない際の所得を補填する「失業給付」、再就職活動にかかる費用を支援する「就職促進給付」、60歳以上の方で給与が減額した際に受け取れる「高年齢雇用継続給付」などがあります。
雇用保険は、条件を満たす場合は必ず加入しなければならない強制保険です。そのため、加入条件を満たす従業員を雇用した際は、事業主は速やかに加入手続きをおこなわなくてはいけません。
2. 雇用保険の加入条件
雇用保険は従業員を1人でも雇用するすべての企業が適用対象となり、一定の条件を満たすすべての従業員が加入しなければならない保険です。
雇用保険の基本的な加入条件は以下の3つです。
- 31日以上の雇用見込みがある
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 学生ではない
これらのすべての条件に合致する従業員は、原則として雇用保険に加入しなければなりません。それぞれの条件について詳しくみていきましょう。
2-1. 31日以上の雇用見込みがある
1つ目の条件は「31日以上の雇用見込みがある」ことです。なお、「31日以上の雇用見込み」とは以下に該当する場合を指します。
- 雇用期間の定めなく雇用されている
- 契約上の雇用期間が31日以上ある場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止が明示されていない
- 雇用契約に更新規定はないが、同様の契約を締結した労働者に31日以上の雇用実績がある
また、採用時に31日以上の雇用見込みがなかったとしても、入社後に31日以上の雇用の見込みが生じた際には、その時点から雇用保険が適用されます。
2-2. 所定労働時間が週20時間以上
2つ目の条件は「所定労働時間が週20時間以上」であることです。所定労働時間とは、雇用契約で定められた特別休日を含まない通常の週での労働時間を指します。残業等により実労働時間が週20時間を超えてしまっても、雇用契約上の所定労働時間が週20時間未満であれば雇用保険の加入条件には該当しません。
また、所定労働時間が1か月単位または1年単位となっている場合は、1週間あたりの所定労働時間の求め方は次のとおりです。
1か月単位の場合…1ヶ月の所定労働時間÷52/12
1年単位の場合…1年の所定労働時間÷52
参照:「1週間の所定労働時間」の考え方のポイントの具体例|厚生労働省
2-3. 学生ではない
3つ目の条件は「学生ではない」ことです。上記1〜2の条件を満たしていても、学生に区分される労働者には雇用保険の加入義務はありません。
ただし、学生であっても以下の要件に該当する従業員は雇用保険の適用対象となります。
- 卒業見込証明書を有しており、卒業後も同一の企業で勤務を予定している
- 休学中である(※休学を証明する書類が必要)
- 事業主の指示、もしくは承認を得たうえで大学院に在籍している
- 通信教育・定時制・夜間学校いずれかの学生である
3. 雇用形態ごとの雇用保険加入条件を解説
雇用保険被保険者は雇用形態に応じて以下の4つに区分されます。
- 一般被保険者
- 高年齢被保険者
- 短期雇用特例被保険者
- 日雇被保険者
上記のうち「短期雇用特例被保険者」と「日雇被保険者」に該当する労働者は、雇用保険の加入条件が特殊です。ここでは、従業員の雇用形態ごとに雇用保険の加入条件を解説します。
3-1. 正社員
特定の企業・事業所で常時雇用される正社員の被保険者区分は「一般被保険者」です。前述した雇用保険の基本的な加入条件をすべて満たす正社員であれば、一般被保険者として雇用保険が適用されます。
3-2. パート・アルバイト・派遣社員
パートタイマーやアルバイトのような非正規雇用の従業員も雇用保険の適用対象です。正社員と同様に、雇用保険の基本的な加入条件を満たす場合は「一般被保険者」に区分されます。
ここでの注意点は契約期間です。正社員と異なり、非正規雇用の従業員は契約によって雇用期間が定められています。契約更新による継続雇用が前提であれば問題なく雇用保険に加入できますが、雇用期間が31日未満と明示されている場合は雇用保険適用対象外です。
なお、派遣社員も条件を満たす場合は雇用保険の加入が必要です。加入手続きの義務を負うのは派遣先ではなく派遣元になります。
3-3. 65歳以上の労働者
平成29年の雇用保険法改正により、現在では条件に該当する従業員であれば年齢に関係なく雇用保険が適用されます。なお、65歳以上の雇用保険被保険者は「高年齢被保険者」として、一般被保険者とは別に区分されます。
高年齢被保険者の雇用保険加入要件は一般被保険者と同様です。ただし、「保険年度が始まる4月1日時点で満64歳を迎えている」という条件が追加されます。
また、2022年1月の法改正でマルチジョブホルダー制度が施行になり、雇用保険への加入条件が拡大されたので、65歳以上の労働者のいる企業では注意が必要です。
マルチジョブホルダー制度は、以下の条件を満たした場合にマルチ高年齢被保険者として特例で雇用保険に加入することができる制度です。
- 複数の事業所に勤務している65歳以上の労働者
- 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上
- 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上
より詳しい内容を知りたい方は以下の記事もあわせてご確認ください。
関連記事:マルチジョブホルダー制度とは?対象要件や手続きの流れについて
ほかにも、2022年10月に法改正が入り、健康保険や厚生年金保険の適用範囲が拡大されるなど、社会保険は法改正が続いているため、必ず確認するようにしましょう。
当サイトでは、社会保険についての法改正や手続きの方法、担当者が気を付けておきたいポイントなどをまとめた資料を無料で配布しております。
社会保険のルールについて不安な点があるご担当者様は、こちらから「社会保険手続きの教科書」をダウンロードしてご確認ください。
3-4. 季節労働者
季節労働者とは、特定の季節や特定の気象条件下に限って雇用される短期労働者のことです。夏季に限定して営業する海の家や、冬季のみ営業するスキー場で働く労働者などが該当します。季節労働者は「短期雇用特例被保険者」に区分されるため、雇用保険の適用を受けるためには独自の条件を満たさなければなりません。
短期雇用特例被保険者として雇用保険に加入する条件は以下の通りです。
- 季節的に雇用される仕事に従事する、または短期雇用を常態とする
- 4ヵ月以上1年未満の雇用契約を結んでいる
- 所定労働時間が週30時間以上
なお、季節労働者として雇用した従業員を継続雇用し、雇用期間が1年を超えた場合は一般被保険者に区分されます。
3-5. 日雇労働者
日々雇用される労働者、または30日以内の期間を定めて雇用される労働者は、労働者本人が加入手続きをおこなうことによって雇用保険が適用可能です。雇用保険の適用を受ける日雇労働者を「日雇労働被保険者」と言い、加入条件も他の区分と大きく異なります。
日雇労働者被保険者として雇用保険が適用されるのは、以下いずれかの要件に該当する労働者です。
- 適用区域内に居住し、適用事業に雇用される者
- 適用区域外の地域に居住し、適用区域内にある適用事業に雇用される者
- 上記以外の者であってハローワークの認可を受けた者
日雇労働被保険者を雇用する事業所は、賃金の支払い毎に所定金額の雇用保険印紙を労働者が持つ被保険者手帳に貼付し、消印を施すことで保険料を納めます。なお、雇用保険印紙を購入する際はハローワークでの申請が必要です。
4. 雇用保険が適用されない労働者
適用事業所に雇用される従業員のうち、以下に該当する従業員は雇用保険の適用対象とはなりません。
- 所定労働時間が週20時間未満の従業員
- 雇用期間が30日以下で雇い止めが明示されている従業員
- 季節労働者のうち、雇用期間が4ヶ月未満で所定労働時間が週20時間以上30時間未満のもの
- 日雇労働者のうち、日雇労働被保険者の認可を受けていない者
- 「取締役」や「役」の職に就き、部長や支店長などの役職を兼務していない従業員
- 昼間学生の従業員
- 船員保険の被保険者
上記に加えて、従業員が2ヵ所以上の事業所で雇用されている場合、加入条件をどちらも満たしていたとしても、同時に雇用保険に加入することはできません。
従業員の収入が多い方の事業所で雇用保険に加入する必要があります。
雇用主には自社の従業員を雇用保険へ加入させる義務があります。雇用保険が適用される従業員、適用されない従業員を区別し、適切に加入手続きをおこないましょう。
参照:雇用保険の被保険者につい
5. 雇用保険の加入条件に関する注意点
雇用保険の手続きで特に注意したいのが、加入漏れと二重加入です。加入漏れの場合は、最悪罰則が適用される恐れがあるため注意しなくてはいけません。また、二重加入に関しても、訂正に煩雑な手続きを要するため加入状況の事前確認が必要です。
それぞれ詳しく注意点についてみていきましょう。
5-1. 雇用保険の加入義務に対応できていない場合の罰則
雇用保険の加入義務のある従業員の手続きを怠っていた場合は、雇用保険法に基づいて罰則が科される可能性があります。
具体的には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
また、未納の雇用保険料に関して追徴金や延滞金が発生する可能性があるため、雇用保険の加入義務のある従業員を確認して確実に加入手続きをおこないましょう。
5-2. ほかの会社で雇用保険加入をしていないか確認する
雇用保険は加入条件を満たしている場合でも、複数の事業所で二重加入することはできません。そのため、ダブルワークをしている従業員が、ほかの会社で雇用保険に加入していないかどうかも確認しましょう。
また、転職した従業員が転職前の会社で雇用保険に加入したままの場合もあるため、注意が必要です。もし、加入していた場合は、生計を主とする方の会社で加入するため、収入が少ない会社側が雇用保険加入の取り下げ手続きをおこなう必要があります。「雇用保険被保険者資格取得・喪失届訂正・取消願」を管轄のハローワークに提出しなければなりません。
このように、二重加入していた場合には手続きが増える可能性もあるため、あらかじめ確認をするようにしましょう。
6. 雇用保険の加入手続き方法
雇用保険の加入手続きは、雇用保険被保険者資格取得届を管轄のハローワークに提出することで完了します。電子申請を活用すればペーパーレスによる手続きも可能です。
ここでは、雇用保険の加入手続きの方法について詳しく解説します。
6-1. 書類の提出方法は「窓口持参」か「郵送」
雇用保険の加入申請は管轄のハローワークが受付窓口となります。雇用保険被保険者資格取得届の書式を用いて申請する場合は、必要事項を記入した書類をハローワーク窓口に持参するか、郵送で提出しましょう。
6-2. 「e-Gov」による電子申請も可能
雇用保険の加入手続きは「e-Gov」を利用した電子申請に対応しています。e-GOVは総務省が運営する行政情報のポータルサイトです。各種の行政手続きの電子申請機能を備えており、インターネット上における行政の総合窓口としての役割を持ちます。
電子申請を利用するメリットとして以下の点が挙げられます。
- ペーパーレスで手続きが完結する
- 24時間いつでも申請できる
- マイページ上で手続き状況が確認できる
- 申請コスト(用紙代・交通費・人件費等)が削減できる。
▼こちらから手続きが可能です。
e-Govポータル
6-3. 申請期日は入社月の翌月10日まで
雇用保険の加入申請の期日は、対象従業員を雇用した月の翌月10日までです。新規で従業員を雇用した際は、速やかに手続きを済ませるようにしましょう。なお、既存の従業員が新たに雇用保険の適用要件を満たした際も、その翌月10日までに加入申請を実施します。
7. 2028年から雇用保険の加入適用が拡大予定
2024年5月10日に改正雇用保険法が参院本会議で可決したことを受け、2028年10月から雇用保険の加入条件が一部変更となる予定です。
具体的には、所定労働時間の「週20時間以上」の適用範囲が「週10時間以上」まで拡大されます。これにより、短時間で働くパートやアルバイトにまで適用範囲が広がることになります。
なお、今回の改正には教育訓練を受けた際の給付制限の廃止や、リスキング支援の拡充なども盛り込まれています。
まだ施行されるまでに時間はありますが、雇用保険の加入条件が今後変わることを念頭に置いておきましょう。
参照:教育訓練やリ・スキリング支援の充実へ改正雇用保険法 成立|自民党
8. 要件を満たす従業員は必ず雇用保険に加入させよう
雇用保険は、企業に雇われる労働者の雇用維持や生活の安定に関わる重要な制度です。そのため、全ての事業者には、自社の従業員を適切に雇用保険へ加入させることが求められます。
雇用保険の適用条件や加入方法を正しく理解し、登録漏れが発生しないよう確実に申請手続きを実施しましょう。
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