労働基準法に定められた育児時間の考え方と計算方法を解説
更新日: 2026.4.10 公開日: 2021.10.4 (特定社会保険労務士)

育児と仕事の両立を支える制度のひとつに、労働基準法第67条で定められている「育児時間」制度があります。
生後1年未満の子どもを育てる女性労働者が、勤務時間中に育児のための時間を取得できる制度です。しかし、「どのような場合に取得できるのか」「賃金は有給なのか無給なのか」など、取り扱いに迷う場面も少なくありません。
また、制度自体は法律で定められているものの、職場で十分に周知されていなかったり、実際には利用が進んでいなかったりするケースも見受けられます。
この記事では、労働基準法における育児時間の制度内容を整理したうえで、対象者や取得回数、賃金の取り扱いなどの基本ルールを解説します。あわせて、人事・労務担当者が押さえておきたい労務管理上の注意点もわかりやすく紹介します。
▼そもそも労働基準法とは?という方は、まずこちらの記事をご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
- 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?
これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。
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1. 労働基準法第67条で定める「育児時間」とは


労働基準法第67条には、「育児時間」という制度が定められています。育児時間とは、その名のとおり育児のために確保される時間のことです。
(育児時間)
第六十七条 生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
② 企業は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
条文にあるとおり、労働基準法第34条に規定されている休憩時間とは別に、1歳未満の子どもを育てる女性労働者は、1回30分の育児時間を1日2回まで請求することができます。
2. 男性・父親は使えない?育児時間の取得対象者


労働基準法の育児時間は、生後1年未満の子どもを育てる女性労働者が対象です。男性労働者は対象とはなりません。また、雇用形態による制限はなく、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトなども対象です。
男性労働者が対象とされていない理由は、制度が制定された当初の趣旨にあります。育児時間はもともと、授乳の機会の確保や母体保護を目的として設けられた制度でした。そのため、法律上は女性労働者を対象としているのです。
もっとも、条文では「その生児を育てるための時間」と規定されており、授乳だけでなく、子どもの世話全般に使えます。そのため、近年では育児と仕事の両立支援の観点から、法律を超える社内制度として、男性労働者にも育児時間を認める企業も見られるようになりました。
3. 育児時間を取得できる時間と回数


育児時間を取得する時間帯は、原則として労働者の自由です。そのため、企業が一方的に「この時間のみ取得できる」と指定し、それ以外の時間での取得を拒否することは違法です。
実際の育児時間の取得方法には次のようなものが多く見られます。
- 始業前または終業後に30分ずつ取得する(例:9時~18時が所定労働時間の場合、9時から30分、17時半から30分ずつ取得する)
- 始業時または終業時に1時間まとめて取得する
- 昼休憩とつなげて1時間取得する
法律上、育児時間は1日2回、各30分以上の取得が可能です。ただし、必ず2回に分けて取得させなければならないわけではなく、例のように1時間をまとめて取得する運用も認められています。
また、事後申請を認めている企業では、次のような場面で活用されます。
- 授乳や保育園対応で少し遅れて出勤する場合
- 子どもの急な体調不良で早退する場合
柔軟に運用できるようにすれば、育児中の従業員が働き続けやすくなるだけでなく、両立支援に積極的な企業として、採用面の魅力向上につながるでしょう。
関連記事:男性の育児休暇が義務化?取得率や取得期間の平均、条件や給付金について解説
3-1. パートタイム労働者
育児時間は、パートタイム労働者も対象です。雇用形態や労働時間にかかわらず請求ができます。ただし、勤務時間が短い場合は、フルタイム労働者と同様に1日1時間の取得を認めると業務への影響が大きくなることもあるでしょう。
育児時間は、基本的にはフルタイム労働者向けに作られた制度であるため、1日の勤務時間が4時間を下回る場合には半分を目安として、1日1回30分の育児時間を与えれば良いとされています(昭和36年1月9日・基収8996号)。就業規則や社内ルールであらかじめ整理しておきましょう。
3-2. 変形労働時間制の労働者
変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて労働時間を調整する制度です。「1日8時間勤務」と決めるのではなく、週単位・月単位・年単位で労働時間を設定し、日ごとの勤務時間を変動させることができます。
このような勤務形態でも、育児時間の制度は適用されます。1日の所定労働時間が8時間を超える場合には、状況に応じて法定以上の育児時間を認めるなど、実態に合わせた柔軟な対応が望ましいでしょう。
関連記事:1年単位の変形労働時間制とは?残業の計算方法や休日の考え方もわかりやすく解説
3-3. 育児時短勤務中の労働者
育児時間と育児短時間勤務(いわゆる時短勤務)は、制度の趣旨が異なる別の制度です。
主な違いは次のとおりです。
|
制度 |
対象となる子どもの年齢 |
内容 |
根拠法令 |
|
育児時間 |
1歳未満 |
勤務時間中に育児のための休憩時間を追加で確保 |
労働基準法(第67条) |
|
育児短時間勤務 |
原則3歳未満 |
所定労働時間を短縮(原則6時間) |
育児・介護休業法(第23条) |
なお、制度の目的が異なるため、併用することも可能です。例えば、生後7ヵ月の子どもを育てている女性労働者の場合は、短時間勤務で働きながら、さらに勤務時間中に育児時間の取得もできます。
人事・労務担当者は、それぞれの制度の違いを理解し、従業員からの相談に適切に対応できるよう整理しておきましょう。
関連記事:時短勤務はいつまで取れる?気になる基準と就業規則の決め方
4. 育児時間の取得に関する労務管理上の注意点


育児時間は法令で定められた制度であり、企業は適切に対応しなければなりません。ここでは、人事・労務担当者が押さえておきたい実務上の4つの注意点を整理します。
4-1. 育児時間の取得申請は拒否できない
育児時間は労働基準法第67条に基づく制度であるため、対象となる労働者から請求があった場合、企業は請求を拒否できません。
請求があったにもかかわらず育児時間の取得を認めなかった場合、労働基準法違反です。労働基準法第119条第1号に基づき、違反した場合、6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
ただし、育児時間は労働者の請求によって発生する制度です。請求がない労働者に対してまで、企業が積極的に育児時間を与える義務があるわけではありません。
4-2. 育児時間の使い方を限定してはならない
育児時間は、制度創設当初は主に母親が授乳のために使用する時間として想定されていました。しかし現在では、子どもの世話全般のための時間として広く認められています。
例えば、次のような用途も育児時間に含まれます。
- 授乳
- 保育園への送り迎え
- 子どもの世話やケア
育児時間の使い方は、原則として労働者の判断に委ねられます。企業が「授乳の場合のみ認める」など、育児時間の用途を制限することはできないので、忘れずに覚えておきましょう。
4-3. 育児時間中の給与は無給でいい
労働基準法には、育児時間中の賃金の支払いについて明確な規定はありません。一般的には、育児時間は「労働をしていない時間」であるため、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき無給として取り扱われることが多いです。
ただし、企業によっては、就業規則や社内ルールで、育児時間を有給として取り扱うケースもあります。制度の設計次第では、企業の育児支援に対する姿勢を示す取り組みとして活用できるでしょう。
4-4. 育児時間取得の方法を定めておく
育児時間は労働者が請求すれば取得できる制度です。ただ、申請方法や取得方法は社内ルールを定めておくことが望ましいといえます。例えば、次のような内容を整理しておくと運用がスムーズです。
- 申請期限(事前申請・当日申請など)
- 申請書や勤怠システムでの申請方法
- 取得時間の管理方法
- 給与控除の取扱い
制度のルールを明確にしておけば、従業員も安心して利用できるようになります。また、人事担当者の運用負担を減らすことにもつながるでしょう。
労働基準法に定められている「育児時間」は、育児休業明けの早期復職を支える重要な制度です。しかし、現場では「休憩時間」と混同されることによるトラブルも少なくありません。育児時間は、始業直後や終業直前に取得して勤務時間を短縮する形での運用も認められている点に注意が必要です。会社側が「必ず勤務の途中で取得しなければならない」といった形で制限することはできません。
また、無給とする場合は、就業規則への明記と事前の周知を徹底することが重要です。復職後の給与計算で「思っていたより手取りが減った」といった不満が生じないよう、復職面談の際に給与のシミュレーションを提示するなど、丁寧なコミュニケーションを取ることが円滑な運用の鍵となります。
5. 育児時間の取得促進で自社の魅力を高めよう


育児時間は、生後1年未満の子どもを育てる女性労働者が働きながら子育てを続けられるように、労働基準法で定められている制度です。
対象となる労働者から請求があった場合、企業はこれを拒否することはできません。対応を誤ると、労働基準法違反となる可能性があるため、人事・労務担当者は制度内容を正しく理解し、適切に対処できる体制を整えることが重要です。
また、育児時間は、法律上の義務として対応するだけでなく、両立支援制度として活用すれば、働きやすい職場づくりにもつながります。育児時間の取得促進で自社の魅力を高めて、優秀な人材確保につなげてみてください。



人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
- 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?
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