1年単位の変形労働時間制とは?残業の計算方法や休日の考え方もわかりやすく解説
更新日: 2025.10.17 公開日: 2021.9.8 jinjer Blog 編集部

繁忙期は残業が増えるのに閑散期は反対に時間が余る場合、1年単位の変形労働時間制を導入すると総労働時間や残業コストを減らせるかもしれません。
本記事では、1年単位の変形労働時間制の基本から残業時間の考え方、メリット・デメリット、さらに導入のポイントまで網羅的に解説します。
変形労働時間制は、通常の労働形態と異なる部分が多く、労働時間・残業の考え方やシフト管理の方法など、複雑で理解が難しいとお悩みではありませんか?
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1. 1年単位の変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、週の労働時間が平均で40時間以内であれば、特定の日や週に法定労働時間を超過して労働させることができる制度です。つまり、年間を通じて忙しい時期には1日8時間・週40時間を超えて労働させ、一方で閑散期にはその分の労働時間を短くすることで、期間平均で法定内に収めることができます。
変形労働時間制には、1ヵ月単位と1年単位の制度があります。1年単位の変形労働時間制の条件は6点あります。
- 対象期間が1ヵ月を超え1年以内
- 対象期間の1週間の平均労働時間が40時間を超えない
- 労働時間が1日10時間・1週52時間以内
- 1年あたりの労働日数は280日が限度 ※対象期間が3ヵ月を超えるとき
- 連続して労働させる日は原則連続6日が限度 ※繁忙期(特定期間)は最長12日
- 対象期間の労働日・労働日ごとの労働時間を特定する
関連記事:1ヶ月単位の変形労働時間制とは?採用事例や4つの導入ステップを紹介
1-1. 1年単位と1ヵ月単位の変形労働時間制の違い
1ヵ月単位の変形労働時間制は、1ヵ月の平均労働時間を1日8時間、週40時間の中で調整できます。
1年単位との大きな違いは、1日や1週あたりの労働時間の上限が決められているかどうかです。1年単位では労働時間が1日10時間・1週52時間以内という制限がありますが、1ヵ月単位では1日の労働時間に制限を設けず運用できます。
関連記事:変形労働時間制とは?1ヵ月・1年単位の違いや導入方法をわかりやすく解説
2. 1年単位の変形労働時間制における残業時間・休日の考え方

1年単位の変形労働時間制を導入しても、一定の範囲を超える労働は残業時間となります。また、法定休日を与える義務も免除されないため、休日の確保も必要です。
ここでは、1年単位の変形労働時間制における「残業」の考え方と休日ルールについて、日・週・年間の各観点から解説します。
2-1. 1日あたりの残業時間
1日の残業とは、その日について時間外労働と見なされる時間のことです。1年単位の変形労働時間制では、日ごとにあらかじめ「その日の所定労働時間」(勤務シフト上の労働予定時間)を決めています。この所定労働時間と8時間を基準に残業時間を判断します。
- 所定労働時間が8時間を超える日:その所定労働時間を超えた分が残業時間となります。例えば協定で特定日を「10時間勤務」と定めている場合、その日は10時間までは法定内労働と扱われ、10時間を超えた分だけが時間外労働となります。
- 所定労働時間が8時間以内の日:8時間を超えた分が残業時間となります。例えば所定労働時間を6時間と計画していた日に実際は9時間働いた場合、所定6時間を超えた3時間のうち8時間を超える部分(つまり1時間)が残業という計算になります。
なお、所定労働時間は1日につき10時間までしか設定することはできません。
2-2. 週あたりの残業時間
週あたりの残業も同様に、その週の所定労働時間と法定労働時間(40時間)を比較して判断します。変形期間内の各週について、次のケースが時間外労働となります。
- 所定労働時間が週40時間を超える週:その所定時間を超えた分が週単位の残業時間です。例えば繁忙期のある週を所定48時間(1日8時間×6日など)と設定していた場合、その週は所定の48時間を超過した分が時間外労働となります(※日単位で既に残業とカウントした部分は二重計上しません)。
- 所定労働時間が週40時間以内の週:週40時間を超えた分が残業時間です(この場合も日単位で計上済みの残業時間は除きます)。例えば所定32時間の週に実際は45時間働いた場合、40時間を超える5時間が週単位の残業となります。
週あたりの所定労働時間にも上限が設けられており、1週間につき52時間までしか設定できません。
2-3. 年間あたりの残業時間
変形期間全体(1年間など)を通じた残業の考え方として、まず法定労働時間の総枠を把握する必要があります。
対象期間内の総枠は「週40時間 × (対象期間日数 ÷ 7)」で計算されます。1年単位の変形労働時間制では、実際の総労働時間がこの法定総枠を超えた分が時間外労働にカウントされます(日・週ごとに既に残業とカウントした時間を除く)。
|
対象期間 |
法定労働時間の総枠 |
|
1年(365日の場合) |
2,085.71時間 |
|
6ヵ月(183日の場合) |
1,045.71時間 |
|
3ヵ月(92日の場合) |
525.71時間 |
2-4. 対象期間が3ヵ月を超える場合の1日・1週間の労働時間の限度
1年単位の変形労働時間制では、変形期間が3ヵ月を超える場合に適用される追加の制限があります。これは長期間にわたって労働時間を変形させることによる労働者への負荷を考慮したルールで、具体的には次のとおりです。
- 週48時間超の制限:所定労働時間が週48時間を超える週(=繁忙週)が連続して発生するのは最大3週までに制限されます。また、変形期間を3ヵ月ごとに区切った各ブロック内で週48時間超は合計3週までに収める必要があります。
- 労働日数の限度:労働日数の上限は年280日です。
また、時間外労働の上限が通常より厳しい 「月42時間・年320時間」 になる点に注意が必要です。通常は「月45時間・年360時間」ですが、1年単位の変形労働時間制(対象期間が3ヵ月を超える場合)を採用していると、この特例が適用されます。
2-5. 休日の考え方
休日の付与については、変形労働時間制であっても週1日(もしくは4週間で4日)以上の法定休日を与える義務が原則どおり存在します。
また、連続勤務は6日までが限度で、最低でも1週間に1日は休日を与える必要があります。ただし労使協定で特定期間(繁忙期)を定めた場合に限り、「1週間に1日の休日を確保すること」を条件に連続12日までの勤務を認める扱いもあります。
3. 1年単位の変形労働時間制のメリット

1年単位の変形労働時間制を正しく運用すれば、企業側・従業員側双方にメリットが生まれます。
ここでは、導入したときの主なメリットを2つ紹介します。
3-1. 残業コストを削減できる
最大のメリットは、時間外労働の発生を抑えられるため残業コストを削減できることです。
法定労働時間では、所定労働時間を1日8時間としている場合、8時間を超えると残業が発生します。
しかし、1年単位の変形労働時間制では定めた範囲内なら、1日の労働時間が10時間でも残業ではなく通常勤務扱いとなり、割増賃金を支払う必要がありません。
繁忙期の所定労働時間を長くできるため、繁忙期の残業コストを削減できます。
3-2. 総労働時間が減り従業員のプライベートな時間が増える
1年単位の変形労働時間制は、繁忙期の所定労働時間を長くする分、閑散期の所定労働時間を短く設定できます。労働者が休める時間が増えることもメリットです。
通常の勤務形態では閑散期も所定労働時間分働くのに対し、変形労働時間制では閑散期の所定労働時間が短くなります。無駄な拘束時間がなくなるため、従業員のプライベートに充てられる時間が増えるでしょう。
4. 1年単位の変形労働時間制のデメリット

一方で、1年単位の変形労働時間制には注意すべきデメリットも存在します。導入にあたって直面しやすい問題点を3つ紹介します。
4-1. 就業規則の改定が必要
1年単位の変形労働時間制を導入するには、就業規則や労使協定の整備が不可欠です。変形労働時間制を採用する旨や対象となる従業員、具体的な運用方法などを記載する必要があります。
このように、制度導入の準備段階で相応の手間と時間がかかる点はデメリットと言えます。特に中小企業などで労務担当者が手薄な場合、労使協定の内容検討や労働基準監督署届出書類の作成、就業規則の改訂手続きに負担を感じるかもしれません。場合によっては社労士など専門家に相談しながら進めることも検討すべきでしょう。
4-2. 勤務シフトの設計や労働時間の管理が複雑になる
制度導入後の運用面で大きな課題となるのが、勤務シフト表の設計や労働時間・残業時間の管理の複雑化です。
1年単位の変形労働時間制では、1年の中で所定労働時間が日ごと・週ごとに異なるシフトを組むことになります。手作業やエクセル管理ではミスが起きやすく労務担当者の負担も大きいでしょう。
また、残業時間の算定も複雑で、通常の勤務体系より専門的な知識が求められます。このように、運用コストの増加がデメリットとして挙げられます。
対策としては、勤怠管理システムの導入などで計算業務を自動化し、人為的ミスを防ぐことが重要です。システムを活用すれば、就業規則で定めた複雑なルールを反映させて労働時間集計や残業計算の作業を自動化できるため、担当者の負担軽減につながります。
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4-3. 制度が複雑で従業員に伝わりにくい
1年単位の変形労働時間制は企業側にとっても難解ですが、現場で働く従業員にとっても理解が難しい制度です。特に残業代の計算方法が通常と変わるため、きちんと説明しないと「損をしているのでは?」といった誤解や不安を招く可能性があります。
例えば、繁忙期の残業が減ることで月々の収入が減少する可能性もあります。そのため労働者の中には収入減を懸念する人もいるでしょう。また繁忙期には所定労働時間自体が長くなるため、「忙しい時は結局大変じゃないか」と不満に感じる社員もいるかもしれません。
制度の仕組みやメリットを丁寧に説明し、従業員の理解を得る努力が経営側には求められます。
さらに、部署によって制度を適用する・しないの差があると、社内で勤務時間体系が異なることによる不公平感や部署間の連携に支障が生じるリスクもあります。そのため、部分導入する場合でも全社員に制度内容を周知し、「なぜこの部署で導入するのか」を共有することが大切です。
5. 1年単位の変形労働時間制の導入ポイント

最後に、実際に1年単位の変形労働時間制を導入・運用するにあたってのチェックポイントを紹介します。自社で制度導入を検討する際は、事前に確認・準備しておきましょう。
また、1年単位の変形労働時間制を導入するときは、労使協定を締結してから労働基準監督署へ届け出ます。
労使協定とは、企業と労働者の間で取り交わされる協定です。労使協定では、労働基準法が定める条件で取り交わす必要があります。
関連記事:変形労働時間制の届出に必要なものや書き方を解説
関連記事:変形労働時間制の労使協定に関する基礎知識を詳しく紹介
5-1. 業種・職種が1年単位の変形労働時間制に適しているか確認する
まずは自社の業種や職種の勤務実態が、この制度にマッチするかを検討します。1年単位の変形労働時間制は、季節や時期によって業務量に大きな差がある場合に、特に効果を発揮します。
変形労働時間制に適している職種例
- 繁忙期と閑散期が明確な業種:
例)小売業(決算セール時期と通常時)、旅館・観光業(行楽シーズンとオフシーズン)、製造業(年度末や受注集中時期と通常時)など。 - 一定期間ごとに業務が集中する職種:
例)経理・財務(四半期末・年度末の決算業務)、人事(採用シーズンや年末調整時期)など、月や年単位で繁閑差があるバックオフィス業務。
繁閑差を見越して 1年単位の変形労働時間制を導入すれば、人員配置を効率化し、残業代削減や休暇増加にもつながります。一方、年間を通じて業務量が均一であったり、先の予定が読みにくかったりする場合は、無理に1年単位の変形労働時間制を導入してもメリットが少ないでしょう。
5-2. 繁忙期でも過度な長時間労働は避ける
制度を導入すれば法定労働時間の枠内で繁忙期に長時間勤務させることも可能になりますが、過度な長時間労働を許容すべきではありません。特に繁忙期は通常以上に長時間労働になりがちです。法定どおりの休日は必ず確保し、従業員の健康管理に一層配慮しましょう。
勤務と勤務の間に十分な休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」を導入すれば、従業員の疲労蓄積を防ぎ健康障害リスクを下げることができるため、導入を検討してもよいでしょう。
関連記事:勤務間インターバル制度とは?導入方法や助成金をわかりやすく解説
5-3. 特別な事情を抱える従業員へ配慮する
1年単位の変形労働時間制を導入する際には、特別な事情を抱える従業員へ配慮するよう努める必要があるとガイドラインで定められています。例えば、育児や介護と仕事を両立している従業員、あるいは職業訓練や学校に通っている従業員などが該当します。
こうした特別な配慮を要する従業員については、対象者から除外することや、繁忙期の勤務を軽減することを検討しましょう。例えば育児中の社員には保育園の送迎に支障が出ない範囲でシフトを組むなどの工夫が考えられます。
6. 1年単位の変形労働時間制の導入には勤怠管理の見直しが不可欠

1年単位の変形労働時間制は、残業コストを削減できることがメリットです。繁忙期の労働時間を長く、閑散期の労働時間は短くして残業を減らすことができるため、繁忙期と閑散期がはっきりしている事業に向いている制度です。
しかし、変形労働時間制には勤怠管理が煩雑になるデメリットもあります。週ごと月ごとに勤務時間が異なるため、処理が複雑化するからです。1年単位の変形労働時間制を導入するなら、勤怠管理の方法も見直すとよいでしょう。勤怠管理を効率化し、業務負担を軽減できます。
リンク先では、変形労働時間制を導入している企業における勤怠管理システムの活用方法を解説しています。勤怠管理システムの導入を検討されている方や現状の勤怠管理に課題を感じる方はぜひご覧ください。
関連サイト:勤怠管理システムを用いた変形労働時間制の運用|ジンジャー勤怠
関連記事:変形労働時間制とシフト制の違いを分かりやすく解説
関連記事:変形労働時間制で従業員のシフト変更は可能?注意点を解説
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