正社員に雇用契約書は必要?記載必須事項や作成方法を解説
更新日: 2025.11.21 公開日: 2020.12.7 jinjer Blog 編集部
正社員として採用された場合、実際に働き始める前に雇用契約書を交わすことが一般的ですが、書面にせず口頭だけで説明するケースも見られます。
そのような口頭による雇用契約は有効なのか、法律的に問題はないのか正しく把握しておきましょう。
本記事では、正社員を採用する際に雇用契約書を交わす必要性や、雇用契約書の作成方法などについて解説します。
目次
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 正社員の雇用契約書は必要?

1-1. 雇用契約書は労働条件通知書での代用が可能
雇用契約書は、従業員を採用する際に従業員と雇い主の間で交わされる契約書であり、雇用契約の内容について双方の合意がなされたことを証明するための書面です。
正社員として入社する際は企業(雇い主)と雇用契約書を交わすことが一般的であるため、正社員への雇用契約書の作成は必須だと思われがちです。
しかしながら、雇用契約の効力は従業員と雇い主双方の合意があれば成立するため、口約束だけでも問題ありません。必ずしも雇用契約書の作成が必要というわけではないのです。
一方で、労働基準法では労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条により「入社時に労働条件について書面で明らかにしなければならない」と定められています。
これに関しては雇用契約書ではなく「労働条件通知書」という書類で代替可能です。
1-2. 労働条件通知書の交付は必要
雇用契約書は作成しなくても問題ないことがわかりました。
しかし、労働条件の通知は法律で定められていることから、その役目を担う「労働条件通知書」は必ず作成し、交付しなければなりません。労働基準法第15条で定められており、これに違反した場合は30万円以下の罰金刑に処される可能性があります。
労働条件通知書に記載する内容は、雇用契約書の内容と類似しています。そのため、労働条件通知書だけを交付する企業もありますが、トラブル防止の観点から両方の書類を作成したほうが良いでしょう。
2. 雇用契約書を交付する理由

雇用契約書の作成が雇い主や企業にとって義務ではないにも関わらず、大半の場合正社員を採用する際に雇用契約書を作成し取り交わしているのは、メリットがあるからです。
具体的には、雇用契約書を交わすことで双方の間で労働条件についての合意が得られて、認識の違いや勘違いなどによるトラブルが起きるのを避けやすくなるという点が挙げられます。
2-1. 雇用に関するトラブルを防止できる
労働条件通知書は、労働基準法第15条の定めによって交付義務があるものの、雇い主や企業が従業員に対して一方的に労働条件を通知する書類です。そのため、雇用契約書のように雇い主と従業員間の合意が取れているわけではありません。
従業員との間で「納得していない」といった意見の対立が起きた場合、労働条件通知書だけでは双方が合意した証拠としては弱いのです。。また、口頭で雇用契約を取り交わしていたとしても、物理的な記録が残っていないため水掛け論へ発展してしまうでしょう。
一方、雇用契約書の場合は双方が同意して交わされる書類であるため、労働条件について後から「聞いていない、納得していない」という意見が出た際にも、合意している証拠として認められる可能性が高いです。
契約の時点で曖昧な部分をなくすことができるというのは、雇用契約書を作成する大きなメリットといえます。
雇用契約書を交わすことは、雇用契約書を交わした時点で従業員が「記載されているすべての内容について納得した」という意思表示とみなすことができます。
労働条件について曖昧な部分や不明瞭な部分がないか従業員にしっかり確認したうえで、雇用契約書に署名・捺印をしてもらうよう、書面での交付だけでなく口頭で補足説明や質疑応答をするとより安心な契約となるでしょう。
その他にも、雇用契約には禁止事項の定めや、就業規則と雇用契約書の優先順位など、雇用契約に関する業務をおこなう際には、正しい知識が求められます。
当サイトでは、上述したような雇用契約に関する禁止事項や、雇用契約を結ぶ際の適切な対応などを解説した資料を無料で配布しております。自社の雇用契約が問題なく結べているか確認したいご担当者様は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
2-2. トラブルが発生した場合の証拠になる
前述したように、雇用契約書は「労使間で合意があったことの証拠」になる書類です。
そのため、トラブルに発展した際に企業側の正当性を示す証拠になり得ます。
労働基準法は労働者を守ることを重視した法律です。そのため、「納得していなかった」「理解していなかった」と労働者側が主張した場合、労働者の不利になる企業側の訴えが認められないこともあり得ます。
企業側の主張に正当性があったとしても、それを物理的に証明できる材料がない場合は、どのような判断が下されるかわからないのです。
そのリスクを解消するのが、合意の証になる雇用契約書であるため、万が一のときに備えるという点からも雇用契約書は交付したほうがよいと考えられます。
3. 正社員の雇用契約書を作成するタイミング

雇用契約書を交付するタイミングについては、法律による定めはありません。
雇用契約書と労働条件通知書を別で用意している場合は、一般的に労働条件通知書を先行して送付し内容を確認してもらい、入社日当日に雇用契約書を取り交わすこともあります。
労働条件通知書兼雇用契約書で交付している場合は、一度事前に送付し内容に目を通してもらい、入社日当日に原本に署名・捺印して契約を取り交わす流れが基本です。
どちらの場合でも、雇用契約を締結する前に雇用条件を確認してもらっている点がポイントです。雇用条件を改めて確認してもらわないと、契約の段階で労使間の認識にずれがあったり、正しく理解されていないというリスクがあるからです。
4. 正社員の雇用契約書の作成方法

正社員の雇用契約書を作成する際は、記載内容に注意が必要です。特に労働条件通知書兼雇用契約書を作成する場合は、労働条件通知書に記載すべき絶対的明示事項と相対的明示事項に抜けがあってはなりません。
4-1. 労働条件通知書を兼ねる場合は注意が必要
正社員の雇用契約書を作成する際、法的に必ず記載しなければならない項目は定められていません。しかし、労働条件通知書を兼ねる場合は、労働基準法上の絶対的明示事項をすべて網羅する必要があります。
また、どのような契約内容に対して双方が合意したのか、書面で確認できる方が締結時や後日見返した際にわかりやすいです。そのため、労働条件通知書で定めた項目の内容から重要と判断した項目を抜粋して雇用契約書に記載するのが一般的です。
また、2通作成する手間を省くために、労働条件通知書兼雇用契約書を作成する企業も多いです。労働条件通知書兼雇用契約書の作成を検討している場合、労働条件通知書に必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と、定めがある場合に記載する必要がある「相対的明示事項」を、きちんと書面に含める必要があります。
4-2. 絶対的明示事項とは
- 労働契約期間
- 就業場所および業務内容とその変更範囲
- 始業時刻と終業時刻、
- 所定労働時間を超える労働(いわゆる残業)の有無
- 休憩時間・休日・休暇に関する事項
- (交代制勤務が発生する場合)就業時転換に関する事項
-
賃金の決定、計算方法、支払い方法、支払い時期に関する事項
- 退職・昇給に関する事項(労働者が希望した場合に限り、昇給に関する事項については書面ではなく口頭での明示も可能です。)
労働条件通知書兼雇用契約書の雛形を作成する場合は、上述したような事項が網羅されているかどうかをきちんと確認しましょう。
4-3. 相対的明示事項とは
相対的明示事項に関しては、企業や職場において就業規則が周知されているのであれば、あらためて労働条件通知書兼雇用契約書で明示をしなくても問題ありません。
- 退職手当の計算方法、支払い方法および支払日
- 臨時の賃金および最低賃金額に関する事項
- 労働者への負担が発生する食費や作業用品に関する事項
- 安全衛生や職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の疾病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
このような項目を例として、書類に落とし込む条件を検討しましょう。インターネット上には用途や職種に応じた労働条件通知書兼雇用契約書の雛形があるため、そういったものを利用したり参考にしたりするのもひとつの方法です。
ここまで記載すべき事項を押さえたところで、実際に労働条件通知書(兼雇用契約書)を作成する際に参考にできるサンプルがほしいという方向けに、当サイトでは社労士が監修した労働条件通知書のフォーマットを配布しています。
令和6年に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットで、雇用契約書として兼用することもできる雛形です。「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
関連記事:正社員の雇用で必須の雇用契約書の作成方法を分かりやすく解説
5. 雇用契約書作成時のポイント

最後に雇用契約書を作成する際のポイントを押さえておきましょう。近年増加したリモートワークについての記載も忘れてはなりません。
5-1. 電子発行が可能
雇用契約書は電子データでの交付が可能です。労働条件通知書も、労働基準法施行規則第5条で労働者が希望した場合に限り電子データの送付が認められています。労働者からの希望がない場合は紙で交付しなければなりません。労働条件通知書兼雇用契約書を利用している場合は、注意しましょう。
電子データの交付であれば対面せずとも締結の手続きが進められるため、入社前に事前に送付して取り交わすことも可能です。電子交付に興味のある方は、詳しくは以下の記事を確認してください。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
5-2. 正社員は原則無期雇用となる
正社員は原則無期雇用となります。従業員から退職の申し出がない、もしくは企業側から解雇がない限り契約が切れることはありません。
有期雇用契約のように定期的な契約更新は必要ないため、一度取り交わしてしまえば再交付することは原則ありません。
契約内容が交付時から変更する場合、雇用契約書の覚書を発行するか、就業規則の変更にとどめられる範囲での条件変更とすれば雇用契約書の再取り交わしは不要となります。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
5-3. 在宅勤務の場合の記載事項
在宅勤務がある場合の雇用契約書には、以下の点を明記することが推奨されます。
- 就業場所
- 労働時間
- 費用負担
- 通勤手当
- セキュリティの取り扱い
- 勤怠管理方法
セキュリティや勤怠管理方法は在宅勤務ならではの規則です。社内で規定がある場合は必ずその内容を記載し、労働時間や費用負担、出社する場合の通勤手当の取り扱いなど、在宅勤務特有の事項を洗い出し、明確にしておきましょう。
なお、当然ながら在宅勤務でも労働基準法が適用されます。在宅勤務では労働時間の管理が難しくなるため、勤怠管理を徹底して時間外労働が長くなりすぎないように注意し、割増賃金などの計算もミスが発生しないように取り決めることが大切です。
関連記事:雇用契約の条件は途中変更できる?契約期間内に変更する方法をご紹介
6. 正社員も雇用契約書は必要!トラブル防止のために交付しよう

雇用契約書は必ず交わさなければならない書類というわけではありません。しかし、労働条件について従業員と雇い主の間で確認を徹底し、後にトラブルが起きるのを避けるためには、交わしておくのがベターです。
雇用契約書や労働条件通知書は電子化が可能なため、面倒な作業を楽にこなすためにも電子化することがおすすめです。電子化について気になる方は以下の参考記事をご覧ください。
参考記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
労働条件通知書兼雇用契約書を作成する場合は、絶対的明示事項および相対的明示事項が網羅されているかどうかが重要ですが、雛形の作成に自信がない場合はインターネット上にあるような雛形を流用するとよいでしょう。
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