雇用契約は口頭でも有効?成立時に義務付けられている書面、口約束を破った場合も解説
更新日: 2025.10.27 公開日: 2020.11.18 jinjer Blog 編集部
労働契約法第6条には、「労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて労働者及び使用者が合意することによって成立する」と記載されています。
したがって、労働条件を明示した「労働条件通知書」の交付は労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条により義務付けられていますが、必ずしも雇用契約書を交わす必要はなく、「口頭」での「雇用契約」でも有効です。
そのため中小企業などでは、有期雇用契約を締結する場合に雇用契約書を作成しないケースもあります。
今回は、口頭による雇用契約について解説します。
関連記事:雇用契約の定義や労働契約との違いなど基礎知識を解説
目次
雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
- 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策
いざという時に慌てないためにも、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 雇用契約は口頭でも有効

雇用契約は、民法上「諾成契約(だくせいけいやく)」にあたります。
諾成契約は、当事者双方の合意があれば、口頭でも契約が成立します。
使用者が雇用契約書を作成することは、法律上義務付けられておらず、そのため、無期雇用契約の際は雇用契約書を取り交わす一方、アルバイト、パートといった有期雇用契約の場合、雇用契約書を作成しない会社もあります。
1-1. 労働条件通知書の交付は必要
雇用契約書の交付は必須ではないとお話をしました。しかし、口頭だけでは労働条件についての解釈の相違によるトラブルが生じるため、労働基準法で賃金や労働時間などの労働条件を明示する書面を通知することが義務付けられています。その書面を、労働条件通知書といいます。
労働条件通知書は発行が義務付けられているだけでなく、必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と該当する項目がある場合に明示しなければならない「相対的明示事項」の2つがあります。また、有期雇用労働者の労働条件通知書に関しては「絶対的明示事項」に加えて明記しなければならない4つの項目があります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:労働条件通知書とは?必要な理由や項目別の書き方について
さらに2024年4月に施行された法改正により、労働条件明示のルールが新しくなりました。雇用契約の更新・締結時に改正内容が反映されていない場合、法律違反となり罰則が科されるリスクがあります。 当サイトでは、法改正の内容から正しく雇用契約を締結するマニュアルを無料配布しているため、、参考にしたい場合はこちらからダウンロードしてください。
1-2. 雇用契約書と労働条件通知書の違い
労働者を雇う際、雇用主と労働者の間で契約を取り交わします。その際に、雇用契約書と労働条件通知書の両方を取り交わすのが一般的です。
雇用契約書は双方の合意を確認するためのものです。
一方で労働条件通知書は労働基準法に基づいて作成される書面で、使用者から労働者へ雇用条件を明示するためのものです。
仮に労働条件通知書の交付義務が無かった場合、労働者はどのような条件でどのくらいの時間拘束され、どのような業務を担当するか分かりません。使用者が自由に労働契約が結べてしまい、労働者にとって不利な状況になる可能性もあります。使用者と労働者という主従関係がある特性上、労働者の立場が弱くなりがちであるため、労働基準法をはじめとする労働法を設けて労働者を保護しているのです。
一方で、契約書は当事者間の信頼を確立するためにあります。当事者間の取引条件を明確にし、双方が理解し合うことを促進します。これにより、取引に関する紛争や意見の相違を未然に防止することができます。もし契約内容が履行されないトラブルになった場合、契約書に基づいて法的な救済を求めることができます。
いずれにせよ重要な契約であることにかわりないため、口頭契約ではなく書面での締結を推奨します。
関連記事:雇用契約の定義や労働契約との違いなど基礎知識を解説
2. 労働条件通知書で明示すべき内容

通常の諾成契約は口頭のみで成立しますが、雇用契約の場合は労働条件通知書を書面にして交付する義務があります。
雇用契約書と労働条件通知書は、記載すべき内容が似ているため、2つの書類を一つにまとめることができます。これを労働条件通知書兼雇用契約書と言い、作成する場合は労働条件通知書の明示事項(絶対的明示事項と相対的明示事項)を網羅しなくてはなりません。
どのような内容が必要なのか、確認していきましょう。
2-1. 労働条件通知書の絶対的明示事項
労働条件通知書の書き方に決まりはありませんが、次の9つの労働条件については必ず記載する必要があります。
- 契約期間
- 契約更新の有無(期間の定めありの場合)
- 契約更新する場合の判断基準(契約の定めありの場合)
- 就業場所と従事する業務内容とその変更範囲
- 始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項
- 賃⾦の決定⽅法や⽀払時期、支払い方法
- 昇給・賞与・退職金や相談窓口などについて(パートタイム・有期雇用労働者のみ)
- 退職の関すること(自己都合退職の手続、解雇の事由及び手続についてなど)
- 無期転換申込の機会とその労働条件(無期転換ルールが適用できる場合)
- 有期雇用契約の更新上限の有無と内容(最初の契約締結時と更新時に明示)
- 無期転換申込権が発生する更新のタイミングまでの有期労働契約の通算期間(契約更新の都度明示)
期間に定めのある有期雇用契約の場合、契約更新の有無と、更新をするかしないかの判断基準について、はっきりと明示しておくことが重要です。
労働条件通知書は、使用者(事業主)が作成し、労働者に交付します。就業規則のように、労働基準監督署への届け出は必要ありません。
関連記事:労働条件通知書と雇用契約書の違い|それぞれの役割と発行方法を解説
2-2. 労働条件通知書の相対的明示事項
相対的明示事項は、定めがある場合に明示しなければなりません。書面や電子媒体による明示は義務付けられていませんが、就業規則をはじめとしたわかりやすい形で説明すると誤認を防ぎやすくなります。
以下の事項は、雇用契約書に記載しておくと良いでしょう。
- 賞与や各種手当
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払日
- 労働者の費用負担が発生するもの(食費、作業用品など)
- 安全衛生に関するもの
- 職業訓練に関するもの
- 災害補償及び業務外の傷病扶助
- 表彰及び制裁
- 休職に関する事項
記載すべき事項を押さえたところで、実際に労働条件通知書(兼雇用契約書)のサンプルがほしいという方向けに、当サイトでは社労士が監修した労働条件通知書のフォーマットを配布しています。
令和6年に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットで、雇用契約書として兼用することもできる雛形です。「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
2-3. 書面以外での明示が可能になった
2019年4月1日から、労働条件の明示は書面だけでなく、FAXやメール、SNSなども認められるようになりました。これにより、労働条件通知書を紙媒体で発行しなくても、違法とされることはありません。
ただし、書面以外での明示にはいくつかの条件があります。労働者がその方法を希望し、かつ出力可能な状態であることが求められます。ネット環境が整っていない従業員もいるため、あらかじめ確認することが重要です。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
参考:平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります|厚生労働省
3. 業務委託契約の雇用契約書と労働条件通知書
業務委託契約とは、自社で対応できない業務を、他社やフリーランスなどの外部に委託する契約を指します。
委託側と受託側は雇用契約を結ばず、対等な立場で契約が締結されます。この点が雇用契約とは大きく違い、業務委託契約の場合は労働基準法も適用されません。
雇用契約であれば、口頭の雇用契約でも労働条件通知書の交付が義務付けられていますが、業務委託契約の場合は、書面で交付する義務はありません。また、業務委託契約書も作成が義務付けられているわけではないため、書面に残すことなく契約を結ぶことも可能です。
しかし、受託先の企業や個人とのトラブルを防ぐために、契約の内容は書面や電子データなどの形に残しておくことが望ましいです。
関連記事:雇用契約と業務委託契約の違いとは?違いを見分ける具体的な要素
4. 口頭での雇用契約締結に関する3つのリスク

雇用契約を口頭で結ぶことに違法性はありませんでした。しかし、口頭のみの契約ではリスクがあり、特に以下の3つには注意しなければなりません。万が一の際を考えて、リスクを最小限に抑えましょう。
4-1. 法律違反になる恐れがある
先述のとおり、雇用契約書は任意ですが、労働条件通知書は明示する義務があります。
この労働条件の明示義務を怠ると、労働基準法違反として30万円以下という罰則があります。
また、諾成契約つまり雇用契約は口約束でも双方の合意が取れている場合は契約として成立します。口約束を破った場合は、当該契約違反として損害賠償の請求など法的トラブルに発展してもおかしくありません。
口約束だから、と軽く見たり、雇用契約書と混同して労働条件通知書の交付を怠らないようにしましょう。
4-2. トラブルが起きる可能性がある
労働条件通知書は、使用者が一方的に交付するだけの書面のため、労働条件について「労働者の合意を得た」という証拠にはなりません。
使用者と労働者のあいだでトラブルが起きたとき口頭での契約だと契約内容の証拠が残らず、「この条件で合意したはず」「そんなことは言われていない」と水掛け論に発展してしまいます。
雇用契約の際は雇用契約書を取り交わし、労働条件について、労働者への合意を得たうえでの契約である証拠を残しておくことが重要です。
労働条件通知書を交付していない、または、内容について労働者から問い合わせがあった場合は、すぐにでも雇用契約書を作成し、労働条件についてきちんと説明しましょう。
当サイトでは、雇用契約を結ぶ上での禁止事項と適切な対応について、あわせて確認できる資料を無料で配布しております。禁止事項と適切な対応について確認したいご担当者様は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
4-3. トラブル発生時の証拠が提示できない
労働条件や賃金などに関連するトラブルが労使間で発生した場合、解決するには客観的に見て納得できる証拠が必要です。
労働条件通知書だけでは「合意していない」「聞いていない」などと言われた際に、それを否定する材料にはならず、トラブル発生時の証拠としては弱い部分があります。
一方で雇用契約書は双方が合意したことを示す書類であるため、「合意の上での対応である」「間違いなく伝えている」という証拠になり得ます。
トラブルの防止と早期解決の面からも、雇用契約書は非常に重要な役割を持っています。
5. 口約束の雇用契約を破るとどうなる?


労働条件を口約束(口頭)で伝え、その内容と実態が違う場合、法的トラブルに発展するリスクがあります。これは、雇用契約書を交わしている場合と同様に、処罰の対象となります。
口頭のみの契約では証拠が残りませんが、それは使用者・労働者側どちらも同じことです。そのため、労働者側の訴えが認められた場合は企業側に処罰が発生する可能性があるのです。
具体的には、約束された給料より低い金額を支払ったり、労働時間を超過させたりすることは、労働者に不利な変更がされたとみなされるおそれがあります。
6. 雇用契約は口頭ではなく雇用契約書を作成しよう

雇用契約は口頭でも成立しますが、労働条件の明示をしない、または明示したことを証明できない場合、労働法違反として罰則が科されてしまいます。また、「言った・言っていない」の労使間のトラブルに発展する可能性もあります。
トラブルを避けるためにも、雇用契約書を作成することがおすすめです。労働条件を明示したこと・労働者の合意を得たことの証拠を残すためにも、有期雇用契約であっても、雇用契約書を取り交わしましょう。雇用契約書は労働条件通知書と兼用でき、書面での発行をはじめ、さらにメールでの交付も可能になったため、システムを利用することで作業効率化が図れます。電子化について気になる方は下記の記事をご覧ください。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?



雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
- 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策
いざという時に慌てないためにも、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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