雇用契約は口頭でも成立する?口約束を破った場合も解説
労働契約法第6条には、「労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて労働者及び使用者が合意することによって成立する」と記載されています。
そのため、労働条件を明示した「労働条件通知書」の交付は義務付けられていますが、必ずしも雇用契約書を交わす必要はないので、「口頭」での「雇用契約」でも有効です。
そのため中小企業などでは、有期雇用契約を締結する場合に雇用契約書を作成しないケースもあります。
今回は、口頭による雇用契約について解説します。
関連記事:雇用契約の定義や労働契約との違いなど基礎知識を解説
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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目次
1. 雇用契約は口頭でも成立する
雇用契約は、民法上「諾成契約(だくせいけいやく)」にあたります。
諾成契約は、当事者双方の合意があれば、口頭でも契約が成立します。使用者が雇用契約書を作成することは、法律上義務付けられていません。
そのため、無期雇用契約の際は雇用契約書を取り交わす一方、アルバイト、パートといった有期雇用契約の場合、雇用契約書を作成しない会社もあります。
1-1. 法律では労働条件通知書の明示義務を定めている
しかし、口頭だけでは労働条件についての解釈の相違によるトラブルが生じるため、労働基準法で賃金や労働時間などの労働条件を明示する書面を通知することが義務付けられています。その書面を、労働条件通知書といいます。
労働条件通知書は発行が義務付けられているだけでなく、必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と該当する項目がある場合に記載を推奨する「相対的明示事項」の2つがあります。また、有期雇用労働者の労働条件通知書に関しては「絶対的明示事項」に加えて明記しなければならない4つの項目があります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:労働条件通知書とは?必要な理由や項目別の書き方について
さらに2024年4月に行われた法改正により、労働条件明示のルールが新しくなっています。改正内容を正しく理解した上で雇用契約を締結していない場合、法律違反となり罰則が科されるリスクがあります。 当サイトでは、法改正の内容から正しく雇用契約を締結するマニュアルを無料配布しておりますので、参考にしたい場合はこちらからダウンロードしてください。
1-2. 雇用契約と労働契約の違い
労働者を雇う際、雇用主と労働者の間で契約を取り交わします。その際に、雇用契約書と労働条件通知書を取り交わすことが多いです。
雇用契約書は双方の合意を確認するためのものです。
一方で労働条件通知書は労働基準法に基づいて作成される書面で、使用者から労働者へ雇用条件を伝えるためのものです。
仮に労働条件通知書の交付義務が無かった場合、労働者はどのような条件でどのくらいの時間拘束され、どのような業務を担当するか分からないまま労働契約が結べてしまい、労働者にとって不利な状況になる可能性もあります。使用者と労働者という主従関係がある特性上、労働者の立場が弱くなりがちであるため、労働基準法をはじめとする労働法を設けて労働者を保護しているのです。
一方で、契約書は当事者間の信頼を確立するためにあります。当事者間の取引条件を明確にし、双方が理解し合うことを促進します。これにより、取引に関する紛争や意見の相違を未然に防止することができます。もし取引が不履行に陥った場合、契約書に基づいて法的な救済を求めることができます。
雇用契約は契約自体が滞りなく確立するために存在し、労働契約は使用者と労働者を対等な立場にするために存在すると捉えられるのではないでしょうか。
いずれにせよ重要な契約であることにかわりないので、口頭契約ではなく書面での締結を推奨します。
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2. 雇用契約を口頭で結ぶには労働条件通知書が必要
通常の諾成契約は口頭のみで成立しますが、雇用契約の場合は労働条件通知書を書面にして交付する義務があります。
労働条件通知書は、2019年4月以降、メールやSNSなど、電子的方法での提供も認められています。ただし、労働者が希望した場合は書面で交付しなければなりません。
労働条件通知書の交付には、労働者の合意や署名・捺印は必要ありません。そのため、使用者が労働条件通知書を一方的に交付し、雇用契約自体は口頭で取り交わすだけでも、法律上必要な雇用契約の義務はクリアします。
口頭での雇用契約での取り交わしは不安だが、労働条件通知書と雇用契約書をそれぞれ作成する手間を懸念される方もいるのではないでしょうか。
労働条件通知書と雇用契約書をひとまとめにすることも可能で、労働条件通知書兼雇用契約書というものが存在します。
労働条件通知書兼雇用契約書には決まった書面の形式はありませんが、労働条件通知書には明示しなければならない項目があり、労働条件通知書兼雇用契約書にも必ず記載しなければなりません。
本章では、労働条件通知書に明記しなければならない事項と明記すべき事項について解説します。労働条件通知書兼雇用契約書の作成を考えている方は必ずおさえておきましょう。
2-1. 労働条件通知書の絶対的明示事項
労働条件通知書の書き方に決まりはありませんが、次の9つの労働条件については必ず記載する必要があります。
①契約期間
②契約更新の有無(期間の定めありの場合)
③契約更新する場合の判断基準(契約の定めありの場合)
④就業場所と従事する業務内容とその変更範囲
⑤始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日について
⑥賃⾦の決定⽅法や⽀払時期、支払い方法
⑦昇給・賞与・退職金などについて(パートタイム・有期雇用労働者のみ)
⑧退職の関すること(自己都合退職の手続、解雇の事由及び手続についてなど)
⑨無期転換申込の機会とその労働条件(無期転換ルールが適用できる場合)
期間に定めのある有期雇用契約の場合、契約更新の有無と、更新をするかしないかの判断基準について、はっきりと明示しておくことが重要です。
労働条件通知書は、労働条件を決定する権限を持つ使用者が作成し、回答労働者に交付します。就業規則のように、労働基準監督署への届け出は必要ありません。
関連記事:労働条件通知書と雇用契約書の違い|それぞれの役割と発行方法を解説
2-2. 労働条件通知書の相対的明示事項
相対的明示事項は、労働条件通知書で「書面にせず口頭でもよい」とされていますが、就業規則などを用いて説明すると、トラブルの解消になります。
以下の事項は、雇用契約書に記載しておくと良いでしょう。
- 賞与や各種手当
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払日
- 労働者の費用負担が発生するもの(食費、作業用品など)
- 安全衛生に関するもの
- 職業訓練に関するもの
- 災害補償及び業務外の傷病扶助
- 表彰及び制裁
- 休職に関する事項
記載すべき事項を押さえたところで、実際に労働条件通知書(兼雇用契約書)のサンプルがほしいという方向けに、当サイトでは社労士が監修した労働条件通知書のフォーマットを配布しています。
令和6年に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットで、雇用契約書として兼用することもできる雛形です。「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
3. 業務委託契約の場合
業務委託契約とは、自社で対応できない業務を、他社やフリーランスなどの個人といった外部に任せる契約です。
委託側と受託側は雇用契約を結ばず、対等な立場で契約が締結されます。
雇用契約であれば、口頭の雇用契約でも労働条件通知書の交付が義務付けられていますが、業務委託契約の場合は、書面で交付する義務はありません。
しかし、受託先の企業や個人とのトラブルを防ぐために、契約書で条件を明示することが重要になります。
関連記事:雇用契約と業務委託契約の違いとは?違いを見分ける具体的な要素
4. 雇用契約を口頭で結ぶことの2つのリスク
雇用契約を口頭で結ぶことによるリスクとして、大きく「法律違反の面」「労働者との関係性の面」の2つが考えられます。
4-1. 法律違反の面
先述のとおり、雇用契約は口頭で結べますが、労働契約は労働条件通知書を用いて労働条件を明示する義務があります。
この労働条件の明示義務を怠ると、労働基準法違反として30万円以下の罰金が科されます。
また、諾成契約つまり雇用契約は口約束でも双方の合意が取れている場合は契約として成立します。口約束を破った場合は、当該契約違反として損害賠償の請求など法的トラブルに発展してもおかしくありません。また、口約束をしている時点で契約内容が記録として残っていないため、紛争になったとしても水掛け論となってしまうため、解決するのが難しくなるでしょう。
4-2. 労働者との関係性の面
また、労働条件通知書は、使用者が一方的に交付するだけの書面のため、労働条件について「労働者の合意を得た」という証拠にはなりません。
使用者と労働者のあいだでトラブルが起きたとき口頭での契約だと契約内容の証拠が残らず、「この条件で合意したはず」「そんなことは言われていない」と水掛け論に発展してしまいます。
雇用契約の際は雇用契約書を取り交わし、労働条件について、労働者への合意を得たうえでの契約である証拠を残しておくことが重要です。
労働条件通知書を交付していない、または、内容について労働者から問い合わせがあった場合は、すぐにでも雇用契約書を作成し、労働条件についてきちんと説明しましょう。
当サイトでは、雇用契約を結ぶ上での禁止事項と適切な対応について、あわせて確認できる資料を無料で配布しております。禁止事項と適切な対応について確認したいご担当者様は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
5. 雇用契約は口頭ではなく雇用契約書を作成するべき
雇用契約は口頭でも成立しますが、労働条件の明示をしない、または明示したことを証明できない場合、労働法違反として罰則が科されてしまいます。また、「言った・言っていない」の労使間のトラブルに発展する可能性もあります。
トラブルを避けるためにも、雇用契約書を作成することがおすすめです。労働条件を明示したこと・労働者の合意を得たことの証拠を残すためにも、有期雇用契約であっても、雇用契約書を取り交わしましょう。雇用契約書は労働条件通知書と兼用でき、書面での発行をはじめ、さらにメールでの交付も可能になったため、システムを利用することで作業効率化が図れます。電子化について気になる方は下記の記事をご覧ください。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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