労働基準法に定められた産前産後休業の取り扱いや賃金の取り扱いを解説 - ジンジャー(jinjer)|クラウド型人事労務システム

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労働基準法に定められた産前産後休業の取り扱いや賃金の取り扱いを解説

休業期間

労働基準法には、産前産後の女性を守るためのさまざまな母性保護規定が定められています。企業はこれらの規定に違反しないよう注意し、従業員の健康を守るための適切なサポートをおこなう必要があります。

この記事では、労働基準法に定められた産前産後休業の具体的な取り扱いについて詳しく解説します。また、休業期間中の賃金など、気になるポイントについてもわかりやすく説明します。

▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。

関連記事:労働基準法とは?法律の要点や人事が必ず押さえたい基本をわかりやすく解説

\人事担当者向け労基法を5分でおさらい/ 労働基準法違反にならないための必須知識まとめ

人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。

◆労働基準法のポイント

  • 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
  • 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
  • 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
  • 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?

これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。当サイトでは、労働基準法の基本から法改正のポイントまでを網羅した「労働基準法総まとめBOOK」を無料配布しています。

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1. 労働基準法上の産前産後期間とは

産前産後

まずは労働基準法における産前産後の範囲や休業の取り扱いについて、基本的な内容を確認しましょう。労働基準法では、産前産後休業期間を産前は6週間、産後は8週間と定めています。

産前産後休業は働く女性の母性保護を目的とした重要な規定であり、妊娠・出産するすべての女性労働者が対象となっています。

企業は、産前休業は本人から請求があった場合には必ず休業を取らせる義務があります。一方、産後休業については、本人の請求がない場合でも産後6週間は就業が禁止されているので注意が必要です。

なお、産後6週間経過後からは、本人が働くことを望み、かつ医師が支障ないと認めた場合であれば、就業させることも可能です。このように産前と産後では取り扱いが異なるため、人事担当者は正確な理解をしておかなければなりません。

1-1. 多胎妊娠の場合の産前産後期間

双子や三つ子など、多胎妊娠の場合には産前休業の期間が通常の妊娠とは異なります。労働基準法では、多胎妊娠の場合の産前休業期間を14週間と定めており、単胎妊娠における6週間よりも長く設定されています。

これは、多胎妊娠が単胎妊娠と比較して身体的負担が大きく、早産のリスクも高いことを考慮したものです。多胎妊娠であることが判明した時点で、企業は該当する女性労働者に対して制度について適切に説明し、必要に応じて休業を取得できる環境を整備する必要があります。

なお、産後休業については、多胎妊娠の場合でも通常の妊娠と同様に8週間となっており、延長はありません。企業は妊娠の種類に応じて適切な期間を把握し、労働者の健康と安全を最優先に考慮した対応をおこなうことが重要です。

2. 労働基準法における母性保護規定とは

妊婦

労働基準法では産前産後の休業に関するルールが明確に定められています。企業はこれらの規定を遵守し、母体と胎児の安全を守る責任があります。

2-1. 産前産後休業(第65条第1項、第2項関係)

労働基準法第65条第1項では、産前休業について以下のように定めています。

使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

産前休業の規定のポイントは、本人が請求した場合にのみ休業を取得できるという点です。女性労働者が請求しなかった場合には、出産直前まで働き続けることも可能です。

なお、「出産当日」は産前休業の日数に含まれます。ここでいう「出産」とは妊娠4カ月以上を経過してからの分娩を指し、死産や流産も含まれています。

労働基準法第65条第2項は、産後休業について以下のように定めています。

使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

産後休業の特徴は、本人の請求がなくても産後6週間は強制的に休業させる必要があることです。産後の女性の身体回復のために不可欠な期間であり、母体保護を目的とした強制的な休業となっています。

なお、産後休業の標準期間は8週間ですが、本人が早期復帰を希望し、医師が支障ないと認めた場合においては、産後6週間での職場復帰が可能です。

2-2. 妊婦の軽易業務転換(第65条第3項関係)

労働基準法第65条第3項では、妊娠中の女性労働者の業務転換について定めています。

使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

妊娠中の女性が現在の業務が身体的に負担であると感じた場合、企業に対して軽易な業務への転換を請求することが可能です。企業は、請求があった場合には必ず応じる義務があり、拒否することはできません。

軽易業務への転換は、妊娠による身体的変化に配慮した重要な保護措置です。重量物の取り扱いや長時間の立ち仕事、精神的ストレスの大きい業務などから、より負担の少ない業務への配置転換が求められます。

2-3. 妊産婦等の坑内業務・危険有害業務の就業制限(第64条の2・3関係)

労働基準法第64条の2及び第64条の3では、妊産婦に対する危険有害業務への就業を制限しています。

妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(妊産婦)については、以下のような業務に就かせることが禁止されています。

  • 坑内での業務
  • 重量物を取り扱う業務
  • 有害ガスを発散する場所における業務
  • その他妊娠、出産、哺育等に有害な業務

これらの規定は、本人の請求がなくても適用される禁止事項ですので注意しましょう。

2-4. 妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(第66条第1項関係)

労働基準法第66条第1項では、妊産婦に対する変形労働時間制の適用について特別な配慮を定めています。

使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第32条の2第1項、第32条の4第1項及び第32条の5第1項の規定にかかわらず、一週間について第32条第1項の労働時間、一日について同条第2項の労働時間を超えて労働させてはならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

第32条の2・4・5はいずれも変形労働時間制の条文です。上記の規定により、妊産婦が請求した場合は変形労働時間制が適用されている職場であっても、週40時間、1日8時間の法定労働時間を超えて働かせることはできないこととなっています。

2-5. 妊産婦の時間外労働・休日労働・深夜業の制限(第66条第2項、第3項関係)

労働基準法第66条第2項及び第3項では、妊産婦の労働時間に関する制限を定めています。

第66条第2項(時間外労働・休日労働の制限)

使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第36条第1項及び第3項並びに第36条第1項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。

第66条第3項(深夜業の制限)

使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

これらの規定により、妊産婦が請求した場合には、36協定が締結されていても時間外労働や休日労働をさせることはできません。また、深夜時間帯(午後10時から午前5時まで)での労働も禁止されています。

2-6. 育児時間(第67条関係)

労働基準法第67条では、生後満1年に達しない子を育てる女性労働者の育児時間について定めています。

生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児の保育のために必要な時間を請求することができる。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

育児時間とは、1歳未満の子を育てる女性労働者が通常の休憩時間とは別に取得できる権利であり、1日に2回、それぞれ30分以上の時間を請求できます。授乳やその他の育児に必要な時間として認められており、使用者は請求があった場合に必ず与えなければなりません。

2-7. 罰則(第119条関係)

労働基準法第119条では、母性保護規定に違反した場合の罰則について定めています。

前述した産前産後休業、妊産婦の就業制限、育児時間などの規定に違反した使用者は、「6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処される可能性があります。

母性保護規定は単なる努力義務ではなく、罰則を伴う強制力のある法的義務です。違反が発覚した場合、企業の社会的信用にも大きな影響を与えるため、人事担当者は十分な注意を払って適切に対応しましょう。

3. 産前産後に発生する手続きと受け取れるお金の種類

お金の種類

従業員から妊娠報告を受けた際、企業では産前産後休業に関連してさまざまな手続きが発生します。適切に対応することで、従業員が安心して休業・育児に専念できる環境を整えられるでしょう。

また、産前産後休業期間中は基本的に無給となりますが、経済的負担を軽減するための各種給付金や支援制度が用意されています。制度を適切に活用することで、安心して休業期間を過ごせるでしょう。

ここでは、人事担当者が押さえておくべき主要な手続きと手続きによって受け取れるお金の種類について解説します。

3-1. 産前産後休業の取得

まずは、正確な産前産後休業期間を把握するため、産前産後休業届を提出してもらいましょう。特に法的に決まった様式はないため、企業に合わせたフォーマットで構いません。届出には、以下のような項目があるとその後の手続きがスムーズです。

  • 出産予定日
  • 産前産後休業予定期間
  • 有休消化開始希望日
  • 休業中の連絡先

企業は従業員から提出を受けた後、休業期間中の業務分担や引き継ぎ事項を整理し、円滑な休業開始に向けた準備を進めていきます。

産後休業期間は、実際の出産日によって変動するため、出産後に再度、産前産後休業変更届を出してもらうなど、ルールを決めておくことを推奨します。また、合わせて出産後に提出が必要な書類や、育児休業を取得する場合の手続き、復職に向けた手続きについても事前に説明しておくことが大切です。

3-2. 社会保険料免除

産前産後休業期間中は、健康保険料と介護保険料、厚生年金保険料について、本人負担分・事業主負担分ともに免除されます。

【免除期間】

産前産後休業の開始月から産前産後休業終了日の翌日が属する月の前月まで

【手続き方法】

「産前産後休業取得者申出書」を年金事務所または健康保険組合に提出

産前産後休業期間に変更があった場合または産前産後休業終了予定日前に産前産後休業を終了した場合には、「産前産後休業取得者変更(終了)届」の提出が必要です。

3-3. 出産手当金

出産手当金は、健康保険の被保険者が出産により働けない期間に支給される給付金です。

【支給期間】

出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日後56日までの範囲内で、会社を休み給与の支払いがなかった期間

【支給額】

1日当たりの金額
「支給開始日以前12ヵ月間の各月標準報酬月額の平均÷30日×3分の2」

被保険者期間が12ヵ月に満たない場合は、次のいずれか低い額を基に計算されます。

  1. 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
  2. 当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額

【手続き方法】

「健康保険出産手当金支給申請書」を協会けんぽまたは健康保険組合に提出

3-4. 出産育児一時金

出産育児一時金は、健康保険の被保険者またはその被扶養者が出産した際に支給される一時金です。

【支給額】

  • 産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合:1児につき50万円
  • 産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合:1児につき48.8万円
  • 産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合:1児につき48.8万円

【支給方法】

出産育児一時金の支給方法には以下の3つがあります。

  • 直接支払制度:医療機関等が被保険者に代わって出産育児一時金の申請・受取をおこなう制度
  • 受取代理制度:被保険者が医療機関等を受取代理人として申請する制度
  • 通常の申請:被保険者が健康保険組合等に直接申請する方法

多くの場合、直接支払制度が利用され、出産費用が一時金額を下回る場合は差額が被保険者に支給されます。

【手続き方法】

直接支払制度を利用する場合は、医療機関等で合意文書を取り交わすだけで手続きは完了します。通常の申請をおこなう場合は、「健康保険出産育児一時金支給申請書」に医師または助産師の証明を受けて提出します。

3-5. 育児休業給付金・出生時育児休業給付金・出生後休業支援給付金

産前産後休業を取得した後、そのまま育児休業を取得した従業員については、雇用保険の被保険者であれば育児休業給付金の支給を受けられる場合があります。

【支給要件】

育児休業給付金の支給を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 雇用保険の被保険者であること
  • 育児休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12ヵ月以上あること
  • 育児休業期間中の各支給単位期間において、就業日数が10日(10日を超える場合は80時間以下)であること

【支給期間】

支給期間は、原則として子が1歳に達する日の前日まで

ただし、一定の条件を満たす場合は、1歳2ヵ月、1歳6ヵ月、または2歳まで延長できます。

【支給額】

  • 育児休業開始から180日間:休業開始時賃金日額×支給日数×67%
  • 育児休業開始から181日目以降:休業開始時賃金日額×支給日数×50%

なお、両親ともが育児休業を取得した場合、「出生後休業支援給付金」として、さらに休業開始時賃金日額×支給日数×13%が上乗せで支給されます。

【手続き方法】

「育児休業給付金支給申請書」をハローワークに提出

なお、育児休業等給付として、「育児休業給付金」以外にも、産後パパ育休を取得した場合の「出生児育児休業給付金」、両親ともが育児休業を取得した場合の「出生後休業支援給付金」、育児休業から復帰後時短勤務をした場合の「育児時短就業給付金」などがあります。

従業員がどの給付の対象となるかを正確に確認し、手続きをおこなうことが重要です。

育児休業を取得した従業員は、雇用保険の被保険者であれば育児休業給付金または育児時短給付金の支給を受けられる場合があります。

3-6. 復職時の就業調整・育児時短勤務の措置と育児時短就業給付金

復職時には、従業員の身体的・精神的状況を考慮した段階的な業務復帰を検討することが重要です。いきなり休業前と同じ業務量や責任を負わせるのではなく、本人の状況に応じて業務内容や勤務時間を調整します。

また、育児との両立を支援するため、勤務場所の変更や通勤時間の短縮、業務内容の見直しなども検討が必要です。復職前には人事・上司との面談を実施し、本人の希望や不安を聞き取り、適切な配置や配慮をおこないましょう。

勤務時間を調整し、時短勤務となった場合に受け取れるお金が育児時短就業給付金です。復職後に時短勤務をした従業員の賃金が減少した場合に支給されます。

【支給期間】

2歳未満の子を養育している期間

【支給額】

支給対象月に支払われた賃金額×10%

3-7.児童手当

児童手当とは、0歳から18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子を養育している家庭にこども家庭庁から支給される手当です。児童手当は、従業員本人が手続きをする必要があります。出産後もらえる手当として、産休面談の際などに伝えてあげると良いでしょう。

【支給期間】

0歳から18歳に達する日以後の最初の3月31日までの期間

【支給額】

3歳未満:15,000円(第3子以降は30,000円)
3歳以上 高校生年代まで:10,000円(第3子以降は30,000円)

4. 産前産後中の賃金支払有無

はてな

妊娠している女性は、産前産後の一定期間休業することになります。妊娠と出産で支出が増えるこの時期に収入が途絶えてしまうのは、働く女性にとって大きな痛手となるでしょう。

しかし、労働基準法には、産前産後の休業期間中に賃金の支払いに関する規定は設けられていません。労働基準法は、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいており、労働者が労務を提供しない期間については、企業に賃金支払い義務は発生しないとされています。産前産後休業期間中は労働の提供がないため、この原則が適用され、基本的には無給となります。

しかし、トラブルを防ぐためにも、産前産後休業中の賃金の取り扱いについては、就業規則または労働協約に明確に定めておきましょう。

なお、労働基準法第89条には「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」は就業規則に必ず記載しなければならない事項として定めています。

企業によっては、福利厚生の一環として産前産後休業期間中も一定の賃金を支給する場合もあります。このような場合も含めて、自社の方針を就業規則に明確に記載しておくことが重要です。

5. 産前産後の社員対応の注意点

ブロック

産前産後の女性労働者に対しては、法的な保護規定を遵守することはもちろん、働きやすい環境を整備するための適切な配慮が求められます。妊娠・出産・育児期間中の女性が安心して働き続けられるよう、さまざまな側面から支援体制を構築すると良いでしょう。

ここでは、実務上特に注意すべきポイントについて詳しく解説します。

5-1. 業務内容の変更方法

前述した通り、労働基準法第65条第3項に基づき、妊娠中の女性労働者が請求した場合、企業は必ず軽易な業務に転換させる義務があります。

【具体的な業務変更の例】

  • 重量物の取り扱い業務からの除外
  • 長時間の立ち仕事から座り仕事への変更
  • 高所作業や危険を伴う作業の回避
  • 精神的ストレスの大きい業務の軽減
  • 通勤負担を考慮した勤務地の変更

業務変更をおこなう際は、単に軽易な業務に配置するだけでなく、本人のスキルや経験を活かせる業務を検討することが重要です。また、業務変更によって本人のキャリア形成に悪影響を与えないよう、復職後の配置についても事前に相談しておくことが望ましいでしょう。

5-2. 労働時間を短縮する際の賃金

妊娠中の体調不良や通院等により所定労働時間を短縮する場合、短縮された時間分については「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、賃金を減額することが可能です。ただし、トラブルを防ぐためにも、時短勤務における賃金計算方法については、実施前に本人への丁寧な説明が不可欠でしょう。

また、労働時間の調整方法として時短勤務以外にも以下のような選択肢がある場合は、本人の希望や状況に応じて柔軟な働き方への対応が必要です。

  • 時差出勤制度の活用
  • フレックスタイム制度の適用
  • 在宅勤務制度の導入
  • 時間有休の活用による勤務時間調整

多様な働き方の選択肢を提供することで、妊産婦が安心して働き続けられる環境を整備できます。

5-3. 育児時間の対応方法

前述した通り、労働基準法第67条により、1歳未満の子を育てる女性労働者は、通常の休憩時間とは別に「育児時間」として、1日に2回、それぞれ30分以上の時間を請求できます。

育児時間を取得する従業員がいる場合は、周囲の理解を促進し、業務スケジュールを調整するなど、柔軟な対応を検討することが重要です。

関連記事:労働基準法に定められた育児時間の考え方と計算方法を解説

5-4. 妊娠を理由とした解雇の禁止

労働基準法第19条では、産前産後休業期間中およびその後の解雇制限について定められています。

第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

上記の規定により、産前産後休業期間およびその後30日間は解雇が禁止されており、妊娠・出産・産前産後休業を理由とした解雇は一切認められません。

関連記事:労働基準法で定められている妊婦を保護する制度を分かりやすく解説

5-5. 産前産後休業中の有給の取り扱い方

労働基準法第39条第10項では、産前産後休業等の期間の出勤率算定について以下のように定めています。

⑩ 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護をおこなう労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

この条文は年次有給休暇の取得要件に大きく関連する内容です。有給休暇が付与されるには、全労働日の8割以上を出勤していることが必要とされています。上記の規定により、産前産後休業期間は「出勤したもの」とみなして出勤率が計算されます。そのため、産前産後休業を取得したことによって出勤率が8割を下回ることはありません。

一方で、産前産後休業中は、原則として有給休暇を使用することはできません。有給休暇は、労働日に賃金を保障したうえで労働の義務を免除するものであるため、もともと労働義務のない産前産後休業期間中には適用されないためです。

ただし、この制限はあくまでも産前産後休業期間中に限った条件です。従業員から有給休暇を消化してから産前休業を取得したいと申し出があった場合は、有給休暇の使用を認めなければなりません。産前休業は本人の請求に基づくものであるため、有給休暇の取得時期と産前休業の開始時期については、本人の希望を尊重して柔軟に調整することが求められます。相談を受けた際には注意して対応しましょう。

6. 労働基準法を正しく理解して産前産後の対応に取り組もう

契約書を渡すビジネスマン

産前産後の女性の身体には大きな負担がかかることから、労働基準法では産前産後休業に関する規定や働き方に関する取り決めが定められています。

現在は多くの企業で女性が活躍する機会が増えており、妊娠・出産を経験する女性労働者も少なくありません。大切な従業員の健康を守り、安心して働き続けられる環境を整備するためにも、人事・労務担当者は労働基準法の規定を正しく理解し、適切に対応することが求められます。

産前産後休業の取り扱いや業務内容の調整、賃金や各種給付金の仕組みなど、包括的に把握しておくと良いでしょう。

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