定期昇給なしは違法?判断基準や注意点について解説
更新日: 2025.5.27
公開日: 2025.5.21
jinjer Blog 編集部
「定期昇給を設けていないのは問題になる?」
「違法になるケースはどのようなとき?」
「業績が悪化した場合に昇給を見送ると違法になる?」
上記のような疑問をお持ちではありませんか。
定期昇給は法律で義務付けられていません。ただし、就業規則や求人票の記載と実態に差がある場合、法的な問題が生じる恐れがある制度です。
本記事では違法とされるケースと、定期昇給をおこなわないことによるデメリットをお伝えします。定期昇給関連の違法性の有無について理解を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
人事評価制度は、従業員のモチベーションに直結するため、適切に設計・見直し・改善をおこなわなければ、最悪の場合、従業員の退職に繋がるリスクもあります。
しかし「人事評価制度に改善したいが、いまの組織に合わせてどう変えるべきか悩んでいる」「前任者が設計した評価制度が古く、見直したいけど何から始めたらいいのかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
当サイトではそのような企業のご担当者に向けて「人事評価の手引き」を無料配布しています。
資料では、人事評価制度の基本となる種類の解説や、導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。自社の人事評価に課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。

1. 定期昇給なしは原則違法ではない
定期昇給がなくても、原則として違法にはなりません。労働基準法などの法令には、企業に昇給を実施するよう義務付ける規定がないためです。
昇給は就業規則に記載すべき事項ですが、「昇給なし」と明記することも法的に問題ありません。
実際、厚生労働省調査によると、定期昇給の制度がない企業は約12%存在しています。割合としては少ないものの、一定数の企業で制度自体が設けられていないのが実情です。
ただし昇給なしが違法とされるケースもあります。特に就業規則と異なる運用をしている場合には注意が必要です。
参考:令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査_概況 (頁なし)|厚生労働省
2. 定期昇給なしが違法になるケース3つ
定期昇給なしが違法になるケースは以下の3つです。
- 就業規則に記載があるのに定期昇給がおこなわれない
- 求人票や募集要項が実態と違う
- 定期昇給に不公平が生じているケース
詳しく見ていきます。
2-1. 就業規則に記載があるのに定期昇給がおこなわれない
就業規則に定期昇給規定が記載されているにもかかわらず実施しないことは、労働契約法第9条が禁じる「不利益変更」に該当する恐れがあります。
不利益変更とは、労働者に不利益を与える労働条件を一方的に変更することです。
例えば「毎年4月に3,000円昇給する」と記載されているのに、昇給を実施しないなどは不利益変更に該当する恐れがあります。
就業規則などで「定期昇給なし」と記載されていれば問題はありません。しかし「昇給あり」と記載されているのに昇給を実施しない場合は違法となります。
2-2. 求人票や募集要項が実態と違う
求人票や募集要項に「定期昇給あり」と記載しながら実際に昇給がおこなわれない場合は職業安定法第65条に違反する可能性があります。
なぜなら、65条では実際と異なる条件での労働者募集を禁じているためです。
特に、昇給を期待して入社したのに、昇給機会が一度もない場合は企業が意図的に誤認させたとみなされ、法的責任を問われる可能性があります。
2-3. 定期昇給に不公平が生じているケース
定期昇給制度が存在していても、特定の社員だけが不当に昇給から除外される場合は違法となる可能性があります。例えば以下のようなケースです。
- 外国人社員だけ定期昇給がない
- 上司とあまり関係がよくない特定の社員のみ定期昇給がない
- 評価制度があるとしながら、特定の部署には昇給がない
労働基準法第3条の均等待遇や、労働契約法第3条の労働契約の原則に違反する恐れがあります。パワハラや嫌がらせと認められた場合には、民法709条の不法行為に該当する可能性も否定できません。
就業規則に定期昇給が明記され、制度として実施されていたとしても、一部の社員に偏りがあれば違法と判断されることがあります。
参考:民法|e-Gov法令検索
3. 定期昇給を実施しない場合の4つのデメリット
定期昇給を実施しない場合のデメリットは以下の4つです。
- モチベーションの低下や離職率向上
- 人材採用の困難化
- 企業の競争力低下
- ブランドイメージが悪化する
詳しく見ていきます。
3-1. モチベーション低下や離職率向上
定期昇給がないと社員の意欲低下や離職率上昇につながる恐れがあります。
昇給は努力や成果が報われたと感じられる一つの指標です。継続して働いても給与が変わらなければ、努力の意味を見いだせなくなる場合もあります。
正当に評価されていないと感じる状況が続けば不満が蓄積し、離職につながることも否定できません。定期昇給がないと給与の面でも不満が出てくるので、収入を求めて転職を考える人が増える可能性もあるでしょう。
加えて、定期昇給のない状態が続けば将来性に不安を感じたり、職場への期待を失ったりする要因にもなります。
定期昇給がない状態が続けば、さまざまな不満が積もりやすくなるため注意が必要です。
3-2. 人材採用の困難化
定期昇給がない企業は採用活動で不利になる恐れがあります。求人に昇給の記載がなければ将来的な収入が見込めないと判断され、早い段階で応募先の選択肢から外されることがあるためです。
同業他社に昇給制度があれば待遇面での差がより明確になり、応募の時点で比較されやすくなります。とくに若手やスキルの高い人材ほど待遇面を重視する傾向があるため、優秀な人材が集まりにくくなるでしょう。
また、「昇給なし」と記載のある求人は企業の成長性や人材投資への姿勢に疑問を持たれやすいです。結果として、採用の幅が狭まり人材確保が困難になるリスクが高まります。
3-3. 企業の競争力低下
定期昇給がない企業では、競争力が低下する恐れがあります。
処遇に期待が持てない職場では、優秀な人材の定着や採用が難しくなるためです。経験のある社員が離れれば、知識や技術の蓄積が途切れます。
業務の対応力も下がり、組織の土台が弱まるでしょう。また、優秀な人材を採用できなければ、新たな知見を取り込むことも難しくなります。
加えて昇給がなければ、より良い商品・サービスの改善案を提供しようとする動きがなくなる可能性も否定できません。成果に応じた評価がなければ、取り組む意義を感じにくくなるためです。自発的な工夫や前向きな姿勢が失われるでしょう。
上記の要因が重なり、企業の競争力は次第に弱まっていきます。
3-4. ブランドイメージが悪化する
定期昇給がないことは企業や商品のブランドイメージを損ねる恐れがあります。現代の消費者は企業の姿勢や方針にも敏感であり、待遇に関する情報も企業イメージの一部として受け取る傾向があるためです。
例えば「人を大切にしていない会社なのでは」「体制に不安があるのでは」といった印象を与えます。結果、企業への信頼感や共感が薄れることで、商品を選ばないという判断につながる可能性も否定できません。
現代では会社口コミサイトやSNSなどを通じて、待遇に関する情報は社外にも伝わりやすいです。定期昇給がないことは企業全体の印象を損ね、最悪の場合は商品評価や売上にも思わぬ影響を及ぼすリスクとなります。
4. 業績悪化などで定期昇給できない場合も違法なのか
業績悪化などを理由に定期昇給を見送った場合でも、必ずしも違法とは限りません。昇給ありと明記があっても、「業績や経営状況に応じて昇給をおこなう」などの例外条項があれば問題とならないケースが多いです。
ただし、例外条項の記載がなく、一方的に昇給を見送ると違法にあたる恐れがあるので注意が必要です。認められるかどうかは、就業規則の内容や従業員への説明が適切におこなわれているかの点が判断の要素になります。
いずれにしても、企業側の都合だけで進めると不満や不信感を招くでしょう。従業員との丁寧な説明と対話を欠かさない姿勢が求められます。
5. 定期昇給なしが違法にならないよう自社の状況を見直そう
昇給制度がなくても、直ちに違法とはなりません。しかし就業規則や求人票に「昇給あり」と記載している場合に、実際には昇給をおこなっていないと問題となる恐れがあります。
また、特定の社員だけ昇給がおこなわれない運用も注意が必要です。違法の可能性のある運用がおこなわれていないか、あらためて確認しましょう。
人事評価制度は、従業員のモチベーションに直結するため、適切に設計・見直し・改善をおこなわなければ、最悪の場合、従業員の退職に繋がるリスクもあります。
しかし「人事評価制度に改善したいが、いまの組織に合わせてどう変えるべきか悩んでいる」「前任者が設計した評価制度が古く、見直したいけど何から始めたらいいのかわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
当サイトではそのような企業のご担当者に向けて「人事評価の手引き」を無料配布しています。
資料では、人事評価制度の基本となる種類の解説や、導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。自社の人事評価に課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。

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