労働条件とは?明示義務や必須項目、雇用契約書との違いなどを解説! - ジンジャー(jinjer)|クラウド型人事労務システム

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労働条件とは?明示義務や必須項目、雇用契約書との違いなどを解説!

契約書

労働条件とは、労働者が企業で働くうえで必要な基本情報であり、労働基準法第15条に基づき明示が義務付けられています。明示は法律によって規定されているため、記載する項目も決まっており、必ず記載すべき「絶対的明示事項」と記載の義務はないが適宜記載するべき「相対的明示事項」があります。

労働条件には、賃金や休日など従業員にとって重要な内容を記載するので、記載漏れがないよう細心の注意をはらって作成しなければなりません。そのため、担当者の方は記載項目を把握するだけでなく、内容も正確に理解しておくことが求められます。

ここでは、労働条件通知書と雇用契約書の違いや明示のタイミング・方法、変更時の注意点まなどを解説します。

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◆押さえておくべきポイント

  • 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
  • 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
  • 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
  • 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策

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1. 労働条件とは?

労働条件通知書のひな形

引用:労働条件通知書|東京労働局

労働条件とは、雇用契約期間や労働時間、休日休暇、給与など、労働する上での各種条件のことであり、労働基準法15条1項により、使用者(会社・事業者)が労働者に対して明示することが義務付けられています。

企業が労働者を雇う場合には、これらの条件を明確に伝える義務があり、その根拠となるのが労働基準法第15条です。適切な明示は、労使トラブルの防止にもつながる重要なポイントとなるので、正確に作成しましょう。

1-1. 労働基準法第15条とは?

労働基準法第15条第1項では、下記の通り、労働条件の明示義務が義務付けられています。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

労働基準法第15条は、使用者が労働者を雇い入れる際に労働条件を明示する義務について定めた規定です。この条文では、賃金、労働時間、就業場所などの重要な条件を「書面により明示すること」が求められています。

特に賃金や労働時間は労働者の生活に直結するため、口頭での説明ではなく、明文化された内容が重要とされます。2024年の法改正によって、明示すべき項目がさらに拡充されており、企業側は常に最新の法令を確認し、適切な対応をおこなう必要があります。この条文の遵守は、法的義務であると同時に、信頼ある雇用関係を築く第一歩とも言えるでしょう。

1-2. 労働基準法第15に違反したらどうなる?

労働条件の明示義務に違反した場合、企業には行政指導や罰則が科される可能性があります。

労働基準法第120条には、使用者が明示すべき労働条件を明示しない場合や、法令上義務付けられた方法で明示しない場合には、30万円以下の罰金が科されることがあると示されています。そのため、違反をした場合は労働基準監督署から是正指導が入ることがあり、最悪の場合、罰金などの行政処分を受けることもあるのです。

近年は、雇用の多様化により労働条件の複雑化が進んでおり、明示義務の重要性がますます高まっています。また、労働者とのトラブルが発生した際に、書面が存在しないことで企業側の主張が通らないケースも少なくありません。

労働条件が曖昧なまま契約を結ぶと、労働者とのトラブルが発生する可能性も増加するため、企業は法令遵守を徹底する必要があります。

2. 労働条件の明示事項とは

書類とパソコン

労働基準法では、使用者が労働者に対して明示すべき労働条件の内容を「明示事項」として分類しています。

「明示事項」は、「絶対的明示事項」「相対的明示事項」の2つにわかれており、さらに法改正により新たに追加された項目も存在します。明示事項を正しく理解していないと、法令違反やトラブルの原因となる可能性があるので、内容をしっかり確認しておきましょう。

ここでは、明示が義務付けられている項目と法改正によって追加された項目について、分類ごとに詳しく解説します。

参照:労働基準法施行規則|e-Gov法令検索

2-1. 絶対的明示事項

絶対的明示事項とは、従業員に対して必ず明示しなければならない内容です。
明示する事項は下記の通りです。

  • 労働契約の期間(※期間に定めがあるか否か、ある場合いつまでか。労働契約を更新する際の基準も記載する。)
  • 就業場所と従事すべき業務(※就業場所は実際に労働をおこなう場所で、業務は具体的に記載する。)
  • 始業・終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇
  • 交替勤務制がある場合の取り扱い
  • 賃金の決定・計算、支払いの方法、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇理由を含む)

これらの内容は「昇給に関する事項」を除き、労働者に対して書面などで明かさなければいけません。
なお、2019年4月の法改正により、労働者が希望する場合に限り、FAX、Eメールといった電子媒体による明示も可能となりました。

2-2. 相対的明示事項

相対的明示事項とは、自社で規定を設けている場合に明示すべき内容です。
明示する事項は下記の通りです。

  • 退職金が支給される労働者の範囲、退職金の決定、計算、支払い方法
  • 臨時に支払われる賃金(賞与など)について
  • 労働者に負担させる食費・作業用品について
  • 安全・衛生に関する内容
  • 職業訓練について
  • 災害補償、業務外の傷病扶助
  • 表彰、制裁
  • 休職

上記の内容は書面での明示が義務付けられていませんが、労使間のトラブルを防ぐためにも、書面で明示しておいた方がよいでしょう。

関連記事:労働条件の明示は義務!採用時に明示すべき内容とは

ここまで記載すべき事項を押さえたところで、実際に労働条件通知書(兼雇用契約書)を作成する際に参考にできるサンプルがほしいという方向けに、当サイトでは社労士が監修した労働条件通知書のフォーマットを配布しています。

令和6年に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットで、雇用契約書として兼用することもできる雛形です。「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。

2-3.法改正によって追加された明示事項

法改正により2024年4月1日から労働条件の明示事項が追加されるため、合わせてここで押さえておきましょう。

まず、絶対的明示事項に「就業場所・業務の変更の範囲」追加されます。現行は入社後の就業場所と業務内容の明示で足りますが、2024年4月以降は変更の範囲についても明示が必要です。また、有期雇用契約の場合は「更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容」も追加で明示しなくてはいけません。さらに、無期転換申込権が発生する場合は更新のタイミングごとに、「無期転換申込機会」と「無期転換後の労働条件」の明示も必要となります。

重要な部分でもあるため、新たに追加されるルールについても事前に把握しておきましょう。

参考:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省

就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示

2024年4月の法改正により、労働条件の明示事項に「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」が追加されました。

従業員を新たに採用する場合や、有期雇用の従業員との雇用契約を更新する際には、雇い入れ直後の就業場所と業務内容に加え、「就業場所や業務の変更の範囲」を書面で明示することが労働基準法施行規則第5条1項1号の3により義務づけられています。

具体的な記載方法は以下のようになります。

1. 就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合
就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合は、すべての就業場所・業務を具体的に記載します。方法として、「会社の定める就業場所」「会社の定める業務」と記載するか、変更の範囲を一覧表として添付することが考えられます。

2. 就業場所や業務の変更が一定の範囲に限定されている場合
就業場所や業務の変更が一定の範囲に限定されている場合、その範囲が明確になるよう記載します。
– 就業の場所: (雇入れ直後)天王寺出張所 → (変更の範囲)大阪府内
– 業務内容: (雇入れ直後)運送 → (変更の範囲)運送及び運行管理

3. 就業場所や業務の変更が想定されていない場合
変更がない場合は、「変更なし」や「雇い入れ直後に従事すべき業務と同じ」と記載します。
– 就業の場所: (雇入れ直後)東大阪センター → (変更の範囲)東大阪センター
– 業務内容: (雇入れ直後)運送 → (変更の範囲)運送

企業がこの変更の範囲を具体的に明示することで、労働者は将来的な業務や勤務地の変更について予測可能性を持てるので、トラブルを未然に防ぐことも可能です。

更新上限の有無と内容の明示

2024年4月の法改正により、有期雇用契約の更新上限についての明示義務が追加されました(労働基準法施行規則第5条1項1号の2)。

企業は、契約を更新できる頻度や上限の有無、具体的な更新条件について労働者に明示する義務があり、これにはアルバイト、契約社員、定年後再雇用された従業員などの有期雇用の労働者が対象となります。この明示義務には、労働契約締結時に更新上限の予測可能性を提供し、トラブルを予防する目的があります。

有期雇用契約の更新について年数や回数の上限を設定する場合、契約を最初に締結する際や契約更新のタイミングでその内容を明示する必要があります。具体的には、契約の当初から数えた更新回数や通算契約期間の上限を示し、その際に現在が何回目の契約更新であるかを併せて説明する方法があります。この明示によって、労働者は自身の雇用の安定性について、より確かな情報を得ることができ、安心して働く環境が提供されます。

無期転換申込機会の明示

2024年の改正により、企業は無期転換の申込機会について明示することが義務となりました。

これは労働契約法第18条に基づくもので、雇用契約が更新され、通算の契約期間が5年を超えた有期雇用の従業員に対して無期の雇用契約への転換を申し込む権利が発生するというルールです。このルールは一般に「無期転換ルール」と呼ばれます。

この無期転換ルールに従い、企業は無期転換申込権が発生することを従業員に対して明示しなければなりません。具体的には、雇用契約の更新により通算の契約期間が5年を超えることになる有期契約労働者が対象です。この明示義務は、労働基準法施行規則第5条第5項および第6項に規定されています。

例えば、1年契約の有期雇用であれば、5回目の更新時点で無期転換申込権が発生します。しかし、従業員がこの申込権を行使せずに6回目以降の更新をする場合でも、企業は契約の更新のたびに無期転換申込機会について明示する必要があります。これにより、労働者は無期雇用に転換できるタイミングや方法について事前に理解することができ、将来のキャリアプランを立てやすくなります。

この明示義務は、企業が労働者に対する透明性と公平性を確保するための重要なステップであり、労働者の権利を保護するものです。

無期転換後の労働条件の明示

無期転換がおこなわれた後も、企業は労働者に対し賃金や労働時間、その他の福利厚生などの新しい労働条件を明示する責任を負います。

無期転換後の労働条件は、無期転換申込権が発生するタイミングごとに、書面により明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条5項、6項)。この具体的な明示事項は、労働基準法施行規則第5条1項に規定されている事項と同じです。

明示方法としては、まず無期転換後の労働条件について労働条件通知書を作成し、事項ごとに明示するという方法があります。

大きな変更がない場合は、無期転換後の労働条件の変更の有無を明示するという方法もあります。例えば、無期転換後も労働条件に変更がない場合は「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」と明示します。ただし、無期転換後に労働条件が変更される場合は「無期転換後は、労働時間を○○、賃金を○○に変更する」と具体的に明示しましょう。

明確な労働条件を提供することで、無期転換がスムーズにおこなわれるので、労働者も安心して働き続けることができます。

3. 労働条件通知書と雇用契約書の違いは?

書類をダブルチェックする人

労働条件を明示する際に用いられる文書として、「労働条件通知書」と「雇用契約書」があります。

いずれも労働者との契約内容を記録する重要な書類ですが、法的な性質や作成義務には違いがあるので、適切に使い分けることで、労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。

ここでは、それぞれの書面が果たす役割や、法令上の作成義務の有無について解説します。

3-1. 書面の役割

労働条件通知書は、使用者が労働者に対して労働条件を明示するために交付する書面であり、労働基準法第15条により発行が義務づけられています。一方、雇用契約書は、労働者と使用者が合意した契約内容を記載し、双方が署名・押印することで成立する契約文書です。

つまり、労働条件通知書は「説明・通知のための書面」、雇用契約書は「契約を成立させるための合意書」というような違いがあります。そのため、両者を併用する企業も多く、内容に重複があっても問題はありません。

2つの書類を作成するのは負担かもしれませんが、トラブル防止のためにも、どちらも適切に整備・保管しておくことが望まれます。

3-2. 作成する義務

労働条件通知書は、労働者を雇用する企業に作成・交付の義務があります。これは法律で明確に規定されており、違反すれば罰則の対象となることもあります。一方、雇用契約書の作成は法律上の義務はありません。

しかし、労働者と使用者の間でトラブルが発生した際、口頭だけの合意では証明が困難な場合もあるため、雇用契約書を取り交わしておくことが推奨されます。特に賃金や雇用期間などトラブルの原因になりやすい項目は、合意している旨を文書で残すことでリスクを軽減できます。

労働条件通知書も雇用契約書も、義務の有無だけでなく、実務上のリスク管理という観点からも両書類の作成を検討すべきです。

関連記事:労働条件通知書の記入例や書き方のポイントを解説

労働条件通知書と雇用契約書のテンプレート

労働条件通知書のテンプレートは、労働局(厚生労働省)のホームページにて公開されています。Word形式とPDF形式でダウンロードすることが可能なので、用途にあわせて活用するとよいでしょう。

また、正社員だけでなく、派遣労働者や日雇い労働者などのさまざまな雇用形態や業種用のテンプレートがダウンロード可能です。

▼労働条件通知書のテンプレートをダウンロードしたい方はこちら
様式集|東京労働局

雇用契約書に関しては、作成が義務付けられていないこともあり、国や地方自治体のページでは公開されていませんが、ダウンロードできるWebサイトも沢山あります。雇用契約書の作成を検討している場合は、調べてみてください。

4. 労働条件を明示すべきタイミング

様々なデータを電子化している様子労働条件を明示すべきタイミングは、労働契約の締結時だけでなく、特定の状況においても重要です。労働基準法第15条1項により、労働契約の締結の際に労働条件を明示する義務が課されています。裁判例においても、採用内定を出した時点で労働契約の締結と評価されるケースが多く、その段階で労働条件の明示義務が発生します。厚生労働省の通達(平成29年12月20日 基監発1220第1号)においてもこの点が強調されており、内定時に労働条件を明示することはトラブル防止において非常に重要です。

明示のタイミングを見逃してしまうと、労使間の認識にズレが生じ、トラブルの原因になるおそれがあるので注意しましょう。ここでは、特定の状況における明示のタイミングについて解説します。

4-1. 有期雇用契約を更新する場合

有期雇用契約を更新する際には、既存の労働条件を再確認し、新しい契約期間に適用される労働条件を明示する必要があります。

労働基準法15条1項によると「労働契約の締結に際し」という表現には、新しく従業員を採用する場合だけでなく、有期雇用契約の期間満了に伴い契約を更新する場合も含まれています。契約更新のタイミングで、雇用者と労働者との間で誤解が生じないようにするため、全ての労働条件を明示書や口頭で確認しあう必要があるのです。

また、労働契約の更新上限がある場合には、その点も明確に伝えることが重要です。これにより、労働者は自身の雇用状況を正確に把握できます。

4-2. 定年後再雇用の場合

定年後に再雇用する場合も、労働条件の明示が必要です。

労働基準法15条1項に記載されている「労働契約の締結に際し」には、正社員として雇用していた従業員が定年に達した後に再雇用する場合も含まれます。そのため、雇用者が定年後に従業員を再雇用する場合、再雇用後の労働条件を明示する義務を負います。

再雇用契約では、賃金や労働時間、業務内容などの条件が定年前とは異なる場合が多いため、これらの変更点を労働者に明確に伝えなければなりません。特に、再雇用者の待遇や役割が大きく変わる場合には、詳細な説明が必要です。

これにより、再雇用された労働者は自分の新しい役割と労働条件を理解しやすくなります。

4-3. 在籍出向の場合

在籍出向する際も、労働条件を明示する必要があります。

出向先で労働時間や業務内容、給与形態などが異なる場合には、これらを具体的に明示しなければなりません。従業員を自社に在籍させたまま他社に出向させる在籍型出向のケースでは、出向先と出向者の間でも労働契約が成立します。したがって、出向先は出向を受け入れるにあたり、労働基準法15条1項に基づき、出向者に対して労働条件を明示する必要があります。

また、出向期間や出向後の復職条件についても事前に明示しておくことで、労働者が安心して出向業務に従事することができます。

詳細な明示を通じて、出向に伴うリスクや不安を軽減し、出向先と出向者の間でのトラブルを防止する効果も期待できます。

5. 労働条件を明示する方法

書類を見比べる様子労働条件を明示する際には、単に書類を作成するだけでなく、どのような手段で労働者に伝えるかも重要です。

従来は紙による交付が一般的でしたが、近年では電子メールやクラウドサービスを用いた方法も認められるようになっています。ただし、いずれの手段であっても「確実に本人に伝わる」ことが前提です。また、それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、企業の実情や労働者のニーズに合わせて適切な方法を選択することが重要です。

ここでは、主な明示方法と電子化する際の注意点について解説します。

5-1. 書面で明示する方法

労働条件の明示は、原則として、労働契約の期間や就業の場所及び従事すべき業務、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金、退職に関する事項(解雇の事由を含む)などの重要な事項について、書面の交付により明示しなければなりません(労働基準法施行規則第5条4項)。これは労働基準法第15条にも明記されており、労働条件通知書などを紙で手渡す形が基本となっています。

書面の様式についての決まりがあるわけではありません。しかし、厚生労働省のモデル労働条件通知書を利用することで、漏れのない明示が可能になります。モデル労働条件通知書は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることができます。

書面での交付は、労働者にとっても読み返しや保管がしやすく、後々の証拠としても有効です。特に法的トラブルを避けたい企業にとっては、信頼性の高い手段といえます。

参考:労働条件通知書|厚生労働省

5-2. 電子で明示する方法

労働条件の明示は、労働者が希望し書面としてプリントアウトできるようになっていれば、電子的手段による交付も可能です。電子的手段というのは、例えばPDFファイルをメールで送付したり、クラウドサービスで共有したりする方法です。この方法は迅速かつ効率的で、地理的に離れた労働者にも容易に情報を伝えることができます。

ただし、重要となるのは「労働者が内容を確認・保存できる状態」であることです。リンクの共有だけでなく、実際にアクセスできるか、内容が読めるかの確認も必要です。

また、交付後に労働者からの同意を取得しておくと、トラブル予防に役立ちます。システム障害や誤送信にも注意を払い、社内ルールとして電子交付の手順を定めておくことが望ましいでしょう。

5-3. 就業規則のコピー交付で明示する方法

就業規則のコピーを労働者に交付する方法もあります。労働条件の明示義務を果たす方法として、労働条件通知書や雇用契約書によらず、就業規則のコピーを交付することによって明示することも可能とされています。ただし、就業規則のコピーの交付により明示義務を果たすためには、その労働者に適用する部分を明確にしたうえで交付しなければなりません。

参考:労働基準法の一部を改正する法律の施行について|厚生労働省

就業規則には、企業内の全ての労働条件が詳細に記載されているため、これを交付することで労働者は自分の権利と義務を一目瞭然で理解できます。しかし、一般的には就業規則のコピーを交付されるだけでは賃金の具体的な額などの詳細はわかりにくい場合があります。そのため、個別に労働条件通知書や雇用契約書を作成する必要がある場合が多いです。また、就業規則が頻繁に変更される場合には、最新の情報を労働者に提供するための注意が必要です。

6. 労働条件変更の注意点と手続き方法

悩む男性

労働条件の変更については、労働契約法第8条で下記の通り定められています。

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

引用:労働契約法|e-Gov法令検索

合意にすることで変更できると定められているため、使用者が一方的に労働条件を変更することはできません。
また、基本的に労働者の不利益となるような変更には、合理的な理由と各種手続きが必要となります。

ここでは、労働条件変更の注意点と手続き方法について解説します。

6-1. 一方的な不利益変更(賃金の減額など)は認められない

労働条件を使用者が一方的に変更することは、基本的に認められていません。特に賃金や勤務時間、勤務地といった「労働契約の重要な要素」を労働者にとって不利益に変更する場合には、労働者の明確な同意が必要です。

例外的に、就業規則の変更による対応が可能な場合もあります。これは「労働条件の合理的変更」に該当するものですが、その場合も変更が「合理的」で「労働者にとって不利益が過大でない」といった条件を満たしていなければなりません。

不利益変更は、企業と従業員の信頼関係に大きな影響を与えるため、慎重な対応が求められます。

労働条件の合理的変更とは

労働条件の変更が合理的であるか否かは、労働契約法第10条の定める下記の要素により個別に判断されます。

  • 労働者が受ける不利益の程度
  • 変更の必要性(程度や内容)
  • 変更後の就業規則の相当性
  • 労働組合等との交渉状況
  • 不利益に対する代償措置の有無
  • 社会における一般的状況

労働条件の変更は本当に必要か、同業他社や社会全体の傾向として不利益変更が妥当かなど、非常に多角的に判断がおこなわれます。その結果、「合理的である」と判断された場合に限り、労働条件の変更手続きが可能です。

ただし、これまでの判例からしても、「合理的」と判断されるのはかなり難しいことがわかっているため、労働者の不利益になるような変更はしないことが望ましいでしょう。

6-2. 労働条件を変更する手続き方法

労働条件の不利益変更の手続きは、下記の流れでおこないます。

①労働者全員から個別に同意を得るもしくは、労働組合との合意をおこなう
②就業規則の変更方針を定める
③同意書の作成もしくは、労働協約の締結をおこなう
④就業規則を変更して、労働基準監督署に届け出る
⑤従業員に変更した旨を周知する

④で届け出る書類は、「就業規則変更届」「新しい就業規則」「労働者代表から得る意見書」です。
それぞれ2部ずつ作成して、1部は社内で保管することになります。

また、⑤で周知をおこなう際には、「労働条件変更通知書」もあわせて交付するとよいでしょう。この通知書の交付は義務ではありませんが、作成しておくことで後々の労使間のトラブルに発展しづらくなります。

関連記事:労働条件変更同意書の記載事項や記入のポイントについて

7. 労働条件の明示義務順守にはシステムを活用しよう

オフィスのノートパソコンが気になる女性実業家

労働条件の明示に関する重要な法律が、労働基準法第15条です。この法律は、企業が労働者に対して労働条件を明示する義務を具体的に規定しています。労働条件の明示は、労働契約の締結時において特に重要であり、曖昧なままにしておくと、後々のトラブルの元となります。労働者が安心して働ける環境を提供するためにも、企業はこの義務をしっかりと果たす必要があります。

しかし実務レベルでは、労働条件通知書の作成や管理、改定時の履歴管理、従業員への周知など細かく手間のかかる作業も多いため、人為的なミスも起こりがちです。こうしたリスクを軽減するために、近年では「労務管理システム」や「労働条件通知書作成ツール」などのシステムが注目されています。

システムには法改正への対応や帳票のテンプレート機能、電子通知対応などが搭載されているので、活用すれば効率的かつ確実な管理が可能になります。また、管理の手間を大幅に減らせるので、質の高い労働環境を提供することも可能です。

8. 労働条件について使用者(経営者)が相談できる窓口

コールセンター労働条件の明示や変更にあたっては、法的なルールや実務上の注意点が多く、「判断が難しい」「誰に相談すればいいかわからない」と悩む企業担当者も少なくありません。特に近年は、法改正が頻繁におこなわれているため、自社だけで対応するのが困難なケースもあります。

こうした場合に活用できるのが、労働基準監督署や厚生労働省が提供する相談窓口、社会保険労務士や弁護士などの専門家です。専門家は正確で信頼できる情報を提供してくれるため、適切な対応が可能になります。

ここでは、企業が利用できる相談窓口をご紹介します。

8-1. 労働基準監督署

労働基準監督署は、労働条件や労働基準法に関する相談窓口として、最も基本的な機関のひとつです。企業担当者には、労働契約の内容や明示義務、就業規則の取り扱いなど、幅広いテーマについて無料で相談することができます。また、「総合労働相談コーナー」では相談無料・予約不要であらゆる分野の労働相談が可能です。相談は電話でも来署でも可能で、具体的な事例に即したアドバイスを受けられることもあります。

労働基準監督署は、労働条件の変更に関する届出や、36協定などの書類提出先でもあるため、定期的なやりとりがある企業も多いでしょう。公的な機関として信頼性が高く、初めての相談先として非常に有効です。

8-2. 労働条件相談ほっとライン

「労働条件相談ほっとライン」は、厚生労働省が設置している全国共通の電話相談窓口です。労働基準監督署が閉館している時間帯や土日祝日を含む夜間帯にも対応しているので、忙しい企業担当者でも利用しやすい点が魅力です。

相談内容は匿名でも受け付けられ、労働時間や休暇制度、賃金に関する相談のほか、法改正への対応についても専門の相談員がわかりやすくアドバイスしてくれます。

複雑なケースには、最寄りの労働基準監督署への案内もしてくれるので、スムーズな連携が期待できます。気軽に相談できる窓口として、日々の実務で迷ったときには活用を検討しましょう。

8-3. 社会保険労務士

社会保険労務士(社労士)は、労働法や社会保険に関する専門知識を持ち、労働条件の整備や就業規則の作成、労務トラブルの防止・対応など幅広いサポートをおこなう国家資格者です。企業の実態に応じて適切なアドバイスを提供してくれるため、複雑なケースにも柔軟に対応可能です。

コストはかかりますが、顧問契約を結べば、法改正の情報提供や書類の作成代行など日常業務のサポートも受けられます。特に中小企業の場合は、法令遵守と効率的な人事労務運営を両立させるための心強いパートナーになります。

法改正などの情報集めは業務負担が大きい、正確に作成するのが難しいなどの課題がある場合は、社労士の活用を検討してみましょう。

8-4. 弁護士

労働条件をめぐる問題が法的トラブルに発展するおそれがある場合や、労使間で争いが生じている場合には、弁護士への相談が適切です。

弁護士は法的な観点から、契約内容の妥当性や変更の可否、従業員とのトラブルに対する対応策を明確に提示してくれます。また、訴訟や調停といった法的手続きが必要になった場合にも代理人として対応してくれるため、安心して任せられます。

普段から顧問弁護士の契約を結んでおけば、突発的なトラブルにも迅速に対応できる体制を整えられるでしょう。顧問弁護士はコスト面の負担が大きいですが、万が一のリスク管理として検討しておくとよいでしょう。

9. 労働条件の明示は企業の義務だと覚えておこう

書類を渡す様子

労働条件は、企業と従業員との信頼関係を築くうえで欠かせない基盤です。特に採用時や契約更新時に、法律に基づいた正確な情報を明示することは、トラブルの未然防止にもつながります。そもそも、労働基準法第15条では明示義務が定められているので、違反すると罰則を受ける可能性もあるため知明示を怠らないようにしなければなりません。

また、労働条件を変更する場合には、労働者の同意や合理性が不可欠であり、就業規則の整備や手続きも慎重におこなう必要があります。人事・総務部門としては、最新の法改正にも注意を払いながら、継続的な管理体制を整えることが大切です。もし作成や管理の負担が大きいのであれば、システムを活用することも検討してみるとよいでしょう

労働条件を丁寧に扱うことで、社員の安心感と企業の信用を高めることができるので、適切に対応してください。

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雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。

◆押さえておくべきポイント

  • 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
  • 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
  • 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
  • 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策

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